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記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 日本書紀歌謡 後半部 及び 続日本紀

2016年04月11日 | 資料書庫
記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 日本書紀歌謡 後半部 及び 続日本紀

日本書紀 歌謡 歌謡歌番 六六~百二八

日本書紀 歌謡六六
原歌 佐瑳羅餓多 邇之枳能臂毛弘 等枳舎気帝 阿麻哆絆泥受邇 多儾涴比等用能未
読下 ささらがた にしきのひもを ときさけて あまたはねずに ただひとよのみ
解釈 ささらがた 錦の紐を 解き放けて 數多は寢ずに 唯一夜のみ

日本書紀 歌謡六七
原歌 波那具波辞 佐区羅能梅涅 許等梅涅麼 波椰区波梅涅孺 和我梅豆留古羅
読下 はなぐはし さくらのめで ことめでば はやくはめでず わがめづるこら
解釈 花細し 櫻の愛(め)で こと愛では 早くは愛でず 我が愛づる子等

日本書紀 歌謡六八
原歌 等虚辞陪邇 枳弥母阿閉椰毛 異舎儺等利 宇弥能波摩毛能 余留等枳等枳弘
読下 とこしへに きみもあへやも いさなとり うみのはまもの よるときときを
解釈 常しへに 君も遇へやも いさなとり 海の浜藻の 寄る時々を

日本書紀 歌謡六九
原歌 阿資臂紀能 椰摩娜烏菟絇利 椰摩娜箇弥 斯哆媚烏和之勢 志哆那企弐 和餓儺勾菟摩 箇哆儺企弐 和餓儺勾兎摩 去樽去曾 椰主区泮娜布例
読下 あしひきの やまだをつくり やまだかみ したびをわしせ したなきに わがなくつま かたなきに わがなくつま こぞこそ やすくはだふれ
解釈 あしひきの 山田をつくり 山高み 下樋を走しせ 下泣きに 我が泣く妻 片泣きに 我が泣く妻 今夜こそ 安く膚觸れ

日本書紀 歌謡七〇
原歌 於褒企弥烏 志摩珥波夫利 布儺阿摩利 異餓幣利去牟鋤 和餓哆哆瀰由梅 去等烏許曾 哆多瀰等異絆梅 和餓菟摩烏由梅
読下 おほきみを しまにはぶり ふなあまり いがへりこむぞ わがたたみゆめ ことをこそ たたみといはめ わがつまをゆめ
解釈 大君を 島に葬り 船餘り い還り来むぞ 我が畳斎め 辞をこそ 畳と云はめ 我が妻を 斎め

日本書紀 歌謡七一
原歌 阿摩儾泮霧 箇留惋等売 異哆儺介縻 臂等資利奴陪瀰 幡舎能夜摩能 波刀能 資哆儺企邇奈勾
読下 あまだむ かるをとめ いたなかば ひとしりぬべみ はさのやまの はとの したなきになく
解釈 天飛む 軽孃子 甚泣かば 人知りぬべみ 波佐の山の 鳩の 下泣きに泣く

日本書紀 歌謡七二
原歌 於朋摩弊 烏摩弊輸区泥餓 訶那杜加礙 訶区多智豫羅泥 阿梅多知夜梅牟
読下 おほまへ をまへすくねが かなとかげ かくたちよらね あめたちやめむ
解釈 大前 小前宿禰が 金戸蔭 斯く立ち寄らね 雨立ち止めむ

日本書紀 歌謡七三
原歌 瀰椰比等能 阿由臂能古輸孺 於智珥岐等 瀰椰比等等豫牟 佐杜弭等茂由梅
読下 みやひとの あゆひのこすず おちにきと みやひととよむ さとびともゆめ
解釈 宮人の 足結の小鈴 落ちにきと 宮人動む 里人も 斎め

日本書紀 歌謡七四
原歌 飫瀰能古簸 多倍能波伽摩鳴 那那陛鳴紡 爾播爾陀陀始諦 阿遥比那陀須暮
読下 おみのこは たへのはかまを ななへをし にはにたたして あよひなだすも
解釈 臣の子は 栲の袴を 七重をし 庭に立たして 足結ひ撫だすも

日本書紀 歌謡七五
原歌 野磨等能 嗚武羅能陀該爾 之之符須登 柁惋例柯挙能居登 飫褒磨陛爾麻嗚須 (一本、以「飫褒磨陛爾麻鳴須」易「飫褒枳弥爾麻嗚須」 )飫褒枳瀰簸 賊拠嗚枳舸斯題 柁磨磨枳能 阿娯羅爾陀陀伺 (一本、以「陀陀伺」易「伊麻伺」 )施都魔枳能 阿娯羅爾陀陀伺 斯斯魔都登 倭我伊麻西麼 佐謂麻都登 倭我陀陀西麼 陀倶符羅爾 阿武柯枳都枳都 曾能阿武嗚 婀枳豆波野倶譬 波賦武志謀 飫褒枳瀰爾磨都羅符 儺我柯陀播於柯武 婀岐豆斯麻野麻登 (一本、以「婆賦武志謀」以下易「舸矩能御等 難爾於婆武登 蘇羅濔瀰豆 野磨等能矩爾嗚 婀岐豆斯麻登以符」)
読下 やまとの をむらのたけに ししふすと たれかこのこと おほまへにまをす (あるふみに、「おほまへにまをす」をもちて「おほきみにまをす」にかふ〉おほきみは そこをきかして たままきの あぐらにたたし (あるふみに、「たたし」をもちて「いまし」にかふ〉しつまきの あぐらにたたし ししまつと わがいませば さゐまつと わがたたせば たくぶらに あむかきつき そのあむを あきづはやくひ はふむしも おほきみにまつらふ ながかたはおかむ あきづしまやまと (あるふみに、「はふむしも」よりしもをもちて「かくのごと なにおはむと そらみつ やまとのくにを あきづしまといふ」にかふ)
解釈 倭の 小村の岳に 鹿猪伏すと 誰か 此の事 大前に奏す (一本「大前に奏す」を「大君に奏す」に易へたり。) 大君は 其を聞かして 玉纒の 胡床に立たし 倭文纒の 胡床に立たし 猪鹿待つと 我がいませば さ猪待つと 我が立たせば 手腓に 虻かきつきつ その虻を 蜻蛉はや囓ひ はふ虫も 大君に奉らふ 汝が形は置かむ 蜻蛉島倭 (一本「昆ふ虫も」以下を、「斯くのみと名を負はむと、そらみつ倭の国を蜻蛉島といふ」に易へたり。)

日本書紀 歌謡七六
原歌 野須瀰斯志 倭我飫褒枳瀰能 阿蘇麼斯志 斯斯能 宇柁枳舸斯固瀰 倭我尼碍能褒利志 阿理嗚能宇倍能 婆利我曳陀 阿西嗚
読下 やすみしし わがおほきみの あそばしし ししの うたきかしこみ わがにげのぼりし ありをのうへの はりがえだ あせを
解釈 やすみしし 我が大君の 遊ばしし 猪鹿の うたき畏み 我が 逃げ上りし あり丘の上の 梁が枝だ あせを

日本書紀 歌謡七七
原歌 挙暮利矩能 播都制能野磨播 伊底柁智能 与慮斯企野磨 和斯里底能 与盧斯企夜磨能 拠暮利矩能 播都制能夜麻播 阿野爾于羅虞波斯 阿野爾于羅虞波斯
読下 こもりくの はつせのやまは いでたちの よろしきやま わしりでの よろしきやまの こもりくの はつせのやまは あやにうらぐはし あやにうらぐはし
解釈 隱り国の 泊瀬の山は 出で立ちの 宜しき山 走り出の 宜しき山 隱り国の 泊瀬の山は あやにうら麗し あやにうら麗し

日本書紀 歌謡七八
原歌 柯武柯噬能 伊制能 伊制能奴能 娑柯曳鳴 伊褒甫流柯枳底 志我都矩屡麻泥爾 飫褒枳濔爾 柯陀倶 都柯陪麻都羅武騰 倭我伊能致謀 那我倶母鵝騰 伊比志柁倶弥播夜 阿柁羅陀倶弥播夜
読下 かむかぜの いせの いせののの さかえを いほふるかきて しがつくるまでに おほきみに かたく つかへまつらむと わがいのちも ながくもがと いひしたくみはや あたらたくみはや
解釈 神風の 伊勢の 伊勢の野の 栄枝を 五百経る懸きて 其が盡くるまでに 大君に 堅く 仕へ奉らむと 我が命も 長くもがと 云ひし工匠はや あたら工匠はや

日本書紀 歌謡七九
原歌 耶麼能謎能 故思麼古唹衛爾 比登涅羅賦 宇麼能耶都擬播 鳴思稽矩那欺
読下 やまのべの こしまこゆゑに ひとでらふ うまのやつぎは をしけくもなし
解釈 山辺の 小島子ゆゑに 人衒らふ 馬の八匹は 惜しけくもなし

日本書紀 歌謡八〇
原歌 婀柁羅斯枳 偉儺謎能陀倶弥 柯該志須弥儺播 旨我那稽麼 柁例柯柯該武預 婀柁羅須弥儺播
読下 あたらしき ゐなべのたくみ かけしすみなは しがなけば たれかかけむよ あたらすみなは
解釈 あたらしき 韋名部の工匠 繋けし墨繩 其が無けば 誰か繋けむよ あたら墨繩

日本書紀 歌謡八一
原歌 農播柁磨能 柯彼能矩盧古磨 矩羅枳制播 伊能致志儺磨志 柯彼能倶盧古磨 (一本、換「伊能致志儺磨志」而云「伊志柯孺阿羅磨志」 )
読下 ぬばたまの かひのくろこま くらきせば いのちしなまし かひのくろこま( あるふみに、「いのちしなまし」にかへて「いしかずあらまし」といふ )
解釈 ぬば玉の 甲斐の黒駒 鞍著せば 命死なまし 甲斐の黒駒 (一本に「命死なまし」に換へて「い及かずあらまし」と云へり。)

日本書紀 歌謡八二
原歌 濔致爾阿賦耶 鳴之慮能古 阿毎爾挙曾 枳挙曳儒阿羅毎 矩爾爾播 枳挙曳底那
読下 みちにあふや をしろのこ あもにこそ きこえずあらめ くにには きこえてな
解釈 道に逢ふや 尾代の子 母にこそ 聞えずあらめ 国には 聞えてな。

日本書紀 歌謡八三
原歌 伊儺武斯廬 呵簸泝比野儺擬 寐逗愈凱麼 儺弭企於巳陀智 曾能泥播宇世儒
読下 いなむしろ かはそひやなぎ みづゆけば なびきおきたち そのねはうせず
解釈 稻莚 河副ひ柳 水行けば 靡き起き立ち 其の根は失せず

日本書紀 歌謡八四
原歌 野麻登陛爾 瀰我保指母能婆 於尸農瀰能 莒能陀紀儺屡 都奴娑之能瀰野
読下 やまとへに みがほしものは おしぬみの このたかきなる つのさしのみや
解釈 倭辺に 見が欲しものは 忍海の 此の高城なる 角刺の宮

日本書紀 歌謡八五
原歌 阿佐膩簸囉 嗚贈禰嗚須擬 謨謀逗柁甫 奴底喩羅倶慕与 於岐毎倶羅之慕
読下 あさぢはら をそねをすぎ ももづたふ ぬてゆらくもよ おきめくらしも
解釈 浅茅原 小曾根を過ぎ 百伝ふ 鐸(ぬて)揺らぐもよ 置目来らしも

日本書紀 歌謡八六
原歌 於岐毎慕与 阿甫弥能於岐毎 阿須用利簸 弥野磨我倶利底 弥曳孺謨阿羅牟
読下 おきめもよ あふみのおきめ あすよりは みやまがくりて みえずかもあらむ
解釈 置目もよ 淡海の置目 明日よりは 深山隱りて 見えずかもあらむ

日本書紀 歌謡八七
原歌 之褒世能 儺鳴理鳴弥黎麼 阿蘇寐倶屡 思寐我簸多泥爾 都摩陀弖理弥喩 (一本、以「之褒世」易「弥儺斗」 )
読下 しほせの なをりをみれば あそびくる しびがはたでに つまたてりみゆ ( あるふみに、「しほせ」をもちて「みなと」にかふ )
解釈 潮瀬の 余波を見れば 遊び来る 鮪が鰭手に 妻立てり見ゆ(一本「潮瀬」を「水門」に易ふ。)

日本書紀 歌謡八八
原歌 飫濔能古能 耶陛耶羅枳 瑜屡世登耶 濔古
読下 おみのこの やへやからかき ゆるせとや みこ
解釈 臣の子の 八重や唐垣 許せとや 御子

日本書紀 歌謡八九
原歌 飫褒陀致鳴 多黎播枳多致弖 農儒登慕 須衛婆陀志弖謀 阿波夢登茹於謀賦
読下 おほたちを たれはきたちて ぬかずとも すゑはたしても あはむとぞおもふ
解釈 大太刀を 垂れ佩き立ちて 拔かずとも 末は足しても 遇はむとぞ思ふ

日本書紀 歌謡九〇
原歌 飫褒枳瀰能 耶陛能矩瀰枳 々梅謄謀 儺嗚阿摩之耳弥 々農倶弥柯枳
読下 おほきみの やへのくみかき かかめども なをあましじみ かかぬくみかき
解釈 大君の 八重の組垣 懸かめども 汝を有ましじみ 懸かぬ組垣

日本書紀 歌謡九一
原歌 於弥能姑能 耶賦能之魔柯枳 始陀騰余濔 那為我与釐拠魔 耶黎夢之魔柯枳 (一本 以「耶賦能之魔柯枳」易「耶陛羅枳」 )
読下 おみのこの やふのしばかき したとよみ なゐがよりこば やれむしばかき (あるふみに「やふのしばかき」をもちて「やへからかき」にかふ )
解釈 臣の子の 八符の柴垣 下動み 地震が震り来ば 破れむ柴垣(一本に「八符の柴垣」を「八重唐垣」に易へたり。)

日本書紀 歌謡九二
原歌 挙騰我瀰爾 枳謂屡箇皚比謎 施摩儺羅磨 婀我褒屡柁摩能 婀波寐之羅陀魔
読下 ことがみに きゐるかげひめ たまならば あがほるたまの あはびしらたま
解釈 琴頭に 来居る影媛 玉ならば 我が欲る玉の 鰒白珠

日本書紀 歌謡九三
原歌 於褒枳瀰能 瀰於寐能之都波柁 夢須寐陀黎 陀黎耶始比登謀 阿避於謀婆儺倶爾
読下 おほきみの みおびのしつはた むすびたれ たれやしひとも あひおもはなくに
解釈 大君の 御帯の倭文幡 結び垂れ 誰やし人も 相思はなくに

日本書紀 歌謡九四
原歌 伊須能箇瀰 賦屡嗚須擬底 挙慕摩矩羅 施箇播志須擬 慕能娑幡爾 於褒野該須擬 播屡比能 箇須我嗚須擬 逗摩御暮屡 嗚佐褒嗚須擬 柁摩該爾播 伊比佐倍母理 柁摩暮比爾 瀰逗佐倍母理 儺岐曾褒遅喩倶謀 柯尋比謎阿婆例
読下 いすのかみ ふるをすぎて こもまくら たかはしすぎ ものさはに おほやけすぎ はるひの かすがをすぎ つまごもる をさほをすぎ たまけには いひさへもり たまもひに みづさへもり なきそほちゆくも かげひめあはれ
解釈 石の上 布留を過ぎて 薦枕 高橋過ぎ 物多に 大宅過ぎ 春日 春日を過ぎ 嬬籠る 小佐保を過ぎ 玉笥には 飯さへ盛り 玉もひに 水さへ盛り 泣き沾ち行くも 影媛あはれ

日本書紀 歌謡九五
原歌 婀嗚爾与志 乃楽能婆娑摩爾 斯斯弐暮能 瀰逗矩陛御暮黎 瀰儺曾々矩 思寐能和倶吾嗚 阿娑理逗那偉能古
読下 あをによし ならのはさまに ししじもの みづくへごもり みなそそく しびのわくごを あさりづな ゐのこ
解釈 あをによし 奈良の峡間に 猪鹿じもの 水漬く辺隱り 水灌ぐ 鮪の若子を 漁り出な 猪の子

日本書紀 歌謡九六
原歌 野紡磨倶爾 都磨磨祁泥底、播屡比能 可須我能倶爾爾 倶婆紡謎鳴 阿利等枳枳底 与慮志謎鳴 阿利等枳枳底 莽紀佐倶 避能伊陀図鳴 飫斯毘羅枳 倭例以梨魔志 阿都図唎 都麼怒唎紡底 魔倶囉図唎 都麼怒唎紡底 伊慕我堤鳴 倭例爾魔柯斯紡毎 倭我堤嗚麼 伊慕爾魔柯斯毎 麼左棄逗囉 多多企阿蔵播梨 矢泪矩矢慮 于魔伊禰矢度爾 爾播都等唎 柯稽播儺倶儺梨、奴都等利 枳蟻矢播等余武 婆紡稽矩謨 伊麻娜以幡孺底 阿開爾啓梨 倭蟻慕
読下 やしまくに つままきかねて はるひの かすがのくにに くはしめを ありとききて よろしめを ありとききて まきさく ひのいたとを おしひらき われいりまし あととり つまどりして まくらとり つまどりして いもがてを われにまかしめ わがてをば いもにまかしめ まさきづら たたきあざはり ししくしろ うまいねしとに にはつとり かけはなくなり のつとり きぎしはとよむ はしけくも いまだいはずて あけにけりわぎも
解釈 八島国 妻求けかねて 春日の 春日の国に 麗し女を 在りと聞きて 宜し女を 在りと聞きて真木拆く 檜の板戸を 押し開き 我入り坐し 後取り 妻取りして 枕取り 妻取りして 妹が手を 我に纏かしめ 我が手をば 妹に纏かしめ 真木葛 手抱き交はり ししくしろ 熟睡寢し時に 庭つ鳥 鷄は鳴くなり 野つ鳥 雉は響む 愛しけくも いまだ言はずて 明けにけり我妹

日本書紀 歌謡九七
原歌 莒母唎矩能 簸都細能婆庚 那峨例倶屡 駄開能 以矩美娜開余儾開 謨等等陛嗚麼 莒等爾都倶唎 須衛陛嗚麼 府曳爾都倶唎 府企儺須 美母盧我紆陪爾 能朋梨陀致 倭我弥細麼 都奴娑播符 以簸例能伊聞能 美那矢駄府 紆嗚謨 紆陪儾莒堤堤那皚矩 野須美矢矢 倭我於朋枳美能 於魔細屡 娑佐羅能美於寐能 武須弥陀例駄例夜矢比等母 紆陪儾泥堤那皚矩
読下 こもりくの はつせのかはゆ ながれくる たけの いくみだけよだけ もとへをば ことにつくり すゑへをば ふえにつくり ふきなす みもろがうへに のぼりたち わがみせば つのさはふ いはれのいけの みなしたふ うをを うへにでてなげく やすみしし わがおほきみの おばせる ささらのみおびの むすびたれ たれやしひとも うへにでてなげく
解釈 隱り国の 泊瀬の川ゆ 流れ来る 竹の 茂み竹 吉竹 本辺をば 琴に作り 末辺をば 笛に作り 吹き鳴す 御諸が上に 登り立ち 我が見せば 角障ふ 磐余の池の 水下ふ魚も 上に出て歎くやすみしし 我が大君の 帯ばせる 細紋の御帯の 結び垂れ 誰やし人も 上に出て歎く

日本書紀 歌謡九八
原歌 比羅駄唹 輔曳輔枳能朋楼 阿苻美能野 那能倭倶吾伊 輔曳府枳能朋楼
読下 ひらかたゆ ふえふきのぼる あふみのや けなのわくごい ふえふきのぼる
解釈 枚方ゆ 笛吹き上る 近江のや 毛野の若子い 笛吹き上る

日本書紀 歌謡九九
原歌 柯羅屡爾嗚 以柯爾輔居等所 梅豆羅古枳駄楼 武左屡楼 以祇能和駄唎嗚 梅豆羅古枳駄楼
読下 からくにを いかにふことそ めづらこきたる むかさくる いきのわたりを めづらこきたる
解釈 辛国を 如何に言ことぞ 目頬子来到る 向避くる 壱岐の渡りを 目頬子来到る

日本書紀 歌謡一〇〇
原歌 柯羅倶爾能 基能陪爾陀致底 於譜磨故幡 比例甫囉須母 耶魔等陛武岐底
読下 からくにの きのへにたちて おほばこは ひれふらすも やまとへむきて
解釈 辛国の 城の上に立ちて 大葉子は 領布振らすも 大和へ向きて

日本書紀 歌謡一〇一
原歌 柯羅倶爾能 基能陪爾陀陀志 於譜磨故幡 比礼甫羅須弥喩 那爾婆陛武岐底
読下 からくにの きのへにたたし おほばこは ひれふらすみゆ なにはへむきて
解釈 辛国の 城の上に立たし 大葉子は 領布振らす見ゆ 難波へ向きて

日本書紀 歌謡一〇二
原歌 夜須弥志斯 和餓於朋耆弥能 訶句理摩須 阿摩能椰蘇訶礙 異泥多多須 弥蘇羅烏弥礼麼 豫呂豆余珥 訶句志茂餓茂 知余珥茂 訶句志茂餓茂 知余珥茂 訶句志茂餓茂 訶之胡弥弖 兎伽陪摩都羅武 烏呂餓弥弖 兎伽陪摩都羅武 宇多豆紀摩都流
読下 やすみしし わがおほきみの かくります あまのやそかげ いでたたす みそらをみれば よろづよに かくしもがも ちよにも かくしもがも ちよにも かくしもがも かしこみて つかへまつらむ をろがみて つかへまつらむ うたづきまつる
解釈 やすみしし 我が大君の 隱り坐す 天の八十光 出で立たず 御空を見れば 萬代に 斯くしもがも 千代にも 斯くしもがも 千代にも 斯くしもがも 畏みて 仕へまつらむ 拜みて 仕へまつらむ 歌杯奉る

日本書紀 歌謡一〇三
原歌 摩蘇餓豫 蘇餓能古羅破 宇摩奈羅麼 辟武伽能古摩 多智奈羅麼 句礼能摩差比 宇倍之訶茂 蘇餓能古羅烏 於朋枳弥能 兎伽破須羅志枳
読下 まそがよ そがのこらは うまならば ひむかのこま たちならば くれのまさひ うべしかも そがのこらを おほきみの つかはすらしき
解釈 真蘇我よ 蘇我の子らは 馬ならば 東国の駒 太刀ならば 呉の真刀 宜しかも 蘇我の子らを 大君の 使はすらしき

日本書紀 歌謡一〇四
原歌 斯那提流 箇多烏箇夜摩爾 伊比爾恵弖 許夜勢屡 諸能多比等 阿波礼 於夜那斯爾 那礼奈理鶏迷夜 佐須陀気能 枳弥波夜那祗 伊比爾恵弖 許夜勢留 諸能多比等阿波礼
読下 しなてる かたをかやまに いひにゑて こやせる そのたびとあはれ おやなしに なれなりけめや さすたけの きみはやなき いひにゑて こやせる そのたびとあはれ
解釈 級照る 片岡山に 飯に飢て 臥せる 其の旅人 あはれ 親無しに 成りけめや さす竹の 君はや無き 飯に飢て 臥せる 其の旅人 あはれ

日本書紀 歌謡一〇五
原歌 于泥備椰摩 虚多智于須家苔 多能弥介茂 気莵能和区呉能 虚茂邏勢利祁牟
読下 うねびやま こたちうすけど たのみかも けつのわくごの こもらせりけむ
解釈 畝傍山 木立薄けど 頼みかも 毛津の若子の 籠らせりけむ

日本書紀 歌謡一〇六
原歌 野麻騰能 飫斯能毘稜栖鳴 倭施羅務騰 阿庸比施豆矩梨 挙始豆矩羅符母
読下 やまとの おしのひろせを わたらむと あよひたづくり こしづくらふも
解釈 倭の 忍の広瀬を 渡らむと 足結ひ手作り 腰づくろふも

日本書紀 歌謡一〇七
原歌 伊波能杯爾 古佐屡 渠梅野倶 渠梅多爾母 多礙底騰衰囉栖 歌麻之之能烏賦
読下 いはのへに こさる こめやく こめだにも たげてとほらせ かまししのをぢ
解釈 岩の上に 小猿 米焼く 米だにも 食げて通らせ 山羊(かましし)の老翁

日本書紀 歌謡一〇八
原歌 武舸都烏爾 陀底屡制羅我 爾古禰挙曾 倭我底鳴勝羅毎 施我佐基泥 佐基泥曾母野 倭我底勝羅須謀野
読下 むかつをに たてるせらが にこでこそ わがてをとらめ たがさきで さきでそもや わがてとらすもや
解釈 向つ峰に 立てる夫らが 柔手こそ 我が手を取らめ 誰が裂手 裂手そもや 我が手取らすや

日本書紀 歌謡一〇九
原歌 波魯波魯爾 渠騰曾枳挙喩屡 之麻能野父播羅
読下 はろはろに ことそきこゆる しまのやぶはら
解釈 遙々に 言ぞ聞ゆる 島の藪原

日本書紀 歌謡一一〇
原歌 烏智可施能 阿婆努能枳枳始 騰余謀作儒 倭例播禰始柯騰 比騰曾騰余謀須
読下 をちかたの あさののきぎし とよもさず われはねしかど ひとそとよもす
解釈 彼方の 浅野の雉 響さず 我は寢しかど 人ぞ響す

日本書紀 歌謡一一一
原歌 烏麼野始爾 倭例烏比岐例底 制始比騰能 於謀提母始羅孺 伊弊母始羅孺母也
読下 をばやしに われをひきれて せしひとの おもてもしらず いへもしらずも
解釈 小林に 我を引入て 奸し人の 面も知らず 家も知らずも

日本書紀 歌謡一一二
原歌 禹都麻佐波 柯微騰母柯微騰 枳挙曳倶屡 騰挙預能柯微乎 宇智岐多麻須母
読下 うづまさは かみともかみと きこえくる とこよのかみを うちきたますも
解釈 大秦は 神とも神と 聞えくる 常世の神を 打ち懲ますも

日本書紀 歌謡一一三
原歌 耶麻鵝播爾 烏志賦柁囉都威底 陀虞毘預倶 陀虞陛屡伊慕乎 多例柯威爾鶏武
読下 やまがはに をしふたつゐて たぐひよく たぐへるいもを たれかゐにけむ(其一)
解釈 山川に 鴛鴦二つ居て 偶よく 偶へる妹を 誰か率にけむ

日本書紀 歌謡一一四
原歌 模騰渠等爾 婆那播左該騰摸 那爾騰柯母 于都倶之伊母我 磨陀左枳涅渠農
読下 もとごとに はなはさけども なにとかも うつくしいもが またさきでこぬ(其二)
解釈 本毎に 花は咲けども 何とかも 愛し妹が また咲き出来ぬ

日本書紀 歌謡一一五
原歌 舸娜紀都該 阿我柯賦古麻播 比枳涅世儒 阿我柯賦古麻乎 比騰瀰都羅武箇
読下 かなきつけ あがかふこまは ひきでせず あがかふこまを ひとみつらむか
解釈 鉗著け 吾が飼ふ駒は 引出せず 吾が飼ふ駒を 人見つらむか

日本書紀 歌謡一一六
原歌 伊磨紀那屡 乎武例我禹杯爾 倶謨娜尼母 旨屡倶之多多婆 那爾柯那皚柯武
読下 いまきなる をむれがうへに くもだにも しるくしたたば なにかなげかむ(其一 )
解釈 今城なる 小丘が上に 雲だにも 著くし立たば 何か歎かむ

日本書紀 歌謡一一七
原歌 伊喩之々乎 都那遇舸播杯能 倭柯矩娑能 倭柯倶阿利岐騰 阿我謨婆儺倶爾
読下 いゆししを つなぐかはへの わかくさの わかくありきと あがもはなくに(其二 )
解釈 射ゆ鹿猪を 認(つな)ぐ川上の 若草の 若くありきと 吾が思はなくに

日本書紀 歌謡一一八
原歌 阿須箇我播 濔儺蟻羅毘都都 喩矩瀰都能 阿比娜謨儺倶母 於母保喩屡柯母
読下 あすかがは みなぎらひつつ ゆくみづの あひだもなくも おもほゆるかも(其三 )
解釈 飛鳥川 漲ひつつ 行く水の 間も無くも 思ほゆるかも

日本書紀 歌謡一一九
原歌 耶麻古曳底 于瀰倭施留騰母 於母之楼枳 伊麻紀能禹知播 倭須羅庚柁麻旨珥
読下 やまこえて うみわたるとも おもしろき いまきのうちは わすらゆましじ(其一 )
解釈 山越えて 海渡るとも おもしろき 今城の中は 忘らゆましじ

日本書紀 歌謡一二〇
原歌 瀰儺度能 于之褒能矩娜利 于那倶娜梨 于之廬母倶例尼 飫岐底舸庚飫舸武
読下 みなとの うしほのくだり うなくだり うしろもくれに おきてかゆかむ(其二 )
解釈 水門の 潮のくだり 海くだり 後も暗に 置きてか行かむ

日本書紀 歌謡一二一
原歌 于都倶之枳 阿餓倭柯枳古弘 飯岐底舸庚舸武
読下 うつくしき あがわかきこを おきてかゆかむ(其三 )
解釈 愛しき 吾が若き子を 置きてか行かむ

日本書紀 歌謡一二二 (解釈は未詳)
原歌 摩比邏矩 都能倶例豆例 於能幣陀乎 邏賦倶能理歌理鵝 美和陀騰能理歌美 烏能陛陀烏 邏賦倶能理歌理鵝 甲子騰和與 騰美烏能陛陀烏 邏賦倶能理歌理鵝
読下 まひらく つのくれつれ をのへたを らふくのりかりが みわたとのりかみ をのへたを らふくのりかりが かしとわよ とみをのへたを らふくのりかりが
解釈 参らく 角鹿呉連れ 小野辺を 羅服乗り狩りか 御渡と告り神 小野辺を 羅服乗り狩りか 樫と吾よ 富雄の辺を 羅服乗り狩りか

日本書紀 歌謡一二三
原歌 枳瀰我梅能 姑衰之枳舸羅爾 婆底底威底 舸矩野姑悲武謀 枳濔我梅弘報梨
読下 きみがめの こほしきからに はててゐて かくやこひむも きみがめをほり
解釈 君が目の 戀しきからに 泊てて居て かくや戀ひむも 君が目を欲り

日本書紀 歌謡一二四
原歌 于知波志能 都梅能阿素弭爾 伊提麻栖古 多麻提能伊鞞能 野鞞古能度珥 伊提麻志能 倶伊播阿羅珥茹 伊提麻西古 多麻提能鞞能 野鞞古能度珥
読下 うちはしの つめのあそびに いでませこ たまでのいへの やへこのとじ いでましの くいはあらじぞ いでませこ たまでのへの やへのこのとじ
解釈 打橋の 集樂の遊に 出でませ子 玉代の家の 八重子の刀自 出でましの 悔はあらじぞ 出でませ子 玉代の家の 八重子の刀自

日本書紀 歌謡一二五
原歌 多致播那播 於能我曳多曳多 那例々騰母 陀麻爾農矩騰岐 於野児弘爾農倶
読下 たちばなは おのがえだえだ なれれども たまにぬくとき おやじをにぬく
解釈 橘は 己が枝々 生(な)れれども 玉に貫く時 同じ緒に貫く

日本書紀 歌謡一二六
原歌 美曳之弩能 曳之弩能阿喩 阿喩挙曾播 施麻倍母曳岐 愛倶流之衛 奈疑能母縢 制利能母縢 阿例播倶流之衛
読下 みえしのの えしののあゆ あゆこそは しまへもえき ゑくるしゑ なぎのもと せりのもと あれはくるしゑ(其一)
解釈 み吉野の 吉野の鮎 鮎こそは 島辺も宜(え)き ゑ苦しゑえ 水葱の下 芹の下 吾は苦しゑ

日本書紀 歌謡一二七
原歌 於弥能古能 野陛能比母騰倶 比騰陛多爾 伊麻柁藤柯禰波 美古能比母騰矩
読下 おみのこの やへのひもとく ひとへだに いまだとかねば みこのひもとく(其二)
解釈 臣の子の 八重の紐解く 一重だに いまだ解かねば 御子の紐解く

日本書紀 歌謡一二八
原歌 阿箇悟馬能 以喩企波々箇屡 麻矩儒播羅 奈爾能都底挙騰 多柁尼之曳鶏武
読下 あかごまの いゆきはばかる まくずはら なにのつてこと ただにしえけむ(其三)
解釈 赤駒の い行き憚る 真葛原 何の伝言 直にし宜(え)けむ


記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 続日本紀歌謡
記紀歌謡
続日本紀 歌謡 歌謡歌番 一~八

続日本紀 歌謡一
原歌 新 年始邇 何久志社 供奉良米 万代摩提丹
読下 あたたしき としのはじめに かくしこそ つかへまつらめ よろづよまでに
解釈 新たしき 年の始めに かくしこそ 仕へ奉らめ 万代までに

続日本紀 歌謡二
原歌 蘇良美都 夜麻止乃久爾波 可未可良斯 多布度久安流羅之 許能末比美例波
読下 そらみつ やまとのくには かみからし たふとくあるらし このまひみれば
解釈 空見津 大和の国は 神柄し 貴くあるらし この舞い見れば

続日本紀 歌謡三
原歌 阿麻豆可未 美麻乃弥己止乃 登理母知弖 許能等与美岐遠 伊寸多弖末都流
読下 あまつかみ みまのみことの とりもちて このとよみきを いかたてまつる
解釈 天つ神 天孫の命 とりもちて この富御酒(とよみき)を 厳(いか)し奉る

続日本紀 歌謡四
原歌 夜須美斯志 和己於保支美波 多比良気久 那何久伊末之弖 等与美岐麻都流
読下 やすみしし わごおほきみは たひらけく ながくいまして とよみきまつる
解釈 八隅しし 吾ご大王は 平けく 久くいまして 富御酒(とよみき)奉る

続日本紀 歌謡五
原歌 海行波 美豆久屍 山行波 草牟須屍 王乃 幣爾去曾死米 能杼爾波不死
読下 うみゆかは みづつくかばね やまゆかは くさむすかばね おほきみの へこそしなめ のどにはしなづ
解釈 海行かば 水浸く屍 山行かば 草生す屍 大王の 辺にこそ死なめ 長閑(のど)には死なづ

続日本紀 歌謡六
原歌 乎止売良爾 乎止古多智蘇比 布美奈良須 爾詩乃美夜古波 与呂豆与乃美夜
読下 をとめらに をとこたちそひ ふみならす にしのみやこは よろづよのみや
解釈 娘子らに 壮士立ち添ひ 踏み鳴らす 西の京は 萬代の京

続日本紀 歌謡七
原歌 布知毛世毛 伎与久佐夜気志 波可多我波 知止世乎麻知弖 須売流可波可母
読下 ふちもせも きよくさやけし はかたがは ちとせをまちて すめるかはかも
解釈 淵も瀬も 清く清(さや)けし 伯太川 千歳を待ちて 清(す)める川かも

続日本紀 歌謡八
原歌 葛城寺乃前在也 豊浦寺乃西在也 於志止度 刀志止度 桜井爾白壁之豆久也 好璧之豆久也 於志止度 刀志止度 然為波 国曾昌由流也 吾家良曾昌由流也 於志止度 刀志止度
読下 かづらきのてらのまへなるや とよらのてらのにしなるや おしとど としとど さくらゐにしらかべしづくや よきかべしづくや おしとど としとど しかしては くにぞさかゆるや わぎへらぞさかゆるや おしとど としとど
解釈 葛城寺の前なるや 豊浦寺の西なるや おしとど としとど 桜井に白壁しづくや 好き璧しづくやおしとど としとど 然しては 国ぞ栄ゆるや 吾家らぞ栄ゆるや おしとど としとど。


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記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 日本書紀歌謡 前半部

2016年04月11日 | 資料書庫
記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 日本書紀歌謡 前半部
日本書紀 歌謡 歌謡歌番 一~六五


日本書紀 歌謡一
原歌 夜句茂多菟 伊都毛夜覇餓岐 菟磨語昧爾 夜覇餓枳菟倶盧 贈廼夜覇餓岐廻
読下 やくもたつ いづもやへがき つまごめに やへがきつくる そのやへがきゑ
解釈 八雲立つ 出雲八重垣 妻ごめに 八重垣作る その八重垣

日本書紀 歌謡二
原歌 阿妹奈屡夜 乙登多奈婆多廼 汚奈餓勢屡 多磨廼弥素磨屡廼 阿奈陀磨波夜 弥多爾 輔柁和柁邏須 阿泥素企多伽避顧禰
読下 あめなるや おとたなはたの うながせる たまのみすまるの あなたまはや みたにふたわたらす あぢすきたかひこね
解釈 天なるや 弟織女の 頸がせる 玉の御統の 穴玉はや み谷 二渡らす 味耜高彦根

日本書紀 歌謡三
原歌 阿磨佐箇屡 避奈菟謎廼 以和多邏素西渡 以嗣箇播箇柁輔智 箇多輔智爾 阿弥播利和柁嗣 妹慮豫嗣爾 豫嗣豫利拠禰 以嗣箇播箇柁輔智
読下 あまさかる ひなつめの いわたらすせと いしかはかたふち かたふちに あみはりわたし めろよしに よしよりこね いしかはかたふち
解釈 天離る 夷つ女の い渡らす追門 石川片淵 片淵に 網張り渡し 目ろ寄しに 寄し寄り来ね 石川片淵

日本書紀 歌謡四
原歌 憶企都茂播 陛爾播誉戻耐母 佐禰耐拠茂 阿党播怒介茂誉 播磨都智耐理誉
読下 おきつもは へにはよれども さねどこも あたはぬかもよ はまつちどりよ
解釈 沖つ藻は 辺には寄れども さ寝床も 与はぬかもよ 浜つ千鳥よ

日本書紀 歌謡五
原歌 飫企都利 軻茂豆勾志磨爾 和我謂禰志 伊茂播和素邏珥 誉能拠馭母
読下 おきつとり かもづくしまに わがゐねし いもはわすらじ よのことごとも
解釈 沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘らじ 世のことごとも

日本書紀 歌謡六
原歌 阿軻娜磨廼 比訶利播阿利登 比播伊珮耐 企弭我誉贈比志 多輔妬勾阿利計利
読下 あかだまの ひかりはありと ひとはいへど きみがよそひし たふとくありけり
解釈 赤玉の 光はありと 人は言へど 君が装し 貴くありけり

日本書紀 歌謡七
原歌 于儾能 多伽機珥 辞芸和奈陂蘆 和餓末菟夜 辞芸破佐夜羅孺 伊殊区波辞 区陀羅佐夜離 固奈瀰餓 那居波佐麼 多智曾麼能 未廼那鶏句塢 居気辞被恵禰 宇破奈利餓 那居波佐磨 伊智佐介幾 未廼於朋鶏句塢 居気儾被恵禰
読下 うだの たかきに しぎわなはる わがまつや しぎはさやらず いすくはし くぢらさやり こなみが なこはさば たちそばの みのなけくを いけたひゑね うはなりが なこはさば いちさかき みのおほけくを いくたひゑね
解釈 兎田の 高城に 鴫縄張る 我が待つや 鴫は障らじ いすくはし 鷹(くぢ)等障り 古妻(こなみ)が 肴乞はさば 立ち蕎麦の 実の無けくを 幾多ひゑね 後妻(うはなり)が 肴乞はさば 斎ち賢木 実の多けくを 幾多ひゑね

日本書紀 歌謡八
原歌 伽牟伽筮能 伊斎能瀰能 於費異之珥夜 異波臂茂等倍屡 之多儾瀰能 之多儾瀰能 阿誤豫 阿誤豫 之多太瀰能 異波比茂等倍離 于智弖之夜莽務 于智弖之夜莽務
読下 かむかぜの いせのうみの おほいしにや いはひもとほる しただみの しただみの あごよ あごよ しただみの いはひもとほり うちてしやまむ うちてしやまむ
解釈 神風の 伊勢の海の 大石にや い這ひ廻る 細螺の 吾子よ 吾子よ 細螺の い這ひ廻り 撃ちてし止まむ 撃ちてし止まむ

日本書紀 歌謡九
原歌 於佐箇廼 於朋務露夜珥 比苔瑳破而 異離烏利苔毛 比苔瑳破而 枳伊離烏利苔毛 瀰都瀰都志 倶梅能固邏餓 句鶩都都伊 異志都都伊毛智 于智弖之夜莽務
読下 おさかの おほむろやに ひとさはに いりをりとも ひとさはに きいりをりとも みつみつし くめのこらが くぶつつい いしつついもち うちてしやまむ
解釈 忍坂の 大室屋に 人多に 入り居りとも 人多に 来入り居りとも みつみつし 来目の子達が 頭椎に 石椎い持ち 撃ちてし止まむ

日本書紀 歌謡十
原歌 伊莽波豫 伊莽波豫 阿阿時夜塢 伊莽儾而毛 阿誤豫 伊莽儾而毛 阿誤豫
読下 いまはよ いまはよ ああしやを いまだにも あごよ いまだにも あごよ
解釈 今はよ 今はよ ああしやを 今だにも 吾子よ 今だにも 吾子よ

日本書紀 歌謡十一
原歌 愛濔詩烏 毘儾利 毛毛那比苔 比苔破易陪廼毛 多牟伽毘毛勢儒
読下 えみしを ひだり ももなひと ひとはいへども たむかひもせず
解釈 夷を 一人 百な人 人は云へども 抵抗(たむかひ)もせず

日本書紀 歌謡十二
原歌 哆哆奈梅弖 伊那瑳能椰摩能 虚能莽由毛 易喩耆摩毛羅毘 多多介陪磨 和例破椰隈怒 之摩途等利 宇介譬餓等茂 伊莽輸開珥虚禰
読下 たたなめて いなさやまの このまゆも いゆきまもらひ たたかへば われはやゑぬ しまつとり うかひがとも いますけにこね
解釈 楯並めて 伊那瑳の山の 木の間ゆも い行き瞻らひ 戦へば 我はや飢ぬ 嶋つ鳥 鵜飼が従 今助けに来ね

日本書紀 歌謡十三
原歌 瀰都瀰都志 倶梅能故邏餓 介耆茂等珥 阿波赴珥破 介瀰羅毘苔茂苔 曾廼餓毛苔 曾禰梅屠那芸弖 于笞弖之夜莽務
読下 みつみつし くめのこらが かきもとに あはふには かみらひともと そのがもと そねめつなぎて うちてしやまむ
解釈 みつみつし 来目の子等が 垣本に 粟生には 韮一本 其根が本 其ね芽繫ぎて 撃ちてし止まむ

日本書紀 歌謡十四
原歌 瀰都瀰都志 倶梅能故邏餓 介耆茂等珥 宇恵志破餌介瀰 句致弭比倶 和例破宛輸例儒 于智弖之夜莽務
読下 みつみつし くめのこらが かきもとに うゑしはじかみ くちびひく われはわすれず うちてしやまむ
解釈 みつみつし 来目の子等が 垣本に 植ゑし山椒 口疼く 我は忘れず 撃ちてし止まむ

日本書紀 歌謡十五
原歌 許能瀰枳破 和餓瀰枳那羅孺 椰磨等那殊 於朋望能農之能 介瀰之瀰枳 伊句臂佐 伊久臂佐
読下 このみきは わがみきならず やまとなす おほものぬしの かみしみき いくひさ いくひさ
解釈 此の神酒は 我が神酒ならず 日本成す 大物主の 釀みし神酒 幾久 幾久

日本書紀 歌謡十六
原歌 宇磨佐開 瀰和能等能能 阿佐妬珥毛 伊弟弖由介那 瀰和能等能渡塢
読下 うまさけ みわのとのの あさとにも いでてゆかな みわのとのとを
解釈 味酒 三輪の殿の 朝門にも 出でて行かな 三輪の殿門を

日本書紀 歌謡十七
原歌 宇磨佐階 瀰和能等能能 阿佐妬珥毛 於辞寐羅箇禰 瀰和能等能渡烏
読下 うまさけ みわのとのの あさとにも おしびらかね みわのとのとを
解釈 味酒 三輪の殿の 朝門にも 押し開かね 三輪の殿門を

日本書紀 歌謡十八
原歌 瀰磨紀異利寐胡播揶 飫迺餓鳥塢 志斎務苔 農殊末句志羅珥 比売那素寐殊望
読下 みまきいりびこはや おのがをを しせむと ぬすまくしらに ひめなそびすも
解釈 御真木入日子はや 己が命を 殺せむと 竊まく知らに 姫遊すも

日本書紀 歌謡十八A
原歌 於朋耆妬庸利 于介伽卑弖 許呂佐務苔 須羅句塢志羅珥 比売那素寐須望
読下 おほきとより うかかひて ころさむと すらくをしらに ひめなそびすも
解釈 大城戸より 窺ひて 殺さむと すらくを知らに 姫遊すも

日本書紀 歌謡十九
原歌 飫朋佐介珥 菟芸迺煩例屡 伊辞務邏塢 多誤辞珥固佐縻 固辞介弖務介茂
読下 おほさかに つぎのぼれる いしむらを たごしにこさば こしかてむかも
解釈 大坂に 継ぎ登れる 石群を たごしに越せば 越しがてむかも

日本書紀 歌謡二〇
原歌 椰句毛多菟 伊頭毛多鶏流餓 波鶏流多知 菟頭邏佐波磨枳 佐微那辞珥 阿波礼
読下 やくもたつ いづもたけるが はけるたち つづらさはまき さみなしに あはれ
解釈 八雲立つ 出雲建が 佩ける太刀 黒葛多卷き さ身無しに あはれ

日本書紀 歌謡二一
原歌 波辞枳豫辞 和芸幣能伽多由 区毛位多知区暮
読下 はしきよし わぎへのかたゆ くもゐたちくも
解釈 愛しきよし 我家の方ゆ 雲居立ち来も

日本書紀 歌謡二二
原歌 夜摩苔波 区珥能摩倍邏摩 多多儺豆久 阿烏伽枳 夜摩 許莽例屡 夜摩苔之 于屡破試
読下 やまとは くにのまほらま たたなづく あをかき やま こもれる やまとし うるはし
解釈 倭は 国のまほらま 畳づく 青垣 山籠れる 倭し美麗し

日本書紀 歌謡二三
原歌 異能知能 摩曾祁務比苔破 多多濔許莽 幣遇利能夜摩能 志邏伽之餓延塢 于受珥左勢 許能固
読下 いのちの まそけむひとは たたみこも へぐりのやまの しらかしがえを うずにさせ このこ
解釈 命の全けむ人は 畳薦 平群の山の 白橿が枝を 髻華に挿せ この子

日本書紀 歌謡二四
原歌 阿佐志毛能 瀰概能佐烏麼志 魔幣菟耆弥 伊和哆羅秀暮 弥開能佐烏麼志
読下 あさしもの みけのさをばし まへつきみ いわたらすも みけのさをばし
解釈 朝しもの 御木のさ小橋 群臣 い渡らすも 御木のさ小橋

日本書紀 歌謡二五
原歌 珥比麼利 菟玖波塢須擬弖 異玖用加禰菟流
読下 にひばり つくはをすぎて いくよかねつる
解釈 新治 筑波を過ぎて 幾夜か寢つる

日本書紀 歌謡二六
原歌 伽餓奈倍弖 用珥波虚虚能用 比珥波苔塢伽塢
読下 かがなべて よにはここのよ ひにはとをかを
解釈 かがなべて 夜には九夜 日には十日を

日本書紀 歌謡二七
原歌 烏波利珥 多陀珥霧伽幣流 比苔菟麻菟 阿波例 比等菟麻菟 比苔珥阿利勢麼 岐農岐勢摩之塢 多知波開摩之塢
読下 をはりに ただにむかへる ひとつまつ あはれ ひとつまつ ひとにありせば きぬきせましを たちはけましを
解釈 尾張に 直に向へる 一つ松 あはれ 一つ松 人にありせば 衣著せましを 太刀佩けましを

日本書紀 歌謡二八
原歌 烏智箇多能 阿邏々麻菟麼邏 摩菟麼邏珥 和多利喩祇弖 菟区喩弥珥 末利椰塢多具陪 宇摩比等破 于摩譬苔奴知野 伊徒姑播茂 伊徒姑奴池 伊装阿波那 和例波 多摩岐波屡 于池能阿層餓 波邏濃知波 異佐誤阿例椰 伊装阿波那 和例波
読下 をちかたの あららまつばら まつばらに わたりゆきて つくゆみに まりやをたぐへ うまひとは うまひとどちや いとこはも いとこどち いざあはな われは たまきはる うちのあそが はらぬちは いさごあれや いざあはな われは
解釈 彼方の あらら松原 松原に 渡り行きて 槻弓に 貴人どちや いざ鬪はな 我は たまきはる 内の朝臣が 腹内は 砂あれや いざ鬪はな 我は

日本書紀 歌謡二九
原歌 伊装阿芸 伊佐智須区禰 多摩枳波屡 于知能阿曾餓 勾夫菟智能 伊多弖於破孺破 珥倍廼利能 介豆岐斎奈
読下 いざあぎ いさちすくね たまきはる うちのあそが くぶつちの いたておはずは にほどりの かづきせな
解釈 いざ吾君 五十狹茅宿禰 たまきはる 内の朝臣が 頭槌の 痛手負はずは 鳰鳥の 潜爲な

日本書紀 歌謡三〇
原歌 阿布弥能弥 斎多能和多利珥 伽豆区苔利 梅珥志弥曳泥麼 異枳廼倍呂之茂
読下 あふみのみ せたのわたりに かづくとり めにしみえねば いきどほろしも
解釈 淡海の海 瀬田の渡りに 潜く鳥 目にし見えねば 憤しも

日本書紀 歌謡三一
原歌 阿布瀰能瀰 斎多能和多利珥 介豆区苔利 多那伽瀰須疑弖 于泥珥等邏倍菟
読下 あふみのみ せたのわたりに かづくとり たなかみすぎて うぢにとらへつ
解釈 淡海の海 瀬田の渡りに 潜く鳥 田上過ぎて 菟道に捕へつ

日本書紀 歌謡三二
原歌 虚能弥企破 和餓弥企那羅儒 区之能伽弥 等虚豫珥伊麻輸 伊破多多須 周玖那弥伽未能 等豫保枳 保枳茂苔陪之 訶武保枳 保枳玖流保之 摩菟利虚辞 弥企層 阿佐孺塢斎 佐佐
読下 このみきは わがみきならず くしのかみ とこよにいます いはたたす すくなみかみの とよほき ほきもとほし かむほき ほきくるほし まつりこし みきそ あさずをせ ささ
解釈 此の酒は 我が御酒ならず 神酒の神 常世に坐す いはたたす 少名御神の 豊寿ぎ 寿ぎもとほし 神寿ぎ 寿ぎくるほし 祭り来し 御酒ぞ 乾さず 飮せ 酒

日本書紀 歌謡三三
原歌 許能弥企塢 伽弥鶏武比等破 曾能菟豆弥 于輸珥多弖弖 于多比菟菟 伽弥鶏梅伽墓 許能弥企能 阿椰珥于多娜濃芝 作沙
読下 このみきを かみけむひとは そのつづみ うすにたてて うたひつつ かみけめかも このみきの あやにうただぬし ささ
解釈 此の御酒を 釀みけむ人は 其の鼓 臼に立てて 歌ひつつ 釀みけめかも 此の御酒の あやに 歌樂し 酒

日本書紀 歌謡三四
原歌 知麼能 伽豆怒塢弥例麼 茂茂智儾蘆 夜珥波母弥唹 区珥能朋母弥喩
読下 ちばの かづのをみれば ももちだる やにはもみゆ くにのほもみゆ
解釈 千葉の 葛野を見れば 百千足る 家庭も見ゆ 国の秀も見ゆ

日本書紀 歌謡三五
原歌 伊奘阿芸 怒珥比蘆菟弥珥 比蘆菟濔珥 和餓喩区濔智珥 伽愚破志 波那多智麼那 辞豆曳羅波 比等未那等利 保菟曳波 等利委餓羅辞 濔菟愚利能 那伽菟曳能 府保語茂利 阿伽例蘆塢等 伊奘佐伽麼曳那
読下 いざあぎ のにひるつみに ひるつみに わがゆくみちに かぐはし はなたちばな しづえらは ひとみなとり ほつえは とりゐがらし みつぐりの なかつえの ふほごもり あかれるをとめ いざさかばえな
解釈 いざ吾君 野に蒜摘みに 蒜摘みに 我が行く道に 香細し 花橘 下枝らは 人皆取り 上つ枝は 鳥居枯らし 三栗の 中つ枝の 含隱り 赤れる孃子 いざさかば 良な

日本書紀 歌謡三六
原歌 濔豆多摩蘆 豫佐濔能伊戒珥 奴那波区利 破陪鶏区辞羅珥 委愚比菟区 伽破摩多曳能 比辞餓羅能 佐辞鶏区辞羅珥 阿餓許居呂辞 伊夜于古珥辞弖
読下 みづたまる よさみのいけに ぬなはくり はへけくしらに ゐぐひつく かはまたえの ひしがらの さしけくしらに あがこころし いやうこにして
解釈 水渟る 依網の池に ぬな繰り 延へけく知らに 堰杙著く 川俣江の 菱殼の 刺しけく知らに 吾が心し いや愚にして

日本書紀 歌謡三七
原歌 弥知能之利 古破儾塢等綿塢 伽未能語等 枳虚曳之介逎 阿比摩区羅摩区
読下 みちのしり こはだをとめを かみのごと きこえしかど あひまくらまく
解釈 道の後 古波儾孃子を 神の如 聞えしかど 相枕纒く

日本書紀 歌謡三八
原歌 濔知能之利 古破儾塢等綿塢 阿羅素破儒 泥辞区塢之叙 于蘆波辞濔茂布
読下 みちのしり こはだをとめ あらそはず ねしくをしぞ うるはしみもふ
解釈 道の後 古破儾孃子を 爭はず 寢しくをしぞ 愛しみ思ふ

日本書紀 歌謡三九
原歌 伽辞能輔珥 豫区周塢菟区利 豫区周珥 伽綿蘆淤朋濔枳 宇摩羅珥 枳虚之茂知塢勢 磨呂俄智
読下 かしのふに よくすをつくり よくすに かめるおほみき うまらに きこしもちをせ まろがち
解釈 橿のふに 横臼を造り 横臼に 釀める大御酒 味らに 聞こし以ち飮せ 麻呂が父

日本書紀 歌謡四〇
原歌 阿波泥辞摩 異椰敷多那羅弭 阿豆枳辞摩 異椰敷多那羅弭 豫呂辞枳辞摩之魔 儾伽 多佐例阿羅智之 吉備那流伊慕塢 阿比濔菟流慕能
読下 あはぢしま いやふたならび あづきしま いやふたならび よろしきしましま たか たされあらちし きびなるいもを あひみつるもの
解釈 淡路島 いや二並び 小豆島 いや二並び 宜しき 島々 誰か た去れ放ちし 吉備なる妹を 相見つるもの

日本書紀 歌謡四一
原歌 訶羅怒烏 之褒珥椰枳 之餓阿摩離 虚等珥菟句離 訶枳譬句椰 由羅能斗能 斗那訶能異句離珥 敷例多菟 那豆能紀能紀 佐椰佐椰
読下 からのを しほにやき しがあまり ことにつくり かきひくや ゆらのとの となかのいくりに ふれたつ なづのきの さやさや
解釈 枯野を 塩に焼き 其が余り 琴に造り 掻き彈くや 由良の門の 門中の海石に 觸れ立つ なづの木の さやさや

日本書紀 歌謡四二
原歌 知破揶臂苔 于施能和多利珥 佐烏刀利珥 破揶鶏務臂苔辞 和餓毛胡珥虚務
読下 ちはやひと うぢのわたりに さをとりに はやけむひとし わがもこにこむ
解釈 ちはや人 菟道の渡りに 棹取りに 早けむ人し 我が對手(もこ)に来む

日本書紀 歌謡四三
原歌 智破揶臂等 于泥能和多利珥 和多利涅珥 多弖屡 阿豆瑳由瀰 摩由弥 伊枳羅牟苔 虚虚呂破望閉耐 伊斗羅牟苔 虚虚呂破望閉耐 望苔弊破 枳濔烏於望臂泥 須恵弊破 伊暮烏於望比泥 伊羅那鶏区 曾虚珥於望比 伽那志鶏区 虚虚珥於望臂 伊枳羅儒層区屡 阿豆瑳由瀰 摩由瀰
読下 ちはやひと うぢのわたりに わたりでに たてる あづさゆみ まゆみ いきらむと こころはもへど いとらむと こころはもへど もとへは きみをおもひで すゑへは いもをおもひで いらなけく そこにおもひ かなしけく ここにおもひ いきらずそくる あづさゆみまゆみ
解釈 ちはや人 菟道の渡りに 渡り手に 立てる 梓弓 檀 い伐らむと 心は思へど い取らむと 心は思へど 本辺は 君を思ひ出 末辺は 妹を思ひ出 いらなけく 彼處に思ひ 愛しけく 此處に思ひ い伐らずぞ 来る 梓弓檀

日本書紀 歌謡四四
原歌 瀰儺曾虚赴 於瀰能烏苔絇烏 多例揶始儺播務
読下 みなそこふ おみのをとめを たれやしなはむ
解釈 水底ふ 臣の孃子を 誰養はむ

日本書紀 歌謡四五
原歌 瀰箇始報 破利摩波揶摩智 以播区娜輸 伽之古倶等望 阿例揶始儺破務
読下 みかしほ はりまはやまち いはくだす かしこくとも あれやしなはむ
解釈 みかしほ 播磨速待ち 岩壞す 畏くとも 吾れ養はむ

日本書紀 歌謡四六
原歌 于磨臂苔能 多菟屡虚等太弖 于磋由豆流 多由磨菟餓務珥 奈羅陪弖毛餓望
読下 うまひとの たつることだて うさゆづる たゆまつがむに ならべてもがも
解釈 貴人の 立つる琴立 うさ弦 絶ゆ間継がむに 並べてもがも

日本書紀 歌謡四七
原歌 虚呂望虚曾 赴多弊茂豫耆 瑳用廼虚烏 那羅陪務耆瀰破 箇辞古耆呂箇茂
読下 ころもこそ ふたへもよき さよどこを ならべむきみは かしこきろかも
解釈 衣こそ 二重も宜き さ夜床を 並べむ君は 畏きろかも

日本書紀 歌謡四八
原歌 於辞弖屡 那珥破能瑳耆能 那羅弭破莽 那羅陪務苔虚層 曾能古破阿利鶏梅
読下 おしてる なにはのさきの ならびはま ならべむとこそ そのこはありけめ
解釈 おしてる 難波の埼の 並び浜 並べむとこそ その子はありけめ

日本書紀 歌謡四九
原歌 那菟務始能 譬務始能虚呂望 赴多弊耆弖 箇区瀰夜儾利破 阿珥豫区望阿羅儒
読下 なつむしの ひむしのころも ふたへきて かくみやだりは あによくもあらず
解釈 夏虫の 蛾の衣 二重著て 囲み屋たりは 豈宜くもあらず

日本書紀 歌謡五〇
原歌 阿佐豆磨能 避箇能烏瑳箇烏 箇多那耆珥 瀰致喩区茂能茂 多遇譬弖序豫枳
読下 あさづまの ひかのをさかを かたなきに みちゆくものも たぐひてぞよき
解釈 朝妻の 避箇の小坂を 片泣きに 道行く者も 副ひてぞ宜き

日本書紀 歌謡五一
原歌 那珥波譬苔 須儒赴泥苔羅斎 許辞那豆瀰 曾能赴尼苔羅斎 於朋瀰赴泥苔礼
読下 なにはひと すずふねとらせ こしなづみ そのふねとらせ おほみふねとれ
解釈 難波人 鈴船執らせ 腰煩み その船執らせ 大御船執れ

日本書紀 歌謡五二
原歌 夜莽之呂珥 伊辞鶏苔利夜莽 伊辞鶏之鶏 阿餓茂赴菟摩珥 伊辞枳阿波牟伽茂
読下 やましろに いしけとりやま いしけしけ あがもふつまに いしきあはむかも
解釈 山背に い及け鳥山 い及け及け 吾が思ふ嬬に い及き合はむかも

日本書紀 歌謡五三
原歌 菟芸泥赴 揶莽之呂餓波烏 箇破能朋利 涴碗餓能朋例麼 箇波区莽珥 多知瑳箇踰屡 毛毛多羅儒 揶素麼能紀破 於朋耆瀰呂箇茂
読下 つぎねふ やましろがはを かはのぼり わがのぼれば かはくまに たちさかゆる ももたらず やそばのきは おほきみろかも
解釈 つぎねふ 山背河を 河泝り 我が泝れば 河隈に 立ち栄ゆる 百足らず 八十葉の樹は 大君ろかも

日本書紀 歌謡五四
原歌 菟芸泥赴 揶莽之呂餓波烏 濔揶能朋利 和餓能朋例麼 阿烏珥豫辞 儺羅烏輸疑 烏陀弖夜莽苔烏輸疑 和餓瀰餓朋辞区珥波 箇豆羅紀多伽瀰揶 和芸弊能阿多利
読下 つぎねふ やましろがはを みやのぼり わがのぼれば あをによし ならをすぎ をだてやまとをすぎ わがみがほしくには かづらきたかみや わぎへのあたり
解釈 つぎねふ 山背河を 宮のぼり 我が泝れば あをによし 平山(なら)を過ぎ をだて倭を過ぎ 我が 見が欲し国は 葛城高宮 我家のあたり

日本書紀 歌謡五五
原歌 揶莽辞呂能 菟菟紀能瀰揶珥 茂能莽烏輸 和餓斎烏瀰例麼 那瀰多遇摩辞茂
読下 やましろの つつきのみやに ものまをす わがせをみれば なみたぐましも
解釈 山背の 筒城の宮に 物啓す 我が背を見れば 涙含ましも

日本書紀 歌謡五六
原歌 菟怒瑳破赴 以破能臂謎餓 飫朋呂伽珥 枳許瑳怒 于羅愚破能紀 豫屡麻志枳 箇破能区莽愚莽 豫呂朋譬喩玖伽茂 于羅愚破能紀
読下 つのさはふ いはのひめが おほろかに きこさぬ うらぐはのき よるましじき かはのくまぐま よろほひゆくかも うらぐはのき
解釈 つぬさはふ 磐之媛の おほろかに 聞こさぬ 末桑の樹 寄るましじき 川の隈々 寄ろほひゆくかも 末桑の樹

日本書紀 歌謡五七
原歌 菟芸泥赴 揶摩之呂謎能 許久波茂知 于智辞於朋泥 佐和佐和珥 儺餓伊弊剤虚曾 于知和多須 椰餓波曳儺須 企以利摩韋区例
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしおほね さわさわに ながいへせこそ うちわたす やがはえなす きいりまゐくれ
解釈 つぎねふ 山背女の 小鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が云へせこそ うち渡す 和桑枝なす 来入り参ゐ来れ

日本書紀 歌謡五八
原歌 菟芸泥赴 夜莽之呂謎能 許玖波茂知 于智辞於朋泥 泥士漏能 辞漏多娜武枳 摩箇儒鶏麼虚曾 辞羅儒等茂伊波梅
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしおほね ねじろの しろただむき まかずけばこそ しらずともいはめ
解釈 つぎねふ 山背女の 小鍬持ち 打ちし大根 根白の 白臂 纒かず来(け)ばこそ 知らずとも云はめ

日本書紀 歌謡五九
原歌 比佐箇多能 阿梅箇儺麼多 謎廼利餓 於瑠箇儺麼多 波揶歩佐和気能 瀰於須譬鵝泥
読下 ひさかたの あめかなばた めどりが おるかなばた はやぶさわけの みおすひがね
解釈 ひさかたの 天金機 雌鳥が 織る金機 隼別の み襲がね

日本書紀 歌謡六〇
原歌 破夜歩佐波 阿梅珥能朋利 等弭箇慨梨 伊菟岐餓宇倍能 娑弉岐等羅佐泥
読下 はやぶさは あめにのぼり とびかけり いつきがうへの さざきとらさね
解釈 隼は 天に上り 飛び翔り 斎槻が上の 鷦鷯捕らさね

日本書紀 歌謡六一
原歌 破始多弖能 佐餓始枳揶摩茂 和芸毛古等 赴駄利古喩例麼 揶須武志呂箇茂
読下 はしたての さがしきやまも わぎもこと ふたりこゆれば やすむしろかも
解釈 梯立ての 嶮しき山も 我妹子と 二人越ゆれば やす筵かも

日本書紀 歌謡六二
原歌 多莽耆破屡 宇知能阿曾 儺虚曾破 豫能等保臂等 儺虚曾波 区珥能那餓臂等 阿耆豆辞莽 揶莽等能区珥珥 箇利古武等 儺波企箇輸揶
読下 たまきはる うちのあそ なこそは よのとほひと なこそは くにのながひと あきづしま やまとのくにに かりこむと なはきかすや
解釈 たまきはる 内の朝臣 汝こそは 世の遠人 汝こそは 国の長人 蜻蛉島 倭の国に 雁子産と 汝は聞かすや

日本書紀 歌謡六三
原歌 夜輸瀰始之 和我於朋枳瀰波 于陪儺于陪儺 和例烏斗波輸儺 阿企菟辞摩 揶莽等能倶珥珥 箇利古武等 和例破枳箇儒
読下 やすみしし わがおほきみは うべなうべな われをとはすな あきづしま やまとのくにに かりこむと われはきかず
解釈 やすみしし 我が大君は うべなうべな 我を問はすな 蜻蛉島 倭の国に 雁子産と 我は聞かず

日本書紀 歌謡六四
原歌 於朋佐箇珥 阿布夜烏等謎烏 瀰知度沛麼 哆駄珥破能邏孺 哆耆摩知烏能流
読下 おほさかに あふやをとめを みちとへば ただにはのらず たぎまちをのる
解釈 大坂に 遇ふや孃子を 道問へば 直には告らず 當摩街を告る

日本書紀 歌謡六五
原歌 和餓勢故餓 勾倍枳豫臂奈利 佐瑳餓泥能 区茂能於虚奈比 虚豫比辞流辞毛
読下 わがせこが くべきよひなり ささがねの くものおこなひ こよひしるしも
解釈 我が背子が 来べき夕なり 小竹が根の 蜘蛛の行ひ 今宵著しも


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記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 古事記歌謡 後半部

2016年04月11日 | 資料書庫
記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 古事記歌謡
古事記 歌謡 後半部 歌謡歌番 六〇~百十三


古事記 歌謡六〇
原歌 夜麻斯呂邇 伊斯祁登理夜麻 伊斯祁伊斯祁 阿賀波斯豆麻邇 伊斯岐阿波牟加母
読下 やましろに いしけとりやま いしけいしけ あかはしづまに いしきあはむかも
解釈 山代に い及け鳥山 い及けい及け 吾が愛し妻に い及き遇はむかも

古事記 歌謡六一
原歌 美母呂能 曾能多迦紀那流 意富韋古賀波良 意富韋古賀 波良邇阿流 岐毛牟加布 許許呂袁陀邇迦 阿比淤母波受阿良牟
読下 みもろの そのたかきなる をふゐこかはら をふゐこか はらにあれ きもむかふ こころをたにか あひをもはずあらむ
解釈 御諸の 其の高城なる 大猪子が原 大猪子が 腹にある 肝向う 心をだにか 相思はずあらむ

古事記 歌謡六二
原歌 都藝泥布 夜麻志呂賣能 許久波母知 宇知斯淤富泥 泥士漏能 斯漏多陀牟岐 麻迦受祁婆許曾 斯良受登母伊波米
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね ねしろの しろたたむき まかずけばこそ しらずともいはめ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 根白の 白腕 枕かずけばこそ 知らずとも言はめ

古事記 歌謡六三
原歌 夜麻志呂能 都都紀能美夜邇 母能麻袁須 阿賀勢能岐美波 那美多具麻志母
読下 やましろの つつきのみやに ものまをす あかせのきみは なみたくましも
解釈 山代の 筒木の宮に 物申す 吾が兄の君は 涙ぐましも

古事記 歌謡六四
原歌 都藝泥布 夜麻斯呂賣能 許久波母知 宇知斯意富泥 佐和佐和爾 那賀伊幣勢許曾 宇知和多須 夜賀波延那須 岐伊理麻韋久禮
読下 つぎねふ やましろめの こくはもち うちしをふね さわさわに なかいへせこそ うちわたす やかはえなす きいりまゐくれ
解釈 つぎねふ 山代女の 木鍬持ち 打ちし大根 さわさわに 汝が言へせこそ 打ち渡す 八桑枝なす 来入り参い来れ

古事記 歌謡六五
原歌 夜多能 比登母登須宜波 古母多受 多知迦阿礼那牟 阿多良須賀波良 許登袁許曾 須宜波良登伊波米 阿多良須賀志賣
読下 やたの ひともとすげは こもたず たちかあれなむ あたらすかはら ことをこそ すぎはらといはめ あたらすかしめ
解釈 八田の 一本菅は 子持たず 立ちか荒れなむ 惜ら菅原 言をこそ 菅原と言はめ 惜ら清し女

古事記 歌謡六六
原歌 夜多能 比登母登須宜波 比登理袁理登母 意富岐彌斯 與斯登岐許佐婆 比登理袁理登母
読下 やたの ひともとしぎは ひとりをりとも をふきみし よしときこさば ひとりをりとも
解釈 八田の 一本菅は 独り居りとも 大君し 良しと聞こさば 独り居りとも

古事記 歌謡六七
原歌 賣杼理能 和賀意富岐美能 淤呂須波多 他賀多泥呂迦母
読下 めとりの わかをふきみの をろすはた たかたねろかも
解釈 女鳥の 我が大君の 織ろす服 誰が料ろかも

古事記 歌謡六八
原歌 多迦由久夜 波夜夫佐和氣能 美淤須比賀泥
読下 たかゆくや はやふさわけの みをすひかね
解釈 高行くや 速總別の 御襲衣料

古事記 歌謡六九
原歌 比婆理波 阿米邇迦氣流 多迦由玖夜 波夜夫佐和氣 佐耶岐登良佐泥
読下 ひばりは あめにかける たかゆくや はやふさわけ ささきとらさね
解釈 雲雀は 天に翔ける 高行くや 速總別 雀取らさね

古事記 歌謡七〇
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻袁 佐賀志美登 伊波迦伎加泥弖 和賀弖登良須母
読下 はしたての くらはしまを さかしみと いはかきかねて わかてとらすも
解釈 梯立の 倉椅山を 嶮しみと 岩懸きかねて 我が手取らすも

古事記 歌謡七一
原歌 波斯多弖能 久良波斯夜麻波 佐賀斯祁杼 伊毛登能爐禮波 佐賀斯玖母阿良受
読下 はしたての くらはしやまは さかしけと いもとのほれば さかしくもあらず
解釈 梯立の 倉椅山は 嶮しけど 妹と登れば 嶮しくもあらず

古事記 歌謡七二
原歌 多麻岐波流 宇知能阿曾 那許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登岐久夜
読下 たまきはる うちのあそ なこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむときくや
解釈 たまきはる 内の朝臣 汝こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと聞くや

古事記 歌謡七三
原歌 多迦比迦流 比能美古 宇倍志許曾 斗比多麻閇 麻許曾邇 斗比多麻閇 阿礼許曾波 余能那賀比登 蘇良美都 夜麻登能久邇爾 加理古牟登 伊麻陀岐加受
読下 たかひかる ひのみこ うへしこそ とひたまへ まこそに とひたまへ あれこそは よのなかひと そらみつ やまとのくにに かりこむと いまだきかず
解釈 高光る 日の御子 諾しこそ 問ひ給え 真こそに 問ひ給え 吾こそは 世の仲人 そらみつ 倭の国に 雁来むと 未だ聞かず

古事記 歌謡七四
原歌 那賀美古夜 都毘邇斯良牟登 加理波古牟良斯
読下 なかみこや つふにしらむと かりはこむらし
解釈 汝が御子や 終に知らむと 雁は来むらし

古事記 歌謡七五
原歌 加良怒袁 志本爾夜岐 斯賀阿麻理 許登爾都久理 賀岐比久夜 由良能斗能 斗那賀能伊久理爾 布禮多都 那豆能紀能 佐夜佐夜
読下 からのを しほにやき そかあまり ことにつくり かきひくや ゆらのとの となかのいくりに ふれたつ なづのきの さやさや
解釈 枯野を 塩に焼き 其が余り 琴に作り 掻き弾くや 由良の門の 門中の海石に 振れ立つ なづの木の さやさや

古事記 歌謡七六
原歌 多遲比怒邇 泥牟登斯理勢婆 多都碁母母 母知弖許麻志母能 泥牟登斯理勢婆
読下 たぢひのに ねむとしりせば たつこもも もちてこましもの ねむとしりせば
解釈 多遲比野に 寝むと知りせば 立薦も 持ちて来ましもの 寝むと知りせば

古事記 歌謡七七
原歌 波邇布耶迦 和賀多知美禮婆 迦藝漏肥能 毛由流伊幣牟良 都麻賀伊幣能阿多理
読下 はにふさか わかたちみれば かぎろひの もゆるいへぬら つまかいへのあたり
解釈 赤土坂 我が立ち見れば かぎろひの 燃ゆる家群 妻が家の辺

古事記 歌謡七八
原歌 於富佐迦邇 阿布夜袁登賣袁 美知斗閇婆 多陀邇波能良受 當藝麻知袁能流
読下 をふさかに あふやをとめを みちとへば ただにはのらず ふぎまちをのる
解釈 大坂に 遇うや娘子を 道問へば 直には告らず 當岐麻道を告る

古事記 歌謡七九
原歌 阿志比紀能 夜麻陀袁豆久理 夜麻陀加美 斯多備袁和志勢 志多杼比爾 和賀登布伊毛袁 斯多那岐爾 和賀那久都麻袁 許存許曾婆 夜須久波陀布禮
読下 あしひきの やまたをづくり やまたかみ したびをわしせ したとひに わかとふいもを したなきに わかなくつまを こそこそば やすくはたふれ
解釈 あしひきの 山田を作り 山高み 下樋を走せ 下訪ひに 我が訪ふ妹を 下泣きに 我が泣く妻を 今夜こそは 易く肌触れ

古事記 歌謡八〇
原歌 佐佐波爾 宇都夜阿良禮能 多志陀志爾 韋泥弖牟能知波 比登波加由登母
読下 ささはに うつやあられの たしたしに ゐねてむのちは ひとはかゆとも
解釈 笹葉に 打つや霰の たしだしに 率寝てむ後は 人は離ゆとも

古事記 歌謡八一
原歌 宇流波斯登 佐泥斯佐泥弖婆 加理許母能 美陀禮婆美陀禮 佐泥斯佐泥弖婆
読下 うるはしと さねしさねてば かりこもの みたればみたれ さねしさねてば
解釈 愛しと さ寝しさ寝てば 刈り薦の 乱れば乱れ さ寝しさ寝てば

古事記 歌謡八二
原歌 意富麻幣 袁麻幣須久泥賀 加那斗加宜 加久余理許泥 阿米多知夜米牟
読下 をふまへ をまへすくねか かねとかけ かくよりこね あめたちやめむ
解釈 大前 小前が宿禰 金門蔭 斯く寄り来ね 雨立ち止めむ

古事記 歌謡八三
原歌 美夜比登能 阿由比能古須受 淤知爾岐登 美夜比登登余牟 佐斗毘登母由米
読下 みやひとの あゆひのこすず をちにきと みやひととよむ さとひともゆめ
解釈 宮人を 足結ひの小鈴 落ちにきと 宮人響む 里人もゆめ

古事記 歌謡八四
原歌 阿麻陀牟 加流乃袁登賣 伊多那加婆 比登斯理奴倍志 波佐能夜麻能 波斗能 斯多那岐爾那久
読下 あまたむ かるのをとめ いたなかば ひとしりぬへし はさのやまの はとの したなきになく
解釈 天廻む 軽の嬢子 甚泣かば 人知りぬべし 波佐の山の 鳩の 下泣きに泣く

古事記 歌謡八五
原歌 阿麻陀牟 加流袁登賣 志多多爾母 余理泥弖登富禮 加流袁登賣杼母
読下 あまたむ かるをとめ したたにも よりねてとふれ かるをとめとも
解釈 天廻む 軽嬢子 確々にも 寄り寝て通れ 軽嬢子ども

古事記 歌謡八六
原歌 阿麻登夫 登理母都加比曾 多豆賀泥能 岐許延牟登岐波 和賀那斗波佐泥
読下 あまとふ とりもつかひそ たづかねの きこえむときは わかなとはさね
解釈 天飛ぶ 鳥も使いそ 鶴が音の 聞えむ時は 我が名問はさね

古事記 歌謡八七
原歌 意富岐美袁 斯麻爾波夫良婆 布那阿麻理 伊賀幣理許牟叙 和賀多多彌由米 許登袁許曾 多多美登伊波米 和賀都麻波由米
読下 をふきみを しまにはふらば ふなあまり いかへりこむそ わかたたやゆめ ことをこそ たたみといはめ わかつまはゆめ
解釈 大君を 島に放らば 船余り い帰り来むぞ 我が畳ゆめ 言をこそ 畳と言はめ 我が妻はゆめ

古事記 歌謡八八
原歌 那都久佐能 阿比泥能波麻能 加岐加比爾 阿斯布麻須那 阿加斯弖杼富禮
読下 なつくさの あひねのはまの かきかひに あしふますな あかしてとふれ
解釈 夏草の 阿比泥の浜の 掻き貝に 足踏ますな 明して通れ

古事記 歌謡八九
原歌 岐美賀由岐 氣那賀久那理奴 夜麻多豆能 牟加閇袁由加牟 麻都爾波麻多士
読下 きみかゆき けなかくなりぬ やまたづの むかへをゆかむ まつにはまたし
解釈 君が往き 日長くなりぬ 造木の 迎へを行かむ 待つには待たじ

古事記 歌謡九〇
原歌 許母理久能 波都世能夜麻能 意富袁爾波 波多波理陀弖 佐袁袁爾波 波多波理陀弖 意富袁爾斯 那加佐陀賣流 淤母比豆麻阿波禮 都久由美能 許夜流許夜理母 阿豆佐由美 多弖理多弖理母 能知母登理美流 意母比豆麻阿波禮
読下 こもりくの はつせのやまの をふをには はたはりたて をさををには はたはりたて をふをにし なかさためる をもひづまあはれ つくゆみの こやるこやりも あづさゆみ たてりたてりも のちもとりみる をもひづまあはれ
解釈 隠り処の 泊瀬の山の 大峰には 幡張り立て さ小峰には 幡張り立て 大小にし 仲定める 思い妻あはれ 槻弓の 臥やる臥やりも 梓弓 立てり立てりも 後も取り見る 思い妻あはれ

古事記 歌謡九一
原歌 許母理久能 波都勢能賀波能 加美都勢爾 伊久比袁宇知 斯毛都勢爾 麻久比袁宇知 伊久比爾波 加賀美袁加氣 麻久比爾波 麻多麻袁加氣 麻多麻那須 阿賀母布伊毛 加賀美那須 阿賀母布都麻 阿理登 伊波婆許曾余 伊幣爾母由加米 久爾袁母斯怒波米
読下 こもりくの はつせのかはの かみつせに いくひをうち しもつせに まくひをうち いくひには かかみをかけ まくひには またまをかけ またまなす あかもふいも かかみなす あかもふつま ありと いはばこそよ いへにもゆかめ くにをもしのはめ
解釈 隠り処の 泊瀬の河の 上つ瀬に 斎杙を打ち 下つ瀬に 真杙を打ち 斎杙には 鏡を懸け 真杙には 真玉を懸け 真玉なす 吾が思う妹 鏡なす 吾が思う妻 有りと 言はばこそよ 家にも行かめ 国をも偲はめ

古事記 歌謡九二
原歌 久佐加辨能 許知能夜麻登 多多美許母 幣具理能夜麻能 許知碁知能 夜麻能賀比爾 多知耶加由流 波毘呂久麻加斯 母登爾波 伊久美陀氣淤斐 須惠幣爾波 多斯美陀氣淤斐 伊久美陀氣 伊久美波泥受 多斯美陀氣 多斯爾波韋泥受 能知母久美泥牟 曾能淤母比豆麻 阿波禮
読下 くさかへの こちのやまと たたみこも へくりのやまの こちごちの やまのかひに たちさかゆる はひろくまかし もとには いくみたけをひ すゑへには たしみたけをひ いくみたけ いくみはねず たしみたけ たしにはゐねず のちもくみねむ そのをもひづま あはれ
解釈 日下部の 此方の山と 畳薦 平群の山の 此方此方の 山の峡に 立ち栄ゆる 葉広熊白檮 本には い茂み竹生ひ 末辺には た繁竹生ひ い茂み竹 い隠みは寝ず た繁竹 確には率寝ず 後も隠み寝む 其の思ひ妻 あはれ

古事記 歌謡九三
原歌 美母呂能 伊都加斯賀母登 賀斯賀母登 由由斯伎加母 加志波良袁登賣
読下 みもろの いつかしかもと かしかもと ゆゆしきかも かしはらをとめ
解釈 御諸の 厳白檮が下 白檮が下 忌々しきかも 橿原乙女

古事記 歌謡九四
原歌 比氣多能 和加久流須婆良 和加久閇爾 韋泥弖麻斯母能 淤伊爾祁流加母
読下 ひけたの わかくるすばら わかくへに ゐねてましもの をいにけるかも
解釈 引田の 若栗栖原 若くへに い寝てましもの 老いにけるかも

古事記 歌謡九五
原歌 美母呂爾 都久夜多麻加岐 都岐阿麻斯 多爾加母余良牟 加微能美夜比登
読下 みもろに つくやたまかき つきあまし たにかもよらむ かみのみやひと
解釈 御諸に 築くや玉垣 つき余し 誰にかも依らむ の宮人

古事記 歌謡九六
原歌 久佐迦延能 伊理延能波知須 波那婆知須 尾能佐加理毘登 登母志岐呂加母
読下 くさかえの いりえのはちす はなばちす みのさかりひと ともしきろかも
解釈 日下江の 入江の蓮 花蓮 身の盛り人 羨しきろかも

古事記 歌謡九七
原歌 阿具良韋能 加尾能美弖母知 比久許登爾 麻比須流袁美那 登許余爾母加母
読下 あくらゐの かみのみてもち ひくことに まひするをみな ここよにもかも
解釈 呉床居の の御手もち 弾く琴に 舞する女 常世にもがも

古事記 歌謡九八
原歌 美延斯怒能 袁牟漏賀多氣爾 志斯布須登 多禮曾 意富麻幣爾麻袁須 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 斯志麻都登 阿具良爾伊麻志 斯漏多閇能 蘇弖岐蘇那布 多古牟良爾 阿牟加岐都岐 曾能阿牟袁 阿岐豆波夜具比 加久能碁登 那爾於波牟登 蘇良美都 夜麻登能久爾袁 阿岐豆志麻登布
読下 みえしのの をむろかたけに ししふすと たれそ をふまへにまをす やすみしし わかをふきみの ししまつと あくらにいまし しろたへの そてきそなふ たこむらに あむかきつき そのあむを あきづはやくひ かくのこと なにをはむと そらみつ やまとのくにを あきづしまとふ
解釈 み吉野の 小室が岳に 猪鹿伏すと 誰そ 大前に奏す やすみしし わが大君の 猪鹿待つと 呉床に坐し 白栲の 袖着そなふ 手腓に 虻掻き着き 其の虻を 蜻蛉早咋い 斯くの如 名に負はむと そらみつ 倭の国を 蜻蛉島とふ

古事記 歌謡九九
原歌 夜須美斯志 和賀意富岐美能 阿蘇婆志斯 志斯能 夜美斯志能 宇多岐加斯古美 和賀爾宜能煩理斯 阿理袁能 波理能紀能延陀
読下 やすみしし わかをふきみの あそばしし ししの やみししの うたきかしこみ わかにけのほりし ありをの はりのきのえた
解釈 やすみしし 我が大君の 遊ばしし 猪の 病み猪の うたき畏み 我が逃げ登りし 在り丘の 榛の木の枝

古事記 歌謡一〇〇
原歌 袁登賣能 伊加久流袁加袁 加那須岐母 伊本知母賀母 須岐波奴流母能
読下 をとめの いかくるをかを かなすきも いほちもかも すきはのるもの
解釈 乙女の い隠る岡を 金鉏も 五百箇もがも 鉏き撥ぬるもの

古事記 歌謡一〇一
原歌 麻岐牟久能 比志呂乃美夜波 阿佐比能 比伝流美夜 由布比能 比賀氣流美夜 多氣能泥能 泥陀流美夜 許能泥能 泥婆布美夜 夜本爾余志 伊岐豆岐能美夜 麻紀佐久 比能美加度 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 毛毛陀流 都紀賀延波 本都延波 阿米袁淤幣理 那加都延波 阿豆麻袁淤幣理 志豆延波 比那袁於幣理 本都延能 延能宇良婆波 那加都延爾 淤知布良婆閇 那加都延能 延能宇良婆波 斯毛都延爾 淤知布良婆閇 斯豆延能 延能宇良婆波 阿理岐奴能 美幣能古賀 佐佐賀世流 美豆多麻宇岐爾 宇岐志阿夫良 淤知那豆佐比 美那許袁呂許袁呂爾 許斯母 阿夜爾加志古志 多加比加流 比能美古 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 まきむくの ひしろのみやは あさひの ひてるみや ゆふひの ひかけるみや たけのねの ねだるみや このねの ねばふみや やふによし いきずきのみや まきさく ひのみかと にひなへやに をひだてる ももだる つきがえは ほつえは あめををへり なかつえは あずまををへり しずえは ひなををえり ほつえの えのうらばは なかつえに をちふらばへ なかつえは えのうらばは しもつえに をちふらばへ しずえの えのうらばは ありきぬの みへのこがささがせる みずたまうきに うきしあふら をちなずさひ みなこをろこをろに こしも あやにかしこし たかひかる ひのみこ ことのかたりごとも こをば
解釈 纏向の 日代の宮は 朝日の 日照る宮 夕日の 日光る宮 竹の根の 根足る宮 木の根の 根延ふ宮 八百土よし い杵築きの宮 真木栄く 檜の御門 新嘗屋に 生ひ立てる 百足る 槻が枝は 上つ枝は 天を覆へり 中つ枝は 東を覆へり 下づ枝は 鄙を覆へり 上つ枝の 枝の末葉は 中つ枝に 落ち触らばへ 中つ枝の 枝の末葉は 下つ枝に 落ち触らばへ 下づ枝の 枝の末葉は 在り衣の 三重の子が 捧がせる 瑞玉盞に 浮きし脂 落ちなづさひ 水こおろこおろに 是しも あやに畏し 高光る 日の御子 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡一〇二
原歌 夜麻登能 許能多氣知爾 古陀加流 伊知能都加佐 爾比那閇夜爾 淤斐陀弖流 波毘呂 由都麻都婆岐 曾賀波能 比呂理伊麻志 曾能波那能 弖理伊麻須 多加比加流 比能美古爾 登余美岐 多弖麻都良勢 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 やまとの このたけちに こだかる いちのつかさ にひなへやに をひだてる はひろ ゆつまつばき そがはの ひろりいまし そのはなの てりいます たかひかる ひのみこに とよみき たてまつらせ ことの かたりことも こをば
解釈 倭の 此の高市に 小高る 市の高処 新嘗屋に 生ひ立てる 葉広 斎つ真椿 其が葉の 広り坐し 其の花の 照り坐す 高光る 日の御子に 豊御酒 奉らせ 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡一〇三
原歌 毛毛志記能 淤富美夜比登波 宇豆良登理 比禮登理加氣弖 麻那婆志良 袁由岐阿閇 爾波須受米 宇受須麻理韋弖 祁布母加母 佐加美豆久良斯 多加比加流 比能美夜比登 許登能 加多理碁登母 許袁婆
読下 ももしきの をふみやひとは うずらとり ひれとりかけて まそばしら をゆきあへ にはすずめうずすまりいて けふもかも さかみずくらし たかひかる ひのみやひと ことの かたりごとも こをば
解釈 百磯城の 大宮人は 鶉鳥 領布取り懸けて 真柱 尾行き合へ 庭雀 群集り居て 今日もかも 酒水食らし 高光る 日の宮人 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡一〇四
原歌 美那曾曾久 淤美能袁登賣 本陀理登良須母 本陀理斗理 加多久斗良勢 斯多賀多久 夜賀多久斗良勢 本陀理斗良須古
読下 みなそそく をみのをとめ ほだりとらすも ほだりとり かたくとらせ したがたく やがたくとらせ ほだりとらすこ
解釈 水潅ぐ 臣の乙女 絆り取らすも 絆り取り 堅く取らせ 下堅く 弥堅く取らせ 絆り取らす子

古事記 歌謡一〇五
原歌 夜須美斯志 和賀淤富岐美能 阿佐斗爾波 伊余理陀多志 由布斗爾波 伊余理陀多須 和岐豆岐賀 斯多能 伊多爾母賀 阿世袁
読下 やすみしし わがをふきみの あさとには いよりたたし ゆふとには いよりたたす わきずきがしたの いたにもが あせを
解釈 やすみしし 我が大君の 朝門には い寄り立たし 夕門には い寄り立たす 脇机が下の 板にもが 吾兄を

古事記 歌謡一〇六
原歌 意富美夜能 袁登都波多伝 須美加多夫祁理
読下 をふみやの をとつはたて すみかたふけり
解釈 大宮の おとつ端手 隅傾けり

古事記 歌謡一〇七
原歌 意富多久美 袁遲那美許曾 須美加多夫祁禮
読下 をふたたみ をぢなみこそ すみかたふけれ
解釈 大匠 劣みこそ 隅傾けれ

古事記 歌謡一〇八
原歌 意富岐美能 許許呂袁由良美 淤美能古能 夜幣能斯婆加岐 伊理多多受阿理
読下 をふきみの こころをゆるみ をみのこの やへのしばかき いりたたずあり
解釈 大君の 心を緩み 臣の子の 八重の柴垣 入り立たずあり

古事記 歌謡一〇九
原歌 斯本勢能 那袁理袁美禮婆 阿蘇毘久流 志毘賀波多伝爾 都麻多弖理美由
読下 しほせの なをりをみれば あそびくる しびがはたてに つまたてりみゆ
解釈 潮瀬の 余波をみれば 遊び来る 鮪が端手に 妻立てり見ゆ

古事記 歌謡一一〇
原歌 意富岐美能 美古能志婆加岐 夜布士麻理 斯麻理母登本斯 岐禮牟志婆加岐 夜氣牟志婆加岐
読下 をふきみの みこのしばかき やふしまり しまりもとほし きれむしばかき やけむしばかき
解釈 大君の 御子の柴垣 八節縛り 縛り廻し 切れむ柴垣 焼けむ柴垣

古事記 歌謡一一一
原歌 意布袁余志 斯毘都久阿麻余 斯賀阿礼婆 宇良胡本斯祁牟 志毘都久志毘
読下 をふをよし しびつくあまよ しがあれば うらこほしけむ しびつくしび
解釈 大魚よし 鮪突く海人よ 其があれば 心恋しけむ 鮪突く志毘

古事記 歌謡一一二
原歌 阿佐遲波良 袁陀爾袁須疑弖 毛毛豆多布 奴弖由良久母 於岐米久良斯母
読下 あさぢはら をだにをすぎて ももつたふ ぬてゆらくも おきめくらしも
解釈 浅茅原 小谷を過ぎて 百伝う 鐸響くも 置目来らしも

古事記 歌謡一一三
原歌 意岐米母夜 阿布美能於岐米 阿須用理波 美夜麻賀久理弖 美延受加母阿良牟
読下 おきめもや あふみのおきめ あすよりは みやまかくりて みえずかもあらむ
解釈 置目もや 淡海の置目 明日よりは み山隠りて 見えずかもあらむ

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記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付) 古事記歌謡 前半部

2016年04月11日 | 資料書庫
記紀歌謡 (原文、読み下し、訓じ付)附続日本紀

古事記 歌謡 前半部 歌謡歌番 一~五十


 はじめに、「記紀歌謡」とは古事記と日本書紀に載る歌謡を示し、それを柬めたものを「記紀歌謡集」と云います。この資料はその「記紀歌謡集」を紹介するものですが、その内容は正統な教育を受けていない者が『万葉集』を鑑賞する時の補助資料として整備したものです。つまり、学問はありません。従いまして、この資料を参照される場合は、補助資料としてのみご利用下さい。それ以外の使用は推薦致しません。附として日本書紀歌謡の後に続日本紀歌謡を載せますが、これは「記紀歌謡」には含まれないものです。
さて、『万葉集』を鑑賞するときに同時代性を考えますと『古事記』や『日本書紀』に載る一字一音の万葉仮名と云う表記スタイルでのみ表記された歌謡、所謂、「記紀歌謡」を合わせて鑑賞することは有意義なことです。他方、『万葉集』は詩体歌、非詩体歌、常体歌、一字一音万葉仮名歌の四区分に代表される表記スタイルで表記された詩歌集です。原万葉集と称されるもの成立が奈良時代後期としますと、数十年も先行する『古事記』や『日本書紀』に載る歌謡の表記が一字一音万葉仮名歌だけであることは非常に興味が湧くところです。
 ただ、残念なことにインターネット上では、参考に出来るような「記紀歌謡」の資料ははありません。ほぼ、印刷・出版物を紹介するものがほとんどですし、「記紀歌謡」と云うものに対して原歌、その読み下し、さらに読み下しに対する解釈文を総合的に紹介するものはありません。つまり、歌の表記スタイルの比較を一覧できるものはインターネット上で探すことは困難です。そのため趣味の世界ではありますが、ここに個人の作業で整備した「記紀歌謡」を資料として紹介いたします。
 注意事項として、紹介する「記紀歌謡」での歌番号は『記紀歌謡集(武田祐吉校注 岩波文庫)』に従っています。そのため、『古事記』の歌謡では紹介する歌番号が『古事記(倉野憲司校注 岩波文庫)』などの標準のものと相違している可能性があります。また、資料は万葉集好きの個人が行う趣味が由来ですので、紹介する原歌の表記においてその漢字文字が新字や通字になっているものがあります。さらに解釈文についても素人でも手頃に入手が出来る『古事記(倉野憲司校注 岩波文庫)』、『日本書紀(坂本太郎他校注 岩波文庫)』、『記紀歌謡集(武田祐吉校注 岩波文庫)』などと相違するものがあります。つまり、紹介するものはこれらの写しではありません。改めてのお願いですが、趣味で行う『万葉集』の読解での参考には向きますが、他への引用や参照には推薦しません。
 また、ブログ資料庫への紹介は、ブログ文字数制限のため、記紀歌謡は古事記歌謡と日本書紀歌謡とに分け、さらにともに前半・後半に分けています。不便ではありますが、ご来場者のお手によりコピペして記紀歌謡の形でご利用いただければ幸いです。
 追記して、続日本紀の歌謡も補足して日本書紀の後半部の後に収容しました。なお、歌謡五は天平勝宝元年四月甲午朔に東大寺で為された詔から歌謡相当部分を弊ブログの責任で抜き出したものです。このため専門図書での確認を推薦致します。

記紀歌謡(及び続日本紀歌謡)
古事記 歌謡 
前半部 歌謡歌番 一~五九
後半部 歌謡歌番 六〇~百一三
日本書紀 歌謡
前半部 歌謡歌番 一~六六
後半部 歌謡歌番 六六~百二八
続日本紀 歌謡 歌謡番号 一~八

参照先資料;
・古事記(倉野憲司校注 岩波文庫)
・日本書紀(坂本太郎他校注 岩波文庫)
・古事記(維基文庫 データベース:https://zh.wikisource.org/wiki/古事記)
・日本書紀(朝日新聞社 データベース:http://www.j-texts.com/sheet/shoki.html)
・続日本紀(朝日新聞社 データベース:http://www.j-texts.com/sheet/shoki.html)
・記紀歌謡集(武田祐吉校注 岩波文庫)


古事記 歌謡 
前半部 歌謡歌番 一~五十

古事記 歌謡一
原歌 夜久毛多都 伊豆毛夜幣賀岐 都麻碁尾爾 夜幣賀岐都久流 曾能夜幣賀岐袁
読下 やくもたつ いづもやへがき つまごみに やへがきつくる そのやへがきを
解釈 八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を

古事記 歌謡二
原歌 夜知富許能 迦微能美許登波 夜斯麻久爾 都麻麻岐迦泥弖 登富登富斯 故志能久邇邇 佐加志賣袁 阿理登岐加志弖 久波志賣遠 阿理登伎許志弖 佐用婆比邇 阿理多多斯 用婆比邇 阿理迦用婆勢 多知賀遠母 伊麻陀登加受弖 淤須比遠母 伊麻陀登加泥婆 遠登賣能 那須夜伊多斗遠 淤曾夫良比 和何多多勢禮婆 比許豆良比 和何多多勢禮婆 阿遠夜麻邇 奴延波那伎奴 佐怒都登理 岐藝斯波登與牟 爾波都登理 迦祁波那久 宇禮多久母 那久那留登理加 許能登理母 宇知夜米許世泥 伊斯多布夜 阿麻波勢豆加比 許登能 加多理其登母 許遠婆
読下 やちほこの かみのみことは やしまくに つままきかねて とほとほし こしのくにに さかしめを ありときかして くはしめを ありときこして さよばひに ありたたし よばひに ありかよはせ たちがをも いまだとかずて おすひをも いまだとかねば をとめの なすやいたとをおそぶらひわがたたせればひこづらひ わがたたせればあをやまにぬえはなきぬさのつとりきぎしはとよむにはつとりかけはなくうれたくもなくなるとりかこのとりもうちやめこせねいしたふやあまはせつかひことのかたりこともこをば
解釈 八千矛の 神の命は 八島国 妻枕きかねて 遠遠し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして 麗し女を 有りと聞こして さ婚ひに あり立たし 婚ひに あり通はせ 大刀が緒も いまだ解かずて 襲をも いまだ解かねば 嬢子の 寝すや板戸を押そぶらひ 我が立たせれば 引こづらひ 我が立たせれば青山に 鵺は鳴きぬ さ野つ鳥 雉はとよむ 庭つ鳥 鶏は鳴く 心痛くも 鳴くなる鳥か この鳥も 打ち止めこせね いしたふや 天馳使 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡三
原歌 夜知富許能 迦尾能美許等 奴延久佐能 賣邇志阿礼婆 和何許許呂 宇良須能登理叙 伊麻許曾婆 和杼理邇阿良米 能知波 那杼理爾阿良牟遠 伊能知波 那志勢多麻比曾 伊斯多布夜 阿麻波世豆迦比 許登能 加多理碁登母 許遠婆
読下 やちほこの かみのみこと ぬえくさの めにしあれば わがこころ うらすのとりそ いまこそはわどりにあらめ のちは などりにあらむを いのちは なしせたまひそ いしたふや あまはせつかひ ことのかたりことも こをば
解釈 八千矛の 神の命 ぬえ草の 女にしあれば 我が心 浦渚の鳥ぞ 今こそは 我鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむを 命は な殺せたまひそ いしたふや 天馳使 事の 語言も 是をば

古事記 歌謡四
原歌 阿遠夜麻邇 比賀迦久良婆 奴婆多麻能 用波伊伝那牟 阿佐比能 恵美佐加延岐弖 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻伝 多麻伝佐斯麻岐 毛毛那賀爾 伊波那佐牟遠 阿夜爾 那古斐支許志 夜知富許能 迦尾能美許登 許登能 迦多理碁登母 許遠婆
読下 あをやまに ひがかくらば ぬばたまの よはいでなむ あさひの ゑみさかえきて たくつなの しろきただむき あわゆきの わかやるむねを そだたき たたきまながり またまで たまでさしまき ももながに いはなさむを あやに なこひきこし やちほこの かみのいのち ことのかたりことも こをば
解釈 青山に 日が隠らば ぬばたまの 夜は出でなむ 朝日の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕 沫雪の 若やる胸を そだたき たたきまながり 真玉手 玉手さし枕き 百長に 寝は寝さむを あやに な恋ひ聞こし 八千矛の 神の命 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡五
原歌 奴婆多麻能 久路岐美祁斯遠 麻都夫佐爾 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許禮婆布佐波受 幣都那美 曾邇奴岐宇弖 蘇邇杼理能 阿遠岐美祁斯遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 於岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許母布佐波受 幣都那美 曾邇奴棄宇弖 夜麻賀多爾 麻岐斯 阿多尼都岐 曾米紀賀斯流邇 斯米許呂母遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許斯與呂志 伊刀古夜能 伊毛能美許等 牟良登理能 和賀牟禮伊那婆 比氣登理能 和賀比氣伊那婆 那迦士登波 那波伊布登母 夜麻登能 比登母登須須岐 宇那加夫斯 那賀那加佐麻久 阿佐阿米能 佐疑理邇多多牟敍 和加久佐能 都麻能美許登 許登能 加多理碁登母 許遠婆
読下 ぬばたまの くろきみねしを まつふさに とりよそひ をきつとり むなみるとき はたたぎも こればふさはず へつなみ そにぬきうて そにとりの あをきみねしを まつふさに とりよそひ をきつとり むなみるとき はたたぎも こもふさはず へつなみ そにぬきうて やまがたに まきしあたねつき そめきがしるに しめころもを まつふさに とりよそひ をきつとり みなみるとき はたたぎも こしよろし いとこやの いものみこと むらとりの わがぬれいなば ひけとりの わがひけいなば なかしとは なはいふとも やまとの ひともとすすき うなかふし なかなかさまく あさあめの さぎちにたたぬそ わかくさの つまのみこと ことの かたりごとも こをば
解釈 ぬばたまの 黒く御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも これは適さず 辺つ波 そに脱き棄て そに鳥の 青き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも こも適はず 辺つ波 そに脱き棄て 山県に 蒔きし あたね舂き 染木が汁に 染め衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此し宜し いとこやの 妹の命 群鳥の 我が群れ往なば 引け鳥の 我が引け往なば 泣かじとは 汝は言ふとも 山処の 一本薄 項傾し 汝が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命 事の 語り言も 是をば

古事記 歌謡六
原歌 夜知富許能 加尾能美許登夜 阿賀淤富久邇奴斯 那許曾波 遠邇伊麻世婆 宇知尾流 斯麻能佐岐耶岐 加岐尾流 伊蘇能佐岐淤知受 和加久佐能 都麻母多勢良米 阿波母與 賣邇斯阿礼婆 那遠岐弖 遠波那志 那遠岐弖 都麻波那斯 阿夜加岐能 布波夜賀斯多爾 牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾 多久夫須麻 佐夜具賀斯多爾 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻伝 多麻伝佐斯麻岐 毛毛那賀邇 伊遠斯那世 登與美岐 多弖麻都良世
読下 やちほこの かみのみことや わがをふくにぬし なこそは をにいませば うちみる しまのさきさき かきみる いそのさきをちず つまもたせらめ あはもよ めにしあれば なをきて をはなし なをきて つまはなし あやかきの ふはやがしたに むきふすま にこやかしたに たくふすま さやぐかしたに あわゆきの わかやるむねを たくずぬの しろきただむき そだたき たたきまなかり またまて たまてさしまき ももなかに いをしなせ とよみき たてまつらせ
解釈 八千矛の 神の命や 吾が大国主 汝こそは 男に坐せば 打ち廻る 島の埼埼 かき廻る 磯の埼落ちず 若草の 妻持たせらめ 吾はもよ 女にしあれば 汝を除て 男は無し 汝を除て 夫は無し 綾垣の ふはやが下に 苧衾 柔やが下に 栲衾 さやぐが下に 沫雪の 若やる胸を 栲綱の 白き腕 そだたき たたきまながり 真玉手 玉手さし枕き 百長に 寝をし寝せ 豊御酒 奉らせ

古事記 歌謡七
原歌 阿米那流夜 淤登多那婆多能 宇那賀世流 多麻能美須麻流 美須麻流邇 阿那陀麻波夜 美多邇 布多和多良須 阿治志貴多迦比古泥能迦尾曾
読下 あめなるや をとたなばたの うなかせる たまのみすまる みすまるに あなだなはや みたに ふたわたらす あじしきたかひこねのかみそ
解釈 天なるや 弟棚機の 項がせる 玉の御統 御統に 足玉はや み谷 二渡らす 阿遲志貴高日子根のぞ

古事記 歌謡八
原歌 阿加陀麻波 袁佐閇比迦禮杼 斯良多麻能 岐美何余曾比斯 多布斗久阿理祁理
読下 あかだまは をさへひかれど しらたまの きみかよそひし たふとくありけり
解釈 赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり

古事記 歌謡九
原歌 意岐都登理 加毛度久斯麻邇 和賀韋泥斯 伊毛波和須禮士 余能許登碁登邇
読下 をきつとり かもつくしまに わかいねし いもはわすれし よのことごとに
解釈 沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘れじ 世のことごとに

古事記 歌謡十
原歌 宇陀能多加紀爾 志藝和那波留 和賀麻都夜 志藝波佐夜良受 伊須久波斯 久治良佐夜流 古那美賀 那許波佐婆 多知曾婆能 尾能那祁久袁 許紀志斐惠泥 宇波那理賀 那許婆佐婆 伊知佐加紀 尾能意富祁久袁 許紀陀斐惠泥 畳畳(音引) 志夜胡志夜 此者伊能碁布曾(此五字以音) 阿阿(音引) 志夜胡志夜 此者嘲咲者也
読下 うだの たかきに しぎわなはる わがまつや しぎはさやらず いすくはし くぢらさやる こなみか なこはさば たちそばの みのなけくを こきしひゑね うはなりが なこばさば いちさかき みのをふけくを こきだひゑね ええ しやこしや こはいのごふそ ああ しやこしや こはちさはや
解釈 宇陀の 高城に 鴫罠張る 我が待つや 鴫は障らず いすくはし 鯨障る 古妻が 肴乞はさば たちそばの 実の無けくを こきしひゑね 後妻が 肴乞はさば いちさかき 実の多けくを こきだひゑね ええ しやこしや こはいのごふそ ああ しやこしや こは嘲咲ふぞ

古事記 歌謡十一
原歌 意佐賀能 意富牟廬夜爾 比登佐波爾 岐伊理袁理 比登佐波爾 伊理袁理登母 美都美都斯 久米能古賀 久夫都都伊 伊斯都都伊母知 宇知弖斯夜麻牟 美都美都斯 久米能古良賀 久夫都都伊 伊斯都都伊母知 伊麻宇多婆余良斯
読下 をさかの をふむろやに ひとさはに きいりをり ひとさはに いりをりとも みつみつし くめのこが くふつつい いしつついもち うちてしやまむ みつみつし くめのこらか くふつつい いしつついもち いまうたばよらし
解釈 忍坂の 大室屋に 人多に 来入り居り 人多に 入り居りとも みつみつし 久米の子が 頭椎い 石椎いもち 撃ちてしやまむ みつみつし 久米の子らが 頭椎い 石椎いもち 今撃たば宣し

古事記 歌謡十二
原歌 美都美都斯 久米能古良賀 阿波布爾波 賀美良比登母登 曾泥賀母登 曾泥米都那藝弖 宇知弖志夜麻牟
読下 みつみつしくめのこらがあはふにはかみらひともとそねがもとそねめつなぎてうちてしやまむ
解釈 厳々し 久米の子らが 粟生には 臭韮一本 そねが本 そね芽繋ぎて 撃ちてしやまむ

古事記 歌謡十三
原歌 美都美都斯 久米能古良賀 加岐母登爾 宇惠志波士加美 久知比比久 和禮波和須禮志 宇知弖斯夜麻牟
読下 みつみつしくめのこらがかきもとにうゑしはしかみくちひひくわれはわすれしうちてしやまむ
解釈 厳々し 久米の子らが 垣下に 植ゑし椒 口ひひく 吾は忘れじ 撃ちてしやまむ

古事記 歌謡十四
原歌 加牟加是能 伊勢能宇美能 意斐志爾 波比母登富呂布 志多陀美能 伊波比母登富理 宇知弖志夜麻牟
読下 かみかせのいせのうみのおひしにはひもとほろふしただみのいはひもとほりうちてしやまむ
解釈 神風の 伊勢の海に 生石に 這ひもとほろふ 細螺の い這ひもとほり 撃ちてしやまむ

古事記 歌謡十五
原歌 多多那米弖 伊那佐能夜麻能 許能麻用母 伊由岐麻毛良比 多多加閇婆 和禮波夜惠奴 志麻都登理 宇上加比賀登母 伊麻須氣爾許泥
読下 たたなめて いなさのやまを このまよも いゆきまもらひ たたかへば われはゑぬ しまつとりうかかひがとも いますけにこね
解釈 楯並めて 伊耶佐の山の 木の間よも い行きまもらひ 戦へば 吾はや飢ぬ 島つ鳥 鵜養が伴 今助けに来ぬ

古事記 歌謡十六
原歌 夜麻登能 多加佐士怒袁 那那由久 袁登賣杼母 多禮袁志摩加牟
読下 やまとの たかさじのを ななゆく をとめとも たれをしまかむ
解釈 倭の 高佐士野を 七行く 媛女ども 誰をしまかむ

古事記 歌謡十七
原歌 賀都賀都母 伊夜佐岐陀弖流 延袁斯麻加牟
読下 かつかつも いやさきだてる えをしまはむ
解釈 かつがつも いや先立てる 兄をしまかむ

古事記 歌謡十八
原歌 阿米都都 知杼理麻斯登登 那杼佐祁流斗米
読下 あめつつ ちどりましとと などさけるとめ
解釈 天地 千鳥真鵐 など裂ける利目

古事記 歌謡十九
原歌 袁登賣爾 多陀爾阿波牟登 和加佐祁流斗米
読下 をとめに ただにあはむと わかさけるとめ
解釈 媛女に 直に逢はむと 我が黥ける利目

古事記 歌謡二〇
原歌 阿斯波良能 志祁志岐袁夜邇 須賀多多美 伊夜佐夜斯岐弖 和賀布多理泥斯
読下 あしはらの しねしきをやに すかたたみ いやさやしきて わかふたりねし
解釈 葦原の 穢しき小屋に 菅畳 いやさや敷きて 我が二人寝し

古事記 歌謡二一
原歌 佐韋賀波用 久毛多知和多理 宇泥備夜麻 許能波佐夜藝奴 加是布加牟登須
読下 さゐかはよ くもたちわたり うねびやま このはさやげぬ かせふかむとす
解釈 狭井河よ 雲立ちわたり 畝傍山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす

古事記 歌謡二二
原歌 宇泥備夜麻 比流波久毛登韋 由布佐禮婆 加是布加牟登曾 許能波佐夜牙流
読下 うねびやま ひるはくもとゐ ゆふされば かせふかむとそ このはさやげる
解釈 畝傍山 昼は雲とゐ 夕されば 風吹かぬとそ 木の葉さやげる

古事記 歌謡二三
原歌 古波夜 美麻紀伊理毘古波夜 美麻紀伊理毘古波夜 意能賀袁袁 奴須美斯勢牟登 斯理都斗用 伊由岐多賀比 麻幣都斗用 伊由岐多賀比 宇迦迦波久 斯良爾登 美麻紀伊理毘古波夜
読下 こはや みまきいりひこはや みまきいりひこはや をのかをを ぬすみしせむと しりつとよ いゆきたかひ まへつとよ いゆきたかひ うかかはく しらにと みまきいりひこはや
解釈 此はや 御真木入彦はや 御真木入彦はや おのが緒を 盗み殺せむと 後つ戸よ い行きたがひ 前つ戸よ い行きたがひ うかかはく 知らにと 御真木入彦はや

古事記 歌謡二四
原歌 夜都米佐須 伊豆毛多祁流賀 波祁流多知 都豆良佐波麻岐 佐味那志爾 阿波禮
読下 やつめさす いずもたけるか はけるたち つずらさはまき さみなしに あはれ
解釈 やつめさす 出雲建が 佩ける大刀 葛多卷き さ身無しに あはれ

古事記 歌謡二五
原歌 佐泥佐斯 佐賀牟能袁怒邇 毛由流肥能 本那迦邇多知弖 斗比斯岐美波母
読下 さねさし さかむのをのに もゆるひの ほなかにたちて とひしきみはも
解釈 さねさし 相模の小野に 燃ゆる火の 火中に立ちて 問ひし君はも

古事記 歌謡二六
原歌 邇比婆理 都久波袁須疑弖 伊久用加泥都流
読下 にひばり つくはをすぎて いくよかねつる
解釈 新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる

古事記 歌謡二七
原歌 迦賀那倍弖 用邇波許許能用 比邇波登袁加袁
読下 かがなひて よにはここのよ にひはとをかを
解釈 日々並べて 夜には九夜 日には十日を

古事記 歌謡二八
原歌 比佐迦多能 阿米能迦具夜麻 斗迦麻邇 佐和多流久毘 比波煩曾 多和夜賀比那袁 麻迦牟登波 阿礼波須禮杼 佐泥牟登波 阿礼波意母閇杼 那賀祁勢流 意須比能須蘇爾 都紀多知邇祁理
読下 ひさかたの あめのかくやま とかまに さわたるくひ ひはほそ たわやかひなを まかむとは あれはすれど さねむとは あれはをもへど なかけせる をすひのすそに つきたちにけり
解釈 ひさかたの 天の香具山 とかまに さ渡る鵠 弱細 手弱腕を 枕かむとは 吾はすれど さ寝むとは 吾は思へど 汝が着せる 襲の裾に 月たちにけり

古事記歌謡二九
原歌 多迦比迦流 比能美古 夜須美斯志 和賀意富岐美 阿良多麻能 登斯賀岐布禮婆 阿良多麻能 都紀波岐閇由久 宇倍那宇倍那 岐美麻知賀多爾 和賀祁勢流 意須比能須蘇爾 都紀多多那牟余
読下 たかひかる ひのみこ やすみしし わかをふきみ あらたまの としかきふれば あらたまの つきはきへゆく うへな うへな きみまちかたに わかけせる をすひのすそに つきたたなむと
解釈 高光る 日の御子 やすみしし 我が大君 あらたまの 年が来経れば あらたまの 月は来経行く うべな うべな 君待ち難に 我が着せる 襲の裾に 月たたなむよ

古事記 歌謡三〇
原歌 袁波理邇 多陀邇牟迦幣流 袁都能佐岐那流 比登都麻都 阿勢袁 比登都麻都 比登邇阿理勢婆 多知波氣麻斯袁 岐奴岐勢麻斯袁 比登都麻都 阿勢袁
読下 をはりに ただにむかへる をつのさきなる ひとつまつ あせを ひとつまつ ひとにありせば たちはけましを きぬきせましを ひとるまつ あせを
解釈 尾張に 直に向かへる 尾津の前なる 一つ松 吾兄を 一つ松 人にありせば 大刀佩けましを 衣着せましを 一つ松 吾兄を

古事記 歌謡三一
原歌 夜麻登波 久爾能麻本呂婆 多多那豆久 阿袁加岐 夜麻碁母禮流 夜麻登志宇流波斯
読下 やまとは くにのまほろば たたなずく あをかき やまごもれる やまとしうるはし
解釈 大和は 国のまほろば たたなづく 青垣 山ごもれる 大和しうるはし

古事記 歌謡三二
原歌 伊能知能 麻多祁牟比登波 多多美許母 幣具理能夜麻能 久麻加志賀波袁 宇受爾佐勢曾能古
読下 いのちの またけむひとは たたみこも へくりのやまの くまかしかはを うずにさせそのこ
解釈 命の 全けむ人は 畳薦 平群の山の 熊樫が葉を 髻華に挿せその子

古事記 歌謡三三
原歌 波斯祁夜斯 和岐幣能迦多用 久毛韋多知久母
読下 はしけやし わきへのかたよ くもゐたちくも
解釈 愛しけやし 吾家の方よ 雲居たち来も

古事記 歌謡三四
原歌 袁登賣能 登許能辨爾 和賀淤岐斯 都流岐能多知 曾能多知波夜
読下 をとめの とこのへに わかwきし つるきのたち そのたちはや
解釈 乙女の 床の辺に 我が置きし 剣の大刀 その大刀はや

古事記 歌謡三五
原歌 那豆岐能多能 伊那賀良邇 伊那賀良爾 波比母登富呂布 登許呂豆良
読下 なずきのたの いなからに いなからに はひもとほろふ ところずら
解釈 那豆岐の田の 稲殻に 稲殻に 這ひ廻ろふ 野老鬘

古事記 歌謡三六
原歌 阿佐士怒波良 許斯那豆牟 蘇良波由賀受 阿斯用由久那
読下 あさしのはら しきなずむ そらはゆかず あしよゆくな
解釈 浅小竹原 腰沈む 空は行かず 足よ行くな

古事記 歌謡三七
原歌 宇美賀由氣婆 許斯那豆牟 意富迦波良能 宇惠具佐 宇美賀波 伊佐用布
読下 うみかゆけば こしなずむ をふかはらの うゑぐさ うみかは いさよふ
解釈 海処行けば 腰なづむ 大河原の 植え草 海処は いさよふ

古事記 歌謡三八
原歌 波麻都知登理 波麻用波由迦受 伊蘇豆多布
読下 はまつちとり はまよはゆかず いそづたふ
解釈 浜つ千鳥 浜よは行かず 磯伝ふ

古事記 歌謡三九
原歌 伊奢阿藝 布流玖麻賀 伊多弖淤波受波 邇本杼理能 阿布美能宇美邇 迦豆岐勢那和
読下 いさあぎ ふるくまか いたてをはずは にほとりの あふみのうみに かづきせなわ
解釈 いざ吾君 振熊が 痛手負はずは 鳰鳥の 淡海の海に 潜きせなわ

古事記 歌謡四〇
原歌 許能美岐波 和賀美岐那良受 久志能加美 登許余邇伊麻須 伊波多多須 須久那美迦尾能 加牟菩岐 本岐玖琉本斯 登余本岐 本岐母登本斯 麻都理許斯 美岐敍 阿佐受袁勢 佐佐
読下 このみきは わかみきならず くしのかみ とこよにいます いはたたす すくなみかみの かむすき ほきくるほし とよほき ほきもとほし まつりこし みきそ あさずをせ ささ
解釈 この御酒は わが御酒ならず 酒の司 常世に坐す 石立たす 少御の 噛む醸き 壽き来る欲し 豊壽ぎ 壽き廻し 奉り来し 御酒ぞ 飽さず食せ 酒

古事記 歌謡四一
原歌 許能美岐袁 迦美祁牟比登波 曾能都豆美 宇須邇多弖弖 宇多比都都 迦美祁禮迦母 麻比都都 迦美祁禮加母 許能美岐能 美岐能 阿夜邇宇多陀怒斯 佐佐
読下 このみきを かみけむひとは そのつづみ うすにたてて うたひつつ かみけれかも まひつつ かみけれかも このみきの みきの あやにうただのし ささ
解釈 この御酒を 釀みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 釀みけれかも 舞ひつつ 釀みけれかも この御酒の 御酒の あやに歌楽し 酒

古事記 歌謡四二
原歌 知婆能 加豆怒袁美禮婆 毛毛知陀流 夜邇波母美由 久爾能富母美由
読下 ちばの かづのをみれば ももちたる やにはもみゆ くにのほもみゆ
解釈 千葉の 葛野を見れば 百千足る 家庭も見ゆ 国の秀も見ゆ

古事記 歌謡四三
原歌 許能迦邇夜 伊豆久能迦邇 毛毛豆多布 都奴賀能迦邇 余許佐良布 伊豆久邇伊多流 伊知遲志麻 美志麻邇斗岐 美本杼理能 迦豆伎伊岐豆岐 志那陀由布 佐佐那美遲袁 須久須久登 和賀伊麻勢婆夜 許波多能美知邇 阿波志斯袁登賣 宇斯呂伝波 袁陀弖呂迦母 波那美波 志比比斯那須 伊知比韋能 和邇佐能邇袁 波都邇波 波陀阿可良氣美 志波邇波 邇具漏岐由惠 美都具理能 曾能那迦都爾袁 加夫都久 麻肥邇波阿弖受 麻用賀岐 許邇加岐多禮 阿波志斯袁美那 迦母賀登 和賀美斯古良 迦久母賀登 阿賀美斯古邇 宇多多氣陀邇 牟迦比袁流迦母 伊蘇比袁流迦母
読下 このかにや いづくのかに ももづたふ つのかのかに よこさらふ いづくにいたる いちぢしま みしまにつき みほとりの かづきいきづき しなだゆふ ささなみぢを すくすくと わかいませばや こはたのみちに あはししをとめ うしろては をたてろかも はなみは しひひしなす いちひゐの わにさのにを はつには はたあからけみ しはには にくろきゆゑ みつくりの そのなかつにを かふつく まひにはあてず こにかきたれ あはししをみな かむかとわかみしこら かくもかと あかみしこに うたたけたに むかひをるかも いそひをるかも
解釈 この蟹や 何処の蟹 百伝ふ 角鹿の蟹 横去らふ 何処に到る 伊知遲島 美島に著き 鳰鳥の 潜き息づき しなだゆふ 佐佐那美路を すくすくと 我が行ませばや 木幡の道に 遇はしし嬢子 後姿は 小盾ろかも 歯並みは 椎菱如す 櫟井の 丸邇坂の土を 初土は 膚赤らけみ 底土は 丹き故 三つ栗の その中つ土を かぶつく 真火には當てず 眉書き 濃に書き垂れ 遇はしし女人 かもがと 我が見し子ら かくもがと 我が見し子に うたたけだに 對ひ居るかも い副ひ居るかも

古事記 歌謡四四
原歌 伊耶古杼母 怒毘流都美邇 比流都美邇 和賀由久美知能 迦具波斯 波那多知婆那波 本都延波 登理韋賀良斯 支豆延波 比登登理賀良斯 美都具理能 那迦都延能 本都毛理 阿加良袁登賣袁 伊耶佐佐婆 余良斯那
読下 いさことも のひるつみに ひるつみに わかゆくみちの かくはし はなたちばなは ほつえは とりゐからし しづえは ひととりからし みつくりの なかつえの ほつもり あからをとめを いなささば よらしな
解釈 いざ子供 野蒜摘みに 蒜摘みに 我が行く道の 香ぐはし 花橘は 上枝は 鳥居枯らし 下枝は 人取り枯らし 三つ栗の 中つ枝の ほつもり 赤ら孃子を いなささは 良らしな

古事記 歌謡四五
原歌 美豆多麻流 余佐美能伊氣能 韋具比宇知賀 佐斯祁流斯良邇 奴那波久理 波閇祁久斯良邇 和賀許許呂志叙 伊夜袁許邇斯弖 伊麻叙久夜斯岐
読下 みづたまる よさみのいけの ゐくひうちか さしけるしらに のなはくり はへけくしらに わかこころしそ いやをこにして いまそくやしき
解釈 水溜まる 依網の池の 堰杙打ちが 挿しける知らに 蓴繰り 延へけく知らに 我が心しぞ いや愚にして 今ぞ悔しき

古事記 歌謡四六
原歌 美知能斯理 古波陀袁登賣袁 迦尾能碁登 岐許延斯迦杼母 阿比麻久良麻久
読下 みちのしり こはだをとめを かみのごと きこえしかとも あひまくらまく
解釈 道の後 古波陀孃子を 雷の如 聞こえしかども 相枕枕く

古事記 歌謡四七
原歌 美知能斯理 古波陀袁登賣波 阿良蘇波受 泥斯久袁斯叙母 宇流波志美意母布
読下 みちのしり こはだをとめは あらそはず ねしくをしそも うるはしみをもふ
解釈 道の後 古波陀孃子は 争そはず 寝しくをしぞも 麗しみ思ふ

古事記 歌謡四八
原歌 本牟多能 比能美古 意富佐耶岐 意富佐耶岐 波加勢流多知 母登都流藝 須惠布由 布由紀能 須 加良賀志多紀能 佐夜佐夜
読下 ほむたの ひのみこ をふささき をふささき はかせるたち もとつるぎ すゑふゆ ふゆきの すからかしたきの さよさよ
解釈 誉田の 日の御子 大雀 大雀 佩かせる御刀 本吊ぎ 末振ゆ 冬木の 素幹が下木の さやさや

古事記 歌謡四九
原歌 加志能布邇 余久須袁都久理 余久須邇 迦美斯意富美岐 宇麻良爾 岐許志母知袁勢 麻呂賀知
読下 かしのふに よくすをつくり よくすに かみしをふきみ うまらに きこしもちをせ まろかち
解釈 白檮の生に 横臼を作り 横臼に 釀みし大御酒 美味らに 聞こしもち飲せ まろが父

古事記 歌謡五〇
原歌 須須許理賀 迦美斯美岐邇 和禮惠比邇祁理 許登那具志 惠具志爾 和禮惠比邇祁理
読下 すすこりか かみしみきに われゑひにけり ことなくし ゑくしに われゑひにけり
解釈 須須許理が 釀みし御酒に 我酔ひにけり ことなくし ゑくしに 我酔ひにけり

古事記 歌謡五一
原歌 知波夜夫流 宇遲能和多理邇 佐袁斗理邇 波夜祁牟比登斯 和賀毛古邇許牟
読下 ちはやふる うぢのわたりに さをとりに はやけむひとし わかもこにこむ
解釈 ちはやぶる 宇治の渡りに 棹取りに 速けむ人し 我が仲間に来む

古事記 歌謡五二
原歌 知波夜比登 宇遲能和多理邇 和多理是邇 多弖流 阿豆佐由美麻由美 伊岐良牟登 許許呂波母閇杼 伊斗良牟登 許許呂波母閇杼 母登幣波 岐美袁淤母比伝 須惠幣波 伊毛袁淤母比伝 伊良那祁久 曾許爾淤母比伝 加那志祁久 許許爾淤母比伝 伊岐良受曾久流 阿豆佐由美麻由美
読下 ちはやひと うぢのわたりに わたりせに たてる あづさゆみまゆみ いきらむと こころはもへと いとろむと こころはもへと もとへは きみををもひて すゑへは いもををもひて いらなけく そこにをもひて かなしけく ここにをもひて いきらずそくる あづさゆみまゆみ
解釈 ちはや人 宇治の渡りに 渡り瀬に 立てる 梓弓檀 い伐らむと 心は思へど い取らむと 心は思へど 本方は 君を思ひ出 末方は 妹を思ひ出 苛けく 其処に思ひ出 愛しけく 此処に思ひ出 い伐らずそ来る 梓弓檀

古事記 歌謡五三
原歌 淤岐幣邇波 袁夫泥都羅羅玖 久漏耶夜能 摩佐豆古和藝毛 玖邇幣玖陀良須
読下 をきへには をふねつららく くろさやの まさづこわげも くにへくたらす
解釈 沖方には 小船連らく 鞘の まさづ子我妹 国へ下らす

古事記 歌謡五四
原歌 淤志弖流夜 那爾波能佐岐用 伊伝多知弖 和賀久邇美禮婆 阿波志摩 淤能碁呂志摩 阿遲摩佐能 志麻母美由 佐氣都志摩美由
読下 をしてるや なにはのさきよ いてたちて わかくにみれば あはしま をのごろしま あぢすさのしまもみゆ さけつしまみゆ
解釈 押し照るや 難波の崎よ 出で立ちて 我が国見れば 淡島 淤能碁呂島 檳椰の 島も見ゆ 離つ島見ゆ

古事記 歌謡五五
原歌 夜麻賀多邇 麻祁流阿袁那母 岐備比登登 等母邇斯都米婆 多怒斯久母阿流迦
読下 やまかたに まけるあをなも きびひとと ともにしつめば たのしくもあるか
解釈 山縣に 蒔ける青菜も 吉備人と 共にし摘めば 楽しくもあるか

古事記 歌謡五六
原歌 夜麻登幣邇 爾斯布岐阿宜弖 玖毛婆那禮 曾岐袁理登母 和禮和須禮米夜
読下 やまとへに にしふきあぎて くもばなれ そきをりとも われわすれめや
解釈 倭方に 西吹き上げて 雲離れ 退き居りとも 我忘れめや

古事記 歌謡五七
原歌 夜麻登幣邇 由玖波多賀都麻 許母理豆能 志多用波閇都都 由久波多賀都麻
読下 やまとへに ゆくはたがつま こもりづの したよはへつつ ゆくはたがつま
解釈 倭方に 行くは誰が妻 隠り処の 下よ延へつつ 行くは誰が妻

古事記 歌謡五八
原歌 都藝泥布夜 夜麻志呂賀波袁 迦波能煩理 和賀能煩禮婆 迦波能倍邇 淤斐陀弖流 佐斯夫袁 佐斯夫能紀 斯賀斯多邇 淤斐陀弖流 波毘呂 由都麻都婆岐 斯賀波那能 弖理伊麻斯 芝賀波能 比呂理伊麻須波 淤富岐美呂迦母
読下 つぎねふや やましろかはを かはのほり わかのほれば かはのへに をひたてる さしふを さしふのき しかしたに をひたてる はひろ ゆつまつばき しかはなの てりいまし しかはの ひろりいますは をほきみろかも
解釈 つぎねふや 山代河を 河上り我が上れば 河の上に 生い立てる 烏草樹を 烏草樹の木 其が下に生い立てる 葉広 斎つ真椿 其が花の 照り坐し 其が葉の 広り坐すは 大君ろかも

古事記 歌謡五九
原歌 都藝泥布夜 夜麻志呂賀波袁 美夜能煩理 和賀能煩禮婆 阿袁邇余志 那良袁須疑 袁陀弖 夜麻登袁須疑 和賀美賀本斯久邇波 迦豆良紀多迦美夜 和藝幣能阿多理
読下 つぎねふや やましろかはを みやのほり わかのほれば あをによし ならをすぎ をだて やまとをすぎ わかみかほしくには かづらきたかみや わぎへのあたり
解釈 つぎねふや 山代河を 宮上り 我が上れば あをによし 奈良を過ぎ 小楯 倭を過ぎ 我が 見がほし国は 葛城 高宮 我家の辺

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