さぶりんブログ

音楽が大好きなさぶりんが、自作イラストや怪しい楽器、本や映画の感想、花と電車の追っかけ記録などをランダムに載せています。

【読書録】馬・車輪・言語(上)

2020-06-12 18:50:32 | 読書録

デイヴィッド・W. アンソニー 著・東郷 えりか 訳/筑摩書房

最近の私は、だいたい7冊ぐらいを同時並行で読んでおり、読みづらい本と読みやすい本を組み合わせている。その読みづらい本の筆頭がこれで、何か月かかったのかな~。それでもやっと上巻を読み終わっただけ。

この本の存在を知ったのは、元同僚からの電話だ。仕事上の関連部署にいたのだが、仕事の用事が終わった後も電話が終わらない。忙しいはずなのに。「最近、僕、面白い本読みましたよ~」で熱く語ったのがこの本のこと。世界で30億人が使う印欧語の原郷を、車や馬などを表す痕跡から探っていき、さらにどのように拡散したかを探った研究成果を発表している本だ。英語・イタリア語・ドイツ語・フランス語を学習と称して聞き流している私としては、飛びつかないわけにいかない内容だった。マニアックな奴だから、彼の部署に、この本の話題に飛びついてくる人がいなかったのかもしれない。

ただ仕事も忙しかったので、実際にその本を買ったのは、半年以上たってからだった。さっそく読みだしたが、とても読みづらいのには閉口した。そもそも有史以前のヨーロッパの考古学に疎いので、クリシュ文化だの、ドニエプル=ドネツ文化だの、スレドニー・ストク文化だの、ククテニ=トリポリエ文化だの、聞きなれない文化名が無数に出て来るのになかなかついて行けない。細かい所は適度に読み飛ばしながら進んだが、時代も色々前後するため、年表があったらもう少しわかりやすかったのではないかと思う。余白に色々とメモりながら、何とか上巻を読み終えることが出来た。

著者はインド・ヨーロッパ語族の起源と拡散を、言語学と考古学の両方のアプローチで研究した。これ自体が画期的なことで、ご多分に漏れず、この両学問の間には大きな壁があるので、通常はどちらかのアプローチしかなされないのだ。

著者は車輪や羊毛などを表す痕跡を探り、印欧祖語と言われるものが、広く考えれば紀元前4500年頃から紀元前2500年頃まで、狭く考えれば紀元前3500年頃から紀元前2500年頃まで話されていた言語であり、1500以上の語彙を復元している。またその印欧祖語が話されていた原郷をポントス・カスピ海ステップ(黒海とカスピ海の北にある草原地域・今日のウクライナとロシア南部に相当)に求める。

印欧祖語を話していた人たちは、狩猟採集から牧畜に移行しており、牛や羊に加え、馬の家畜化にも成功、ハミ痕の分析から乗馬もできる人達だったと考えられる。そして彼らには首長という、明らかに富と力を持ったリーダーが存在していた。日本だと稲作が、各地を統括する首長を誕生を促したとされるが、ヨーロッパだとそれが牧畜に当たるのね。もう一つ日本にはあまり見られない特徴として、気候変動による移動というのが大陸にはある。紀元前4200年~4000年あたりのヨーロッパは気候変動で寒さが厳しくなり、ドナウ川下流域の多くの集落が焼かれて放棄されたという。逆に印欧祖語の話し手であるステップの牧畜民は古ヨーロッパの崩壊に乗じてドナウ川下流域に広がったのだと考えられるそうだ。さらにその流れは前3000年頃のアナトリア半島への移住にもつながっているんだね。

この本を読みながら漫然と私の脳裏によみがえってきたのは、シュトゥットガルトの博物館で見た発掘品群である。正直、旧石器時代の遺物は日本のものと大差ない。見学しながらここがドイツだということを忘れるほどであった。だが土器が作られ始め、日本のものとはずいぶん違う模様で、なかなかいいじゃないか・・などと思っているうちに、青銅器が出てきて、あきらかに異国感が増大するのであった。そうか、この違いは牧畜か・・などと今になってうなづくのであった。

人骨の窒素含有率を分析すれば、動物性たんぱく質を何から得ていた(ex.50%以上が魚である等)か分かるんだそうだ。これと出土する骨の分析から、牛・羊・ヤギ・馬などの割合もわかる。馬も最初は食糧の一つに過ぎなかったようだね。馬は特に冬季に手がかからないとか。牛と羊は鼻で雪を押しやるため軟らかい雪の下の草しか食べられないが、馬は固い蹄を使って固くなった雪を割るため、凍った雪の下の草を食べることができる。

ただ馬は従順でないため、家畜化は牛や羊より難しかったようだ。そして馬に乗るためには、口にハミという棒状のものを噛ませて、そこに手綱を結ぶ必要があるが、家畜として騎乗されていた馬の歯には摩耗痕(ハミ痕)があるはずだと、著者らはこれを研究して回るのであるが、そこらへんを解説した第10章が非常にスリリングである。

本題と少し外れるが、私の心を射抜いた箇所がある。それは青銅に関する記述。そういえば小学校4年生で歴史を習い始めた時に、土器の次に青銅器がくることについて感じた素朴な疑問・・何故いきなり合金なの・・・というもう忘れていた疑問の回答をいきなり与えられた。そもそも銅鉱石を採ろうとするといっしょに採れる金属があり、そこから合金が生まれたのだろうという話だ。ヨーロッパのこの地域の最古の青銅は錫ではなく砒素との合金だという。銅珪岩の鉱床で、銅鉱石に硫砒鉄鉱がよく一緒になっているとう。ただ自然界では砒素が銅鉱石の1%を上回って含有していることはめったになく、砒素の含有率が2~8%まで上がれば出来上がった金属は純粋な銅よりも色が薄くなり、冷やせばより硬くなり、溶かせば粘性が下がり鋳造しやすくなることを古代の金細工師が発見したのだろうと。錫青銅は錫の鉱床が見つかったのちの時代に登場し、砒素青銅よりもさらに硬く、作業しやすかったので、砒素にとってかわったのだという。歴史の授業では全然そういうことを習わなかったな。これまた史学と地学の境目の話だからかな。

さて、下巻をあと何か月で読み終えることができるかどうかは・・・おたのしみ。

 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【読書録】かばん屋の相続 | トップ | 金曜ロードSHOW!『バック・... »
最新の画像もっと見る

読書録」カテゴリの最新記事