パラグアイで日本人が開発にかかわった,大豆品種の話をしよう(その6)
ダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)は,世界各地で発生が確認されているダイズの最も重要な有害線虫です。南アメリカでは,1992年にブラジル,1997年にアルゼンチン,2003年にパラグアイで発生が確認されました。パラグアイでは,その後発生実態モニタリングを実施し,カアグアス県,カニンデジュ県及びアルトパラナ県北部で圃場の汚染が拡大していることが確認しています。
ダイズシストセンチュウに対しては,薬剤での防除がきわめて難しいため,抵抗性品種や非寄生作物の導入(輪作)が防除法として考えられます。中でも,抵抗性品種が有効であることから,パラグアイでは抵抗性品種の開発を緊急課題と考え,地域農業研究センター(CRIA)では1997年から育種を開始し,抵抗性品種の開発を精力的に進めてきました。
このたび,パラグアイ最初のダイズシストセンチュウ抵抗性品種として,「CRIA-6,Yjhovy」を開発しました。本品種は,本線虫のレース3に抵抗性を示し,カンクロ病にも抵抗性を有する中生の早に属する多収品種です。本品種は,生産者の期待に沿うものと考えます。本稿ではYjhovyの育成経過と特性の概要について紹介します。
なお,本品種は,パラグアイと日本の技術協力プロジェクト(大豆生産技術強化計画1997-2002,ダイズシストセンチュウ及び大豆さび病抵抗性品種の育成 2006-2008)で開発が進められました。また,各地域の適応性を評価するための試験は,パラグアイ国大豆研究プログラムで実施されました。2008年に種苗登録されました。
ちなみに品種名は,抵抗性現地選抜圃場で協力を頂いた方々への感謝を込めて,そこの地名から採りました。
1. 来歴及び育成経過
Yjhovyは,地域農業研究センター(CRIA)において,アメリカ合衆国から導入したBedfordとCoker6738の交雑後代を母,ブラジルから導入したFT-EstrelaとパラグアイのALA60の交雑後代を父として1997/98年に人工交配し,以降選抜固定を図ったもので,2007/08年にはF13代に当ります。
F5代までSSD法により世代を進め,2000/01年にF6集団の2,300個体から草型良好な25個体を選抜しました。この間,1997/98年(F1代),1998/99年(F3代),1999/2000年(F5代)には冬季温室において世代促進栽培を実施しました。なお,同年ブラジル連邦共和国マトグロッソ財団研究所に依頼して,ダイズシストセンチュウ抵抗性を検定した結果,8個体が抵抗性を示しました。
2001/02年(F7),2002/03年(F8)及び2003/04年(F9)に系統選抜を続け,2004/05年に実施した生産力検定予備試験の結果を参考にして,中生の早,ダイズシストセンチュウ抵抗性の有望系統CM9718-14-5-1-1にLCM167の系統番号を付しました。2004/05年から2006/07年までの3年間は,CM9718-14-5-1-1及びLCM167の系統名で生産力検定試験及び地域連絡試験を実施するとともに,特性検定試験を実施しました。2005/06年にはカニンデジュ県イホビのダイズシストセンチュウ抵抗性検定圃で抵抗性を確認しました。カンクロ病については2002/03年及び2006/07年の冬季に抵抗性検定試験を実施しました。
2. 特性概要
(1)形態的特性
伸育型は有限,胚軸色は緑,小葉の形は円葉,花色は白,毛茸色は褐色,莢色は褐色,種皮色は黄色で,臍色は暗褐色を呈します。
(2)生態的特性
試験6場所における3年間の成績によると,開花まで日数は54日で比較品種CD206(COODETEC)と同じ,生育日数は130日でCD206の129日より1日長い中生の早種に属します。主茎長は80cmでCD206と同等,最下着莢位置は17cmでCD206と同等かやや低い。百粒重は13.3gでCD206と同等かやや大きい。収量は3か年平均2,832kg/haで,CD206より5%高い値を示しました。線虫発生が確認されている北部及び東部の4か所平均では3,204kg/haで,CD206より11%多く,収量性は高いと判断されます。
倒伏抵抗性は強,裂莢性は難。子実の外観品質は良好で,蛋白及び脂肪含有率はそれぞれ42.0%,19.7%で,蛋白含有率が高い特性を有します。
(3)病虫害抵抗性
病害虫抵抗性については,カンクロ病抵抗性は強。圃場観察では,炭腐れ病,炭そ病,うどん粉病の被害は少なく,さび病,葉焼病には感受性です。ダイズシストセンチュウのレース3に対して抵抗性を示します。
(4)播種適期
Itapúa県における播種期試験の結果,早播(9月下旬から10月中旬)でも比較的高い収量を示しました。一方,12月中旬以降の晩播では,他の品種と同様に低収となりました。
3. 試験成績(具体的数値は省略)
(1)Cap. Miranda(Itapúa県):2004/05年及び2005/06年は旱魃の影響を受け,収量水準は低くなりました。3年間の平均では,生育期間及び収量はCD206と同等で,OCEPAR14やCD202より多収を示しました。(2)Tomas Romero Pereira(Itapúa県):3ヵ年とも比較品種に比べ低収てした。
(3)Colonia Yguazú(Alto Paraná県):CD206に比較し,生育期間がほぼ等しく,収量は35%多収を示しました。(4)Colonia Yjhovy(Canindeyú県):CD206に比較し,生育日数がほぼ等しく,収量は8%高い値を示しました。(5)Chore(San Pedro県):CD206に比較し,生育日数が2日短く,収量は25%多収でした。(6)J.E. Estigarribia(Caaguazu県):収量水準は高い値を示しました。1年の成績ですが,生育日数及び子実重はCD206とほぼ同等でした。
4. 考察
「中生の早」に属する草型良好な多収品種で,ダイズシストセンチュウのレース3に対して抵抗性を示します。
5. 栽培上の留意点
(1)「中生の早」である。適期播種のほか早播にも適する。(2)ダイズシストセンチュウに汚染された圃場でより能力を発揮する。(3)播種適期は10月20日から11月15日である。(4)アルトパラナ県,カニンデジュ県,カアグス県,サンペドロ県が適応地域である。(5)栽植密度は畦幅45cm,1m当たり10から13個体になるよう播種する。
6. 育成者
Ing.Agr.Eduardo Rodrigues, Ing.Agr.Carlos Chavez, Ing.agr.David Bigler, Bta.Anibal Morel Yurenga, Bta.Antonio Altamirano, Bta.Casiano Altamirano, Bta.Ruben Morel, Bta.Oscar Diaz, Ing.Agr.Michitaka Komeichi y Ing.Agr.Dr.Takehiko Tsuchiya
参照:土屋武彦2008「ダイズシストセンチュウ抵抗性大豆新品種候補LCM 167, LCM 168」専門家技術情報第6号,MAG-JICA
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