判例紹介
賃貸人が賃借人(転貸人)との賃貸借契約解除を理由に転借人に建物明渡を求めた場合、転借人は転貸人に対して賃料の支払いを拒絶できるとした事例 (東京地裁平成6年12月2日判月決、判例時報1551号96頁)
(事案の概要)
A(賃借人=Yの転貸人)はB(賃貸人=建物所有者)から建物を賃借していたが、AがBに賃料を支払わなかったため、Bは賃貸借契約を解除しY(転借人)に建物の明渡を求めた。他方、Aの債権者Xは、AのYに対する転貸借の賃料債権を差押えYにその支払いを求めたが、YはAB間の賃貸借契約が解除されBから建物の明渡を求められいることを理由に転貸借の賃料の支払いを拒絶した。Xは転貸借の賃料の支払いを求めて提訴。
(判決)
本判決は、「建物賃借人は、賃借建物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払いを拒絶することができる」とした最高裁昭和50年4月25日判決(民集29巻4号556頁)を前提として、
「Aが平成4年3月分からの賃料を滞納したので、BはAに対し、同年8月6日付け書面で、同年3月分8月分の滞納家賃の支払いを催告し、15日以内に支払わないときは本件賃貸契約を解除する旨の意思表示をしたが、AがBの請求に応じなかったため、同月下旬、BはYに対し、YがBに保証金と賃料を支払わなければ本件建物を明渡せと求めた」との事実を認定したうえで、
「Yは、本件賃貸借契約解除によって本件建物の所有権に基づき明渡を請求することができるBから右明渡を求められたものと認められることができる。したがって、YはAに対し、それ以後、すなわち本件転貸借に基づく同年9月分以降の賃料の支払いを拒絶することができ、その後に右賃料を差押えた人に対してもその支払い拒絶できる」とし、
さらに「賃貸人は賃借人に対し目的物を使用収益させる義務があるところ、その使用によって賃借人が第三者に対し不当利得返還義務あるいは不法行為による損害賠償義務を負うことがないようにすることをも含むものと解すべきであって、Yは、同年8月下旬、本件建物の所有者であるBから直接賃料の支払いを求められ、その後同社から賃料相当損害金の支払いを求める訴訟を提起されている(中略)から、Yは、同年8月下旬当時においてBから権利を主張された結果、同社から不当利得返還あるいは不当行為による損害賠償請求を受ける客観的な危険があったものであり、転貸人であるAの右義務が履行されないおそれが生じていた上、本件建物を事実上使用収益しても、右使用期間中の賃料支払を拒絶することができる」と判示してYの賃料支払い拒絶を認めた。
(寸評)
この判決は最高裁判例を踏まえつつ、賃貸人の義務について分析し、原賃借人から明渡請求を受けた転借人は建物を使用していても転貸人に対して賃料支払を拒絶できることを認めたもので、原賃貸人・転貸人間の紛争に挟まれた転借人に一つの指針を与えるものである。
(1996.03.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
(*)参考 同じ判例(東京地裁平成6年12月2日判決)を扱っています。こちらから 覗けます。
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