豆の育種のマメな話

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コンバイン収穫に道を拓いた「カリユタカ」の誕生と収穫調製技術

2011-05-21 15:49:41 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

今からおよそ40年前,北海道農業は人力・馬耕の時代からトラクタによる機械化農業へと転換し,生産性の高い農業が営まれるようになった。昭和40年代後半には農家1戸に1台のトラクタが完備され,馬鈴薯や甜菜の収穫機も導入されるなど,畑作の機械化作業体系が完成したと言われた。

 

大豆の収穫も昭和43年にビーンハーベスタが開発され,収穫作業は鎌による手刈りからハーベスタによる収穫へと移行したが,ハーベスタによる刈り取りは裂莢による損失を避けるため朝露のある早朝に実施しなければならなかった。また,乾燥のためにニオ積み作業が必要で,この作業は腰を屈めて行うつらい作業であった。これは,わが国の品種が裂莢し易いこと,大粒であること,流通上外観品質が重要視される事などから,収穫・脱穀・調製作業に相変わらずの手作業を余儀なくされていたことによる。

 

しかし,農家戸数が年々減り,高齢化や農業労働力の不足が顕在化し,一層の省力化が求められる中で,早急にコンバイン収穫による機械化体系が確立されなければ,北海道から大豆栽培が姿を消すのではないかと危惧される状況にあった。

 

わが国初のコンバイン収穫向き品種カリユタカ

十勝農試では昭和50年に機械化適応性品種の開発を開始し,わが国の白目大粒の良質品種へ外国品種の難裂莢因子導入を計画した。筆者らは,難裂莢性の遺伝資源として,東南アジア,アメリカ,中国からの導入品種を片親にして交配を繰返し,優良形質の集積を図った。しかし,難裂莢性の外国品種は,晩熟,小粒で,耐冷性,耐倒伏性が劣るなど,育成は困難を極めた。

 

そして平成3年,幾多の困難を克服してわが国で最初のコンバイン収穫向き品種カリユタカが開発された。カリユタカは,北海道の白目大粒品種ヒメユタカとUSAから導入したClark Dt2を昭和五五年に交配し,11年かけて選抜育成したものである。カリユタカの誕生は,北海道でも大豆のコンバイン収穫が可能であることを証明し,関係者に大豆生産拡大の希望を抱かせるものであった。本品種開発の意義は大きいといえる。

 

南国の難裂性遺伝子が北国で花開く

カリユタカ育成から七年後の平成10年には,早生のコンバイン収穫向き品種ハヤヒカリが育成された。この品種のルーツは,実はタイ国にある。昭和45年,タイ国チエンマイのメジョー農試で,北海道品種カリカチとタイ国品種SJ-2の交配が行われた。カリカチとSJ-2との交配から生まれた10粒の種子は,雑種第4代までタイ国で育てられ,その中からタイ国では熟期が早すぎて利用できない一部の材料が,タイ国農務局の同意を得て十勝農試へ譲渡された。筆者らは,昭和49年に導入されたこれら材料を試験圃場へ播種し,熟期,耐倒伏性,品質等が優れる6系統を選抜した。しかし,これらの系統は,百粒重が20g程度と小粒で,耐倒伏性も十分でなく,残念ながら実用品種に耐えうるものではなかった。その後SJ-2の難裂莢性遺伝子は,タイ7012-56,十系679号と3サイクルの改良を経て,ハヤヒカリとして結実した。

 

複合抵抗性を付与したユキホマレ,トヨハルカ

さらに,平成13年に新品種となったユキホマレも難裂莢性遺伝子をタイ国のSJ-2から引き継いでいる。SJ-2の難裂莢性遺伝子は,タイ7012-28,十育207号,十系783号を経てユキホマレとして結実した。ユキホマレは,31年間に及ぶ4サイクルの育種過程を積み重ねて育成された,早生,耐冷性,シスト線虫抵抗性を有するコンバイン収穫向き品種である。そして平成15年には,カリユタカの血を受け継ぐ新品種トヨハルカが世に出た。トヨハルカは,耐冷性,シスト線虫抵抗性など複合抵抗性を有し,かつ大粒白目で良質のコンバイン収穫向き品種である。本品種の草型は分枝が少ない主茎型であるため,密植栽培で実力を発揮するだろう。

 

繊細な収穫調製技術が良質生産を支える

品種育成と並行して機械開発の分野でも多くの成果が見られた。昭和42年に開発されたビーンハーベスタは「豆産地・十勝」が世に送り出した世界に類のない農業機械であったが,その後開発された大豆用コンバイン,汎用コンバイン,ニオ積機,ピックアップ収穫,子実クリーナ等もわが国の環境に適合した秀逸な農業機械・システムといえよう。湿潤な秋の気象条件下,大粒で良質な子実を損傷させることなく収穫調製するために,わが国の機械屋の英知が結集された製品である。

 

大豆の省力化は,他の畑作物に比較し飛躍的に向上したとは残念ながら言いがたいが,本稿で述べたように育種屋と機械屋の協力によってコンバイン収穫向品種や農機具開発が着実に進展し,機械化作業体系は生産現場で現実のものとなった。平成16年の実態調査によると,大豆のコンバイン収穫が全道で約70%,空知・後志管内では9095%に達していると推定された。10a当たり投下労働時間も,昭和40年の30時間から12時間に減少し,先進的生産者の中には,さらなる省力化の事例が多くみられる。

 

十勝農試が機械化適応性品種の開発を始めてから30年,コンバインで刈れるマメを創りたい,大豆生産の省力化を図りたいとの夢は現実となった。カリユタカの誕生及びそれにともなう独創的な日本型収穫調製機械の開発は,北海道農業(大豆生産)の分岐点で重要な役割を果たした技術と位置づけられよう。


参照:土屋武彦2006北海道農業の分岐点-大豆2,コンバイン収穫に道を開いた「カリユタカ」の誕生と良質生産を可能にした収穫調製技術」ニューカントリー53(2),62-63

 

 

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