![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/02/cb/d4e9014076a48acd9f3237d1658ef878.jpg)
「コーヒーもう一杯」と聞いたら、私には、ボブ・ディランの"One More Cup of Coffee"(「コーヒーもう一杯」)がすぐに思い浮かびます。
One more cup of coffee for the road,
One more cup of coffee 'fore I go
To the valley below.
これからの道のりにコーヒーもう一杯
深い谷の底に旅行く私に
もう一杯のコーヒーを
本屋でふと見つけたこのコミック。いかにも装幀がガロっぽいなあと思い、また、「コーヒーもう一杯」といっても、ボブ・ディランとは関係ないんだろうなと思いました。
家に帰ってページを開いてみたら、前者はそのとおりでしたが、後者はハズレでした。作者のまえがきにボブ・ディランの「コーヒーもう一杯」の話がさっそく出てくるではありませんか。作者の山川さんは、ボブ・ディランが大好きなんだそうです。
どのくらい好きかというと、電車に乗ったとき中吊り広告の中にボブ・ディランの名前を見つけてドキッとするくらいに好きだ。
でも、よく見るとそれはボブ・ディランではなく、ボランティアだったりボディ・ラインだったりする。
山川さんの漫画は独特です。線が太くて、ごつごつしてます。大学時代に好きだった永島慎二を彷彿とさせます。こりゃ完璧に永島慎二と同じタッチじゃん、と思わせるページも確かにあります。スクリーントーンは一切使わないとかで、背景もすべて1本1本手書きだという。そう聞くと、1コマ1コマがいとおしく思えてきて、たとえセリフがないコマでも、ちゃんとじっくり見ようという気持ちになります。流し読みするにはもったいない。
さて、全5巻、計36話の物語の主人公は、どこにでもいそうな若者、おじさん、おばさんたち(時々ネコも混じったりします)。彼らの生活の中に、そっと寄り添うのが一杯のコーヒーです。喫茶店で本を読みながら飲むコーヒー、深夜にアパートの部屋で自分で淹れるコーヒー、恋人のために淹れるコーヒー、別れた人を思い出しながら飲むコーヒー、昔の仲間と飲むコーヒー、いろんな場所で、いろんなシチュエーションでコーヒーが登場します。
コーヒーって、いろいろな形容詞がつけられますよね。温かい、香り立つ、苦い、琥珀色の、冷めた、湯気立ち上る、美味しい…etc. この漫画のどの物語にも、一つ一つ同じような形容詞を付けることができそうです。
印象に残った好きな作品がいくつもありますが、2~3紹介しておきましょう。
「ヒコおじさん」(第1巻)
30歳過ぎた、独身の漫画家。ある日突然、「ヒコおじさん」のことを思い出す。小さい頃、法事で会ったおじさん。親戚は皆、彼のことを「しょうがないなあ」と言っていたような記憶がある。ヒコおじさんが、自分の部屋に連れて行ってくれたことがあった。本やレコードやプラモデルがいっぱいの不思議な部屋。そして、サイフォンでヒコおじさんが淹れてくれたコーヒー…。彼は気づく。あの部屋は今の自分の部屋とそっくりだということに。あの頃ヒコおじさんが聴かせてくれたボブ・ディランの「地下室」を聴きながら、今なら俺がコーヒーを淹れてあげられるのに、と思う。
このコミックには、山川さん自身の体験談らしき話もけっこう出てくるのですが、これもその一つでしょうね。男の子にとって、「おじさん」というのは、確かに憧れの存在です。大人になってから、そんなことをふっと思い出す気持ち、とてもよくわかります。
「かわいい人」(第2巻)
彼の家で初めてコーヒーを淹れてもらうものの、心の中では、コーヒー通だった別れた不倫相手を思い出してばかりいる。あのヒトはそんなふうにお湯を注がなかった…、いつも美味しいコーヒーを飲ませる店に連れてってくれた…。だけど、一生懸命自分のことをかわいがってくれる目の前の彼のために「かわいい人」にならなきゃ、と思う…。
これは、昔のフォークソングに出て来そうな物語ですな。ま、せいぜいがんばって「かわいい人」になってくださいな。
「遅刻の理由」(第3巻)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/47/b9554af4b22fe8667bd380c48433c3f1.jpg)
コンビニ帰りの夜の道にうずくまるおじいさんを見つけた女の子。「大丈夫ですか」と声をかけると、「そう言うあんたは大丈夫なのかね?」と問い返されてしまう。喫茶店に勤める彼女は、翌朝、通勤途中に道に落ちている片方だけの手袋を発見。どうにも気になって、携帯のカメラで撮影しておくことにする。駅に着いたら、あるポスターが気になってしょうがない。じっと見ていると、一人の男が寄ってくる。─そんな「遅刻の理由」あれこれを、彼女は喫茶店の同僚に話したくてしょうがないのだが、まともに聞いてくれない。そこへ、さっき駅で出会った男が客としてやってくる…。
なんか、こういう子はちょっと気になりますねー。なぜでしょう?
ほかにも、けっこうシュールな物語、ファンタジーっぽい話(ネコの話なんかがまさにそう)、時空を超えた物語など、いろいろ織り交ぜてあるのも楽しい。
「コーヒーもう一杯」。主役は、決してコーヒーじゃない。コーヒーを淹れて、コーヒーカップを手にとって、コーヒーを飲んで、「もう一杯」飲みたくなる、そんな人間たちが主役です。彼らの日常生活は淡々と流れていく。大事件が起こるわけではなく、必ずしもハッピーエンドで終わるわけでもない。みんな、少しだけ傷ついて、少しだけため息をついて、そして、少ーしだけ幸せになっていく。いろんなことがあっても、それでも人生は続いていく。美味しいコーヒーを飲めるだけでも、けっこう幸せなんじゃないの?と思わせてくれるこの漫画、これから何度も読み返しそうです。
One more cup of coffee for the road,
One more cup of coffee 'fore I go
To the valley below.
これからの道のりにコーヒーもう一杯
深い谷の底に旅行く私に
もう一杯のコーヒーを
本屋でふと見つけたこのコミック。いかにも装幀がガロっぽいなあと思い、また、「コーヒーもう一杯」といっても、ボブ・ディランとは関係ないんだろうなと思いました。
家に帰ってページを開いてみたら、前者はそのとおりでしたが、後者はハズレでした。作者のまえがきにボブ・ディランの「コーヒーもう一杯」の話がさっそく出てくるではありませんか。作者の山川さんは、ボブ・ディランが大好きなんだそうです。
どのくらい好きかというと、電車に乗ったとき中吊り広告の中にボブ・ディランの名前を見つけてドキッとするくらいに好きだ。
でも、よく見るとそれはボブ・ディランではなく、ボランティアだったりボディ・ラインだったりする。
山川さんの漫画は独特です。線が太くて、ごつごつしてます。大学時代に好きだった永島慎二を彷彿とさせます。こりゃ完璧に永島慎二と同じタッチじゃん、と思わせるページも確かにあります。スクリーントーンは一切使わないとかで、背景もすべて1本1本手書きだという。そう聞くと、1コマ1コマがいとおしく思えてきて、たとえセリフがないコマでも、ちゃんとじっくり見ようという気持ちになります。流し読みするにはもったいない。
さて、全5巻、計36話の物語の主人公は、どこにでもいそうな若者、おじさん、おばさんたち(時々ネコも混じったりします)。彼らの生活の中に、そっと寄り添うのが一杯のコーヒーです。喫茶店で本を読みながら飲むコーヒー、深夜にアパートの部屋で自分で淹れるコーヒー、恋人のために淹れるコーヒー、別れた人を思い出しながら飲むコーヒー、昔の仲間と飲むコーヒー、いろんな場所で、いろんなシチュエーションでコーヒーが登場します。
コーヒーって、いろいろな形容詞がつけられますよね。温かい、香り立つ、苦い、琥珀色の、冷めた、湯気立ち上る、美味しい…etc. この漫画のどの物語にも、一つ一つ同じような形容詞を付けることができそうです。
印象に残った好きな作品がいくつもありますが、2~3紹介しておきましょう。
「ヒコおじさん」(第1巻)
30歳過ぎた、独身の漫画家。ある日突然、「ヒコおじさん」のことを思い出す。小さい頃、法事で会ったおじさん。親戚は皆、彼のことを「しょうがないなあ」と言っていたような記憶がある。ヒコおじさんが、自分の部屋に連れて行ってくれたことがあった。本やレコードやプラモデルがいっぱいの不思議な部屋。そして、サイフォンでヒコおじさんが淹れてくれたコーヒー…。彼は気づく。あの部屋は今の自分の部屋とそっくりだということに。あの頃ヒコおじさんが聴かせてくれたボブ・ディランの「地下室」を聴きながら、今なら俺がコーヒーを淹れてあげられるのに、と思う。
このコミックには、山川さん自身の体験談らしき話もけっこう出てくるのですが、これもその一つでしょうね。男の子にとって、「おじさん」というのは、確かに憧れの存在です。大人になってから、そんなことをふっと思い出す気持ち、とてもよくわかります。
「かわいい人」(第2巻)
彼の家で初めてコーヒーを淹れてもらうものの、心の中では、コーヒー通だった別れた不倫相手を思い出してばかりいる。あのヒトはそんなふうにお湯を注がなかった…、いつも美味しいコーヒーを飲ませる店に連れてってくれた…。だけど、一生懸命自分のことをかわいがってくれる目の前の彼のために「かわいい人」にならなきゃ、と思う…。
これは、昔のフォークソングに出て来そうな物語ですな。ま、せいぜいがんばって「かわいい人」になってくださいな。
「遅刻の理由」(第3巻)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/47/b9554af4b22fe8667bd380c48433c3f1.jpg)
コンビニ帰りの夜の道にうずくまるおじいさんを見つけた女の子。「大丈夫ですか」と声をかけると、「そう言うあんたは大丈夫なのかね?」と問い返されてしまう。喫茶店に勤める彼女は、翌朝、通勤途中に道に落ちている片方だけの手袋を発見。どうにも気になって、携帯のカメラで撮影しておくことにする。駅に着いたら、あるポスターが気になってしょうがない。じっと見ていると、一人の男が寄ってくる。─そんな「遅刻の理由」あれこれを、彼女は喫茶店の同僚に話したくてしょうがないのだが、まともに聞いてくれない。そこへ、さっき駅で出会った男が客としてやってくる…。
なんか、こういう子はちょっと気になりますねー。なぜでしょう?
ほかにも、けっこうシュールな物語、ファンタジーっぽい話(ネコの話なんかがまさにそう)、時空を超えた物語など、いろいろ織り交ぜてあるのも楽しい。
「コーヒーもう一杯」。主役は、決してコーヒーじゃない。コーヒーを淹れて、コーヒーカップを手にとって、コーヒーを飲んで、「もう一杯」飲みたくなる、そんな人間たちが主役です。彼らの日常生活は淡々と流れていく。大事件が起こるわけではなく、必ずしもハッピーエンドで終わるわけでもない。みんな、少しだけ傷ついて、少しだけため息をついて、そして、少ーしだけ幸せになっていく。いろんなことがあっても、それでも人生は続いていく。美味しいコーヒーを飲めるだけでも、けっこう幸せなんじゃないの?と思わせてくれるこの漫画、これから何度も読み返しそうです。
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