tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

10月企業物価指数は最高に、さて今後は? 

2022年11月12日 14時20分12秒 | 経済
毎日物価の話になってしまいますが、昨日はアメリカの消費者物価で。きょうは日本の企業物価を中心にした主要3物価指数、輸入物価指数、企業物価指数、消費者物価指数の動きの比較という事です。

この3種の物価指数を「主要物価指数」として選んだ理由はこんなところです。
物価が上がる時は、大抵、先ず国際的な資源や穀物などの値上がりがあり、それを利用している国内産業の製品の価格が上がり、それが消費物資以なって小売店の店頭に並ぶようにあると消費者物価が上昇し、国民生活が物価高の影響を受けるというインフレの実態を、この3種の物価指数の動きから「見える化」してみようという趣旨です.

輸入原油の値上がりてガソリンが高くなって大変とか、今回も、マスコミでは「企業物価6ヶ月連続史上最高」といった見出しを付けたりしていますが、輸入品や企業物価が上がっても、一般庶民にとっては、消費者物価が上がってはじめて影響が出るわけです。

という事で、輸入物価が上昇を始めた2021年の1月をスタートとしてこの所毎月このブログで見て頂いていますが、印象はどうでしょうか。

     主要3物価の推移(消費者物価2022年10月は東京都区部速報)

                      資料:日本銀行、総務省

私自身「3種の指数」の差がどんどん開いていく上昇スピードの違いに驚きましたが、日本の消費者物価があまりに安定していることは更なる驚きでした。
(これまで2021年1月を基準100.0にしていましたが、今月から2020年基準の日銀:輸入物価指数、企業物価指数、総務省:消費者物価指数の原指数にしました)

輸入物価指数は今年の4月、7月等円安の進行ごとに上昇の角度を上げていますし、原油価格軟化、円安一休みの8月には下げるといった動きがはっきりです。

それに引き換え企業物価は上がってはいますが、上がり方はずっとなだらかで、海外からの変動を国内で消化、平準化して企業間取引が為されていることが解ります。

消費者物価に至っては、国内事情の方を強く反映し、2021年の春の時期は、輸入物価、企業物価が上がっても低下傾向といった消費不振の反映すら見られます。

こうした各物価の動きの違いとその原因は、一部これまでのブログで書いていますが、この三種の物価指数の動きの違いから、更にいろいろなことが推察されます。

国際商品の価格は、通常は世界共通でしょうから輸入物価の影響はそれほど違わなくても、アメリカやイギリスのように10%に近いような消費者物価の上昇を見る国もあり、日本のように3%程度の国もあるのは何によるものでしょうかといった問題もあります。

その結果、消費者物価の大幅上方の国では、対策として金融引き締め金利の引き上げを行います。これは、その国の為替レートを高くしますが、他の国は為替レートが下がります(日本なら円安)。その責任は誰も取らなくていいのか、という問題もあります。

日本の様に輸入物価が上がっても、企業物価の上がり方も少ない、消費者物価はさらに上がらないという国では、輸入コストの増加が、負担としてその国の経済活動のどこかに滞留し、経済活動不活発、景気低迷になり易いという問題もあるようです。

これから円安の解消で、次第に$1=120円辺りの戻っていく可能性もあり、この過程で何が起き、政府がまた慌てて政策を間違うような事がないように、国民が注意していく必要もあるようにも思います。

アメリカのCPI、日本経済を走らす 

2022年11月11日 15時44分06秒 | 経済
昨日アメリカの10月分の消費者物価の速報が発表になりました。
マスコミではすでに報じられていて、8%台で高止まりしていたアメリカの消費者物価の対前年同月上昇率が7%台に下がりました。

多分そうなるだろうという予測もあって、FRBのパウエル議長も、そうなれば大幅な金利引き上げも再考といったニュアンスの発言もあったようです。

その数字がはっきり出ました。そして確かに物価の沈静状況が見える化されたという事でしょう。

米国消費者物価上昇率、10月の上昇率鈍化

                       資料:米国労働省

グラフで見て頂きますように、アメリカ流の主要費目の中で、9月の上昇率より上ったのは「家賃」と「運送サービス」だけで、あとは皆、上昇率ダウンです。
全品目は8.2から7.7に下がりましたが、特に〔エネルギーと食品を除く全品目〕が6.6%から6.3%に下がっています。

これは便乗の出やすい項目ですので、これが下がって来ているという事は、鎮静化が一般的になっているという感じも持てそうです。

折しも中間選挙の結果でも上院は民主党といった状況が見えてきたという事もあるのかも知れません。ダウ平均が1200ドルという大幅上げになりました。

これはアメリカの話ですが、残念ながらアメリカ次第などと言われる日本経済にも、その影響は確り出てきているようです。

先ず円レートが忽ち3円ほども円高になったようです。悪い円安が3円も改善したのですから、きっと日本にとっては有難いことでしょう。
ダウ平均に倣って、日経平均も800円も上げているようです。

アメリカの消費者物価の中身をこの3か月このブログで見て来て、パウエルさんの発言は、大幅な金利引き上げで、(便乗値上げ・賃上げなどで)アメリカのインフレを激化させているプレイヤー達を大幅金利引き上げで冷静に戻させるという狙いもあったでしょう。

アメリカの人達も、スタグフレーションやリーマンショックの経験がありますから、労働組合も含めて急激なインフレは危険という意識も持っているでしょう。ドル高が怖いという産業もあるでしょう。パウエルさんの警告は相当に効いたようです。

何にしても、アメリカの消費者物価の上昇が収まるという事は大変な朗報です。

アメリカのインフレが収まれば円安の問題も次第に解消し、政府も余計は補助金や手当から解放され、労使も正常な環境の中で、来春闘を迎えられるという事になるでしょう。

パウエルさんの巧みな舵取りへの期待は大きいですね。

「平均消費性向」上昇傾向続く(2022年9月)

2022年11月10日 10時33分27秒 | 経済
11月8日に今年9月度の家計調査・家計収支編が発表になりました。
このブログで追いかけている「二人以上勤労者世帯」の平均消費性向は9月も上昇基調を維持しています。

      平均消費性向:対前年同月の動き

                 総務省「家計調査」

8月は特に大幅上昇でしたがグラフに見る通り、昨年9月の75.9%から77.7%に1.8ポイントの上昇です。
これで今年に入ってからは3月を除いて一貫して前年の水準を上回っていることになるわけで、一昨年、昨年あたりまでの「平均消費性向」と言えばもう何年も下がり続けているというイメージが一新された感じです。



7月から8月にかけては、コロナの第7波が猛威を振るったのですが平均消費性向が前年比で上昇しているということは、わが国の多くの家計が、長らく続いた貯蓄に専心という、将来不安から一辺倒から、我慢ばかりという生活態度では面白くない、少しは今日の生活も大事にしようという方向に意識が変わって来たのではないかといった感じを受けるところです。


折しも国際諸情勢からの世界的インフレという環境の中で、消費者物価は上がらなもののように思われていた日本でも、小幅とはいえ3%を超える消費者物価の上昇が起き、物によっては、先高を意識しての買い急ぎもあるのではないかと言われる状態もあります。

皆様のご家庭の消費意識がそのあたりの鍵になるわけですが、少しでも消費の活発化の傾向が出るという事は、これからの日本経済にとっても大変大事なことですので、注目しているところです。

9月の統計で「2人以上世帯」の消費支出の伸びを見ますと、支出総額の伸びは名目5.9%とかなりの伸びですが、、消費者物価の上昇で実質は2.3%になってしまって、些か残念です。

伸びているのは「家具家事用品」の21.8%、エアコンの買い替えでしょうか? ついで教養娯楽、「水道光熱」、これは電気、ガスの値上がりによる部分が多いかもしれません、「被服・履物」も伸びていて、交通通信も伸びていることから考えれば、コロナによる行動制限からの反動といった面もある感じです。

という事で、コロナによる蟄居の反動という面から考えると、ここ数日のオミクロンD5株らしい新規感染者増が気になりますが、社会全体の雰囲気が、コロナの状況や消費者物価の上昇などもあり、少し変わって来たという要素もあるのではないでしょうか。

アベノミクス以降の日本経済の分析から、最近の専門家の意見も、もう少し確りした賃金の上昇が必要という事になるようで、連合も賃金要求を5%と強め、経団連も賃上げは必要という見解を出す世の中になっているので、家庭レベルでの意識変化による消費性向の上昇傾向に合わせ、来春闘にかけて、賃金の引き上げ率の上昇が見られれば、低迷を続けてきた日本経済も、少し様相が変わるのではないかと期待しているところです。

コロナ、新規感染急増、第8波の防御態勢は

2022年11月09日 16時55分16秒 | 政治
一昨日7日の月曜日に市役所の集団接種場に行き、コロナ・オミクロン株のD4,5に効果があるといいう5回目のワクチンの接種を受けてきました。
先日のインフル・ワクチンも今回のコロナ・ワクチンも、確り政府が用意してくれているという事は、評価すべきと思います。

接種までの期間が3カ月に短縮されたことも、早く打てて良かったというところです。
というのも年末を控え、何かと、会合などに出る機会が出て来るので、早く打てたらいいなと思っていたからです。

それにしても、昨日のニュースでは東京の新規感染者が急増8000人を超えました。日本全国では、大体東京の10倍ぐらいというのが今までの経験ですから、こんな形で急増したら、東京の1万越え、日本全体では10万人越えが簡単に来てしましそうな悪い予感がしています。

既に欧米でもD5の感染が急増といった情報もありますが、日本は第7波が山を越え、だんだん終息で、D5は避けられるのかなどと思っていた楽観的予想は簡単に打ち砕かれた感じです。

政府は、専門家のD5とインフルエンザの同時流行の危険という警告を聞きながらも、経済活動の活発化の要請には勝てず、規制の緩和を本活的にし始めた矢先です。

マスクも屋外ではしなくても良いというのは、大変有難いことで、私も蟄居で弱った足の鍛錬に散歩に出ますが、マスクをしているのと、していないのでは、酸素の供給は段違いのようで、外せば元気の出方が違います。

規制を緩和してくれるのは有難いことですが、コロナは対人接触で感染するものですから、人の集まる機会が増えれば増えるほど、新規感染者の増加は当然の結果という事になるのでしょう。

政府の考えるのは、国として、このジレンマをどう解決するかでしょう。諸外国に比べて、マスクなどの規制をかなり厳密にしてきたから、感染者が減ったのでしょう。
緩めれば感染者が増えるのは、当然予測されるところですが、そこは、個人個人が、この問題にどう対応するかによるので、自衛手段を宜しくという事になります。

勿論、個人々々としても、マスクなどの防御態勢を緩めるか、対人接触の機会を増やすか、自己防衛の徹底を続けるかは、国の政策選択と全く同じ問題ですから、自分自身の感染の確率をどこまで下げるかを真剣に考えなければなりません。

今の状態は、国が緩めるというのだから、私個人としても、それに沿って緩めても良いのではないかと考える私の様な人が一般的だという事の結果かもしれません。

しかし、何か状況は容易でないような予感がしてきているのではないでしょうか。
政府が緩めるというのは、政府が経済社会活動の活発化のために規制を緩めても、国民はそれぞれがよく考え、それぞれに努力して、感染の可能性をなるべく低くするような努力を期待するという事だと理解するしかなさそうです。

自分の身を守るのは、もともと自分のためですから、自分でするしかないのです。
そしてそれが上手く出来れば、日本人は、日本の社会は、確りしているという事になるのでしょう。

つまりは、国民がみんなで、第8波が、余り酷くならず、早期にコロナ終息の日を迎えられるように頑張るよりないという事でしょう。

UAゼンセン6%賃上げ要求

2022年11月08日 19時40分38秒 | 労働問題
UAゼンセンという労働組合は、正式名称「全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟」という事で、名前も長いですが、組織としても日本の民間労組最大の労働組合です。

会長は松浦明彦氏で、連合の会長代行でもあります。
そのUAゼンセンが来春闘の賃上げの要求基準として、連合の掲げた5%を上回る6%要求を掲げました。

UAゼンセンは連合の一員ではあるが、多様な産業の多様なメンバー労組を持つ元気のある組合であるという事を示そうという意気込みでしょうか、敢えて連合を上回る目標を掲げました。 

いままでの連合がおとなし過ぎたという批判もあるところから、来春闘の様な日本経済の正念場の春闘では、敢えて労使の話し合いに一石を投じようという気概は、来春闘に限って認めてもいいのではないかという感じがしているところです

アベノミクスのスタートである2013年以降の賃金の動きをグラフにしたのが下図ですが、どんな感じでしょうか。

毎月勤労統計年報の賃金指数の中で、カバーする範囲の最も広い5人以上事業所調査で、指数は現金給与総額、日本の雇用者の賃金水準を代表する指標としてグラフにしました。

全産業賃金指数(現金給与総額)の推移

                  厚労省:毎月勤労統計年報(5人以上)

指数は2013年を100にして、青い線の名目賃金、赤い線の実質賃金を見ますと、最初に気付くのは実質賃金はずっとマイナスで、まず最初の2年間は名目賃金はいくらか上がりましたが、円安で物価が上がった方が大きくて、実質賃金は下がっています。

円レートが正常化して、デフレ時代が終わったという安心感の中で、企業はホッとしたのでしょうが、雇用者の実質賃金は目減りです。
その後3年間ははインフレも小さく実質賃金は微増でしたが、2019-20年には、不況で名目賃金も下がり2021年回復したもの22年にはインフレ激化で大幅下げになるのでしょう。

この間、連合は多くの場合2%プラス定昇といった4%要求をし、妥結は2%前後が続いたかと思いますが、8年間に名目賃金で2%弱しか上っていないというのが実態です。
2%賃上げと言っても結局平均賃金は1年に平均0.2%ほどしか上がっていないのです。

春闘は2%前後の賃上げで妥結しても、平均賃金は0.2%の上昇なのです。
政府は個人消費で景気を引っ張ろうと省エネ家電の買い替え補助金からGoToまでいろいろやりましたが、賃金上昇がこんな事ではどうにもなりません。

この春闘妥結結果と平均賃金の上昇のギャップの原因はいろいろありますが、2%定昇というのに問題が在りそうです。
定昇は35歳か、せいぜい40歳ぐらいで歳とともに低率になりますし、旧定年年齢になれば大幅な賃金引き下げです。

つまり定昇と言ってもそれで平均賃金が上がるわけではないのが実態なのです。日本経済を堅調な消費が引っ張るというのは平均賃金が上がらないと不可能でしょう。

結局企業が支払賃金を増やして初めて消費の増加が期待できるので、本当は「人件費を総額でいくら増やしてくれますか」が現状では春闘の大事な意味なのです。 

そう考えるとUAゼンセンが、5%では足りない、と考えるのも当然と頷けるのではないでしょうか。
今の日本経済に本格的な賃上げが必要なことは、前3回ほどのこのブログでも確かめてきました。

経団連も賃上げの必要は認めながら、連合の5%要求は少し高いと言っているようですが、1人当たり人件費5%増は高いとしても、さてどのぐらいの人件費増を考えているのか聞いてみたいものです。 

「自家製デフレ」脱出のチャンス! 補遺

2022年11月06日 13時52分00秒 | 経済
前二回の検討で参考になっているのは、第一次石油危機の輸入インフレの経験と、プラザ合意による大幅な円高、黒田バズーカによる円安の後の経験です。

海外資源価格の値上がりなどで輸入インフレが起きるという問題は比較的単純ですが、円高・円安の場合は、その影響が複雑(輸入部門、輸出部門の利益相反と、当該国の国際競争力の問題が同時に起きる)という点が重要です。

海外資源価格の変化の場合は 、何度か指摘していますように値上がりなら実質GDPの海外移転、値下がりなら我が国への移転ですから解り易いでしょう。

今回の円安のケースの参考になったのは、プラザ合意による「円高の逆が起きるはずだ」ということで、結局、円高なら競争力喪失、円安なら競争力強化という現象が加わることが明らかになっています。

円高の時、銀行や個人のもっている円は国際的に価値が上がったので「円高を生かせ」などといったのですが、企業は国際競争力がなくなったので、コスト引き下げが至上命令となり、賃金は下がり正規従業員は大幅に非正規に置き変わりました。

ならば円安になったら、持っている円も賃金も国際的には目減りして輸入原材料や輸入日用品の購入が出来なくなりますが、国際競争力は強くなっているのですから賃金を上げる余裕が生まれているはずです。

問題は、国際競争力がなくなった時は、企業は必至でコストを下げましたから、国際競争力が強くなった時は賃金を上げなければならないのですが、黒田バズーカで大幅円安になった時の賃金上昇はほんの小幅でした。非正規従業員の正規転換も進まずでした。

これでは消費購買力は増えません。円高の時を下げたのに、円高になっても賃金を上げないのでバランスが回復しません。結果起きたことは賃金を上げない分だけ利益が増えたのです。
アベノミクスの時期、各四半期GDP統計が発表になるたびに、消費不振、設備投資順調の片肺経済と言われ、更に増えた企業の海外投資で、第一次所得収支が増え、GDPは増えずGNI(国民総所得)が増えるという現象が起きました。

余ったお金はGDP生産には貢献が少なく、マネーマーケットに大量に流れ、マネー経済という実体経済と関係のない世界の活況に貢献していたのでしょう。

賃金の上がらない経済は、国民の不安感を増幅するようです、政府の少子高齢化・人口減少による成長しない経済という説明、赤字財政の深刻化と年金財政の不安といった状況、当然、国民の将来不安は深刻化し、こうした要因は国民の消費生活に影を落とします。

このブログで毎月追跡してきた平均消費性向は長期の低下傾向でした。これは低収入による消費不振を増幅します。

こうした状況、長年の消費不振の中で、蓄積された消費関連業界の原材料値上がりの転嫁が出来ないための負担が、限界に達し、この春から消費者物価の上昇が起きました。

折しも大幅円安の影響とこれが複合、長年安定の消費者物価が3%を越える上昇になりまあす、一方で、偶発したコロナ禍による蟄居生活の限界と重なり、我慢の限界とばかり平均消費性向が上昇基調です。

長年の不満と我慢の堪忍袋の緒が切れたのでしょうか。消費者の意識が変わり始めたようで、経営者の多くも、これまでの経済はおかしい、生産と消費のバランスが取れていないと気づき始めたようです。

政府だけが、背後ではたらく経済メカニズムや人間心理の動きを理解せず、カネが不足なら補助しますと人気取りと票計算を大切に赤字国債で賄うのに一生懸命といった無理を続けています。

こう見てきますと、未だ、多少不徹底の感もある「連合と経団連の主張」ですが、両者の主張が「賃金上昇」で一致してきたというのは、「今が最大のチャンス」という事ではないかと思うところです。

以上が、「来春闘での労使の行動」に、このブログが大きく期待する理由です。

「自家製デフレ」脱出のチャンス! その2

2022年11月06日 13時52分00秒 | 経済
前回纏めてきたところで、重要なことがいくつかわかります。
① 輸入インフが起きたときに便乗値上げや便乗賃上げをしてはいけない
② やってしまったらそれをできるだけ早く正す
③ 正すための方法は欧米流:金利の引き上げで需要を抑える
④ それに対して日本流:便乗値上げも便乗賃上げもやらない
⑤ 金利引上げで欧米では通貨価値が上昇、その結果日本では円安に
⑥ 今回は大幅円安の日本は対応策に困って右往左往

今、まさにこんな状態です。右往左往の中で、政府は為替差損の出る輸入部門に補助金を出そうとしている、輸入関連部門は価格転嫁が進まず苦境に、輸出部門は差益で潤っているが黙っている、企業経営には格差が生じるが政府補助金は部分的、補助金は財政赤字を増やし、財政再建のめどは立たなくなる、といった混乱です。

ここまでなら、問題は多分短期的で、アメリカのインフレが収まれば、アメリカの金利は正常に戻りドル安で$1=110円の方向になっていくと考えられます。

しかし、もう1つの問題は、円安になる前から日本経済は不況続きで、これはアベノミクスの時からです。これを直さなければ、日本は成長経済には戻れません。

日銀黒田総裁流にいえば、原油高も欧米のインフレも次第に収まるでしょう。日本はそれでも不況ですから、好況を取り戻すまで、異次元金融緩和は続けなければならない、という事で、異次元金融緩和に固執するのでしょう。

この「黒田分析」はその通りです。しかしここには金融経済人特有の問題がありそうです。

というのは今アメリカのパウエルFRB議長や、イングランド銀行、ECB(ヨーロッパ中央銀行)もそうですが、インフレを、金融引き締めで抑えようとしています。

これは効率が悪いのです。金融引き締めで景気を悪化させてインフレを抑えるというのですから、パウエル議長が発言しているように、過度の引き締めで景気そのものが悪化することは避けなければならないのです。

「インフレの早期抑制」と、パウエル議長は眉を吊り上げて0.75%の金利引き上げを4回もやりましたが、どうしても時間がかかってしまいます。
つまり金融引締めは間接手段ですから、副作用も気にしながらで効率は良くありません。

第一次石油危機の時は、日本は「直接手段」を取りました、「賃金上昇を抑えた」のです。これは日本の労使関係だからできたといえます。但し効果は覿面です。(影の声:それで「ジャパンアズナンバーワン」になれた)

この自家製インフレを抑えるのに、「金融引締め」か「賃金抑制か」という手段の違いは、実は大変重要だと思っています。これが「労使の話し合い」で出来る国でないと不可能な経済運営の直接手段だからです。

さて、ここまで来て、気が付くのは、前述した黒田さんのが、2%インフレ目標達成まで異次元金融緩和を続ける」という発言です。

そうです、金融政策というのは間接手段で効率が悪いのです。黒田バズーカで為替レートが正常化してから今日まで、金融政策で「自家製インフレ」を実現しようと努力しても、インフレが実現しないのは、金融政策が間接手段だからです。
水を飲みたくない馬は川に連れて行っても水を飲まないのです。

今、日本の労組は、経済成長がなければ賃上げしてもインフレになるだけという第一次石油危機の経験に忠実であるようです。経済成長2%プラス定昇が要求の基本です。

それは外的な要因で経済成長が阻害されている場合に当てはまるもので、経済成長の可能性がそろっている中では、賃上げ経済を引っ張る、つまり、消費需要を増やすことで生産活動を引っ張るという直接手段がないと自家製インフレにはなりません。「自家製インフレ」で経済成長を引っ張り、経済成長が起きれば、その分インフレは消えます。


これは労使が良く話し合って、政府は出来れば参考になるシミュレーションなどを提供し。来春闘で平均賃金の5%上昇、これは非正規の正規化や定年再雇用者の職務と賃金の適正化も含みます、といった形で、労使が本当に日本経済、そして国民生活の将来を考えて、成長経済を取り戻すために、十分考えて、結論を出すべきことでしょう。

来春闘が、日本経済の起死回生の転換点になるよう、労使の活躍を期待します。 

「自家製デフレ」脱出のチャンス! その1

2022年11月05日 16時38分53秒 | 経済
自家製インフレ(homemade-inflation)という言葉はありますが、「自家製デフレ」という言葉はないようです。

言葉はないのですが、それが実際に起こることはあるようです。

2013~2014年の黒田日銀総裁の超金融緩和政策、いわゆる2発の黒田バズーカで、円レートが$1=80円から120円になって、やっと日本経済は正常な為替レートの下での経済という事になりました。

日本経済は1985年の「プラザ合意」でその後2年で為替レートが2倍の円高になって、結果的に円高デフレ不況に20年以上苦しんできたのですが、これでやっとまともな経済活動に回復できると思いきや、その後もずっとさえない経済を続けてきました。

円高デフレは解るのですが、円が正常のレートに戻っても、正常な経済活動が10年近くも戻ってこないというおかしなことが起きたのです。

経済指標で見ますと、この間ほとんど物価が上がっていません。円高が解消してもデフレだけ続いているというのは大変奇妙です。

世界中の国は殆どが数%程度のインフレです。IMF(国際通貨基金)の統計で見ますと2021年の平均インフレ率がマイナスの国は193か国中7か国、日本は-0.24%で日本より低いのは3か国(バーレーン、チャド、サモア)で、193か国の平均は4.70%ですから、世界中の国は大体インフレが一般的ということが解ります。

何故日本はそんなに奇妙な国の仲間入りをしてしまったのでしょうか。
実は、日本も、1970年代まではインフレが当たり前の国でした。その中で1973年第一次石油危機が来ました。

原油は海外依存の日本の経済成長は突然0%に、石油関連製品、洗剤やトイレットペーパーは店頭から消え、20%の超インフレです。その中で労組は頑張って33%の賃上げ、1974年には石油と賃金のコスト上昇でピーク時26%のインフレになりました。

日本の労使は反省しました。輸出立国の日本がこんなインフレをやっていたら、数年で日本経済は破綻する。日本人は真面目ですから、労使ともに「経済成長がなければ賃上げしても物価が上がるだけだ」と理解したわけです。

その結果、第2次石油危機では日本経済は安定成長、欧米諸国は相変わらずインフレ,スタグフレーション化、『ジャパンアズナンバーワン』(E・ボーゲル著)の世界でした。

日本はインフレ抑制に成功、欧米主要国はインフレからスタグフレーションですから、これが数年続いた結果、日本の国際競争力はダントツ、まさに「ナンバーワン」です。

然しそんな状態を欧米主要国は許しません。日本の一人勝ちは「許さん」という事でしょうか、冒頭にも書きました「プラザ合意」で日本に円高容認を要請、日本は気前よく「OK」と言ったので円レートは2年間で2倍になりました。

折角賃上げを抑制し、インフレを抑えた日本ですが、為替レート2倍で、賃金も物価も全部2倍になりました。「ジャパンアズナンバーワン」は取り消しです。

これは経済外交の大失敗ですが、政府は「失敗」とは言いませんでした。日本人は従順で真面目ですから「これも仕方がない」と2013年まで円高不況で賃上げもできず、世界一高くなった物価を下げる苦労、泥沼の「長期不況」を我慢したのです。

冒頭に帰りますが、起死回生の「2発のバズーカ砲」で泥沼から脱出、「円レートの正常化(円安)」を果たしたのは黒田日銀の功績です。円レートの正常化にも拘らず「なぜかその後も不況が続いてしまった、これが「自家製デフレ」です。

日本は、ここから多くの事を学ばなければなりません。その中から、黒田バズーカ後も「自家製デフレ」をつづける日本の、そこからの脱出法が見えてくるはずです。(以下次回)

経団連、賃上げ容認姿勢強める

2022年11月04日 16時01分56秒 | 経済
財界総本山である日本経団連が、来春闘でのベースアップを含む賃金上昇を会員企業に要請するという方針を決めるようだというニュースがYahooや日経新聞から伝えられてきました。

来年一月には経団連は例年出している「経済労働政策特別委員会報告」、通称「経労委報告」を出して、春闘についての方針を発表するのですが、この時期おおよその基本方針が固まったのでしょう、正式に発表したのか、リークされたのかは解りませんが、はっきりした報道になってますから、基本的な方向は決まったのでしょう。

経団連の十倉会長は以前から、賃上げについては「必要ではないか」というニュアンスの発言がありましたが、いよいよ経済界、そして労働組合組織のカウンターパートである経営者の意見として賃上げの必要性を認めるのであれば、大変結構なことだと思います。

今の日本経済は、国際的なエネルギー価格等の上昇はそろそろピークで、主要な問題は円安による混乱です。ですが、賃上げは為替レート直結の問題ではではないでしょう。

$1=¥110 ほどの所から、150円近くまで円安になっているのですから、輸入価格は3割近く上がっている計算です。しかし賃上げの基準はこれではないでしょう。

アメリカのインフレが収まって金利引き上げが止まれば円安は戻ることになるのでしょうから、円安による輸入価格の値上がりはそのまま国内価格に転嫁しても、次に円高になったら値下げすることで、経済のバランスとれます。

賃金の場合は円安だから上げて円高になったら下げるという訳にはいかないでしょう。
黒田日銀総裁などは、少したてば円高に戻るから、毎度対応しない方がいいという意見なのでしょう。

今の消費者物価上昇は、今の円安というより、この何年もの間、エネルギーや穀物などの価格が上がって来たのに、価格転嫁出来ずに我慢して来たものが噴出した部分が大きいようです。

加工食品や、調味料、日用品などの一斉値上げで3%を越える消費者物価の上昇ですが、今の円安を反映させたらこんなものではありません。

経団連が考えているのも、今の大幅な円安分を賃上げでカバーというより、消費者物価の3%を越えてきた上昇をカバーするといったところまでの話だろうと思います。

欧米と比べてみれば、日本のように通貨価値が下がっている国はありませんが、アメリカでもイギリスでも、輸入物価が上がると、その価格転嫁以上に便乗値上げ、便乗賃上げをします。その結果、消費者物価が10%も上がって、金利引き上げとなるのです。

彼らが便乗部分をやめて、日本が正直に価格転嫁と賃上げをすれば、多分問題は解消でしょう。

という事で、欧米が今やっていることは、金融引き締めで便乗部分を消すことです。
そこで日本が、正直な価格転嫁と適切な賃金引き上げをやれば、結果は両者イーブンとなり、両者ともに経済正常化(資源価格上昇に見合った物価体系)という事になって、丸く収まるのです。

本当に必要なことは、欧米が便乗値上げと便乗賃上げを辞めて、日本が正常な価格転嫁と賃上げをすることなのです。そうすれば欧米の金融引き締めは不要で、円安も起きません。

つまりは、国際資源価格上昇に対して、過剰反応の国と過少反応の国のアンバランスの解消過程としての努力を、アメリカも日本も(逆方向から)やっているのですが、そのプロセスで、日本で円安問題が起きたという事でしょう。

欧米の金融引き締めと日本の賃上げで、問題が解決に近づくことを期待するところです。

文化の日、日本の伝統文化を大事に

2022年11月03日 16時47分50秒 | 文化社会
11月3日「文化の日」は明治節の昔から「晴れの特異日」のようです。今日も朝から良く晴れて真っ青な空に太陽の素敵な秋晴れです。

ところが朝食の頃から北朝鮮からのミサイル騒ぎで大変です。一時間おきに3発のミサイルが発射され、その内の1発はICBMだそうで、どれがそうかは解りませんが、最初の1発は新潟、山形、宮城の3県の上を飛んだというJ・アラートが出たようです。

後から日本上空に来る前に「消失」したとのことで、日本の上空には来なかったようです。消失というのは忍者のようで、日本まで行かないように自爆させたのでしょうか。

折角の文化の日を朝からの騒ぎとは残念なことですが、これも「争いの文化」が主流の今の世界では致し方ないという事になるのでしょう。

何年か前の文化の日に「競いの文化」と「争いの文化」を書きましたが、このブログは、日本の伝統文化の根源は、縄文時代の争いのない1万余年の「平和共存」の文化で、基本的に「争いの文化」は持っていなかったと考えています。

「争いの文化」は弥生時代以降の大陸の文明「青銅器・鉄器」の導入、そしてそれに付随して入ってきた武器と戦争という文化で、つまりは外来の文化を学んだ結果の「文化の汚染」だったのだろうという見方です。

この外来の「争いの文化」は多分に刺激的で、日本はそれ以来「倭国大乱」に始まり、殆ど内戦の時代を過ごし、明治以降は1945年迄、外国との戦争に明け暮れました。

然しその結果の第二次世界大戦の敗戦をきっかけに「戦争を放棄」した「平和憲法」を持つ国となり、経済社会の大きな発展を経験し、日本の伝統文化である「競いの文化」に、まさに本卦返りして、精神的にも社会的にも極めて居心地のいい、住みやすい国を作ってきたのです。

この日本の、多様な人々が平和共存し、それぞれの文明の発展を競う事はあっても、争そうことはないという伝統文化は、縄文1万有余年の長きに亘る日本の自然環境に大きく関わるような気がしてきています。

氷河期が終わって海面が上がり日本列島が大陸と切り離されてから、自分達だけしかいない世界、自然災害はあるが、豊かな実りも齎すモンスーン地帯という環境の中で、自然と共存し、自分達も自然の一部と考えながら、自然を育てることが豊かさにつながる事を学んだ、その長い期間が、日本文化の原型になったのではないかと感じるのです。

然しユーラシア大陸全体を考えますと、ホモサピエンスが6万年前アフリカを出て、ユーラシア大陸から北米を通り南米南端まで広がった際、ヨーロッパには先住民であるネアンデルタール人(原人)が、居ました。

ネアンデルタール人は2万年ほど前に絶滅し、ヨーロッパはホモサピエンスの世界になりました、今年のノーベル賞受賞者にホモサピエンスとネアンデルタール人との交雑の研究者がいましたが、先住民との間に何があったのかは、長くタブーのようでした。

ユーラシア大陸東部には矢張り旧人のデニソワ人がいたのですが、今は絶滅しています。

同じ、ホモサピエンスどうしでも、ヨーロッパ人が、アメリカ大陸を発見してからの歴史を見れば、先住民と、より文明度の高い征服者の関係はおおよそ想像されるところです。

幸い、日本列島では、その特殊な環境条件で、「平和共存」、「争い」でない「競い」の文化が生まれたとすれば、これは人類の今後のために大切にしなければならないものではないかと考えるところです。

改めて今の物価問題を整理する !?

2022年11月02日 21時29分11秒 | 経済
国際的な資源インフレと日米の金利差で起きた円安とが一緒に起きただけで、こんなに物価問題がこじれているというのは、何とも情けない話です。

こういうときほど、物価に直接関係のある政府、日銀、産業界、労働界が、確りとコミュニケーションを取り、日本経済の安定のために最大限の協力をするべきでしょう。

国際価格上昇は日本の力では何ともなりませんが、それ以外の事はこの四者が話し合えばそれなりに片付く性質のものではないでしょうか。

大体インフレ(物価の変動)には基本的に2つの原因しかありません。輸入インフレと国内インフレです。それに、今は変動相場制ですから、為替の変動が加わります。

輸入インフレは、国際的に物価が上がって、多くの国で輸入物価が上がることによるものです。これは世界共通ですから、一国の中で取れる対抗策はありません。
但し物価上昇は世界共通ですから、国際競争力への影響はないというのが理論です。

国内インフレは大抵賃金コストプッシュインフレです。生産の要素費用は賃金と利益ですが、利益が増えてインフレというのは余り聞きません。賃金インフレが一般的です

3番目が為替レートの変化です。これを放置すれば、輸入部門と輸出部門で反対の差益と差損が出ます。同時に、その国のすべての物価とコストがレート変化分だけ上下します。
例えば、円高なら日本は競争力を失い、円安なら競争力が付きます。

そして特筆すべきは、変動相場制の下では、一国の金利の高低が、為替レートに影響する事です。そしてこれは為替介入とは見られません。

いま日本で起きていることはこれらの条件の組み合わせでしかないのです。

今回の一番大きな問題は、アメリカが金利を引き上げたので円安になったという事でしょうか。

アメリカはインフレが酷いので、金利を上げて抑えようとしています。インフレの原因は
国内インフレ(賃金上昇や一時的な便乗値上げ)です。国内インフレが収まれば、金利を下げて、円安も戻るでしょう。

日本は、輸入インフレは勿論避けられませんが、国内インフレ(賃金上昇や便乗値上げ)がないので、輸入インフレ分だけで3%ほど(アメリカは8%)で、金利引き上げの必要もないし効果もないという事で、日銀は金利を上げません。
これが為替問題(円安問題)です。

日本だってインフレが酷くなって来たと言う人もいますが、日本のインフレは殆ど輸入インフレで、国内インフレではありませんから、金利引き上げでは解決しません。

日銀の2%インフレ目標というのは、賃上げがもう少し高くなって国内インフレ(賃金インフレ)が2%以上になれば金利を上げて、それ以上のインフレは抑えるというのですから、日銀としては金利を上げないのは当然だと頑張ります。。

でも、世界に向かって「上げない!」と「宣伝」しなくてもという意見もあります。「考えないでもない」ぐらい言っただけで5~10円の効果はあるという意見もあります(口先介入)。

連合は、本気で「絶対5%取る」と言えばこれも国内インフレの可能性から金利引き上げ圧力になります。ドル建てでは日本の賃金は3割ほど下がっているのですから。

それに対して産業界(経営側)はどう答えるかです。少なくともアメリカの半分ぐらいの賃上げ(純粋ベアで)をしないと国内インフレ2%は達成できないでしょう。
輸入関連は差損で、輸出関連は差益で、円安のせいで、自動的に産業別の損得が発生する事への対応策はあるのかも問われるでしょう(価格転嫁の問題が絡みます)。

政府はただ困って、人気取りでしょうか、補助金に何兆円とか、批判の多い為替介入に何兆円とか使っているだけでいいのでしょうか。

単純なものが絡み合っただけの問題ですが、それぞれのプレーヤーが連携もなく勝手なことをやっていたのでは問題が解決する筈はありません。
先ずは、関係者が一堂に会して議論などしてみて下さい。その中身がマスコミで伝われば、国民がいろいろ良い意見を聞かせてくれるかもしれません。

人生第2の転換点、決めるのは誰、そして結果は? 

2022年11月01日 17時46分27秒 | 経済
日本人の平均寿命の伸びに年金財政問題も絡んで、前2回書いていきましたが、今回は「就労から引退」という人生第2の転換点をみんなで考えて決め直そうという問題です。

これは学業から就職という人生第1の転換期の後にいつかは来ることで、平均寿命の伸びと密接にかかわる問題で、ほとんどの日本人が今最も関心を持つものでしょう。
これは本来、個人々々が考える問題で、政府が決めることではありません。

日本人は、欧米人と歴史や文化の違いから働くことを善とし、また働くことが好きで、大切にします。その意味で、日本人の考え方に相応しい方法で対処すべき問題でしょう。

前提になるのは、平均寿命の伸びに準じた「健康寿命」の伸びです。
厚労省の調査によれば、2001~2019年の間に、健康寿命は平均寿命とほぼ比例的に伸び、2019年には、男72.68歳、女75.38歳になっています。

現実に、我々の周囲の人たちの話を聞いても、今一般的に適用の多い旧定年年齢の55歳あるいは60歳で、それまでの仕事を降り、賃金も一律に大幅に減り、職務も異動になるといった方式には不満が多いようです。

できれば自分の得意な仕事を続けたい、あるいはそれを生かして若年層のOJTをやりたいという希望もあるでしょう。慣れ親しんだ授業で、特異な仕事を続けられたらという希望は多いのです。

そして、この気持ちを大事にするのが、こうした従業員たちを雇用する企業の役割でなければなりません。

問題になるのは賃金です。企業が定年制に固執してきたとすれば、その背景には年功賃金制があったはずです。
年功賃金自体がもともと55歳迄の生涯賃金で従業員の貢献度と生涯支払賃金がバランスするというシステムでした。旧定年年齢後は賃金引き下げという今の賃金制度が一般化したのもその故です。

この、旧定年年齢以降の賃金は別体系という現在の一般化した制度を前提にすれば、企業として従業員の雇用延長は多様な可能性を持つでしょう。

企業のサイドから考えれば、これから即戦力の従業員がますます必要になってくる中で、まさに即戦力である自社で育成した人材群を、定年制や賃金制度の硬直性のために有効に活用できないような状況は早急に解消されなければならないという視点が重要になってくると考えられます。

少なくとも、企業が長い年月をかけて育成した高度人材が、中国や韓国に職を求め、かの地で重要な即戦力として貢献した結果が日本産業の衰退の原因だ、などと指摘される状況は避けなければなりません。

ここに雇用継続による企業サイドの大きな利点が発見できるのではないでしょうか。
賃金について言えば、雇用者の4割を占める非正規従業員は殆どすべてがジョブ型賃金ですし、今後、ジョブ型賃金の活用の重要な分野として、企業の雇用ポートフォリオの中で、定年再雇用者のジョブ型賃金が注目されてきているのではないでしょうか。

こうして、従業員サイドの働き続ける意欲と、企業サイドの、自社育成の人材群を、育成コストのコスパ改善意識をもって徹底活用するといった2本のベクトルが一致することで、
人材不足、育成コストの相対的効率化が達成されれば、日本産業社会の持つ本来の力の発揮が当然可能になるでしょう。

こうした構想は日本ですから可能になるので、働くことは出来れば避けたいといった意識の残る欧米の文化では不可能かも知れません。

日本の労使がその気になった時、公的年金支給時期のさらなる延伸は当然可能になるでしょう、その結果、年金財政の健全化もついて来るでしょう。
政府は、辞を低うして民間企業に、人材活用の推進を要請する必要がありそうです。

日本の人材が日本の経済発展に尽力すれば、経済成長率も高まり、ゼロ金利政策の終わり、蓄積資本には利息が付き、さらなる年金財政の公転、嘗ての様な厚生年金基金の活況、個人貯蓄の金利による増加といった長期不況以前の正常な経済活動への復元が可能になるのではないかと考えています。