無知の知

ほたるぶくろの日記

STAP騒動の終焉

2015-09-27 08:35:37 | 生命科学

今回Natureに論文が出されたことで、STAP騒動には科学界的に一区切りつきました。しかし社会学的には問題が山積みではあります。その一つに科学雑誌の責任問題があると考えます。

今回の論文のひとつには発表された実験方法でSTAP現象はまったく起きなかったことが書かれています。

「簡単に」STAP現象は起こる、というのが売りだったのに。

もう一つの論文ではSTAP細胞とされたものは、全てこれまでに理研に存在したES細胞であったこと、が明らかにされています。

どちらもこれまですでにあちこちから公表されてきたことなので、驚くべきことではありませんが、Nature誌が自分でおとしまえをつけた、ということでしょうか。それならば、Nature誌はこれらの論文を無料で公開するべきです。自分たちが火をつけ、この騒動の種を蒔いたのです。

この騒動の中で、唯一非難を免れているのがNature誌の責任です。有名な科学雑誌として権威を誇ってきた雑誌であったからこそ、今回のこの騒動は勃発し、人が亡くなったのです。件の論文原稿のピアレビューアー(査読者)は事件勃発後指摘された問題点をレビューの段階ですでに明確に指摘していました。それなのに掲載が決まったのです。この経緯についてNatureは精査したのでしょうか?

私はこのNature誌の責任も明らかにされるべきと考えます。科学界、科学成果の評価が論文分析の結果などで評価される昨今、科学雑誌に掲載されるかどうかは科学者の命運を分ける大問題なのです。論文の投稿から掲載に至る一連のプロシージャーに疑義がもたれるとすれば、科学成果の評価に論文分析を用いるなど言語道断ということになります。Nature誌は今回の論文掲載で自分たちの使命を果たしたと考えているなら、それは大きな間違いです。

 


誤解を生みそうな記事

2015-09-19 18:20:10 | 生命科学

先日ニュースのサイトを見ていますととんでもない見出しが眼に入ってきました。下記のようなものです。

『妊娠前からの糖尿病、胎児遺伝子に影響か…九大』

微妙な表現です。「胎児遺伝子に影響」の部分ですが、これは一体どういう意味?本文を見てみますと

「九州大の目野主税(ちから)教授(発生生物学)らの研究グループは、妊娠前からの糖尿病によって胎児に生まれつきの心臓病が生じる仕組みを解明したと発表した。

8日付の米科学アカデミー紀要(電子版)に掲載された。妊娠前から糖尿病があると、胎児に心臓などの先天異常のリスクが高まることが知られているが、その仕組みは分かっていない。

 グループは糖尿病のモデルマウスを使って実験。妊娠初期に、心臓や消化管の元になる細胞が左右逆に形成されるなどの異常が見られ、正常な臓器を形成するために働く遺伝子が消失していることがわかった。

 目野教授は「妊娠初期に一時的でも血糖値が高くなると、内臓の形成に影響を及ぼす高い可能性が示唆された。妊娠前からの血糖値の管理が先天異常の予防に重要なことが改めて示された」と説明している。

20150914 1312Copyright © The Yomiuri Shimbun」

ますますびっくりしました。これは明らかに書き間違いでしょう。

「正常な臓器を形成するために働く遺伝子が消失していることがわかった。」

の部分ですが、これは正確には

「正常な臓器を形成するために働く遺伝子の発現が消失していることがわかった。」

です。遺伝子が消失してしまったら、大変なことです。母体の状況が胎児の遺伝子(DNA配列)を欠損させてしまうことになるからです。絶対無いとは言いませんが、まずあり得ないでしょう。

元の論文にあたってから突っ込もうと思っていたのですが、今なにかと忙しいのでとりあえず突っ込んでおくことにしました。

ともかく、別に目野先生の成果にはいささかの瑕疵もありません。立派なものです。件の遺伝子とはLeftyでしょうか。妊娠初期の血糖値管理が胎児の内臓形成に影響があることを立証されたのです。これからは妊婦さんの健診には血糖値も加わることになるでしょう。