カクレマショウ

やっぴBLOG

『レ・ミゼラブル』覚え書き(その11)

2005-04-25 | └『レ・ミゼラブル』
第一部 ファンティーヌ
第七編 シャンマティユー事件(岩波文庫第1巻p.370~p.481)【続きその3】

今週、職場の花見があるのですが、桜のつぼみはまだ固いままです。日中でもまだ少し肌寒いし、こんな調子で花見ができるのでしょうか? いずれにしても、寒さに震える花見になりそうです。毎年のことですけど。さて、久々の更新。ジャン・ヴァルジャンに気持ちを投入します。

前の裁判が長引き、思いがけずもシャンマティユーの裁判に間に合ってしまったジャン・ヴァルジャン。彼は自分がマドレーヌ市長であることを告げ、法廷に入っていきます。そこには、彼がかつて体験したのとまったく同じ光景がありました。

生涯のうち最も恐ろしかったあの瞬間が、再びそこに自分の影によって演出されているのを、彼は目前に見た。何たる異様な光景ぞ。

「自分の影」─それは、凶悪な徒刑人ジャン・ヴァルジャンとみなされているシャンマティユーのことです。検事は、ロマン派まで引き合いに出してきて、ジャン・ヴァルジャンの犯罪はその不道徳の影響であると断じます。そして、彼と牢獄を共にした3人の囚人の証言によって被告がそのジャン・ヴァルジャンであることは疑いのない事実であると。

裁判の終結にあたり、裁判長は被告に申し開きをすることはないかと尋ねます。被告シャンマティユーは、自分がパリでバルー親方のもとで車大工をしていたこと、生活はやっと暮らしていける程度だったこと、娘と二人で暮らしていたが死んでしまったこと、そしてそのことはバルー親方に聞いてみると証言してくれるはずだとぼそぼそと語ります。

検事は、ことをはっきりさせるためにも、所用で町を離れているジャヴェルを除く3人の囚人を呼び寄せて改めて尋問すべきだと主張し、裁判長もこれを認めます。ブルヴェー、シュルディユー、コシュパイユの3人の囚人が次々と召還される。彼らは口をそろえて、「この男はジャン・ヴァルジャンだ」と断言します。シャンマティユーがもはや逃れられないのは明白でした。ところがそのとき─。

人々は一つの叫ぶ声をきいた。「ブルヴェー、シュルディユー、コシュパイユ! こちらを見ろ。」
その声を聞いた者は皆凍りつくような感じがした。それほど悲しいまた恐ろしい声であった。人々の目はその声のした一点に向けられた。


その声の主、マドレーヌは3人の囚人の方に進んでいくと、「お前たちは私を知らないか?」と尋ねます。

三人はびっくりしたままで、頭を振って知らない旨を示した。コシュパイユは恐れて挙手の礼ををした。マドレーヌ氏は陪審員及び法官の方へ向いて、穏やかな声で言った。
「判事諸君、被告を放免していただきたい。裁判長殿、私を捕縛していただきたい。あなたのさがしていらるる人物は、彼ではない、この私である。私がジャン・ヴァルジャンである。」


法官たちは、マドレーヌが気がおかしくなったと思い、医者を呼ぶように告げます。しかしマドレーヌは検事の言葉をさえぎり、自分がジャン・ヴァルジャンである事実をとうとうと述べるのです。あたかもほとばしる水流に乗せて心の中のオリをすべて洗い流してしまうように。それから彼は再び3人の囚人に向かい、当時の3人の服装や体の特徴を言い当てていきます。

「コシュパイユ、お前には左の腕の肘の内側に、火薬で焼いた青い文字の日付がある。それは皇帝のカーヌ上陸の日で、─八一五年三月一日というのだ。袖をまくってみろ。」
コシュパイユは袖をまくった。すべての人々の目はその露わな腕の上に集まった。一人の憲兵はランプを差し出した。日付はそこにあった。


ほとんど一晩中葛藤に苦しんだマドレーヌは、こうしてあっけなく自分がジャン・ヴァルジャンであることを白日のもとにさらしました。ユゴーは、裁判の様子を見ていたマドレーヌの心中については一切書いていません。法廷での1時間で彼の半白の髪が真っ白になってしまったという事実以外は。彼を駆り立てたものはいったい何だったのか? 法廷を傍聴し、そのまま帰宅したとしても不思議ではないのに、彼は何かに背中を押されるように叫んでしまいました。それはおそらく、被告席に座るシャンマティユーの姿に自分の27年前の姿がそのまま重なったからではないでしょうか。かつて自分が受けた痛みや苦しみが法廷でよみがえり、まるで自分が被告席にいるような錯覚に陥ったのではないでしょうか。

彼は、これ以上法廷を乱すことを欲しない、いつでも自分を捕縛することができると告げ、静かに法廷を出て行きます。傍聴席に向かってこんな言葉を残して。

「諸君、ここに列席された諸君、諸君は私をあわれむに足るべきものと思われるでしょう。ああしかし私は、こういうことをなそうとする瞬間の自分がいかようであったかと思う時、自分はうらやむに足るべきものと思います。しかしながら、かような事の起こらなかった方を私はむしろ望みたかったのであります。」

最後まで彼は正直でした。

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1 コメント

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2005-04-28 18:37:31
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