カクレマショウ

やっぴBLOG

阿修羅だけじゃない。─「阿修羅展」

2009-05-19 | ■美術/博物
念願だった阿修羅展を見てきました。なんと70分待ちでした! これほどの人気とは正直思っていませんでした。

今回の展示は、阿修羅像を正面以外からも見ることができるというのが最大の売りではあるものの、阿修羅立像(りゅうぞう)そのものは、京都の興福寺に行けば、いつでも観覧できるのに…。

時計回りに列をつくり、押し合いへし合いする人込みの中で、係員が「立ち止まらないでください、少しずつ前にお進みください、逆方向にはお進みにならないでください」と、ひっきりなしに連呼する。そんな薄暗い展示室の真ん中で、阿修羅は戸惑っているようにも思えました。

都内の駅には、奥入瀬の阿修羅の流れ」のポスターがあちこちに貼られていました。「激しくも優しい」阿修羅の流れ。かつてはとてつもない暴れん坊だった阿修羅ですが、興福寺の阿修羅像には、もはや激しさは微塵も感じられない。三つの御顔は、どれも静かで厳かな表情を浮かべていました。

人の波に押されるようにあわただしく会場内を移動しつつ、ふと目に留まったのが、「アシュラの起源はペルシアにある」というキャプション。へぇ~そうだったのか!てっきりインドの神がルーツだと思っていましたが、さらにさかのぼるのか!

まず思い出したのが、紀元前7世紀に古代オリエントを統一したアッシリアの最盛期の王、アシュルバニパル。この「アシュル」というのは、アッシリアの最高神のことなのでした。太陽神です。アシュルとアシュラ。確かに似ています。

アッシリアに次いでオリエントを統一したアケメネス朝ペルシアで成立したゾロアスター教は、天地の創造主アフラ・マズダを崇拝する宗教ですが、この「アフラ・マズダ」も、阿修羅のルーツではないかとも言われています。ゾロアスター教は、善悪二元論に立ち、光明・善の神であるアフラ・マズダと、暗黒・悪の神であるアーリマンが抗争を繰り広げますが、最終的には善が勝ち(「最後の審判」)、人間の霊魂も救われるという考えに基づいています。このあたりも、悪神から善神へと変貌を遂げた阿修羅との関わりを感じさせますね。

ところで、阿修羅立像は、もともと、藤原氏の氏寺として創建された興福寺に収められている「八部衆」、つまり仏法を守護する神々の中の一人として造られた像でした。今回の展覧会では、もちろんこの八部衆も展示されていましたが、阿修羅以外の神像も、それぞれに個性豊かで面白かった。皆、仏教成立以前のインドの神様がルーツで、たとえば、鳥の頭を持つ「迦楼羅(かるら)」、その辺にいそうな子どものような顔をした「沙羯羅(さから)」、唯一怒り顔の「鳩槃荼(くばんだ)」など、見ていて飽きない。阿修羅だけが特別扱いされていますが、本当は8人全員が並ぶべきなのだと思いました(「五部浄」(ごぶじょう)だけは頭部と上半身の一部しか残存していませんが)。

また、「十大弟子」のうち、興福寺に現存する6体もずらりと並んでいましたが、こちらは正直、棟方志功の板画「釈迦十大弟子」の方がインパクトあるなあと思いました。

インパクトといえば、次のコーナーでどどーんと出てくる四天王の迫力にはびっくりさせられます。「持国天立像」、「増長天立像」、「広目天立像」、「多聞天立像」。いずれも、鎌倉時代の作品ですが、衆生(しゅじょう)を脅かす魔物に対する怒りがみなぎっています。雑誌「BRUTUS」の2009年4月15日号で「仏像」の特集を組んでいますが、それによると、こうした四天王像などには、もともと極彩色の色が施されていたらしい。四天王は、それぞれ、守るべき方角によって、東の持国天は青、西の広目天は白、南の増長天は赤、北の多聞天は黒とそれぞれ顔の色が決まっていたという。もちろん、顔だけでなく、衣服にもハデハデな色が塗られており、わずかに残された色彩をもとに、CGで復元もされているとのこと。確かに、極彩色の四天王なら、もっと怖そうに見えますね、きっと。

仏像は、本来安置されている場所(つまりお寺)で眺めるのが一番だと思うのですが、仏像には、「美術品」としての意味もあります。そういう意味では、今回の展覧会は、何も「阿修羅」だけでなく、仏像を美術品として見た時のいろんな楽しみ方ができると思うのですが、いかんせん、人が多すぎました…。

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2 コメント

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Unknown (RINKO)
2009-05-22 10:27:22
私は4月の平日に行きましたが、待ち時間はゼロで、結構ゆっくりと見ることが出来ました。
ラッキーだったんですね。

また、歴史のこと教えて下さいね。
私は日本史も世界史も専攻してたけど、
歴史のこと、全然わかんないもんねー。←(何の自慢?)
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こちらこそ (やっぴ)
2009-05-23 00:48:33
RINKOさんこんばんは。

待ち時間ゼロ…!?
信じられません…。
私が行ったタイミングが悪かったのですね。

世の中すべて歴史とつながっていますので、歴史を知ることで、いろんなことを「深く」知ることができるのだと思っています。

ま、学校時代に習う歴史は、ほんの「入り口」にしか過ぎないので…。歴史に興味を持っていただけただけでうれしいです。
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