判例紹介
店舗等を目的とする建物賃貸借契約の際に保証金として支払われた賃料の約22.5ヶ月分に相当する金員が敷金としての性質を有しないとされた事例 (大阪高裁平成14年4月17日判決、判例タイムズ1104号)
(事案の概要)
賃借人は、昭和59年3月、ショールームの使用目的で、契約期間10年、賃料443万円、敷金1283万円、保証金9977万円の約定で賃借した。
保証金については、10年間据置のうえ翌年から5年の年賦で返還するが賃貸借契約日から5年内に解約したときは20パーセントの解約金が控除されるという特約が付いていた。
賃借人は、昭和60年8月、賃料を支払えなかったので、賃貸借契約を解約して建物を明渡し、敷金の返還を受けた。しかし、保証金は据置期間未到来のためにそのままになっていたところ、国税が保証金返還債権を差し押さえ、家主に対して、保証金9977万円の取立を請求した。
家主は、賃借人に対する未払い賃料、期間内解約による違約金、共益費、電気料金、現状回復費等の清算が済んでないので、保証金返還額は1066万円分しか残っていないと争った。そこで本件保証金は、敷金のように賃貸契約上の債務を清算すべき性質のものなのかどうかが問題となった。
(判決要旨)
「本件保証金が差し入れられたのは、本件建物の建築資金が必要な時期であって、本件保証金は多額であるほか無利息で返還する約定があることからすれば、銀行からの借入金に比して金利分の節約ができることから賃貸人にとって有利であることが明らかであるから、通常であればこれを建設資金などに充当すると考えられるし、賃貸人がこの保証金を他に使ったことを客観的に説明しない以上、本件保証金は本件建物の建設資金に充当することを主目的として差し入れられたものと推認すべきである。
本件保証金の敷金としての担保機能の有無について検討する。本件契約では、敷金と保証金を別個に規定し、敷金については、賃借物件明け渡し後債務完済を確認したときに返還する旨規定しているのに、本件保証金については本件据置規定が存在するだけで、賃貸借終了時の返還義務の有無については何ら触れていないので、敷金と同様の担保的機能を有し賃借物件の明け渡し時に契約上の債務と清算した上で賃借人に返還すべきものであるとはいえない。」
(説明)
保証金の性質については、建設協力金、敷金、即時解約金、権利金のいずれか、又はこれらを併せ持ったものなど、さまざまであり、契約文言、金額、差し入れの趣旨などから、賃貸借当事者間の意思を解釈して結論される。本件では、金額が多額あること、返還時期が契約終了と無関係であること、使途が建築資金であること等から、敷金ではないとされた。
(2003.04.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
東京・台東借地借家人組合
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