伊豆の山路を辿れば,路傍の木陰に「山イチゴ」(Rubus)の赤い実を見つけるだろう。光沢があり,瑞々しい。口に含めば甘さが広がる。ジャムに加工しても良いが,山歩きで手にする一粒が珠玉だ。あなたもこの味に接すれば,幼少の思い出が蘇るだろ。
山イチゴは「キイチゴ」の一種で茎にトゲがある。一方,伊豆の里山には「ヘビイチゴ」(Potentilla hebiichigo,バラ科キジムシロ屬)と呼ばれる多年草が自生している。子供の頃,「毒があるから食べるな」「蛇が食べる」と言われたが・・・,山イチゴとは形態が全く異なる。
この他にも,時期は違うが桑の実(Morus bombycis),山桜のさくらんぼ(Cerasus jamasakura),山ブドウ(Vitis coignetiae)などが手の届くところにあった。赤い実が黒く熟れると食べ頃で,小鳥と競うように食べたものだ。桑の実やさくらんぼは,口の中が青く染まって母親に見つかってしまう。
「お腹を壊しても知らないよ」
言われるのが嫌で沢の水で口を漱ぐが,簡単に消えるものではなかった。
アケビ(Akebia quinata)は絶好のおやつであった。蔓から紫色の実が割れて,中には種子を包む胎座が白く集まっている。これが上品に甘い。口に含み,舌先を使いながら種子の周りを上手に食べ,種子を吹き飛ばす。それが面倒で,大抵「種のまま食べて大丈夫だ」と言うことになるのだった。
小川にせり出すようにグミ(Elaeagnus)の木があった。最初の数粒は美味しいのだが,次第に渋みが口に貯まるようになる。
数は少ないがヤマモモ(Myrica rubra)の大木があった。所有者がいるので,これは勝手に採るわけにはいかなかったが,収穫した実はお裾分けされた(日持ちが悪い)。この木は枝が裂け易いので,木に登るときは気を付けろと学習した。
秋には,クリの実とシイの実拾いを楽しんだ。
クリ(Castanea crenata,ブナ科クリ屬)は,大粒の丹波栗が栽培されていたが,自生する小粒の山栗も美味しかった。縄文人の主食になっていたと言うから,昔から自生していたのだろう。渋皮を歯で剥いて生で食べればコリコリと甘みが拡がる。
「生で食べるとオデキが出来る」
と言って,大抵は家に持ち帰った。
シイ(Castaneoideae castanopis)は,ブナ科クリ亜科シイ屬で大木になり,堅い建材,シイタケのホダ木としても使われる。シイの実も,縄文時代には重要な食料であった。生でも食べられるが,フライパンで炒って食べると滅法美味しい。水に浸して浮いてくる虫食い粒を除くところから,食べる作業が始まっていた。炒ると厚皮が割れ,子供でも簡単に実を取り出せた。熱い実を掌で転がしながら口に運んだ。
遊び疲れると,ニッキ(Cinnamomum verum)の根を掘って,その皮をかじった。泥がジャリッと口に付くこともあったが,辛味と独特の芳香は疲れを癒した。ニッキはクスノキ科の常緑樹で,樹皮から香辛料(シナモン)が作られる。生薬の桂皮である。
ヤブツバキ(Camellia japonica)の実は拾い集めて油を搾った。高級食用油,髪油として使われ,最近は高価に取引されている。
さて,伊豆の旅人よ,予定を延ばして里山に遊んでみたら如何だろう? 自然の魅惑に心が癒されること請け合いだ。
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