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カクレマショウ

やっぴBLOG

『レ・ミゼラブル』覚え書き(その17)

2005-07-04 | └『レ・ミゼラブル』
第二部 コゼット
第三編 死者への約束の履行(岩波文庫第2巻p.35~p.126)#3

外は雨です。青森の梅雨は蒸し暑いというより肌寒い感じ。時折思い出したように続く『レ・ミゼラブル覚え書き』行きます。

テナルディエの宿でジャンが一夜を過ごした翌朝。

強欲なテナルディエは、夜明け前から起き出して、黄色いフロックコートの男への請求書をしたためていました。その額なんと23フラン! 通常は1泊40スーのところ、57倍もの金額をふっかけようというわけです。それでも、1,500フランもの借金を抱えるテナルディエにとっては焼け石に水だったのかもしれません。

ジャンは勘定を支払う前に、上さんに、「厄介者」のコゼットを連れていってあげようかと何気なく言ってみます。思わず喜びの表情を浮かべる上さん。ところがそれを聞いていたテナルディエはまたもや天性の悪知恵を働かせるのです。26フランの請求書を反古にして、勘定は26スーでいいと言うと、コゼットのことで話があると持ちかけ、自分たちがコゼットをいかに大事にしているかをとうとうと述べ始めます。それをどこの誰だかわからない男に連れて行かれるのは困る、せめて通行券でも見せてほしいと。ジャンはこう確固たる調子でこう答えます。

「テナルディエ君、パリーから五里くらい離れるのに通行券を持ってくる者はいません。コゼットを連れて行くと言ったら連れてゆくだけのことです、それだけです。私の名前も、私の住所も、またコゼットがどこへ行くかも、君に知らせる必要はありません。私はあの児を生涯君に会わせまいというつもりです。私はあの児の縄を解いてやって、逃がそうというのです。それでどうですか。承知ですかそれとも不承知ですか。」

今ならあまりにも乱暴な言い方ですが、テナルディエはそれを聞いて「相手がなかなか手ごわい」ことを悟ります。こいつはいったい何者なんだ? しかし、いずれにしても単刀直入に話を進めるのがいいということを直感的に感じた彼はついに本音を吐きます。コゼットを引き取るなら1,500フランいただきたいと。ジャンは何も言わずにポケットから財布を取り出し、500フラン紙幣を3枚取り出してテーブルの上に置く…。

一方、木靴の中に金貨を発見したコゼットは、目がくらむような思いをしながらもそれをエプロンのポケットに入れ、「一種の恐ろしさに満ちた喜びを感じていた」。そんなコゼットをジャンは呼び寄せ、娘のために用意した洋服の包みを開けてそれを着てくるように言います。そして、ふたりはテナルディエの店を出て行くのです。

コゼットはそこを立ち去りつつあった。だれとともに? 自分でもそれを知らなかった。どこへ向かって? 自分でもそれを知らなかった。ただ彼女の知っていたことは、今や自分はテナルディエの飲食店をあとにしているということのみだった。だれも彼女に別れを告げようとするものもいなかった。また彼女もだれに別れを告げようとも思わなかった。憎み憎まれたその家から彼女は出ていった。

コゼットにとっては、自分をテナルディエの家から連れ出してくれた老人がまるで神様のように見えたことでしょう。それは彼女にとって生涯最高のクリスマスプレゼントだったのです。

さて、1,500フランという大金を置いてあっという間に男がコゼットとともに消え失せるのを、テナルディエは茫然と見送っていました。彼には、長いこと返済に困っていた1,500フランの借金がなくなるという半ば信じられない思いがしていたにちがいありません。ところが、上さんが言った一言で彼は我に返るのです。「それだけですか!」という一言に。

テナルディエは今更ながら自分の愚かさに地団駄踏む思いだったのでしょう。あいつなら1万5,000フランだってふんだくれたかもしれないのに! 人間の欲深さにはきりがありません。さっそく彼は帽子をとると、ふたりを追いかけることにします。

彼はふたりに追いつくと、せっかくもらった1,500フランをジャンに押しつけると、やっぱりコゼットを返してもらいたい、コゼットはこの子の母親から預かったのだから何か母親の書いた書き付けがなければ渡せないと言います。それはハナからそんなもの持っているはずがない、それをネタにさらに値段をつり上げてやろうと考えていたのでしょう。ところが、男はコゼットの母親つまりファンティーヌに託された書き付けを持っていたのです。万策尽きたテナルディエは態度を豹変させ、コゼットを連れて行くなら3,000フランいただきましょう、と口走ります。ジャンは彼を完全に無視し、再び歩き出します。

ジャンは、オリオン号から海に転落して死んだと思われていたジャンは、ここまでは素性不明の男として描かれています。彼は脱走後、持っていた金で自分の服を買い、またコゼットにも服を買いました。そしてひそかにパリに住んでいたのです。

彼はコゼットを背中におぶった。コゼットは人形のカトリーヌを手に持ったまま、頭をジャン・ヴァルジャンの肩につけて、そのまま眠ってしまった。

それはコゼットにとって初めての安らぎの時だったことでしょう。そして、二人の長い物語がここからいよいよ始まります。

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