透明タペストリー

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「人間そっくり」を読む

2024-03-09 | A 読書日記


朝カフェ読書@スタバ 2024.03.07

安部公房の『人間そっくり』(新潮文庫1976年4月30日発行、1993年2月15日28刷)を読んだ。1924年(大正13年)生まれの 安部公房、今年は生誕100年。安部公房の作品を何編か再読しようと思う。

『他人の顔』は他者との関係において、自己を自己たらしめる「顔」を失ってしまうとどういうことになるのか、という思考実験的な小説だ。思弁的で、一般的な(よく読むような)小説とはだいぶ様子が違っていたが、安部公房らしい作品と言えるのかもしれない。

『人間そっくり』を読み始めて間もなく(4頁目)**たとえば、あなただって ―― もし、本物の《人間》であるかどうかの、物的証拠を求められたとしたら・・・・・おそらく、腹を立てるか、一笑に付してしまうにちがいあるまい。そもそも、人間が人間であるということは、平行線の公理と同様、証明以前の約束事なのだ。公理というやつは、定理とちがって、もともと証明不可能だからこそ公理なのである。**(9頁)という文章がでてくる。

主人公はラジオ番組の脚本家で某ラジオ局の帯番組《こんにちは火星人》の脚本構成を担当している。ある日、主人公の自宅に一人の男が訪ねてくる。その男は言う**「じつを言うと、ぼく、普通の人間じゃないんです。火星人なんですよ。」**(31頁) 主人公は次第に男の弁舌に翻弄されていく・・・。

この小説は「私は人間である」という証明不可能なことにどのように対処していくのか、という問題に取り組んだ作品。ほぼ主人公と火星人だと自称する男の会話だけで構成されている。

**「君は人間?・・・・・それとも、火星人?」**(160頁)

ラストが印象的。


手元にある安部公房の作品リスト(新潮文庫22冊 文庫発行順 戯曲作品は手元にない 2024年3月以降に再読した作品を赤色表示する)
月に2、3冊のペースで読んでいけば年内に一通り読むことができる。

『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月

『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*

『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月

『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月*

『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月

※既に絶版になっている作品もあるようだ。
昨日(7日)買い求めた『燃えつきた地図』(2022年9月、38刷)のカバー折り返しの作品リストには上記リストに*を付けた作品が載っていない。