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ジュディ・オングの木版画に魅せられて

2008-10-11 | ■美術/博物
青森県立郷土館で今日から始まった「ジュディ・オング倩玉 木版画の世界展」を見てきました。

ジュディ・オングといえば、「魅せられて」の歌手ですが、木版画家でもあるということを初めて知りました。いろんな才能を持っている人っているもんですね~。ちなみに、「倩玉」というのは、彼女の本名(翁倩玉=ウォン・チエンユィ)で、版画家としてはこちらの名前を使っているのだとか。

チラシに載っていた、日展で特選をとった作品「紅楼依緑」(2005年)にすっかり目を奪われてしまいました。名古屋の老舗料亭の玄関口の光景を描いた作品。黒と灰色をベースに、壁の朱色と松の緑が鮮やかで、木版画ならではの力強さがみなぎっています。チラシやカタログの図版だけだと、本物の「大きさ」ってなかなか想像がつかないものですが、この作品は、なぜかその大きさが思い浮かびました。たぶん"これくらい"の大きな作品なんだろうなと。それはこの作品が木版画だからなのでしょう。

今日実際にこの作品を見ると、逆にこれが木版画であることが不思議なくらいの繊細さに驚きました。木版画って、多色刷りの場合、基本的に色の数だけ版木を彫らなきゃいけないわけで、たとえば、この作品でみると、灰色だけでも濃淡4~5種類くらい使われています。直接キャンバスに色を塗り分けるならわけないことですが、版画だと、灰色だけで4~5枚の版木を別に彫ることになります。それを一つ一つ重ねていくことで、明暗や奥行き感を表現する。しかも、これだけ(実際には約1.2×1.6m)の大きさです。つくづく根気のいる創作活動だなと思いました。

ジュディ・オングの作品は、この「紅楼依緑」のように、日本家屋を題材にしているものが多い。外観だったり、部屋の中から庭を見通したものだったり、また、季節も、光あふれる夏、紅葉が映える秋、しっとり雪が舞う冬など、それぞれに見応えがありました。夏の一室を描いた作品で、真ん中に置かれた座卓の上に庭の緑が映り込んでいる部分に引きつけられました。また、すだれ越しに見る光景との微妙な色の違いもしっかり描かれているのには驚きました。

ガラス戸に光を浴びた庭の木々が反射しているところを描いた作品もありました。この作品は、下絵として使われた原寸大の絵も並べて展示されていました。版画でその映り込みを表現できるのか。この部分は相当苦労したようですが、比べてみると、絵の方よりも格段に版画の方がリアリティがありました。すごい。

「鳳凰迎祥」(2003年日展入選)もずいぶんじっくりと拝見させていただきました。京都の宇治平等院鳳凰堂を描いた作品です。真ん中で、阿弥陀如来像がオレンジ色の光を放ち輝いている。キャプションに、ふだんは手袋をはめて彫るのだが、阿弥陀様を描くときだけは素手で、しかも塩で清めて彫ったと書かれてありました。こん身の力作ですね。この作品は、宇治平等院に奉納されたそうです。確かに、「奉納」にふさわしい作品です。

もう1点、冬の銀閣を描いた「銀閣瑞雪」(2006年日展入選)もすばらしかった。銀閣の黒と雪の白のコントラスト。鋭角的な屋根のフォルムと松の木のやわらかさのコントラスト。これこそ、木版画の持つ特性を最大限に生かした作品ではないでしょうか。

彫刻刀1本で根気強く何枚もの版木を彫って一つの作品を作り上げる。ジュディ・オングが木版画を始めたのは、自分の性格に合っているからだと聞きました。棟方志功の弟子だった井上勝江さんという人に師事する時にも、芸能人で忙しいだろうから無理じゃない?という井上さんの心配をものともせず、版画がやりたいという一心から、家にあったベニヤ板に椿の花を彫って、バレンの代わりにスリッパで刷った作品を持参したのだそうです。そんな挑戦意欲があったからこそ、いい作品を制作し続けてこられたのでしょうね。

私も、稚拙な年賀状レベルですが、木版画にまた挑戦したくなりました。


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