透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「幻の声」宇江佐真理

2016-02-23 | A 読書日記



 宇江佐真理さんの髪結い伊三次捕物余話シリーズの「幻の声」を読み終えた。「幻の声」他5編から成る連作。宇江佐さんはビュー作「幻の声」でオール讀物新人賞を受賞した。

文庫本のカバー表紙(写真)に描かれている男が主人公の伊三次。彼は床を持たない廻り髪結いで、右手に下げている台箱には商売道具が収められている。伊三次は八丁堀の同心・不破友之進の手先というもうひとつの顔を持っている。緑の着物の後姿は伊三次の思い女で、お文(ぶん)という深川芸者。

お文は父親の顔を知らない。伊三次も両親を早くに亡くし、姉夫婦に引き取られて育つ。ふたりの不幸な生い立ちがお互いに心惹かれる要因になっているのだろう。

この連作はふたりの恋ものがたりであり、市井の人たちの人情ものがたりでもある。哀感漂う作品は私の好み。これから月に1、2冊のペースで髪結い伊三次捕物余話シリーズを読もうと思う。