超音波による胎児診断の危険性について少々調べました。
まず、エール大学の論文
「Prenatal exposure to ultrasound waves impacts neuronal migration in mice」
Ang, Jr E.S.B. et al. PNAS 103:12903-12910, 2006
ですが、ここでのべられているのはマウス胎児への「過剰な」超音波照射が脳細胞の正常な移動行動を遅延あるいはかく乱させた、ということです。
この論文が生まれた背景には、USAでの頻繁な医療目的ではない胎児の撮像(記念撮影のようなもの)があったようです。これらの撮像は医療目的でないことから経験の少ないスタッフ(ときには一般人)によって行われることがしばしばで、撮像には時間のかかることもあったようです。2004年にはFDAが基準勧告をしていますが、それにもかかわらず超音波による胎児の記念撮影はひろがるばかりであったようです。そのような状況があって、この研究がなされたようです。
論文にある超音波の照射条件が臨床で使われている条件と比較してどのくらいのものであるのか私には判断がつきません。人で使われているレベルと書いてありますが、はるかに強い条件だという意見もあります。ともあれ、この論文は胎児への不必要な超音波の照射は止めるべきである、という主張の根拠となる論文として重要な意味をもっていると思われます。
ところで日本ではこのようなUSAでの動きに対し、日本産科婦人科ME学会が「マウスの脳に対する超音波の影響に関する報道について」という声明を出しています。その声明は「不必要に長時間に及ぶ超音波検査(特に胎児の脳に対して)、診断目的以外(いわゆる"entertainment")の使用は、できるだけ避けることが望ましいと考えます。」で結ばれています。
最近は日本でも3Dの画像などを「記念に」作ってくれる産婦人科などもあったりするようで、確かに憂慮するべき状況にはあるようです。いま一度、超音波診断の危険性についても考慮し、節度のある使用をされることが望まれるとおもいます。
今回、私が調べた限りではいわゆる「キレる子供」との関連については文献を見出せませんでした。もちろん、現在研究されている方もいるのかもしれません。しかし、上記の論文から推察するに、安易に結びつけるのは早計かとおもいます。そもそも、「キレる子供」とはどういう子供であるのか。感覚的にはなんとなくわかるのですが、詳細に調べるためにはもう少し厳密な定義が必要です。そしてそのような子供たちに関する、家系的調査、発生、周産期、生育環境、現在の状況(栄養状態を含め)などのデータが集められ、解析される必要があると思います。時期的に符合するということのみで、直接の関連性を疑うのはいささか乱暴な議論かとおもいます。また、この件に関しましては新たな情報が得られましたらお知らせしたいとおもいます。