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カクレマショウ

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「つみきのいえ」の加藤久仁生展

2011-09-11 | ■美術/博物
「つみきのいえ」で2009年米国アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞して一躍名前が知られるようになった加藤久仁生。十和田市現代美術館で昨日から「加藤久仁生展」が開催されています。これから、来年にかけて全国4つの美術館を巡回するという。十和田市現代美術館がその皮切り。たまたま初日に見に行ったのですが、オープニングセレモニーでは、加藤さん本人が登場したらしい。間に合わなくてザンネン!

今回は、「つみきのいえ」の制作過程を中心とした展示でした。アイデアスケッチ、絵コンテ、動画化の過程など、こういう機会じゃなきゃ見られない制作の裏側をじっくり見せた後で、実際の「つみきのいえ」の映像を見せるという流れになっていました。加藤さんの作品への思いはもちろん、脚本を書いた平田研也、音楽を担当した近藤研二さん、あるいは制作に関わった多くの人たちの苦労や情熱を十分に感じたあとで、改めて本編を見て、「二度目のおいしさ」を味わうことができました。

「つみきのいえ」は、12分ちょっとの短いアニメーションですが、ほんとうにじんわり心に染み込むような作品です。セリフは一切入っていない。でも、主人公の「おじいさん」の気持ちがちゃんと伝わってくる。だからこそ、世界中で評価されたのでしょうね。加藤さんの絵は、鉛筆画ということもあって、繊細そのもの。細い線で丹念に丹念に描かれた人物像は、はかなげで、しかし、あたたかくて、人物の存在感がものすごく大きい。アニメーションにすると、もともとの絵の「良さ」がさらに引き出されるような気がします。ぷるぷると震えるような微妙な動きが、加藤久仁生の絵のタッチととてもよく合っていると思いました。



「図録」の冒頭に、加藤さんのインタビューが掲載されています。加藤さんは1977年生まれ。美術大学でイラストレーションを学んでいた彼が、アニメーションに出会ったのは3年生の時だそうです。単純に、「絵が動くということに感動」した彼は、卒業制作を含めて、いくつかの作品を在学中に発表、卒業後は誘われてアニメーション制作会社に就職します。20代は、「いろいろ思い悩むことが多かった」と彼は振り返る。そして、その悩みの末に生まれたのが「つみきのいえ」なのだそうです。20代の最後から30代のはじめにかけての約1年をかけて制作。思いがけずいろいろな賞を受賞したけれど、彼はこんなことを言っています。

賞は、そのときの、いろんな人たちの価値や評価の一つでしかなくて、絶対的なものではないのだと思います。世間が騒いでも、必ずしも、自分の中での達成感や満足感を得られるものではない。そんな実感を体験することができた貴重な出来事でした。

やや! 「一歩引いて見る」姿勢がいいですね! アカデミー賞とっても、全然浮かれていない。なるほど、と思いました。浮かれているような人だったら、「つみきのいえ」みたいな素敵な作品は作れないのですね。

それと、非常に興味深かったのは、「つみきのいえ」を世に送り出し、30代となった今、自分の「原点」に行き着いたと思っているということ。その原点とは、小学校1年から2年の頃に友だちと二人で夢中になっていた「箱庭」づくりなのだそうです。身近なものを使って、思いつくままいろいろな「世界」を表現するままごと遊び。あの感覚で作品をつくるべきなのではないか…。

小さい頃の「原点」というのは、意識しているいないに関わらず、多くの人の生き方に影響を与えているはずです。加藤久仁生が行き着いた「原点」も、きっとこれからの制作活動の源泉になっていくのでしょうね。

これからといえば、彼は、今後アニメーションにこだわるつもりはない、と言っています。私としては、もっと加藤久仁生の絵」が動くところを見たいのですが、既に、彼は新しい境地に向かって歩き出しているようです。今回の展覧会でも、小さな部屋が用意されて、現在彼が絵本雑誌「MOE」(白泉社)に連載しているという「あとがき」の作品を紹介していました。彼が「大切だ」という、スケッチブックに自由に描かれたスケッチをもとに構成された絵と言葉の連なり。毎回毎回、いろいろなテーマや雰囲気で見開きページに描かれた情景やストーリーは、加藤久仁生の世界としか言いようがありません。ただ、これは、たぶん、まだ「試行」なのだと思います。「あとがき」の自由奔放な試みと、「つみきのいえ」と併映されていた新しいアニメーション「情景」をもとに、いつかきっと、驚くような作品を私たちに見せてくれることでしょう。

あ、企画展の会場をつなぐ白い廊下の壁に、彼はこれから、思いつくままに絵を描いていくのだそうです。既に少しだけ描いてありました。十和田現代美術館、どんどん進化していきます。




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