風塵社的業務日誌

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金沢へ(6)

2018年10月31日 | 出版
北条実時という人物をそれまで知らなかったけれど、金沢流の初代ということだ。政治家としてはともかく、蔵書などを元に図書館を造ろうとしたのだからなかなかの教養人だったのだろう。それとも、鎌倉幕府として京都の公家文化に対抗する必要があったのだろうか。こうした設立の趣旨を知るわけもないので、それは今後の研究課題としておこう。ただし、中世史にそれほどの関心があるのでもないので、今後の研究なるものがいつになるのかは定かではない。
こうして、池をぐるりと回ってようやく称名寺の本堂の前まで来た。池と本堂の間には鐘楼もある。鐘楼には登れそうなので、ついでに鐘を敲いてみようかとも思うが、ボランティアガイドのおじさんたちに怒られそうなのでやめておく。本堂の入り口は少ししか開いてなく、ご本尊の姿はよく見えない。その右側に「南無遍照金剛」と台座に掘られた空海の石像(だったかなあ?)があり、真言宗のお寺であることを理解する。鎌倉時代の真言宗といえば、たしか立川流が全盛だったのではなかったか。
網野善彦著『異形の王権』(平凡社)では、後醍醐と立川流のつながりを解明していて面白かったという記憶が残っている。ただし、残っているのは面白かったという部分のみであって、その内容ではない。なんだったかなぁ、絵巻物をどのように分析するかという話だったかなあ。忘れちゃった。しかし、後醍醐がおのれのパワーの源泉にしようとした立川流を、鎌倉幕府側も取り入れようとしていたとしたら、なかなか面白い話ではないか。『異形の王権』にそこまでの話はなかったと思うけれど、当時、時代を席巻していた密教パワーに権力者どもが現世利益を求めていたなんて、くだらない伝奇小説以上の展開だろう。
ここで確認しておきたいが、称名寺が真言宗の寺であるからといって立川流の寺院であるかどうかを小生は知らない。そうではなく、なぜかは知らねど、セックスにパワーを求めたと俗にいわれている真言密教の立川流が鎌倉時代に流行したことは歴史的事実である。そして、後醍醐もその信奉者であった。それならば、鎌倉幕府側にその信者がいても不思議ではない。したがって、カルトどもの争いを記したのが『太平記』の世界であったと想像してみたら、そこらへんの創作作品よりもずっと面白いではないかと述べているわけである。
藤原家のどれかといっても多数あって何家なのかを忘れてしまったけれど、結構有名な家系が篤い信仰を寄せていた秘仏が、象の頭をした男女が交合しているものであったとなにかの本に記されていたけれど、それがどの本だったかを思い出せない。エレファントマン&ウーマンのセックスしている姿が秘仏だったということであるけれど、そもそもが当時の人が象を見たことがあったのかは知らない。藤原道長の健康法が女官と交わうも接して漏らさずであったと、これまたなにかで読んだことがあったけれど、出典は忘れてしまった。肝心の出典が不明なので、どうしてもいい加減な記述にならざるをえないが、古代なり中世なり、そして現代においても、セックスの快楽に非日常性を覚え、そこに神性を求めようとするのはよくある現象なのだろう。
嗚呼、いかん、鎌倉人の心性に寄り添ってみようなどという思考実験をしているがため、ドンドン本筋から離れていく。そもそものところで、小生は立川流をしっかり理解しているわけでもないし、『太平記』を読みこなしているわけでもない。そういう人間が鎌倉時代のお寺を前にして勝手な想像をめぐらしてみても、そこで実像に斬りこめることはできない。しかし、鎌倉時代に人々はここでどういう生活を営んでいたのだろうと夢想してみるのは、少し楽しい。といって、冒頭に述べたように、じゃあその研究を本気でしたいのかといわれるとどうなんだろうか。
こうして境内で見るべきものと見つと満足したところで、ガイドさんに教えてもらった裏山へと妻と向かうことになる。空海像の脇に奥へと向かう道が続いている。そこに入ってみると草っぱらが広がり、向こうに望遠レンズをかまえている3名の中年男女の姿がある。野鳥の撮影でもしているのだろうか。小生には写真の趣味がないので、一瞬を切り取るという醍醐味がよくわからない。しかし、なにやら楽しげな雰囲気を醸し出しているから、それでいいではないか。
鎌倉の建長寺も裏山に登れる。昔、某女と歩いてみたことがあった。初めて行ってみて、その散策者の多さにまずはびっくり。そのうえ距離もあるし、起伏に富んだなかなかハードなコースなのだ。「ここからちょっと登れば山頂だってさ」くらいのナメた感じで某女と歩いてみたのだけれど、こんなはずじゃと思っているうちに鎌倉市内のわけのわからないところに出てしまった。某女のご機嫌はななめになっていく。これは困ったなあと思案に暮れていたところに市内バスが通りかかったんだっけな。それに乗って中心街に出て、ようやく電車で帰路につくことができたのかもしれない。それとも、超人を目指すべく立川流を試みたのかもしれない。それすらも忘れてしまった。

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