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マチュ・ピチュ,インカの失われた天空都市,ミステリアスな想いに浸る

2011-10-03 17:42:32 | ラテンアメリカ旅は道連れ<南米旅日記>

マチュ・ピチュの空は青かった

「世界遺産の中で,行ってみたいところは?」

この問いに「ペルーのマチュ・ピチュ(Machu Picchu,ケチュア語で老いた峰)」と答える人が多いだろう。「空中都市」「インカの失われた都市」などと呼ばれ,山の峰に広がるこの遺跡を,ハイラム・ビンガムによる発見物語と共に,書物や映像で見聞し感動を覚えた経験が誰にもある。

早朝のまだ暗いうちにクスコ郊外のサンペドロ駅に行く。この鉄道に乗車したのは,ペルー国鉄が民営化したばかりの19999月のことであった。旅行代理店の担当者は前日,「民営化の混乱で,予約していた切符もどうなるか分からない。1時間前には駅に到着するように」と念を押した。まさに予告通り,駅には多くの乗客が集まり,予約客も乗車できない騒ぎ。駅係員との交渉1時間,ようやく増結車両が届いて出発という顛末であった。

さて,豪華な列車はクスコの街を見ながら山肌をスイッチバックしながら登る。山を越えた列車はウルバンバ川に沿って走る。両側にそそり立つ岸壁を眺めながら列車は曲がりくねって進む。時折,開けた場所にカンペシーノ(インデイオ)の集落があり,石垣で囲った畑が家の周りに眺められる。終着駅はマチュ・ピチュ村のアグアス・カリエンテス駅。クスコからの総距離は114kmだという。

バスに乗り換え,つづら折りの「ビンガムロード」を約30分かけて上って行く。麓からの標高差400m,断崖と尖った山々,密林の樹木に囲まれた麓の沢からは,天上の遺跡を確認することはできない。

遺跡は,マチュ・ピチュ山(標高2940m)とワイナピチュ山(2,690m)を結ぶ尾根にある。周囲の山々を眼下に見下ろす。マチュ・ピチュ遺跡は,山の傾斜を利用した段々畑(3mの段差40段)と,城壁に囲まれた建造物の石組みからなっている。太陽の神殿,王女の宮殿,神官の館,聖職者の居住地,貴族の居住地,技術者の居住地,庶民の居住地などに分けられ,一つの都市を形作っている。遺跡には,インカ道が繋がり,古くから整備された水道が今も水を供給している。

この遺跡は,イエール大学のハイラム・ビンガムによって1911年に発見された。当時この発見は,伝説の都ビルカバンバ(インカ帝国がスペインによって征服され,最後にインカ軍が立てこもった奥地の基地)の発見だと思われた(現在では,ビルカバンバはさらに奥地のエスピリトウパンパと言われている)。ビンカムはその後数回の発掘を行い,「失われたインカの都市」「インカの要塞」などの論文や著作を発表。太陽を崇める神官たちの統治,太陽の処女たちが生贄にされた神殿という説が形成された。

最近になり,ビンガムより先にクスコの農場主リサラガが1902年に発見していたとの説も浮上。この説は今後の検証を要するが,外国人の探検家より先にこの地に入ったペルー人がいてもおかしくない。更に,イエール大学等の最近の研究によれば,この地は「高地であり,かつ両側が切り立った崖の上にあるため太陽観測に最も適し,インカ人が崇めていた太陽に最も近いという理由から,作られた建造物」だとされる。頂上には太陽の神殿,インテイワタナ(太陽を繋ぎ止める石)があり,夏至と冬至を正確に測量できるなど,太陽暦が作成され,それに基づいて神事や農業が進められていた。インカの神は,日本やエジプトと同じく太陽神であり,マチュ・ピチュは宗教都市であったと考えられる。

斜面に広がる段々畑にはトウモロコシやジャガイモ等200種以上の作物を栽培したという。ガイドは,「この段々畑は,農業試験場だったという説がある」と説明した。生産物は神への供物,ここに住む人々の食糧であったろうが,その他にも,険しい山が連なるこの地域で増加する人口を養うための食糧生産は大きな命題となっていて,増産に向けての試行錯誤(農業試験)があったことは疑いない。山の高いところにどの作物を植え,麓に近いところに何を播くか,暦のどの時期に播種していつ収穫するか,検討されたことだろう。また,この急斜面に数百年も崩れない石垣を築いた技術も素晴らしい。

遺跡の建造物を見渡せる段々畑に立って,誰もが感慨に浸っている。中央広場に座って,黙し続ける若い旅人がいる。発掘や新技術を導入した研究によって,遺跡は真の姿を次第に表しつつあるが,マチュ・ピチュがミステリアスであることに変わりはない。「何故天空なのか?」「巨石を運び,どのように建設されたのか?」「どのような生活が営まれていたか?」「何故,この都市が滅び,消え去ったのか?」,貴方も此処に立ったら,そんな想いを馳せるだろう。そして,何年かしたら,もう一度訪ねてみたいと思うに違いない

マチュ・ピチュの空は青かった。

  

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コメント
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