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山川直人『コーヒーもう一杯』(3杯目)

2010-06-10 | └山川直人 『コーヒーもう一杯』
サテサテ。

『コーヒーもう一杯』どころか、もう3杯目。私にとっての「心の洗濯」ですな。

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「幸せの隣」(第4巻)

子供の頃から、なぜか「隣にいる人」が幸せになっていく女の子。小さい頃、絵のモデルになったら、その画家がナントカ展の特選になった。「シーラカンスってシーラとカンスって人の名前みたいだね…」という何気ない独り言を聞いていた高校の同級生が、「シーラとカンス」という漫画を描いて売れっ子漫画家になった。滅多に買わない宝くじを買ったら、10枚後ろの番号が3億円。いつも、スポットライトを浴びる人のすぐ隣にして、幸せな顔を見てきた彼女にも、ようやく幸せが…。



ご心配なく。「幸せになりそうで実は…」というオチにはなっていません。ちゃんと幸せになります。そして、そこにも1杯のコーヒーが。「まあまあ幸せだと思わないと」…。

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「男と女と男と男」(第3巻)



遠距離恋愛をしている男に、東京に住む彼女から電話がかかってくる。毎晩、それぞれコーヒーを飲みながらの定期便。でも、その夜の電話は、男がまだコーヒーを淹れているうちに掛かってきた。言葉少なに電話を切って、寂しげな表情でコーヒーを飲む男。その1年後、東京から男の同僚が訪ねてくる。男が電話で別れを告げられた女性、沙知絵のことで話があるらしい。居酒屋で杯を傾けながら、二人は沙知絵の話をする。
それぞれにやるせない思いを抱きながら、男二人は、同じ部屋に寝る。朝食の話などしながら。

 「朝はパンとメシとどっちがいい?」
 「あー俺 いつも食べないんだ」
 「そりゃよくないな 朝は食べないと」
 「そうか」
 「そうだな… パンがいいな」
 「パンか」
 「パンとコーヒー」
 「うん」


暗い部屋で、そんな会話を交わしている。この作品も、そんなラストページに唸らされるのです。

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「ありふれた場所」(第5巻)

 いろんなことがあったので引越すことにした
 知ってる人の誰もいない場所─
 そう思って東京のはずれに落ち着いた


こんな感じで始まる物語。「すぐ迷子になれる町 今の俺にはぴったりだ」─そんな町で見つけた1軒の喫茶店。そこは老人たちの憩いの場らしい。一人で静かに本を読む老人、アイスコーヒーで茶飲み話をするおばさん、居眠りしている老人、コーヒーを飲みながら将棋を指す老人。彼には居心地のいい空間に感じられた。と、そこに一人の老人が彼に話しかけてくる。ほらばかり吹くので、店の客の誰にも相手にされていないらしい。時間だけはたっぷりある男は、ほらと分かっていても、彼の話を聞いてあげていた。テキトウに相づち打ちながら。

男にまとまった仕事が入ってきて、忙しくなる。あの喫茶店にも顔を出せなくなって、じいさん、いまごろ話す相手がいなくて寂しいだろうとふと思ったりする。そんな中、飛び込んできた非合法ビジネスがらみの殺人事件のニュース。犯人は、自分と変わらない年代の男たちだった。

 俺たちの仕事は 非合法じゃなかった
 殺人事件にもならなかった
 でも…


ぼんやり道を歩いていると、あのじいさんとばったり出くわす。いつものように、新聞記事をネタにして、逮捕されたこの男は実は私の…と、涙混じりで語り始めるじいさん。その迫真の演技を呆然と見ているうちに、男はどうにもやるせなくなって、じいさんを振り切って走り去ってしまう。



 じいさん ごめん
 ほんとだよ ほんとなんだってば!
 今日はあんたの話につきあえない

 はやく部屋に帰ろう
 帰って一人でコーヒーが飲みたい


この物語は、珍しく、にわかには状況が把握できない作品になっています。展開もほとんど読めない。最後の場面、なぜ男は、じいさんの話を聞いてあげられなかったのか。なぜ、あの喫茶店ではなくて、部屋に帰って一人でコーヒーが飲みたかったのか? 殺人事件のニュースは、彼にどんな変化をもたらしたのか。

「いろんなことがあったので 引越すことにし」て、たどり着いた町はとても落ち着く場所だった。でも、そこも結局は彼にとっては「ありふれた場所」だったのですね。仕事が暇な時は、じいさんのほら話を苦笑まじりに聞いてあげる余裕はあっても、いざ仕事が忙しくなって、しかし、その仕事にも以前のような緊張感が感じられなくなったとたん、自分自身に対する焦燥感とか、むなしさとか、果ては余計な欲まで顔を出してしまうようになる。新鮮に思えたその町も、そこで出会う人々も、結局は「ありふれた」ものになってしまう。じいさんを振り切った時、彼はそんな自分自身を見てしまったのだろうと思う。

部屋で一人でコーヒーを飲んだ彼は、きっとまた別の町に引っ越すのでしょう。そして、その町でもきっと同じことを繰り返すのさ。きっと。

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