フェニックスプロジェクト総括
日本がパラグアイ共和国に対して実施した技術協力(シスト線虫及び大豆さび病抵抗性品種の育成-フェニックスプロジェクト)が2008年に終了した。その総括です。
1.プロジェクトの背景を知ることから始める
専門家またはボランテイアとして海外の技術協力に参加するとき,まず何を確認すべきでしょうか。プロジェクト実施に至る背景を知ることだと思います。これによって,専門家自身の立つ位置,協力のスタンスを認識することになります。
標記のプロジェクト(シスト線虫及び大豆さび病抵抗性品種の育成:フェニックスプロジェクト)は,日本とパラグアイ両国の利益に適うものであり,かつ四半世紀にわたる協力の延長線上にあり,このプロジェクトの成功によって,成果が見込めるものでした。
2.どう活動しましたか?
プロジェクトはPDMにおいて,上位目標,プロジェクト目標,期待される成果,活動項目,投入項目等が決められ,両国間で合意されている。これに沿って活動するわけですが,本プロジェクトでは評価をより具体化するために,目標の数値化を行いました。すなわち,育種規模,発表論文数,カウンターパートの能力指数などを,プロジェクトの開始時と終了時で比較しようとするもので,これを「フェニックス効果」として示しました。
3.成果はどのようなものですか?
プロジェクト成果は次のように要約されます。①シスト線虫抵抗性の新品種が開発された(CRIA-6 Yjhovy,選抜場所の地名から命名した,パラグアイ初の抵抗性品種),②カウンターパートはシスト線虫の検定,選抜など抵抗性育種を自立して出来るようになった,③さび病抵抗性素材が選定された,④2年間で20点の研究成果及び資料をマニュアル等に取りまとめた,⑤フェニックス効果は230%と推定された。
4.課題はありますか?
問題点もいくつかありました。①国家公務員である研究員の低給与,研究費の不足からカウンターパートが民間企業へ転出,②病害虫(さび病,シスト線虫,炭腐れ病等)の被害が拡大,③遺伝子組換え大豆への行政対応の遅れ等です。
5.提言は?
プロジェクト終了にあたり,相手機関に提言を行いました。①技術革新が国の未来を開くことから,公的研究機関の水準向上に努めるべきである,②育種は農業研究の中核であるので,育種研究を継続すべきである,③大豆では,病害虫抵抗性(クリーンな持続性農業のために),食品加工用(付加価値を高めるために)品種の開発強化が課題である。
6.今後の協力のあり方について
今後シニアボランテイアの投入が想定されますが,研究協力としての側面を強くする必要があると思われます。自立発展を見守りながら,長期的視野でのスポット的な協力投入の体制を構築することが望まれます。なお,本プロジェクトはCETAPAR,JIRCAS,他の農牧省研究機関,民間研究所等と連携して事業を推進してきましたが,今後は共同研究や委託研究を含め,さらなる連携強化が必要になるでしょう。
7.展望
29年間の協力により蓄積された技術成果はこの国に深く根を張り,パラグアイでは大豆が国家経済を支えるまでになりました。一方,わが国にとっても大豆の安定供給が可能になったといえることです。躍進著しい南米大豆生産は,世界の食糧基地として今後一層重要になるに違いありません。
参照:土屋武彦2008「ダイズシストセンチュウ及び大豆さび病抵抗性品種の育成(フェニックスプロジェクト)を総括する」JICAパラグアイ事務所だより2008.4
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