無知の知

ほたるぶくろの日記

若返りと幼若化の違い

2014-02-24 23:52:28 | 生命科学

先日ひ~さんと真客さんの会話に興味深いやり取りを見つけました。

--------(引用始め)---------------

すべては追試で明らかになるでしょう。

追試ごと捏造ってことは あまりないだろうし。

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1)あと、このことを「細胞の若返り」みたいに捉えている声があるようだけど、

個人的には 違うような感じがしている。

細胞の材齢は べつに変わっておらず、そこに格納されていた記憶だけがリセットされたようなもの。

嘗て、羊の「ドリー」(体細胞クローン)は、生まれながらにして、細胞的には年を取っていた。

PCの 再セットアップも そうやね。

 

仮に、この技術が真正であったとして、

これを実際に応用して体のスペアパーツを作ったとする。 当然、元の細胞の主専用のパーツだ。

だとすると、パーツだけが若返る必要はなく、元の体と同じ程度の材齢で いいことにならないか?

むしろ そのほうが よほど自然だと思うが。 

2)リンパ細胞を酸性、培養、万能細胞、のことらしいが

年齢はテロメアとか言う尻尾が短くなるのか?

--------(引用終わり)----------------------------------------- 

この意見、なかなか面白い論点なので、ここに引用させて頂き私の意見を述べたいとおもいます。

1)について

このご意見大変に正しいものです。「細胞の若返り」とは誤解を生む表現です。先日私が使った用語は「幼若化」というものでしたが、これは「若返り」とは異なります。細胞の性質が未分化の細胞に近くなっている、ということであって、細胞自体が「若く」なったということではありません。それでは細胞が老化する、とはどういうことなのでしょうか?実はこれは生物学的にまだきちんと定義されていないのです。いろいろなマーカー(ある状態を定義できるタンパクや糖鎖やその変化)が取りざたされてきましたが、一番確かなのはDNAの小さな傷です。酸化やストレスによって細胞が老化して行くと修復されずに残って行くDNAの傷がだんだん増えて行きます。今のところこれが一番確かなマーカーでしょう。

2)のテロメアですが、老化するに従って短くなるのですが、細胞が幼若化したりがん化したりしますとテロメレース(酵素)の発現が高まり、テロメアは長くなります。従って、テロメアはいわゆる分裂回数のカウンターにはなっていません。iPS細胞やSTAP細胞は確かに初めの細胞の年齢をDNAに刻んだまま、幹細胞化しています。それが私にはとても危険なことに思えます。がん化の本体はDNAの傷です。ある程度老化した、DNAに傷を持った細胞が幼若化する、とはがん化の第一歩とも言えなくはない。それゆえ、これらの細胞を治療に使うためには細心の注意が必要でしょう。細胞の品質管理をどうするのか。そこが納得のいくものにならない限り、安全な治療にはならないでしょう。

いくら投資したから使えるものにしなくてはいけない、という考え方の芽生えないよう見守って行きたいと思います。

 

 


米国で感じたこと

2014-02-17 07:00:05 | 日記

先週から出張で米国にいます。今日はもう帰国しますが、滞在の最後に感じたことを書いてみます。前回米国へ来たのは大分前で、ほとんど10年くらい前のことです。西海岸と中部の都市を訪ねました。食事が今一つだったこと、こちらの人のおおざっぱさ、ちょっとした嫌がらせなどがあったりして、米国のイメージは私の中でますます悪くなっていました。その前に訪ねた時と変わらないな~と思っただけでした。

今回は仕事での訪問で、今まで訪ねたことのない都市でした。どちらかというと街で見かける方は黒人のほうが多い街で、ホテルのフロントもしかり。彼らはとても礼儀正しく、親切な応対でした。この都市は米国の中では大都市です。そこでのこんな経験は私の中で何かを変えてくれたように思います。もちろん白人の方も親切でした。

なんとなく思い浮かぶのは、日本が世界に向けて何をできるのか?どう貢献できるのか?を米国は注視しているように思います。どんなにすごいかをアピールするのではなく、この世界にどんな貢献をできるのかをアピールすることが、日本と米国の関係、韓国との問題も含め、沈静化の方向へ向けることになるのではないかと思います。

自分とこはすごいんだぞ~、という時代をそろそろやめたいですね。

 


冷静な対応をするために

2014-02-16 05:20:12 | 日記

勘違い、思い違い。自分の思考が、心中で作り上げた幻想に縛られていること。私もよくそんな自分の幻想で失敗をします。年を取ってよかったと思うのは、一歩引いた視点を持つ余裕ができたことかもしれません。すると、大したことではないことがほとんど。そうっとしておけば過ぎていくのに、自分から風波を立てて状況を悪くしているようです。

「あの人にこういう風に思われているかもしれない」などと考えても仕方のないことです。

大抵の場合はあいまいな事柄が多く、その通りかもしれないし、そうではないかもしれない。自分では否定したいと思っていることでも、受け入れなくてはいけない現実の場合もあります。何にしても周りにとって許容範囲を超える事態になればなにか状況は変わるでしょう。良くも悪くも。それまではそっとしておくのが一番です。

そうではなく、真実を捻じ曲げられて勘違いされている場合もあるでしょう。自分に不利益が生じるかもしれない。その恐れから、やたらにそんなはずはない、と激高すると、これまた逆効果の場合が多いです。変な話ですが、自分が正しいのに、それが正しいとわかってもすっきりとしない状況が作り出されます。この場合、大変難しいことですが、「冷静に真実を伝えること」が最良なのではと思います。

いじめの問題は子供の社会の問題ではなく、社会全体の問題であることはもう明らかでしょう。大人は現在の世間がひどい状況であることを知っています。子供の社会のことを議論しないで、目の前のひどい状況を変える努力が重要でしょう。とりあえず極悪人以外のすべての人間を大事に思うことから始めようかと思います。

自分へ何らかの反発を示したり、嫌がらせをする人も。何かが気に食わないのでしょうが、こちらも決定的に悪いことをしていないのであれば、そっとしておく他はないでしょう。あまりその人の視界に入らないよう、行動範囲を変えるだけです。もっとも重要で、難しく、しかし絶対にやらなくてはいけないのは、ひとたび嫌がらせの程度が犯罪になりそうな場合、「断固とした抗議」をすることです。きっぱりと、潔く、しっかりとした「抗議」をすること。これができれば物事は自然に流れていくと思います。勇気を持つことです。

そういう気持ちになるためには、どこかで自分をリラックスさせることも重要です。そうして脳の中の恐れの中枢の働きを抑制することです。この方法についていろいろ考えるのですが、ご先祖様のことを思うこともとても効果的です。ひとりじゃない、という気持ちは余裕をもたらしてくれます。そして気持ちの余裕は大きな気の流れをつくりだします。


H1N1インフルエンザ

2014-02-04 07:32:19 | 生命科学

インフルエンザの流行が本格化しています。H1N1型のウイルスも多くなっているという報道もありました。これは2009年に大流行した「豚インフルエンザ」、また1918-19年に流行した「スペイン風邪」と同じです。日本での致死率、重症化率は通常のインフルエンザと同様と結論されていますが、意識障害がでたり症状の重くなる場合もあり要注意です。熱などの最初の症状がでて48時間に重症化する場合がほとんどですから、眼を離さないのが重要だと思います。

鳥インフルエンザほど恐れる必要はありませんが、豚のあいだで流行っていたウイルスが人に感染するようになって大流行(パンデミック)したもので、季節性インフルエンザよりも重症化の危険は高いと思います。今年は急な発熱や頭痛などがあったらすぐに受診して検査し、抗ウイルス薬を投与してもらうの方が安心できます。また5歳から9歳では脳症をおこす可能性が多いので、発症から48時間は目を離さず様子を見ている方がよいようです。

現在のインフルエンザワクチンは通常の季節性インフルエンザとこのH1N1に対するワクチンも含む3価がほとんどだということです。現在のインフルエンザワクチンは少なくともこのH1N1ウイルスに対しての効果は期待できます。今からでも接種することは意味があると思います。


幹細胞化の発見

2014-02-01 12:55:03 | 生命科学

iPS細胞作成の成功から一気にSTAP細胞作成へと生命科学、とくに幹細胞研究の大きな進展がありました。今回の発見は多くの幹細胞研究者が一度は夢見ていた、あるいは心に抱いた現象だったのではないでしょうか。しかし、これまでの長い生命科学の研究の歴史を一気に書き換えるものであり、「そんなことはありえない」との「常識」に阻まれ、発見には長い年月がかかりました。

今回の快挙にまずは賞賛を送りたいと思います。発見者の小保方さんだけではなく、彼女をフォローした若山さん、笹井さんも本当に立派だと思います。それもこれもカドヘリンの発見者である、竹市雅俊先生が率いる理研再生・発生科学総合研究センターであったからこそ、成し遂げられた仕事だと思います。

さて、私が今回の発見で何をそんなに興奮しているか、といいますと、これは再生・発生科学のみならず、がん研究への大きな影響を確信するからです。細胞のがん化とはなにか、がん幹細胞とはなにか、といいますと結局は細胞の幼弱化といえます。受精卵から始まり、万能細胞は多細胞生物の身体を構成するべく幾度もの分化をへて、それぞれの組織の特殊な細胞になって行きます。

がん細胞はその分化の最終段階にある細胞が突然先祖帰りしたようになり、分化の圧力をはねのけ、増殖浸潤する性質を獲得した細胞です。制御不能の分化増殖過程では染色体分配、遺伝子変異チェックなどの機能も失われさらに制御不能の性質が進化し、「悪性度の高いがん細胞」となっていきます。

がん細胞の誕生とはまさしく今回のストレスによる分化細胞の幹細胞化、ともいえるのです。これからそのメカニズムの詳細の研究が進むことによって、分化の本質、がん細胞制御の技術が生まれてくることを予想します。本当に楽しみな状況になってきました。