tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「自家製デフレ」脱出のチャンス! 補遺

2022年11月06日 13時52分00秒 | 経済
前二回の検討で参考になっているのは、第一次石油危機の輸入インフレの経験と、プラザ合意による大幅な円高、黒田バズーカによる円安の後の経験です。

海外資源価格の値上がりなどで輸入インフレが起きるという問題は比較的単純ですが、円高・円安の場合は、その影響が複雑(輸入部門、輸出部門の利益相反と、当該国の国際競争力の問題が同時に起きる)という点が重要です。

海外資源価格の変化の場合は 、何度か指摘していますように値上がりなら実質GDPの海外移転、値下がりなら我が国への移転ですから解り易いでしょう。

今回の円安のケースの参考になったのは、プラザ合意による「円高の逆が起きるはずだ」ということで、結局、円高なら競争力喪失、円安なら競争力強化という現象が加わることが明らかになっています。

円高の時、銀行や個人のもっている円は国際的に価値が上がったので「円高を生かせ」などといったのですが、企業は国際競争力がなくなったので、コスト引き下げが至上命令となり、賃金は下がり正規従業員は大幅に非正規に置き変わりました。

ならば円安になったら、持っている円も賃金も国際的には目減りして輸入原材料や輸入日用品の購入が出来なくなりますが、国際競争力は強くなっているのですから賃金を上げる余裕が生まれているはずです。

問題は、国際競争力がなくなった時は、企業は必至でコストを下げましたから、国際競争力が強くなった時は賃金を上げなければならないのですが、黒田バズーカで大幅円安になった時の賃金上昇はほんの小幅でした。非正規従業員の正規転換も進まずでした。

これでは消費購買力は増えません。円高の時を下げたのに、円高になっても賃金を上げないのでバランスが回復しません。結果起きたことは賃金を上げない分だけ利益が増えたのです。
アベノミクスの時期、各四半期GDP統計が発表になるたびに、消費不振、設備投資順調の片肺経済と言われ、更に増えた企業の海外投資で、第一次所得収支が増え、GDPは増えずGNI(国民総所得)が増えるという現象が起きました。

余ったお金はGDP生産には貢献が少なく、マネーマーケットに大量に流れ、マネー経済という実体経済と関係のない世界の活況に貢献していたのでしょう。

賃金の上がらない経済は、国民の不安感を増幅するようです、政府の少子高齢化・人口減少による成長しない経済という説明、赤字財政の深刻化と年金財政の不安といった状況、当然、国民の将来不安は深刻化し、こうした要因は国民の消費生活に影を落とします。

このブログで毎月追跡してきた平均消費性向は長期の低下傾向でした。これは低収入による消費不振を増幅します。

こうした状況、長年の消費不振の中で、蓄積された消費関連業界の原材料値上がりの転嫁が出来ないための負担が、限界に達し、この春から消費者物価の上昇が起きました。

折しも大幅円安の影響とこれが複合、長年安定の消費者物価が3%を越える上昇になりまあす、一方で、偶発したコロナ禍による蟄居生活の限界と重なり、我慢の限界とばかり平均消費性向が上昇基調です。

長年の不満と我慢の堪忍袋の緒が切れたのでしょうか。消費者の意識が変わり始めたようで、経営者の多くも、これまでの経済はおかしい、生産と消費のバランスが取れていないと気づき始めたようです。

政府だけが、背後ではたらく経済メカニズムや人間心理の動きを理解せず、カネが不足なら補助しますと人気取りと票計算を大切に赤字国債で賄うのに一生懸命といった無理を続けています。

こう見てきますと、未だ、多少不徹底の感もある「連合と経団連の主張」ですが、両者の主張が「賃金上昇」で一致してきたというのは、「今が最大のチャンス」という事ではないかと思うところです。

以上が、「来春闘での労使の行動」に、このブログが大きく期待する理由です。

「自家製デフレ」脱出のチャンス! その2

2022年11月06日 13時52分00秒 | 経済
前回纏めてきたところで、重要なことがいくつかわかります。
① 輸入インフが起きたときに便乗値上げや便乗賃上げをしてはいけない
② やってしまったらそれをできるだけ早く正す
③ 正すための方法は欧米流:金利の引き上げで需要を抑える
④ それに対して日本流:便乗値上げも便乗賃上げもやらない
⑤ 金利引上げで欧米では通貨価値が上昇、その結果日本では円安に
⑥ 今回は大幅円安の日本は対応策に困って右往左往

今、まさにこんな状態です。右往左往の中で、政府は為替差損の出る輸入部門に補助金を出そうとしている、輸入関連部門は価格転嫁が進まず苦境に、輸出部門は差益で潤っているが黙っている、企業経営には格差が生じるが政府補助金は部分的、補助金は財政赤字を増やし、財政再建のめどは立たなくなる、といった混乱です。

ここまでなら、問題は多分短期的で、アメリカのインフレが収まれば、アメリカの金利は正常に戻りドル安で$1=110円の方向になっていくと考えられます。

しかし、もう1つの問題は、円安になる前から日本経済は不況続きで、これはアベノミクスの時からです。これを直さなければ、日本は成長経済には戻れません。

日銀黒田総裁流にいえば、原油高も欧米のインフレも次第に収まるでしょう。日本はそれでも不況ですから、好況を取り戻すまで、異次元金融緩和は続けなければならない、という事で、異次元金融緩和に固執するのでしょう。

この「黒田分析」はその通りです。しかしここには金融経済人特有の問題がありそうです。

というのは今アメリカのパウエルFRB議長や、イングランド銀行、ECB(ヨーロッパ中央銀行)もそうですが、インフレを、金融引き締めで抑えようとしています。

これは効率が悪いのです。金融引き締めで景気を悪化させてインフレを抑えるというのですから、パウエル議長が発言しているように、過度の引き締めで景気そのものが悪化することは避けなければならないのです。

「インフレの早期抑制」と、パウエル議長は眉を吊り上げて0.75%の金利引き上げを4回もやりましたが、どうしても時間がかかってしまいます。
つまり金融引締めは間接手段ですから、副作用も気にしながらで効率は良くありません。

第一次石油危機の時は、日本は「直接手段」を取りました、「賃金上昇を抑えた」のです。これは日本の労使関係だからできたといえます。但し効果は覿面です。(影の声:それで「ジャパンアズナンバーワン」になれた)

この自家製インフレを抑えるのに、「金融引締め」か「賃金抑制か」という手段の違いは、実は大変重要だと思っています。これが「労使の話し合い」で出来る国でないと不可能な経済運営の直接手段だからです。

さて、ここまで来て、気が付くのは、前述した黒田さんのが、2%インフレ目標達成まで異次元金融緩和を続ける」という発言です。

そうです、金融政策というのは間接手段で効率が悪いのです。黒田バズーカで為替レートが正常化してから今日まで、金融政策で「自家製インフレ」を実現しようと努力しても、インフレが実現しないのは、金融政策が間接手段だからです。
水を飲みたくない馬は川に連れて行っても水を飲まないのです。

今、日本の労組は、経済成長がなければ賃上げしてもインフレになるだけという第一次石油危機の経験に忠実であるようです。経済成長2%プラス定昇が要求の基本です。

それは外的な要因で経済成長が阻害されている場合に当てはまるもので、経済成長の可能性がそろっている中では、賃上げ経済を引っ張る、つまり、消費需要を増やすことで生産活動を引っ張るという直接手段がないと自家製インフレにはなりません。「自家製インフレ」で経済成長を引っ張り、経済成長が起きれば、その分インフレは消えます。


これは労使が良く話し合って、政府は出来れば参考になるシミュレーションなどを提供し。来春闘で平均賃金の5%上昇、これは非正規の正規化や定年再雇用者の職務と賃金の適正化も含みます、といった形で、労使が本当に日本経済、そして国民生活の将来を考えて、成長経済を取り戻すために、十分考えて、結論を出すべきことでしょう。

来春闘が、日本経済の起死回生の転換点になるよう、労使の活躍を期待します。