カクレマショウ

やっぴBLOG

「天使と悪魔」─とりあえず期待どおりのエンターテインメントではあるが。

2009-05-17 | └歴史映画
"ANGELS & DEMONS" 2009年/米国/138分
【監督】 ロン・ハワード
【原作】 ダン・ブラウン『天使と悪魔』(角川書店刊)
【脚本】 デヴィッド・コープ アキヴァ・ゴールズマン
【出演】 トム・ハンクス/ロバート・ラングドン アイェレット・ゾラー/ヴィットリア・ヴェトラ ユアン・マクレガー/カメルレンゴ
<2009/05/16 青森コロナシネマワールド>
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「ダ・ヴィンチ・コード」に次ぐ、「ラングドン・シリーズ」第2弾です。原作の方は、「天使と悪魔」の方が先なのですが、映画では逆という設定になっています。とはいえ、「ダ・ヴィンチ・コード」とは主人公が同じというだけで、何のつながりもなく、別々の物語として十分楽しめます。

原作を読んでからこの映画を見た人の多くが、やっぱり原作の方が面白いと感じたのではないでしょうか。原作で重要なポイントを占める設定が、映画では大きく変えられていたり、何より、私にとっては、カメルレンゴの「心の闇」が、映画ではさらりとしか描き出されていなかったことがとても残念です。

ま、ロン・ハワード監督による一流のエンターテインメント映画だと割り切って見るのが一番良いのでしょう。もとより、ダン・ブラウンによる原作そのものが、実際にありそうなことを「フィクション」として描いているものである以上、「荒唐無稽」であることには違いないのですから。

物語では、CERN(欧州原子核研究機構)による「反物質」の生成、さらにそれが「兵器」として使われる可能性にまで触れられていますが、これではCERNが何か国際的な陰謀と結びついているのでは…という誤解さえ与えかねません。CERNでは日本の研究チームも"ASACUSA"(なぜか「浅草」?)という名前で参加していますが、そのリーダーを務める東大の早野教授のサイト「物理学者とともに読む「天使と悪魔」の虚と実 50のポイント」には、こんなふうに書かれています。「CERN研究所が存在し、そこで反物質研究が行われていることは事実です。 しかし、原作のように1/4グラムもの反物質を作るには、宇宙の年齢(137億年)でも足りないくらいの時間がかかります。反物質がエネルギー源となったり、凶悪な兵器となったりすることはありえません。」

映画の登場人物も、当然のごとく、原作から大きく削られています。たとえば、ヒロインのヴィットリアの父レオナルドが登場してこないことには、映画が始まってすぐに気づきます。原作で重要な意味を占める、ヴィットリアの「父を殺された恨み」がそっくりカットされているのです。というより、ヴィットリアの存在そのものが原作よりずっと「薄く」なっていますね。その点は「ダ・ヴィンチ・コード」(映画)のソフィとは大きく異なるところですね。まあ、ほかにも何でこの人が出てこないんだ?という人はたくさんいますが、あとで考えると、別の登場人物にうまく刷り込まれていたりもするのですね。

この映画の最大の鍵を握るのは、なんと言っても、教皇の侍従長であるカメルレンゴです。あのユアン・マクレガーが演じています。上にも書きましたが、私は、カメルレンゴの思い(例えば、原作の下巻p.265~268あたりのヴィットリアとの会話)がもう少し描かれてもいいのではないかという気がしました。ま、そのあたりはこの原作の映画化という意味では、別の作品ができてもおかしくないと思います。「エンタメ系」ではない形で、この原作のテーマである宗教と科学の問題に深く切り込む映画があってもいい。

今回、ヴァチカンは、映画のロケを一切許可しなかったということを映画を観てから知りました。映画で、コンクラーベが行われるシスティナ礼拝堂の大壁画、天井画(ミケランジェロ作)の情景に思わず息を呑みましたが、あれもCGだったのか。ただ、「ダ・ヴィンチ・コード」と同じように、ローマ市内の教会(サンタ・マリア・デッラ・ヴィットリア教会、カステル・サンタンジェロ、パンテオンなど)やそこにあるベルニーニの素晴らしい彫刻など、あくまでも凄惨な「事件」の舞台としてですが、改めて自分の目で確認できるのは、映画ならではと言えるでしょうか。

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2 コメント

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またまた深い・・・ (ナイルの風)
2009-05-18 20:52:42
先日のユーミンコンサートはドーハで5時間のトランジットの思い出がある自分にとって様々な意味で感動がありました。今回はカイロから4時間というローマが舞台なので,こちらも懐かしさを含めて観てきました。しかし,またまた深い解説を読ませていただき感謝申し上げます。学生時代にバチカンのピエタ像に心打たれて西洋美術史を卒論にした自分の勉強不足を反省しています・・・。
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恐縮です。 (やっぴ)
2009-05-19 23:55:28
ナイルの風さん
こんばんは。
ユーミン、よかったみたいですね!
やっぱり本物のプロは違う、という感想を別の方からも聞いています。

ピエタ像、私も一度は見てみたいです。この映画にも出てきた、ベルニーニの「聖テレジアの法悦」も…。本物に勝るモノはありませんよね、当然のことながら。
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