無知の知

ほたるぶくろの日記

遺伝子について4

2016-10-23 12:51:26 | 生命科学

ゲノム編集について前回書きました。この技術は画期的であるとともに、生命倫理の問題を提起しています。ゲノム編集、という言葉が表すように、生物の設計図であるゲノムを書き換えることができる技術であるため、使いようによっては生物の多様性を破壊して行く危険を孕んでいます。

今はまだ、技術が未完成なため、膨大な遺伝子のある一カ所を変化させているつもりでも、実は他の場所でも変化している場合があります。とてもヒトへ応用する段階では無いようです。とはいえ、例えばある遺伝子変異による疾患の方にとっては究極の治療法であり、今後もこの技術はさらにブラッシュアップされることでしょう。

諸刃の刃は使いようなので、倫理規定を整備して、正しい運用がされるような法整備が待たれます。

その間に畜産、養魚方面で、応用が広まって行くことでしょう。

 

ところで、例のジカウイルスの件で、なにかウイルスが胎児の遺伝子に影響を与えているかのような話しを聞きました。風疹も同様ですが、妊娠中のこれらのウイルス感染で胎児遺伝子に影響を与えることはありません。

これらのウイルスは胎盤経由で胎児に入り、胎児の細胞に感染し、増殖して胎児の細胞にダメージを与えることがあるのです。遺伝子には影響をしませんが、発生途中の胎児の細胞がダメージを受けると、大人のダメージと甚大さが異なります。

風疹は以前から問題になっていました。ワクチンがありますので、お子さんをもつ予定の方は、ご夫婦でワクチン接種を確認し、していないならワクチンを接種しておくべきでしょう。

 

遺伝子とは関係ないですが、ワクチンの話しのついでに、麻疹のワクチンも是非。大人になっての感染は命に関わることがあります。是非受けておくべきと思います。


最近のヒット

2016-10-16 16:51:24 | 日記

アレルギー性の鼻炎を抱える私は朝はくしゃみ鼻水で大変なことになります。水を使い、火を使うので、湿度と温度が変わって起こるのでしょう。まあ、それでも10分もすれば治まるので、とくに対策することも無くこれまで過ごしています。一旦その状況に慣れればもう大丈夫になるところが面白いところ。鬱陶しいくらいで、それ以上の実害はありません。

ところが、寒い雨の日に電車に乗り込むと、暖かく湿った車内でくしゃみ鼻水がとまらなくなることがあり、これは困ります。会議中に部屋の空調関係の要因でそうなることもあります。これも困ります。そういうのはちょっとしたコトですが、結構なストレッサーではあります。

こんなとき、さっと止める方法があればな〜、と思っていたら、知り合いから「効く薬」があることを教えてもらいました。

コルゲンコーワの鼻炎フィルム。

内容は第一世代の抗ヒスタミン剤。眠気、喉が渇くなどの副作用はありますが、非常に良く効くらしい。雨の電車内や会議中のくしゃみ鼻水対策用お守りとして持っておいてもいいかもしれません。いざとなったらこれを使おう、何て思っていると案外何とかなる、ような気がします。

これからますます起きやすい季節なので、一度試してみようと思います。


遺伝子について3

2016-10-08 20:24:46 | 生命科学

前回「ゲノム編集」について書きましたが、すでにこの技術が「ふぐ」の品種改良に応用され、ふっくら筋肉質の「ふぐ」が作られ、育てられています。ちなみにふぐの遺伝子は全部解読されています。

ところでこれは遺伝子組換え動物なのか、という問題ですが、この筋肉質の「ふぐ」は遺伝子組み換え動物ではありません。

遺伝子組み換え生物の定義は、本来その生物種が自然界では持ち得ない他生物の遺伝子を遺伝子組み換え技術で組み込んだ生物のことです。

例えばサンマの遺伝子をもった「ふぐ」であれば、遺伝子組み換え生物です。良くあるのは除草剤耐性遺伝子を組み込んだ大豆やとうもろこし。本来の大豆やおうもろこしにはない遺伝子を持っているため、安全性を含め、詳細な検査が必要となっています。

現在のところアレルギー等の安全性試験がなされていて、一応安全である、ということになっていますが、直観的には、やはり自然界に存在しない生物を口にするのには気分のいいものではありません。

大豆にしろとうもろこしにしろ、消化によってタンパク質もアミノ酸、またはペプチドに分解されたものを吸収しているので、大きな影響があるとは思えません。ただ、自然界に存在しないアミノ酸配列のペプチドができている可能性もあります。それが強烈なアレルゲンになる可能性も無いとは言えません。

また、タンパク質をコードしていない調節領域が他生物の遺伝子で、コーディング領域は同じ生物の少し変異のあるものを使う、という場合もあります。これもタンパク質産物は同じ生物のタンパク質ではあっても他生物の遺伝子がゲノムに入っていることから遺伝子組み換え生物といえます。タンパク質としては同じなのだから問題ないか、といえば、そうではありません。

自然界には存在しないと考えられる(あるかもしれないが)遺伝子配列が、ゲノムに人為的に組み込まれているのです。その細胞がそれこそ話題のオートファジーを起すなり、あるいは食物として摂取され、ゲノムが消化されDNA断片となって吸収された場合、アレルゲンになる可能性があるのです。

多細胞生物の免疫系は複雑なので、配列だけでアレルゲンになるかどうか予想はできますが、確定はできないのです。

つまり、自然界に普通に存在しないDNA配列やタンパク質は安全性試験をパスした、といってもなお心配が残るのです。そして、現在の遺伝子組み換え生物を作成する技術は殆どの場合、ゲノムの中に外来性遺伝子断片を残すことになってしまいます。あとからCre-loxシステムなどを使って抜き取ったとしてもその後にはloxP配列がなお残ります。これもごく小さな断片ですが、これはもともと組み替え酵素に認識される配列であるため、もしかしたら必要の無い遺伝子組み換えを誘引するかもしれません。

ところが「ゲノム編集」技術とはこのような外来性遺伝子断片を残すこと無く、ゲノム上の遺伝子配列をピンポイントで変えることができる技術です。

こうなりますと、組み替え技術を用いた、とはいっても、最終的な生物は元の生物の遺伝子しかゲノムに持たないため、もはや遺伝子組み換え生物にはなりません。つまり、自然界で起こる自然突然変異体を人工的につくり出している、と言ってよいでしょう。

上で書いた筋肉質の「ふぐ」も普通にもっている二つの遺伝子が働かないように遺伝子を書き換えた、とのことです。ただし、この遺伝子を書き換えた部分が断片としてアレルゲンにならないかどうかは未知です。非常に低い確率ではありますが、理論的にはあり得ることです。

が、ともあれゲノム的には「ふぐ」です。美味しく頂けることでしょう。(続く)

 


遺伝子について2

2016-10-02 12:22:39 | 生命科学

今やゲノムの配列はヒトを始め、かなりの数の生物ゲノムの塩基配列が決定されています。ゲノムプロジェクトは現在も進行しています。科学的な設問の解決を越え、今はこのゲノム配列の応用の時代となっています。企業の参入もありますが、良くも悪くもこの成果は現実社会へ具体的な影響を及ぼしつつあります。注意深く見守って行く必要のある分野です。

遺伝子はタンパク質のアミノ酸配列をコードしている部分の他に、あるタンパク質が、何処でいつどのくらい発現するべきなのか、を決める調節領域があります。この遺伝子の発現調節機構が実は非常に重要です。アミノ酸をコードしている遺伝子があったとしても、それが必要なときに必要なだけ発現され、そして止められなくては生物のホメオスターシス、環境適応は成り立たなくなります。

例えばある遺伝疾患では特定のタンパク質が発現しなくなっていますが、必ずしもその遺伝子が壊れていたり、無くなっていたりするわけではありません。突然変異の場所を詳細に観てみるとそれは調節領域にあったりします。

すでに分かっている発現調節だけでも何種類もありますが、それでも分からないことはまだ沢山あります。

例えば話題のES細胞やiPS細胞などではかなり沢山のタンパク質のメッセンジャーRNAがだらだらと発現しています。しかしES細胞やiPS細胞はとても小さく、細胞質のほとんどない細胞です。したがって、いろいろなメッセンジャーRNAが発現し、タンパク質が作られたとしても、それらはすぐに分解されてしまうようです。そして幹細胞は増殖することに細胞のエネルギーの多くが使われています。

つまり、これらの幹細胞では遺伝子発現がかなり甘くなっている=調節されていないと考えられています。無駄なことをやっているのですね。もちろん、幹細胞性を維持するために重要なタンパク質は大量に発現されていてそれらの一つがOCT4です。このように幹細胞では発現調節が甘くなっていてもなぜ幹細胞としての個性を失わずにいられるのか。何故こんなにも発現調節が甘くなっているのか。そのこともいろいろな仮説はあるものの確定していません。

これらの幹細胞も分化するに従い、必要の無いタンパク質の発現は完全に止められ、時空間的に制御された遺伝子発現が始まります。その美しい秩序は生物を研究するものを魅了します。

ところで現在、遺伝子に関する研究は次のフェーズに入って来ています。

「ゲノム編集」という技術がほぼ確立されたためです。今年のノーベル賞候補にもすでに名前が挙がっているくらいの革新的な技術です。この技術はかなり諸刃の刃ではあるものの、その実用性の高さから広く応用されることはまちがいないでしょう。それは動物、特に畜産関係から医療分野まで幅広いものです。(続く)