上念司/飛鳥新社
今までこのシリーズを読んできて、回を重ねるごとに、教科書で習ってきたことと乖離してきた。
例えば新井白石。小さい頃から偉人として教わってきた人なので、新井白石による改革「正徳の治」を学校で教わった時、いかにうまくいかなかったといっても、偉い人がやった改革なのだからと、色眼鏡で見ていた。
だが白石のやった貨幣の質をよくする改鋳というのは、デフレ政策であり、経済政策としては失敗だったと、この本を読んであらためて認識した。松平定信や水野忠邦による贅沢を禁じた緊縮財政も然りである。
一方、江戸時代の初期の頃、徳川三代が金を各地にばらまいたことが、江戸時代260年の礎を築いたのであった。しかし残念なことに、金の埋蔵量は三代で枯渇してしまった。その後、筆者が強調する「モノとお金のバランス」という意味で、経済政策を成功させたのは
・「元禄高度成長」の立役者で勘定奉行だった荻原重秀・・・金の含有量を減らした「元禄小判」を作り、幕府に500万両もの財政黒字をもたらした。
・徳川吉宗を改心させ享保の改革を成功させた大岡忠相・・大岡忠相の進言を受け入れて、吉宗は金銀の含有量を半分に落とした「元文の改鋳」を実施し、100万両もの通貨発行益を幕府にもたらし、米価も上がり、財政にゆとりをもたらした。
・田沼意次・・「元文の改鋳」路線を継続。自由な商売を奨励し、公共事業によって干拓や道路整備を進めた。
・化政文化の原動力となった経済成長を成し遂げた老中・水野忠成・・「文政の改鋳(やはり質を悪くする方の改鋳)」により江戸に空前の好況。
だとする。田沼については近年名誉回復著しいが、小学校で初めて習った日本史では、「田沼=汚職・悪」という図式が濃厚で、ずっとそのイメージがついて回った。「元禄文化」や「化政文化」が栄えてたのは知ってたけど、萩原重秀や水野忠成なんて知らなかったもん!
あと、薩摩や長州がどうやって借金まみれの藩財政から立ち直ったかっていう話も面白かったな。要するに今でいう会社分割をやり「グッドカンパニー」と「バッドカンパニー」に分け、「バッドカンパニー(藩の公的なお財布)」は民事再生法の適用を申請するなりして、借金をリスケしたりそのまま踏み倒して倒産させたりし、グッドカンパニー(藩主個人の財布)の方で殖産興業をやったという話だ。
経済は身体であり、政治は衣服。民間の底力によって身体は大きくなり、幕藩体制という政治に収まりきらなくなったので、衣服を着替える必要が出てきたのだ・・という比喩も面白い。幕藩体制は民間の力を活用できなかったのだ。