カクレマショウ

やっぴBLOG

外国人のための「やさしい日本語」は、日本人にとってもやさしい。

2011-03-24 | ■社会/政治
今回の大災害で、家族や友人と再会し、抱き合って喜んでいる映像が目に焼き付いています。日本人が、しかもシャイな東北の人が、人前であんなにハグし合えるなんて…。再会できたうれしさが、こちらにも伝わってくるようでした。

ところで、昼のNHKニュースで、米国のルース駐日大使が避難所を訪れる様子が紹介されていました。彼は、一人一人をごく自然にハグして、言葉をかけていました。変な言い方かもしれませんが、ハグの仕方が本当に上手だなあと思いました。それだけで、彼の思いや優しさが伝わってきたのでしょうか、言葉は分からないかもしれませんが、涙を浮かべている人も多かった。ちょっとじんときました。

今、世界中から日本に温かい励ましの声が寄せられていますが、日本在住の外国の方も多く被災されています。YOU TUBEで地震発生時のNHKの放映を見直してみたら、地震と津波の情報を、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語でも繰り返し伝えていたことを知りました。日本に住んでいながらも、日本語が分からない外国の方もたくさんいます。彼らの不安感の大きさは、自分がもし言葉の通じない外国で被災したらと想像するだけで、容易に察しがつきますね。

そんな外国人にとって、今回の災害でも大いに役に立ったと思われるのが、弘前大学人文学部社会言語研究室(佐藤和之教授)が作成した「やさしい日本語」。きっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。日本語が十分理解できないために、逃げ遅れたりして二重に被災する外国人が多かったという。外国人が避難する際に役立つように、難しい言葉をやさしい日本語に言い換えようという取り組みです。

たとえば、「余震」という言葉を「あとから来る地震」と言い換える。「避難所」は「みんなが逃げるところ」、「炊き出し」は「温かい食べ物を作って配る」といった具合。これだけで、助かる外国人はたくさんいることでしょう。瞬時の判断が生死を分けることもある災害時、「情報」があっても、それを理解できないのでは全く意味がありません。

発案者である佐藤教授の講演録によると、阪神・淡路大震災の時のNHKのニュースを、多くの外国人が理解できなかったと言います。

今朝5時46分ごろ、兵庫県の淡路島付近を震源とするマグニチュード7.2の直下型の大きな地震があり、神戸と洲本で震度6を記録するなど、近畿地方を中心に広い範囲で強い揺れに見舞われました。

私たちにとってはなんということのない文章ですが、外国の方にとっては、たとえ聞き取れたとしても、ふだん日常的に使わない単語がたくさん出てきて、意味が理解できないのでしょう。「震源」、「直下型」、「強い揺れに見舞われる」なんて言葉や言い方は、日常会話ではほとんど必要のない言葉です。「今朝」とか「付近」という言葉でさえ、分からない外国人もいることでしょう。

そこで、佐藤教授は、「彼らが日常使っている、目に触れている程度の日本語」を使うことを提案する。とりあえずは、通訳などの救援ボランティアが被災地に入ってくる「72時間後」の初期段階までは、できるだけ「やさしい日本語」で彼らに情報を与えることが大切だと言います。たとえば、さっきのニュース原稿を言い換えてみると、

今日、朝、5時46分ごろ、兵庫、大阪などで、とても、大きい、強い地震が、ありました。地震の中心は、兵庫県の淡路島の近くです。地震の強さは、神戸市、洲本市で、震度、6でした。

なるほど、これならとても分かりやすい。というか、理解できる外国人の数が一挙に増えそうです。

佐藤教授の研究室では、これら「やさしい日本語」作成のための「ガイドライン」も作成しています。「やさしい日本語」作成のルールとして、たとえば、主語と述語は一つの文で一組だけにするなど、「1文を短くして、文の構造を簡単にしてください」とある。あるいは、外来語は意味が異なる場合もあるので注意するとか、擬態語(めちゃめちゃ、どきどきなど)は伝わりにくいので使わない、二重否定はダメ、とか。外国人のためばかりでなく、私たちの日常生活でも役に立ちそうなマニュアルです。

また、ガイドラインには、避難所などに張り出す「やさしい日本語」を使ったポスターの作り方も載っています。見出しは大きく、とか、情報の内容に合ったイラストを載せるとか、そのイラストの描き方のコツまで紹介されています。これは使えますね。

佐藤教授は言います。

避難所には「断水のため衛生状態が悪くなっています」といった掲示物が張り出されましたが、この日本語はとても難しいと思います。どうしてこういう掲示物になったかというと、災害時にはどういう表現がみんなに分かりやすいかや、災害下でも混乱を起こさない言い方はどんな言い方か、といった災害時の文章表現のための訓練や考え方をしてこなかったためです。平常時のいつも使っている言い方でとにかく書いてしまおう、という習慣性に問題がありそうです。

「断水のため衛生状態が悪くなっています」という張り紙は、確かに分かりにくい。「平常時」にだって、あるいは日本人でさえ、一瞬考えてしまうような表現ですよね。「災害時の文章表現のための訓練」は、やはり日常生活で、言葉の使い方やものの言い方に気をつけることから始めなければなりませんね。外国人のための「やさしい日本語」は、日本人にとっても「やさしい」のです。


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