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カクレマショウ

やっぴBLOG

ウォークマンとiPod─音楽との向き合い方

2007-08-29 | ■私の好きな歌
大学3年の冬、山陰をひとり旅しました。その時持って行ったのが、ソニーの「ウォークマンII」。バイトで貯めたなけなしのお金で「ウォークマンII」と国鉄周遊券(まだJRじゃなかった)を買い、とりあえず西に向かう列車に飛び乗ったのさ。…ああ青春。

1979年に出たウォークマンの「初代」がまだずんぐりしていた(それでも従来の「カセットプレイヤー」から比べれば、その小ささに驚きましたが)のが、2年後のこの2代目では、よりスリムになって、しかもこのスタイルのかっこよさ。今見てもほれぼれします。だから、壊れてしまっても、いまだに大事に持っています。オレンジ色のイヤーキャップも、当時はおしゃれに見えたものでした。



(写真はWALKMAN~ウォークマン道へようこそ~より)

そして、このスリムなボディから想像もできないような(当時は!)重厚な音が、ヘッドフォンから流れてくる。鳥取県の境港の海辺で、ひとり海に沈む夕焼けを眺めながらボズ・スキャッグスなんぞ聞いていたら、はかなげな女性がそばに寄ってきて、オレンジのヘッドフォンを指さして、「それ、何ですか…?」とおずおずと尋ねた…。

というのは真っ赤な嘘で、野球帽をかぶった小学生の一団が興味深そうに寄ってきて、「貸して貸して」とぞんざいな口調でオレンジ色のヘッドフォンを取り上げるや、次々と耳に当てては「すげーーーえ!」と驚きの声を上げていたというのがほんとの話。それでも、へへん、とちょっとした優越感に浸ることができたのでした。

ウォークマンの登場は、それまでの音楽の聴き方を一変させました。家庭のステレオシステムやコンポで音楽を楽しむスタイルから、「個人で音楽を楽しむ」スタイルへ。もちろん、ステレオで聴いたとしても、自分の好きな音楽を「個人」で楽しむことにはちがいはないのかもしれませんが、たとえば、ヘッドフォンで音楽を聴いていて、「何聴いてんの?」と誰かに尋ねられるという場面を想定してみた場合、ステレオならジャックを抜きさえすればその人にも聴かせてあげることはできますが、ウォークマンの場合、ちょっとむずかしい。そういう意味では、純粋に「個人」で楽しむためのツールと言えるのかもしれません。

ウォークマンIIは250万台という大ヒット商品となり、その後もソニーは、FMラジオ付き、レコーディング機能付きと新しいシリーズを次々と世に送り出し、合わせて、サイズのコンパクト化も進み、1983年にはカセットテープのケースと同じという、究極のサイズが登場します。

「カセットテープ」の時代は、ウォークマンとともにありました。自分のお気に入りの曲をレコードからダビングして編集し、ウォークマンで聴く。いつでもどこでも。そんな音楽の聴き方がごく当たり前になっていきます。カセットウォークマンほどではありませんが、ソニーは、CDウォークマンやMDウォークマンでも、世界の携帯音楽シーンをリードしていきます。媒体は変わっても、ウォークマンは、携帯音楽プレーヤーの代名詞であることにはちがいなかった。

ところが、2001年、iPodの登場がそんな状況を大きく変えることになります。その2年前の1999年、ウォークマン登場20周年を迎えたソニーは、インターネットを使った音楽配信を世界に先駆けて始めようとしました。問題は、コピーが容易にできるというデジタル音楽の特性です。音楽会社を抱えるソニーは、著作権管理に厳格なシステムを作り上げました。ところが、既にインターネット上では、MP3という著作権を保護する仕組みのないデータ圧縮方式が使われはじめており、ソニーの方法は敬遠されました。アップルコンピュータのiPodは、まさにこのMP3方式を利用し、瞬く間にソニーのウォークマンから携帯音楽市場を奪っていったのです。

ウォークマンの時代からさらに新しい音楽の聴き方として、「シャッフル」があります。つまり、iPodに取り込んだ膨大な曲の中から、どの曲をどんな順番で聴くかは機械に任せるという方法。カセットテープの時代はもちろんそんな芸当はできませんでしたし、CDやMDウォークマンでも、同じアルバムや限られた曲の中からのシャッフルがせいぜい。今や予想もできないような(たとえばお気に入りの編集テープを作るときには決して並べないような)組み合わせで曲が「聞こえてくる」。それが楽しい、という人も多い。

こうなると、「アルバム」という概念さえ怪しくなってきます。ミュージシャンが、曲の順番を考えに考え抜いて構成した作品が「アルバム」だったはずですし、聴く側も、(たぶん)ミュージシャンの考えた曲順を大事にしたいという気持ちでアルバムに耳を傾けていたはず。ところが、「アルバム」の中から好きな曲だけをピックアップされ、ドラッグ&ペーストでiPodにひょいと取り込まれて、あまつさえ、シャッフルされてほかの音楽の中に紛れ込まされて…。

ウォークマンの登場から四半世紀。これから、どんな「新しい」音楽の聴き方、楽しみ方が出てくるのでしょうか…。

音楽の聴き方は、もちろん個人の自由です。それぞれが一番楽しいと思える聴き方で聴くのが音楽。私は、音楽は「聞こえてくる」のではなくて、あくまでもきちんと向かい合って「聴く」のがいい。むろん、「アルバム」まるごとでね。

 


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