goo blog サービス終了のお知らせ 

カクレマショウ

やっぴBLOG

戦争はヤラセの積み重ね─「父親たちの星条旗」その2

2006-11-09 | └歴史映画
ストーリーは、硫黄島の壮絶な攻防戦と、例の写真に写っていた3人の帰国後の姿がオーバーラップして進んでいきます。

負傷を負いながらも帰国した3人(ジョン・"ドク"・ブラッドリー、レイニー・ギャグノン、アイラ・ヘイズ)を待っていたのは、「英雄」としての熱狂的な歓迎でした。"Iwojima"の勝利は、あの写真が大々的にマスコミに取り上げられたことも手伝って、熱い愛国心を呼び起こしました。一方で、国は、彼らを国民の戦意高揚に利用します。つまり、戦争に勝ち抜くために戦時国債の購入を呼びかけるキャンペーンに彼らを駆り出したのです。

一様にとまどう様子を見せながらも、3人の態度は三者三様でした。衛生兵のドクは、あの写真が実は「ヤラセ」の方の写真だったことにこだわり、伝令係だったレイニーはこのキャンペーンを自分を売り出す絶好のチャンスと考え、インディアン出身のアイラは自分は何もしていないと自暴自棄になり、死んだ仲間を讃える。全米各地をめぐるキャンペーン会場で描かれるいくつかのエピソードを通して、それぞれの気持ちがよく伝わってきます。そして、3人が3人とも少しずつ傷ついていったことも。

イーストウッドは、国のえげつないやり方もえぐり出します。スタジアムに摺鉢山の頂上のレプリカを作って、星条旗を立てるシーンを再現させるなんて、まさにヤラセの極致。先日の「タウンミーティング」でのヤラセ事件も根っこは同じかもしれないと思ったりしました。そして、わかっていながらそういう過剰演出に酔いたいのもまた群衆心理。戦争とは、もしかしたら、演ずる側と見る側の共同作業によるヤラセの積み重ねで進んでいくものなのかもしれません。

そのスタジアムに打ち上げられる派手な花火。その光が、スクリーンの上で硫黄島の照明弾の明かりに転ずる。こういうフラッシュバックの手法は見事だと思いました。あまりにも入れ子状態で頻繁にフラッシュバックしすぎ、という感想もあるようですが、私は、このテーマを扱うならこの組み立て方しかないのではと思いました。

イーストウッド監督は、インタビューで「この2部作は、あの戦いを経験した若者たちへのトリビュート(敬意)だ」と語っています。米国人だから米国側の若者だけを「トリビュート」したいのではなく、自分の意志とは関わりなくあの島に行かざるを得なかった日米両国の若者たちがどのように傷つき、そしてその経験をどのように自分の人生に引きずっていったのかを描きたかったのだと思います。

戦争は、決してフィクションではない。戦争を動かすものはヤラセの積み重ねだとしても、現実に人が死んだり負傷したりするもの。しかも戦争では、人は静かに死なない。銃に撃たれて血を流して死に、爆弾で手足や頭をもぎ取られて死に、内臓をさらけ出して死ぬのです。そんな死の現実があり、そして、そういう光景を目の当たりにしながら、生き残って平和な社会を生きていかなければならない現実もまたあります。エンドロールで、実際のドクやレイニーやアイラ、そして死んでいったイギー、マイク、ハンクらの写真が映し出されます。実際の硫黄島の戦闘の写真も。私たちは、現実の重さを改めて噛みしめさせられます。

この映画の原作は、ドクの息子のジェームズ・ブラッドリーが書いたノンフィクションです。ドクは、死ぬまで自分の体験を息子に話すことはなかったそうですが、現実を伝えるべきではなかったのでしょうか。戦争の悲惨さと哀れさを、自分の体験という事実に基づいて伝えること。"FLAGS OF OUR FATHERS "というタイトルの「父親」は複数形になっています。イーストウッドは、ドクに代わって、「父親たち」として私たちにそんなメッセージを伝えたかったのではないかと思っています。

ところで、ドクを演じるライアン・フィリップは、「クラッシュ」では正義感あふれる新米警官を演じていました。あの顔は、そういう役が似合いすぎですね。


最新の画像もっと見る

2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
私も観ました! (かんちゃん☆)
2006-11-09 23:37:25
早々に「父達の星条旗」は観に行きました。
あの映像の色といい、
見せてはいけないシーンをあの想像で頭の中で映し出させる手法といい、
人間の性を思い知らされるストーリー展開といい・・・
なんともいえない、良い作品でした。
それにしても、事実に基づく話しは
返信する
2部作 (やっぴ)
2006-11-10 13:22:21
かんちゃんさん
どんよりした色合いの硫黄島の映像と米国内の映像の色を変えて見せることで、ストーリーのコントラストもくっきりしていましたね。

2部作なので、日本側の視点の方も見なきゃいけませんね。楽しみです。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。