tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

見えて来た「構造的賃上げ」の意味

2022年10月28日 17時06分14秒 | 労働問題
岸田総理が「構造的賃上げ」というのでなんだろうと思っていました。
賃金の解説書にも、賃金事典にもありませんし、賃金問題にも長く関わっている私自身も今まで聞いたことのない言葉です。

「新しい資本主義」という言葉が出て、「成長と分配の好循環」と説明(?)があった時も具体的にどんな「資本主義」を意味するのか解らず、多分こうではないかなどといろいろ忖度してこのブログに書いた覚えがありますが、未だによく解りません。

中身が解らないと肯定も否定もコメントが出来なくて困るのですが、「構造的賃上げ」については、先日こんな説明(?)がありました。

「年末にかけて新しい資本主義など、これまで議論してきたさまざまな政策を実行に移していくための正念場を迎える。実現に向けて最優先で取り組むべきは構造的な賃上げだ」
という発言に続いて、
「現代の経済社会はこれまでにないスピードで変化を続けており、非連続的なイノベーションが次々と生じる時代だ。成長分野に円滑な労働移動がなされるからこそ経済成長と賃上げが実現できる。人への投資、労働移動の円滑化、所得の向上の3つの課題の一体的な改革に取り組んでいく」

これで見ますと「新しい資本主義」の中身の実行の正念場だが、その中の最優先は「構造的賃上げ」で、新しいイノベーションがどんどん出て来るので、労働力への教育投資を充実、教育した人材を成長分野に移動させる。

つまり、再教育した人材を成長分野に円滑に移動すればそこは賃金が高いだろうから所得の向上(賃上げ)になる「再教育、労働移動、高賃金職種に転職」こそが「構造的賃上げ」の中身だというのです。

これが「構造的賃上げ」という言葉で言いたかったことで、新しい資本主義の最優先課題なのだと理解できます。

こうしてようやく具体的な説明が聞けたのですが、用語法が適切かどうかは別として、これなら「人間中心の資本主義」(資本が中心ではない)という事で、高度成長の中で日本がやってきたことそのものという事でしょう。(ただし「移動」より「異動」が一般的:注)

技術革新をベースに(当時は導入技術、今は自主開発)、人に投資し、産業教育による人材育成に注力、それによって高付加価値経済を実現して、産業・企業の成長、着実な経済成長を実現、結果は当然一人当たり国民所得を高める(構造的賃上げ)というかつての日本の姿を再現するという経済社会発展の王道を選択することで、国民も皆大賛成でしょう。

勿論、このブログも全面的に賛意を表するところです。
本来、日本の資本主義が欧米の資本主義とは違うという指摘は、日本の高度成長時代から一貫して言われて来ているところです。

日本は資本主義ではない、社会主義に近いなどといった意見も聞かれました。日本国内でも、資本主義というより「人本主義」と言った方がいいという意見もありました。

「新しい資本主義」が、資本が人間を振り回すような資本主義ではなく、あくまでも人間が中心の資本主義であることが明確になれば、岸田総理の思想体系も、余程解り易くなるでしょう。

そして、その日本が何を間違って、30年もの長きにわたり、まともな経済成長も出来ない状態に堕していたのかが本格的に問われ、今後の新しい発展の道への挑戦がは決まるでしょう。

かつての円高不況の二十余年と円高是正後のアベノミクスの8年余という長期不況を齎した経済政策の失敗を岸田政権がいかにして正し、あるべき日本の経済社会への道を開くか、岸田政権の正念場でもあるという事ではないでしょうか。
   
(注) 政府の言う「移動」というイメージは、A社を辞め、例えばデジタル関連のリスキリングの期間を経てB社で新職務に就職するというイメージが強いですが、日本の場合は、企業在籍で新技能の再教育を受け、企業自体が新分野に進出して新部門に「異動」という形が一般的で、より効率的と見られています。

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1 コメント

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背景に刀剣研究 (マルテンサイト千年)
2024-03-09 03:27:12
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタインの理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズムにんげんの考えることを模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。どこか日本らしさのある多神教的でなつかしさのあるなにかによって。

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