(【読書録】歴史のミステリー7)
この第7号の表紙を飾る南北戦争。「歴史検証ファイル 南北戦争は奴隷解放のための戦いだったのか?」というタイトルは極めて陳腐だと思う。何故なら、日本人でもこの戦争が奴隷解放のための戦いだと信じている人はほとんどいないのでは?
じゃぁ、何故それについて今日は書くのかって・・・? そりゃぁ、書きたいことがいっぱいあるからさ・・、って気の向くままに書いてると、昨日みたいなとりとめもないことになるので、ほどほどにする。
30年前に見たアメリカの高校の「アメリカ史」の教科書。今はどうか知らないが当時のアメリカの高校の教科書は自分の持ち物ではなく、1年経ったら学校に返すのだ。その代わりハードカバーで、電話帳のように分厚くて、歴史上のシーンを描いた油絵がいっぱい(地に墜ちた南部連合軍の旗を土気色の暗い顔で拾い上げる南部の兵士の絵がいまだに忘れられないよ)。アメリカ史は、取り扱っている期間が短いだけに、大統領一代一代の時に起こった出来事をかなり詳しく学ぶのだ。そしてその分厚い教科書がかなりの紙数を割いて説明していたのがCivil War だ。
何の下知識もなくその教科書を見た私はcivil warだから内戦か・・・と思いながらページをめくり、数十秒後だか数分後だったか、蛍光灯のように鈍くひらめいた・・・あ、そうかアメリカの内戦でこんなに扱いが大きいなら南北戦争のことか。だから敢えて大文字で書き始めるのか。アメリカではthe South‐North Warなんて言わないんだな・・・とその時初めて知ったのだった。
さて、話を歴史ミステリーに戻すと、このCivil Warという呼び方、北部側の言い方だったみたいだね。北部はこの戦争を「内戦」と呼び、南部は「南部独立戦争」と呼んだのだ。
戦争の理由が奴隷解放ではないとして、じゃぁ何だったのかというと、昔習った「保護貿易を求める北部 vs. 自由貿易を求める南部」の図式が浮かんでくるが、じゃぁ何故リンカーンが「奴隷解放」を旗印にしたのかというと、自分の中で曖昧になっていた。そこは歴史ミステリーの書き方は明快である。リンカーンの第一目的は、自分の大統領就任式の前に離脱した南部諸州を呼び戻すことだったのだ。
アメリカが二分されれば国力は弱まり、完全に分裂してしまったら再統一は難しくなる。南部はプランターの豊富な資金をバックボーンに勢力を拡大し、北部の力は相対的に落ちるだろう。リンカーンは当初は南部を呼び戻すためだったら、奴隷継続もやむをえないと洩らすほど、妥協しようとしていた。でも結局その妥協には南部が載ってこなかったことから、逆に奴隷解放に舵を切った。その狙いは、南部を援助しようとしていたイギリスやフランスを黙らせることにあった・・・・と本誌は書いている。これには納得感があるな。「奴隷制に対する戦い」という大義名分は、国際的にはアピールするからな・・・・なるほど。
で、本誌を読んでいて、最後の最後にギョッとしたことがある。「南北戦争でアメリカが得たもの」として、工業の飛躍的な発展が挙げられる一方、この戦争が「アメリカの戦争論理を確立させた戦争だった」という一文に目が留まった。
保護関税政策などで南部を追い込んだ北部が、敵の先制攻撃によって総攻撃を開始したこと。・・うんうん、どっかで聞いたような話だよね。こちらからは仕掛けず、相手の武力行使を待って「自由と民主主義を守るため」に反撃する。このような場合、議会の承認を得るまでもなく、大統領権限による武力行使が可能となるのだ。確かに太平洋戦争もそうだったし、ごく近年でもそんなやり方をしてますね。
・・・・・・・・・・
この「アメリカの戦い方の確立」が副産物1だとして、副産物2は「歴史ミステリー」から離れてウィキペディアの中に見つけた。南北戦争で使われた中古小銃類が大量に日本に輸入され、戊辰戦争の武力として使われたそうだ。アメリカ南北戦争を単なるアメリカ国内の内戦だと考えてしまうと、色々見落とすことが多いことに、あらためて気づいた。