法事で帰郷したとき,遊び仲間だったF男が声を掛けてきた。
「イラクサの中に落ちて,大騒ぎになったことがあったなあ」
「4~5歳の頃だよね」
柿の木に登って遊んでいて,手を滑らして落ちた所がイラクサの群生地だったのだ。イラクサに触ると,皮膚がポコリと腫れ,我慢しきれないほど痛痒くなるのは体験して分かっていたが,この時は半袖シャツに半ズボンだったので悲劇だった。
多分,泣き喚いて,大騒ぎの事件だったのだろう。
イラクサ(Urtica thunbergiana,刺草,蕁麻)は,イラクサ科イラクサ屬,多年草で,茎や葉の表面に毛のようなトゲがある。トゲの基部にはアセチルコリンとヒスタミンを含んだ液体が入った嚢があり,トゲに触れると嚢が破れ,皮膚に着くと強い痛みを覚える。
竹林や樹の下など日陰に群生している。
イラクサには蕁麻という別称があり,蕁麻疹の言葉もこれから来ている。また,この毒素含有率には植物体によって変異があり,奈良公園のイラクサは鹿の食害をから生き残るために,自ら「トゲを多く持つ」型に進化したとの説がある(県南部のイラクサに比べ50倍以上のトゲがある,奈良女子大加藤禎孝ら)。
イラクサと同科に属し,より背が高く,茎太な植物も伊豆の山奥には群生している。カラムシ(Bothmeria nivea,苧)である。こちらには痛みを引き起こすような毒素を持たず,畑の縁や土手,道端,野原など広い範囲に生えていた。多年生で,草丈は1mを越える。繊維作物であったものが野生化したものだと言う(ラミーもこの一種)。
戦時中は刈集めて茎の皮を剥ぎ,供出するのを見た覚えがある。袋や衣類に加工していたのだろう。葉は広卵形で先がとがり,風が吹くと白い葉の裏側が波打つように見えた。ザラザラした感触だが柔らかい葉の植物だった。
カラムシに群棲した毛虫の記憶も生々しい。
ある年は,全身が黒くトゲがある小さな毛虫が大発生した。アカタテハ(Vanessa indica,タテハチョウ科)の幼虫であった。
ある年には,気味の悪い毛虫が大発生した。フクラスズメ(Arcte coerulea,ヤガ科)の幼虫である。頭が橙と黒で体側に黒い線,背中に白黒の横しまがある。細長い毛虫で体長は5~7cm位と大きかった。この毛虫は,植物に触るとその振動で危険を感じ,頭部を反らせて緑色の液体を吐き出し激しく頭を横に振り続ける。数十・数百頭が一斉に冠を振りザワザワと音を立てる様は,その毒々しい色もさることながら,子供心に恐怖心を覚えさせた。
これ等幼虫が群棲した後には,葉が食い尽くされた茎が棒となって残った。
このように,害虫が大発生する事例はしばしば観察された。
ある年は,家の裏に植えたゴマの葉に親指ほどに大きい青虫が発生した。瞬く間に葉を食い尽くす勢いであった。緑色のボッテリした体に黒と銀色の線が見えた。退治しなければと手で摘むと,予想外の強い力で葉に捉っている。潰すと体液の量に辟易した。聞けば,アゲハチョウの幼虫と言うことであった。当時は,戦後まもなくの頃で,農薬を使うこともなかったから,発生が目立ったのかも知れない。
余談になるが,40年後(昭和62年)の道北でアワヨトウ幼虫(Pseudaletia separata)の被害を目撃することになった。中国大陸から低気圧に伴う下層ジェット気流に乗って飛来した大群が,小麦や牧草を食い漁った。被害は相当のもので,茎だけが残った畑の調査に走り回った。畑の脇の側溝には死骸が層を成して堆積した。国道を走行する車は死骸の油でスリップするから,注意が必要だと言うことも知った。
群相型のアワヨトウの幼虫は黒っぽい体色をしていた。バッタも群棲すると変色するのだそうだ。何故なのだろう?
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