叫びたし

某氏からいただいた賀状に「渡る世間は酒ばかり……やる気ないぜ」とあり、アホかこいつはと笑ってしまった。しかし小生もやる気はないね。ところが我々として、やる気のなさを売りにするつもりはない。やる気を出したいのだけれど、それが出てこないから仕方なく酒を飲み、くだを巻いているだけだ。おかげで、これまでひとさまにはさんざん迷惑をかけてしまった。
某氏の場合はさておき、小生の場合、やる気がわかない原因は単純である。お金がないからだ。正月早々、今月をしのぐ展望が見えない。この状態でやる気のわくやつがいたら、ツメの垢でもいただきたいものである。黒字決算の会社が売掛金も払ってくれないんじゃ、打つ手もないなあ。困ったものだ。どうしようかなあ→策はない→酒を飲む→やる気はなくなる、という心理的には正しいスパイラルに陥っている。おかげで、最近は眠れない。
ちなみに、某氏の場合のやる気のなさは別の要因による。天皇陛下から気×がい３級の手帳をもらい（間違っていたら、ごめん）、「早く１級になるように」とのありがたいお言葉を陛下から直々にいただいているからだ。したがって、常に「やる気がない」と唱え続けないと、陛下に顔向けできなくなってしまったためである（すべてうそ）。
某氏の場合はともかく、金欠ストレスは労働意欲を低下させ、さらに無意味な苛立ちだけを昂進させる作用がある。ある冤罪事件で処刑された死刑囚のかたが、最期に「叫びたし、寒満月の割れるほど」の句を遺して逝かれた。その、言葉にならないまでの悲痛ほど叫びたいわけじゃないのだけれど、こちらも「叫びたし、早くニッポンくたばれと」ぐらいの気分である。
年末のある日、某所でそういう気分を小生が表明したら、Ｙさんに「だったら、アベを支持しなきゃダメじゃない」と言われた。「エッ、どうしてですか？」と聞き返すと、「だって、アベがいま日本をドンドン壊しているんだから、『日本死ね！』と思う人はそれを体現しているアベを支持すべきでしょ」とおっしゃる。最初は意味がよく飲み込めなかったけれど、しばらくしてようやくストンと腑に落ちた。同時にＹさんの皮肉におかしみを覚えてしまった。なるほどねえ、なかなかうまいロジックだ。
やる気のなさもあいまってまったく進んでいない某作業をなんとかしなければならない、というプレッシャーだけはある。そこで某日曜日、その元原稿を最初から読み直してみることにした。天気予報では昼過ぎから雨が降るとのご宣託だ。ところがかさを持たずに昼前に家を出て、近くのドトールに入って１章分を読む。
それから池袋に向けて歩いてみる。ああだ、こうだと考えながら歩いているうちに、カレーを作りたくなってきた。また別のドトールがあったので、そこに入って次の１章分を読む。読み終えてから再び外に出て、池袋界隈を特にあてもなく歩いていく。すると、池袋駅西口の広場に白地に丸い赤が描かれたヘンな旗が何本も翻っていて、拡声器からなにやらワーワー喚いているのが聞こえてくる。
なんじゃらほいとのぞいてみたら、どこかのアホが数人、ヘイトスピーチをしているようだ。それに対してカウンターも出動していて、ヘイトの側に反対の抗議活動をしている。両者ともに警察の引いた仕切り線の枠内で言い合いをしていて、近くに数名の警察官が立っていて暴力沙汰にならないようにしている。
そこで、ヘイトの連中が何を問題にしたいのかなあという好奇心で、ヘイトの側の話を聞こうと思った。ここで誤解のないようにしておきたいが、小生は当然ながら反ヘイトである。したがって、反ヘイトの主張というものは、おそらくは小生の想像の域を出ないことだろう。そこで、いまさら感があるとはいえ、2017年正月の現在、ヘイトはなにをどのようにヘイトしたいのかを聞こうかと思ったわけである。
ところが残念ながら、カウンター側の声に圧せられて、ヘイトが何を罵っているのかあまり聞こえてこないし、プラカードもよく見えない。しかし、ヘイトの側が何台もビデオカメラを設置しているのが気になった。おそらくは、そこで撮った映像を、YouTubeあたりにアップするつもりなのだろう。なんだか情けない連中だなあというのが、小生の正直な第一感である。要するに、彼らは右翼ではないのだ。守るべきは天皇陛下と日本民族であるという、従来の右翼の大義など、もはやどうでもいいのだろう。守るべきは個々人の利益であり、それを阻害する連中が気に入らないというだけじゃないのかという認識である。
ヘイトとカウンターがワーワーやっている現場に遭遇して、小生はそのように理解してしまったのだけれど、その理解は一般化できるものなのだろうか。そして、もし一般化できるのだとすれば、ヘイトの矛先はどこかの弱者ではなく、経団連なり自民党に向けるべきだろう。若い人が生きにくい状況を作っているのはアベとその一派なのだから、ヘイトは大手町と永田町でやるべきである。