無知の知

ほたるぶくろの日記

ほとんどオカルト

2014-03-30 08:52:14 | 生命科学

某細胞の論文の後ろに控えている某バード大学の某教授先生に関してはさまざまな話しがネットにあります。この方の名前、私も最初見たときに見覚えがあるなあ、と思いました。背中に耳のような構造物を生やしたマウスの写真で憶い出しました。このかたpseudo-ユ○○人なのですね。しかも兄弟4人とも何らかの学者とのこと。

この某教授先生は以前に成体(大人になった)マウスなどから多能性細胞を分離したと主張した方です。原著は下記。全文は買わないと見られませんが、アブストラクトは見ることができます。

「Identification and initial characterization of spore-like cells in adult mammals」

Martin P. Vacanti, Amit Roy, Joaquin Cortiella, Lawrence Bonassar andCharles A. Vacanti*

We describe the identification and initial characterization of a novel cell type that seems to be present in all tissues. To date we have isolated what we term “spore-like cells” based on the characteristics described below. They are extremely small, in the range of less than 5 μm, and appear to lie dormant and to be dispersed throughout the parenchyma of virtually every tissue in the body. Being dormant, they survive in extremely low oxygen environments, as evidenced by their viability in tissues (even in metabolically very active tissues such as the brain or spinal cord) for several days after sacrifice of an animal without delivery of oxygen or nutrients. The spore-like cells described in this report have an exceptional ability to survive in hostile conditions, known to be detrimental to mammalian cells, including extremes of temperature. Spore-like cells remain viable in unprepared tissue, frozen at −86°C (using no special preservation techniques) and then thawed, or heated to 85°C for more than 30 min. Preliminary characterization of these cells utilizing basic and special stains, as well as scanning and transmission electron microscopy reveal very small undifferentiated cells, which contain predominantly nucleus within a small amount of cytoplasm and a few mitochondria. Focal periodic acid-Schiff and mucicarmine stains suggest a coating of glycolipid and mucopolysaccharide. In vitro, these structures have the capacity to enlarge, develop, and differentiate into cell types expressing characteristics appropriate to the tissue environment from which they were initially isolated. We believe that these unique cells lie dormant until activated by injury or disease, and that they have the potential to regenerate tissues lost to disease or damage. J. Cell. Biochem. 80:455–460, 2001. © 2001 Wiley-Liss, Inc. 

(以下仮訳)

「ほ乳類成体に存在するスポア(胞子)様細胞の同定と基本的性質」

ここに述べるのは新しい型の細胞の同定と基本的性質である。この細胞は全ての組織に存在すると考えられる。これまでにわれわれは”胞子様細胞”と名付けたものを分離した。これは以下に記述する性質に基づいて命名した。胞子様細胞とは5マイクロメートル以下と非常に小さく、休眠状態で存在することが分かった。そして身体のほとんどあらゆる組織の間充織に散在している。休眠状態であることで、胞子様細胞は非常な低酸素環境下でも生存している。動物から組織を取り出し、酸素や栄養分の循環がなくなった組織でも数日間は組織(脳脊髄などの代謝の活発な組織でも)内で生存している事実から、そうであることが分かる。この論文で記述する胞子様細胞は例外的な能力を持っている。過酷な条件下、ほ乳類細胞にとって有害とされている、例えば摂氏マイナス86度での凍結(何の特別な保存技術もなしでの)や融解、摂氏85度で30分以上などの条件下でも生存している。基本的で特定の系統と、走査型電顕と透過型電顕を用いて、これらの細胞の予備的な性質同定をおこなったところ、少数のミトコンドリア以外ほとんど細胞質のない、殆ど核だけを持つことがわかった。酸性シッフ染色とムチカルミン染色による間欠的なドット上の染色像は糖脂質とムコ多糖類で覆われていることを示している。試験管内ではこれらの構造は増長し、増殖し、その細胞を最初に分離してきた組織環境に適した特徴を表した細胞型へと分化する。われわれはこれらのユニークな細胞が傷害や病気によって活性化されるまで休眠状態で存在し、病気や傷害によって失われた組織を再生する潜在能力を持っていると信じている。 J. Cell. Biochem. 80:455–460, 2001. © 2001 Wiley-Liss, Inc.

 

Sounds good. この論文については大分追試が行われたようです。しかし、そうは簡単に見つからなかったようで、あまり注目はされませんでした。日本でもMuse細胞などの研究が行われており、この細胞の性質は上の論文にかなり近い。最近再生医学的な利用価値を多くの方が認めるところとなり、徐々に応用研究が広がっているようです。米の国での特許についてはどうなっているのかよく知りませんが、件の某教授は何か不満があってSTAP細胞を主張したかったのかもしれません。この細胞も再生医療的に有益なものであり、私個人としてはiPSよりもよいと思いますし、権利が取れていればSTAPなどと怪しげなことを言わずとも再生医療への応用についてもっと研究を進める方が重要であると考えるからです。まあ、まともな研究者であれば、権利はともかく、自分の研究がより公益に資する方向へ舵を切るはず。あるいはこのような幹細胞がいつどのように成立するのかを調べるなどやることが沢山あるはずです。

Muse細胞はトリプシン耐性の細胞から見つかったようですが、ESの培養でも、長めのトリプシンや高密度培養で培地を酸性気味に維持するとgerm line transmission(生殖細胞系列への分化)の率が高くなる、と経験的には知っていました。それが何故かは、私の研究の範囲外でしたので、考えないことにしていましたが、常々興味深いなとは思っていました。

ともかく成体の間質細胞から長時間のトリプシンや酸性条件への暴露で多能性幹細胞が採れるというなら、再生医学的にはそれが一番使いやすいと思います。現在なされているiPSへの巨額の投資は無駄かもしれません。なぜこのように簡単に分離される幹細胞ではなく、iPSでなくてはならないのか。議論が十分になされているとは思いません。まずはiPSありきで政治判断されている現状は恐ろしい。何らかの利権が動いているのでしょう。幹細胞培養用の培地やサプリメントが良くなっているのはいい傾向ですが、大元の細胞自体に問題があることが後で明らかになったとしたら、それこそ悔やんでも悔やみ切れないでしょう。

今後も注意して動向を観て行きたいと思います。


流れの変化

2014-03-20 08:03:27 | 日記

やっと最近O氏からS氏、K氏、Y氏、V氏へとホコ先が変わってきました。最も責任を追及されるべきはS氏。その後全く表に出てきていません。彼が論文の筋立てをし、執筆したことは生命科学コミュニティには明らかです。一刻も早く、何を考え何をしたのか釈明すべきです。

公的なお金と権力を用いて何をしたのか?若い女性に全責任を負わせて終わりになることはあり得ません。

あざとい演出もS氏が先導したと聞いています。彼はそうやって科学コミュニティを欺き何をしようとしたのでしょう。一生懸命地道に研究に励んでいる若い人をも愚弄するような演出でした。副センター長としての地位からは様々な憶測が飛び交っていますが、それならば、ますます地道でソリッドな研究成果こそを提出して行くべきでした。

流れは変わっています。理研も決断を迫られることでしょう。

 

 


STAP細胞について2

2014-03-16 14:24:40 | 生命科学

もう少し、TCR再構成という最も重要な証拠について書いておきたいと思います。TCR(T細胞レセプター)はαとβの二種類あります。教科書的にはT細胞への分化の初期にTCRβの再構成が起こります。このときallelic exclusion (対立遺伝子排除)という現象があり、一対あるTCRβの片側の遺伝子座(アレル)で再構成が起こるともう片側のアレルはgerm line type(幹細胞型)のまま残され、再構成は起こりません。その結果、T細胞へ一歩踏み出した細胞は片側アレルから作られたβ鎖を発現します。

一方α鎖の再構成は次の段階の分化で起こりますが、これは両方のアレルで独立に再構成が起きます。90%以上のβ鎖(+)(β鎖ポジティブ)細胞で組み替えが起こり、幹細胞型のα鎖をもつ細胞は数%と考えられています。

 

今回のNature論文のデータはβ鎖アレルについてのデータが示されています。この電気泳動の図もT細胞のPCR産物のレーンは別の電気泳動画像からの切り貼りであることが示されていて、しかもgerm lineからのバンドがないなど問題になっていますが、百歩譲ってこれが論文の記載通りであるとします。論文には次のように記載されています。

 In addition, genomic rearrangements of Tcrb(T-cell receptor gene) were observed in OCT4-GFP+ cells delved from FACS-purified CD45+ cells and CD90+CD45+Tcells (Fig. 1i, lane 4, 5, and Extended Data Fig. 2e-g), indicating at least some contribution from lineage-committed T cells.

(私訳)

さらに、FACSによってCD45陽性細胞やCD90CD45両陽性T細胞から純化したOCT4-GFP陽性細胞ではTCRβ(T細胞レセプター遺伝子)のゲノム再構成が観察された。(図1のi、レーン4、5と別添の図2、2e~g)これらのことは少なくともある程度は、分化の方向が決定されたT細胞からOCT4-GFP陽性細胞ができていることを示している。

 

この部分をもう少し解説すると、血球系細胞(またその他間葉系細胞の)マーカーの一種であるCD45やCD90分子を細胞表面に発現している細胞を分離し、酸などの刺激を与えたら、OCT4-GFPを発現するような細胞(=OCT4を発現するような幹細胞様の細胞になった)が出現した。これらの細胞を集めてくるとTCRβ遺伝子の再構成が起こっていることがわかった、ということです。さらに簡素に述べますと、血球系へ分化し始めた細胞を集めてきて酸処理をしたら、GFP蛍光を発する細胞が出現した。これは幹細胞マーカーであるOCT4遺伝子が発現していることを示しているので、幹細胞様の細胞が出現したといえる。それらのGFP蛍光を発している細胞をFACSによって集めてきたらそれらの細胞ではTCRβ遺伝子の再構成が起こっていた。

 

Nature論文でTCR再構成に関するデータはこれだけです。それでも論文冒頭のアブストラクト(概要)では

 

In STAP, strong external stimuli such as a transient low-pH stressor reprogrammed mammalian somatic cells, resulting in the generation of pluripotent cells.

(私訳)

STAPとは一過性の酸性ストレスなどの強い外的刺激がほ乳類体細胞をリプログラミング(初期化)し、全能性幹細胞を生じる現象である。遺伝子再構成解析に加え、精製されたリンパ細胞から生じたSTAP細胞のリアルタイム画像から、われわれは分化系列が決定された体細胞が選択ではなくリプログラミングによってSTAP細胞を生じたことを発見した。

 

と主張しています。しかし、全能性幹細胞が生じたというならば、その細胞から作製されたマウスの体細胞にも遺伝子再構成があるのかどうかを示さなくてはならないでしょう。しかしそのようなデータはありません。Natureもよくここまで主張の根拠が薄弱な論文を通したものです。査読者の力量が疑われます。Natureもこの論文を採用したという責任は免れますまい。

 

このように、この論文では論文の最も重要な主張を支えるデータであるはずにもかかわらず、TCRβ遺伝子再構成のデータはまことに不十分でした。しかし、Natureはそもそも記述量が制限されているため、記述したくとも記述できず、(そんなことは本来あり得ないのですが)割愛されたのだろう、マウス体細胞の遺伝子再構成も確認されているのだろうと善意で解釈していました。

ところが、3月5日に公表されたプロトコール中では次のように書かれていたのです。 

We have established multiple STAP stem cell lines from STAP cells derived from CD45+ haematopoietic cells. Of eight clones examined, none contained the rearranged TCR allele, 「suggesting the possibility of negative cell-type-dependent bias (including maturation of the cell of origin) for STAP cells to give rise to STAP stem cells in the conversion process. 」This may be relevant to the fact that STAP cell conversion was less efficient when non-neonatal cells were used as somatic cells of origin in the current protocol.(「」は私が追加)

(私訳)

われわれはCD45陽性血球系細胞から複数のSTAP幹細胞株を樹立した。8幹細胞株のTCRβ遺伝子再構成を調べたがどれにも見出せなかった。「このことはSTAP細胞からSTAP幹細胞が生じる変換プロセスにおけるネガティブな細胞種に起因するバイアス(もともとの細胞の成熟を含む)の可能性を示唆している。」このことは、現在のプロトコールでは用いられた体細胞が新生マウスではないマウスからの細胞をである場合、STAP細胞の変換の効率が低いことに関係しているかもしれない。(「」は私が追加)

 

冒頭の部分

" 8幹細胞株のTCRβ遺伝子再構成を調べたがどれにも見出せなかった。"

が実に衝撃的でした。Nature論文の根幹を否定しているからです。

また「」内の主張とは、CD45陽性、あるいはCD45CD90共陽性細胞集団の中の、TCRβアレルが再構成をおこす前のT細胞系列細胞からSTAP幹細胞は生じてきた、と主張されたいのでしょうか?

それならなぜわざわざTCRβ再構成のデータなど論文中で使ったのでしょうか?

もちろん、次のように考えることもできます。TCRβ遺伝子再構成は片側のアレルにしかおきませんから、STAP細胞化の際に、もう片側のintactのアレルが再構成をおこしたアレルと組み変わり、両側のアレルがintact typeになったのかもしれません。現在のところその可能性も否定はできません。しかし、それよりも、もともと存在した全能性幹細胞が選択されてきた、と考える方がより自然でしょう。

 

TCRα鎖は両側アレルで再構成がおこるため、そちらをマーカーにするべきでは?との意見もありますが、より分化段階が進んだ状態であるため、OCT4陽性細胞集団には見出されなかったのかもしれません。実際、論文中で「少なくともある程度は、分化の方向が決定されたT細胞からOCT4-GFP陽性細胞ができていることを示している。」としています。しかし、そうであるならば、それについてもデータが必要でしょう。α鎖の再構成が起こったものからでもOCT4陽性細胞が出てくるのかどうかは興味深い点です。ちなみにiPS細胞作成プロトコールでは、特定のTCRαβが発現する細胞を用いても初期化し、マウスも作られています。

 

iPS細胞プロトコールと比肩したプロトコールであると主張したいならば、さらなる実験データが必須です。それらを提供できない限り、この論文の主旨は証明されたことになりません。論文として提出するにはあまりにも時期尚早であったのではないでしょうか。

 

論文発表後に公式にアップロードされたSTAP細胞株やそれと比較したいくつかの細胞ゲノムの次世代シークエンスデータから、STAP幹細胞とES細胞が同じ細胞と言える、との解析結果も発表されています。これも善意に考えればゲノムサンプルを間違って次世代シークエンスにまわしてしまったのかもしれません。ともかく、理研内外の、彼女をスーパーバイズする立場にあった経験豊富な先生方は一刻も早く公にこれらの問題点に関し正確なデータを提供し、結論を出して頂きたいと思います。

この問題はもはや若い博士号を取ったばかりの研究者の問題ではないと思います。彼女にのみ責任を押し付けて、逃げるならば、またそれが許されるとしたら、日本の生命科学は終わりです。研究費として多額の税金を使い研究をしているのです。説明責任があります。また、全ての真面目に勉強と実験に励んでいる学生さん達のためにも、きちんとした対応がなされるべきです。理研CDBの体制は検証されなくてはならないでしょう。なぜこのようなことが起こってしまったのか。関係者の目は厳しいです。私もずっとこの問題についてはフォローして行くつもりです。


STAP細胞について

2014-03-15 14:10:02 | 生命科学

STAP細胞の件で、このようなことになるとは本当に残念なことに思います。柳田先生もtwitterで、「ブログにも一度は賞賛した記事を書いてしまったが浅はかであった」とつぶやいておられましたが、私も同様の気持ちです。私もここに祝賀のメッセージを込めて記事を書きました。Natureの論文も読んで書いたので、だまされたひとりとして慚愧に堪えません。

 

 昨日は職場で理研の記者会見のテレビ放映、ネットでの中継を観ました。仕事上無関係ではないため職場の人々と職務として観ていました。そこで説明されていた様々なデータの取り扱いや博士論文に関する問題点は報道されていますし、ネット上にも情報は沢山あります。したがって、ここで敢えて繰り返すつもりはありません。 

私も今回のNature論文を撤回するべきだと思っています。それは3月5日に理研が公開したプロトコールの中に「STAP幹細胞8株のなかにTCR再構成は見出せなかった」と明記されていたからです。この一文が意味することは「成体のマウスにまでなった細胞はT細胞由来ではなかった」ということです。一方、Nature論文の中では「STAP細胞からできたマウスの遺伝子ではTCR再構成が起こっていた」とのデータと記述があり、「だから、このマウスはT細胞が初期化したSTAP幹細胞からできた」という結論になっていました。そしてこの事実が生命科学の「常識」である「一度T細胞へ終末分化した細胞が初期化し、幹細胞になることはない」という分化の非可逆性を否定したことになり、「偉大な発見」「常識を覆す発見」と言われたのです。ここにあの論文の価値があったのでした。

 それがそっけなく、目立たない形で「そういう事実はなかった」とあっさり書かれて公表されていたのです。これは敢えていうなら「詐欺」でしょう。 

論文に関する釈明を行うならば、生命科学の学者であるならば、あのような文書の片隅にこっそりと記述するのではなく、記者会見の場で、はっきりとその事実をデータ付きで示し、「このような理由であるため論文の根幹の事実が否定されたため撤回する」と表明するべきです。

 理研の対応、彼女の上司である笹井さん、大和さん、小島さん、バカンティさんはこの点に関して公の場で釈明を行うべきだと考えます。それが行われない限り、日本のこの分野の科学者コミュニティは自浄能力がないと世界の科学者コミュニティから認識されることでしょう。

今後も引き続き調査結果が発表されると思います。STAP細胞とは成体における幹細胞を選択してきたものだったのか? それとも本当に終末分化した細胞が初期化するのか? 前者の事実が明らかになるだけでも、それは再生治療やがん研究におけるがん幹細胞にとっては重要な発見であり、価値があります。

何らかの有意義な事実が証明され、単なる論文の撤回で幕引きされることのないよう願っています。