カクレマショウ

やっぴBLOG

「シャッターアイランド」─モンスターとして生きるか。善人として死ぬか。

2010-05-13 | ■映画
"SHUTTER ISLAND"
2009年/米国/138分
【監督】マーティン・スコセッシ
【原作】デニス・ルヘイン『シャッター・アイランド』(早川書房刊)
【脚本】レータ・カログリディス
【出演】レオナルド・ディカプリオ/テディ・ダニエルズ  マーク・ラファロ/チャック・オール  ベン・キングズレー/ジョン・コーリー院長  ミシェル・ウィリアムズ/ドロレス  エミリー・モーティマー/レイチェル・ソランド  マックス・フォン・シドー/ジェレマイアー・ネーリング医師

2010/04/10 青森コロナ
(C) 2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
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ディパーデッド」に続くスコセッシ×ディカプリオのコンビによる作品です。「ギャング・オブ・ニューヨーク」もそうか。それにしても、ディカプリオは、どんどんいい役者になっていきますね。この映画でも、ちょっとした表情の変化など、ちゃんと「見せ場」を作ることができるところがすばらしい。

─全ての“謎”が解けるまで この島を出る事はできない。

というのがこの映画のキャッチコピー。お決まりの「結末は誰にも話さないでください」をはじめとして、「あなたはいくつの謎を解くことができるか」とか、やたらと「謎解き」にスポットを当てようとしていますが、ま、この手の映画は、最初からおおよそ予想はつくもので…。というより、そんな予想をあえてしなくても、まっさらな状態で見たほうがこういう映画は楽しめるというものです。

ボストン沖に浮かぶ絶海の孤島シャッター・アイランド。つまり、「閉ざされた島」。そこには、精神を患った犯罪者だけを収容する病院があった。1954年、レイチェルという患者が忽然と姿を消す。連邦保安官テディ(レオナルド・ディカプリオ)は、チャックととともに事件の捜査にやってくる。二人を出迎えたのは、異常なまでに厳重な警備と、いかにも怪しげな院長(ベン・キングズレー)、そして、かつて南北戦争の時に砦として建てられたという重病患者用の”C棟”や古い廃灯台といったおどろおどろしい建物群。

二人はさっそく院長や看護師、患者たちに聞き取り捜査を始めるが、テディはなぜか「レディス」という男を知っているかという質問を繰り返す。そこには、彼がこの島にやってきた本当の理由が隠されていたのです…。

この物語の背景に描かれている重要なテーマが二つありました。一つはロボトミー手術。もう一つはナチスドイツのユダヤ人強制収容所。

この映画では、テディが、島の灯台でロボトミー手術が行われているのではという疑念を持ちます。映画「カッコーの巣の上で」では、ジャック・ニコルスン演じるマクマーフィがロボトミー手術を施されて廃人同様になってしまうという結末でしたが、肉体は生き延びても、精神的には死を宣告されるのがロボトミー手術なのです。「ロボトミー」というと、なんとなく「ロボット」に関係する言葉のように思えますが、実は全然関係なくて、"lobotomy"の"lobo"とは脳の中胚葉、前頭葉などの「葉」、"tomy"は「切断する」を意味。ロボトミーとは、前部前頭切除手術のことで、精神疾患の外科的な治療方法として、かつて米国を中心に一大ブームを巻き起こしたことがありました。しかし、非人道的という批判もあって、今ではほとんど行われていません。私などは、脳をいじる、という行為自体、ぞっとしないものを感じてしまいますけど。

テディは、第二次大戦中に兵士としてドイツに駐留していました。その時に訪れたダッハウ強制収容所のおぞましい光景は、彼の脳裏に焼き付いて離れない。ダッハウ強制収容所は、ナチスドイツがつくった最初の収容所です。終戦までに、ユダヤ人を中心に20万人が収容されたと言われます。テディが訪れたのは、終戦直後。人間の尊厳など微塵も感じられないような、無造作に並べられ、積み上げられた死体。テディにとって、その光景は、忘れようにも忘れられないトラウマとなっています。

テディのトラウマは、どうもそれだけではないらしい。時折フラッシュバックされる彼の心の中の光景が暗示するのはいったい何なのか。窓の外の美しい湖を背景に燃え落ちる妻ドロレス、その湖で溺死している3人の子どもたち…。

誰が正気で誰が狂気なのか。罪を犯す人はみんなどこか精神的に病んでいるのか。その境界線は、どこまでも曖昧模糊としています。テディを見ていると、「怪物として生きるよりも、いい人間として死にたい」という叫びは、至極まっとうなことに思えてきます。「怪物」たらしめているのは、おそらくトラウマであり、そのトラウマは生きている限り、消すことができない。ならば…。

結末は決して話さないでくださいというわりには、ほぼ予想通りのクライマックスを迎えるわけですが、それでも、「閉ざされた島」で患者が忽然と消えるとか、「閉ざされた島」にさらに「閉ざされた空間」があるとか、邪悪な陰謀のニオイがぷんぷんしたりとか、スコッセシお得意の「雰囲気づくり」は申し分ありません。

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