豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
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農業と雪,雪氷熱エネルギー

2011-10-07 10:57:21 | 恵庭散歩<本のまち、私の本づくり>

今年の1月,岩見沢を中心に局地的な大雪があった(札幌管区気象台によると,岩見沢の1月の降雪は平年対比58%増の337cm,冬期間トータルでは平年を18%下回る)。また,今年の冬は雪の事故が多かったこと,公の除雪対策や除雪費用など,豪雪に関わる話題が多かった。雪のマイナス面が強調されたが,一方雪を活用する試みは近年急速に進んでいる。

 

◆「北農」第402号(昭48)に,松山龍彦氏ら北農試・雪の研究班が取りまとめた特集記事「雪の研究―農業と雪―」が掲載されている。積雪期の農業実態,融雪促進の手法と効果(融雪促進剤・作業方法と経済性・雪上施肥),除雪作業(除雪方法・除雪機)について解説し,最後に「貯雪」について触れている。その中で,「現実には貯雪は行われていない。したがって需要はない。しかし,雪には水資源としての活用面,融雪現象を活用する冷凍剤的利用がある。今後,雪の利用について追求する必要がある」と述べている。

 

◆それから38年,雪の活用は拡大している。スノーフェステイバルのような観光資源としての活用,和寒町の越冬キャベツや沼田町の雪中米等が良く知られている。さらに近年,新エネ法施行(平成9年施行,平成14年改正)により雪氷熱エネルギーが新エネルギーとして位置づけられたこともあり,雪氷を施設の冷房,食材の貯蔵などに活用する事例が増えている。雪氷熱エネルギー活用事例集4(経済産業省,平成20年)には,120を超える事例が紹介されている。

 

◆松山氏らは論文の中で,農業研究が生産手段に偏った狭い範囲に限定されていると危惧し,広い角度で第一次産業研究者としてのアプローチが必要ではないのかと述べているが,総合的な研究は次第に実を結びつつある。農業・食品産業技術総合研究機構や北海道立総合研究機構など組織の再編が進み,分野を横断した研究は加速している。

 

◆陽だまりの雪どけに春を感じる。農業試験場の春季,それは成果の公表時である。今年も新たな研究成果が数多く世に送り出された。11721日の北海道農業試験会議(成績会議)を経て,普及奨励9,普及推進18,指導参考204,研究参考7課題が新技術として決定・公表された。これらの中から,本号では「新品種の成績概要」と「平成22年度の発生に鑑み注意すべき病害虫」の情報を紹介したが,その他についても順次掲載する予定である。

 

◆雪解けが始まった311日,東北地方太平洋沖地震の激震と津波が甚大な被害をもたらした。自然のエネルギーに驚愕,茫然自失。被災者の皆様に心からお見舞いを申し上げます。

 

参照:土屋武彦2011「編集後記」北農78244

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地球温暖化

2011-10-07 10:54:49 | さすらい考

2010年の夏(6月~8月)は記録的な高温で(平年比+1.7℃~+2.9℃),北海道内でも最高気温の極値を更新した所が多かった。また,地域によってはゲリラ降雨と呼ばれる短時間の強い雨や大雨の発生日数も多く,被害を受けた作物が多かった。生産者,技術者の皆様は,これらの対応に大変ご苦労されたことと思われる。本誌の主要農作物作況データが,昨年の夏を如実に記録している。

 

地球温暖化といわれる。この100年間で,年平均気温が世界で0.74℃,日本で1.07℃上昇し,最近になるほど上昇率が大きく,さらに21世紀末には,1980年代に比べ1.8℃~4.0℃上昇すると推定している(IPCC 2007)。人はこれまでにも,作物の適応性向上や栽培環境の改善を進めながら,いろいろな環境に対応して食料を得てきた。生産の安定化,効率化を支えたのは,間断なく進められた技術革新であった。環境変動は長期的に見れば緩やかに進むので,これまでの技術革新の延長線上(例えば類似の生態型利用)で対応可能であるが,最近の気象はどうやら急激に変動しがちで,変動幅も大きい。激変に対応するには,これまで以上に技術革新への研究投資が必要になってくるのではないだろうか。

 

◆佐野芳雄先生から「作物の遺伝的多様性―バビロフのみた世界―」と題する論説を頂いた。作物と人のかかわりから生じる遺伝的な多様性の意味を問い,「私達が必要とする遺伝資源は,環境変動の中で適応し続ける遺伝子群であって,冷蔵庫の中で進化を停止したものだけでは不十分なのである」「長い歴史の中で人と自然によって育まれてきた作物の遺伝的多様性はより一層かけがえのないものであるという認識を深めたい」など,示唆に富む内容である。

 

佐藤導謙氏が「小麦育種における特筆すべき母材」を紹介しているが,北海道における適応品種開発では,海外からの導入品種が多く使われてきた。その他の作物においても同様である。氏が述べるように,多くの遺伝資源を利用し優良遺伝資源の集積を図る努力を,今後も怠ってはなるまい。また,育種の現場では,手持ち材料の遺伝子幅を広げる努力があってこそ,急激に変動する環境に対応できるだろう。資源ナショナリズムが強まる中ではあるが,将来を見据えた戦略が求められる。

 

松本直幸氏の総説「雪腐病」は今回で終結です。氏の業績を縦糸にして「雪腐病」についての総論を,8回にわたり分かりやすく解説頂きました。ご執筆に感謝申し上げます。

 

安孫子賞と北農賞の贈呈式が,多くの関係者の皆様ご臨席のもと,去る1216日札幌京王プラザホテルで執り行われた。本年度,安孫子賞が第51回,北農賞が第71回に当たる。業績概要については,本誌に紹介した。受賞者の皆様,心からお慶びを申し上げます。

 

参照:土屋武彦2011「編集後記」北農78131

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風評被害

2011-10-07 10:50:16 | さすらい考

311日に発生した東日本大震災を発端とした福島第一原子力発電所事故。農水産物に対して「風評被害」が問題になっている。

 

◆「風評被害」の言葉が広く使われるようになったのは,1954年の第五福竜丸被爆事件後の放射能パニック,1974年の原子力船「むつ」の放射線漏れ事故,1996年のカイワレ大根O157集団感染,1997年ナホトカ号の重油流出事故,1999年所沢のダイオキシン報道など,1900年代後半からである。最近では,2004年トリインフルエンザ,2010年口蹄疫,2011年ドイツ北部の腸管出血性大腸菌感染事件などが,記憶に新しい。

 

◆この言葉はマスコミ用語として定着し,確かな定義がないまま使われてきた。関谷直也氏は風評被害を「ある社会問題が報道されることによって,本来,安全とされるものを人々が危険視し,消費,観光,取引をやめることなどによって引き起こされる経済的被害」と定義している。被害が発生しやすい背景には,情報過多社会(誰もがメデイアの影響を受けざるを得ない),安全社会(安全があたりまえ),高度流通社会(流通が発達し多くのものが代替可能)が根底にあるという。そして,膨大過度の報道(繰り返される映像),情報の不足(切り取られた情報),不安をあおる行動によって,風評被害は大きくなる。

 

◆そもそも「風評被害」は,人間が自分を守りたいという本能に基づく正常な行動で,情報が不足したときにおこる社会行動である。それ故,風評被害を皆無にするのは難しい。が,軽減することはできるだろう。対策は,科学に基づく正確な情報を,隠さず,分かりやすく提供し,無知による不安の連鎖を断ち切ることに尽きる。自然科学はこれまでも多くの研究成果を蓄積してきた。自然科学者(技術者)には,正確で理解しやすい言葉での情報提供が求められよう。情報発信にあたって我々は,分かりやすく伝えることを考えてきただろうか。

 

◆一方,「安全なのに,不安の連鎖で被害が拡大する」ことが風評被害だとすれば,自然科学者の間でも安全性の議論が分かれ,リスクを伴う放射能汚染の場合は定義の範疇を超える。この場合,リスクを前提にした「許容量」の概念(どこまでリスクを我慢して,そのプラスを受け入れるか)を受け入れ,対策を講じざるを得ない。自然科学者は,許容量の概念に科学的な答えを出せるのだろうか。出してきただろうか。社会科学との協働が必要になってきた

 

*参照:土屋武彦2011「編集後記」北農78485

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