南米の生活の中で,マテ茶は極めて重要である。朝起きて夫婦でまず一服,仕事始めに仲間で回し飲み,車で走れば助手席に座った人間が運転手に振る舞う。いつも,マテ(瓢箪で造った容器),ボンビージャ(先端に茶漉しの細かい穴が空いた金属製のストロー),ポットを持ち歩いている。ポットの中身は,アルゼンチンやウルグアイでは熱いお湯であるが,気温が高いパラグアイでは氷が入った冷水の場合が多い。冷水に薬草やハーブを入れて飲むマテ茶を,パラグアイではテレレ(Tereré)と呼ぶ。
マテ茶は,南米原産のジェルバ・マテ(Yerba maté,Ilex paraguariensis,モチノキ科モチノキ属に分類される常緑樹)の葉や小枝を乾燥させた茶葉に,お湯や冷水を注ぎ成分を浸出させて飲むお茶で,特殊な道具を使って飲用する。苦みが強い。ビタミンやミネラルの含有量が極めて高く,飲むサラダともいわれる。野菜を食べる習慣がなかった南米の地域では,重要な栄養摂取源でもある。
容器は,瓢箪をくりぬいたマテ,木や牛の角で作ったグアンパと呼ばれるものがあり,座りを良くする台座を着け,外側に銀細工の装飾を施したものが多い。アルゼンチン,ウルグアイ,ブラジル南部では瓢箪のマテが良いと聞いたが,パラグアイではパラサントなど木製のものが多かった。
一組の茶器を使い複数人が回し飲む習慣が一般的である。ホスト役がマテ茶を入れ,仲間に順次振る舞う。その作法は,次のようになる。
①ホスト役は茶器に1/2~3/4ほどジェルバ・マテを入れ,ボンビージャを立て,お湯を注いで,一煎目は自分で飲む。お湯の熱さ加減,茶の濃さ加減,うまく吸えるかなどの試飲である。
②二煎目は隣の客に渡す。受けた者はボンビージャで飲み干して,ホストに返す(飲み干してホストに返すのが手法で,客から客に渡さない)。
③ホストはお湯を注ぎ,次の客に渡す。飲み干してホストに返す。この繰り返しで,各人が満足するまで延々と続けられる。ホストは,お湯を注ぎ,時折ボンビージャの位置を変えたり茶葉を加えたりして味を調え,次の客に渡す(客はかってにボンビージャを動かしたりしない)。
④茶器をホストに返すとき「グラシャスGracias(ありがとう)」といえば,もう満足しましたということで,次からはサービスされない。
大抵の場合は,ポットのお湯がなくなるまで続けられる。人数が多ければ,お湯を沸かしながら続けることになる。朝の作業前,このテイセレモニー(おしゃべり時間)のために優に30分は必要になる。日本人が最初に出会うカルチャーショック。だが,慣れてくると,これがまた良い。「何をあくせくするの?アスタ・マニヤーナ,明日があるさ」ということになる。
パラグアイではテレレに入れる薬草やハーブを街角で売っている。路上や野原で摘んできて売り歩く裸足の子供もいる。薬草の種類は非常に多い。「これは腹痛に良い」「下痢にはこれ」「二日酔いには・・・」と使い分けている。小さい臼のような容器に入れて突き潰してから,冷水に浸して使用する。薬草の知恵は原住民ガラニーから受け継いでいて,野原や路傍で摘んでくることもある。私たちは夏に,薄荷やレモンを入れて飲んだが,暑さを忘れさせてくれた。
日本でも最近,元気が出る「マテ茶」の愛好者が増えている。