東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例】 *最高裁平成21年11月27日判決(建物収去土地明渡請求事件 )

2009年12月07日 | 譲渡・転貸借

 判例紹介


事件番号・・・・平成20(受)1340
事件名・・・・建物収去土地明渡請求事件
裁判所・・・・最高裁判所第二小法廷
裁判年月日・・・・平成21年11月27日
裁判種別・・・・判決
結果・・・・破棄自判
原審裁判所・・・・東京高等裁判所
原審事件番号・・・・平成20(ネ)589
原審裁判年月日・・・・平成20年05月14日

裁判要旨
 1 賃借人が借地上の建物の建て替えに当たり新築建物を賃借人とその妻子の共有とすることにつき賃貸人から承諾を得ていた場合において,賃借人が自らは新築建物の共有者とはならず妻子の共有とすることを容認して借地を無断転貸したことにつき,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとされた事例

 2 賃借人が,借地上の建物の共有者である賃借人の子がその妻に離婚に伴う財産分与としてその持分を譲渡することを容認して借地を無断転貸したことにつき,賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとされた事例

 

              主       文

       原判決中,上告人らに関する部分を破棄する。
       前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
       控訴費用及び上告費用は,被上告人の負担とする。


              理       由

 上告代理人大河原弘,同宇多正行,上告復代理人吉川佳子の上告受理申立て理由について
 1 本件は,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を所有し,上告人Y₁ に賃貸している被上告人が,無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除を主張して,①上告人Y₁ 並びに本件土地上の同目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を共有する上告人Y₂ 及び同Y₃ に対し,本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを,②本件建物を占有する上告人株式会社Y₄に対し,本件建物から退去して本件土地を明け渡すことを求めるとともに,③上告人らに対し,賃料相当損害金を連帯して支払うことを求める事案である。

 2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
 (1) 上告人Y₁ の父Aは,昭和21年ころ,被上告人の父Bが所有していた本件土地を賃借してその上に建物(以下「旧建物」という。)を建築し,以後そこに居住して畳製造販売業を営んでいた。その後,Aの死亡に伴い旧建物を相続により取得した上告人Y₁ は,Bの死亡に伴い本件土地を相続により取得した被上告人との間で,昭和62年3月9日,本件土地の賃貸借契約を更新する旨合意した(以下,上記合意更新後の賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。本件賃貸借契約には,賃借人が本件土地上の建物をほかに譲渡するときは,あらかじめ賃貸人の承諾を受けなければならない旨の特約がある。

 (2) 上告人Y₁ は,旧建物に妻である上告人Y₂ 及び子であるCと共に居住するとともに,旧建物を本店所在地として,上告人株式会社Y₄を設立し,その代表取締役に就任し,引き続き旧建物において畳製造販売業を営んできたが,同年2月14日,Cが上告人Y₃ と婚姻し,昭和63年3月30日,Cと上告人Y₃ の間にDが出生し,上告人Y₁ 及びDも旧建物に同居するようになった。

 (3) Cと上告人Y₂ は,平成9年ころ,旧建物の建て替えに反対していた上告人Y₁の了解を得ずに,被上告人との間で,建て替え後の建物の持分を上告人Y₁ 及びCにつき各2分の1とすることを前提として,建物の建て替えの承諾条件につき交渉を行った。被上告人は,Cとの間で,旧建物の建て替え及び本件土地の転貸の承諾料を400万円とすることを合意した。

 (4) その後,Cは,被上告人に対し,金融機関から融資を受ける都合上,建て替え後の建物の共有者に上告人Y₂ を加え,各人の持分を上告人Y₁ につき10分の1,Cにつき10分の7,上告人Y₂ につき10分の2にしたいとの申入れをした。被上告人は,先に合意した承諾料の額を変更することなく,これを承諾した。

 (5) 旧建物の建て替え後の建物である本件建物は,平成10年3月完成した。本件建物については,上記申入れの内容とは異なり,Cの持分を10分の7,上告人Y₂ の持分を10分の3としてC及び上告人Y₂ が共有することとなり,その旨の所有権保存登記がされた。C及び上告人Y₂ は,上告人Y₁ が持分を取得しないことを被上告人に説明すると,旧建物の建て替えについて承諾が得られず,承諾を得られるとしても承諾料その他の条件が不利なものになる可能性があると考えて,上記の事実を被上告人に説明しなかった。

 (6) 上告人Y₁ は,最終的に,C及び上告人Y₂ が本件建物を建築し,上記の持分割合でこれを共有することを容認し,これにより本件土地が上告人Y₁ からC及び上告人Y₂ に転 貸されることになっ た(以下, この転貸 を「第1転貸」という。)。本件建物には,旧建物と同様に,上告人Y₁ ,同Y₂ ,C,上告人Y₃ 及びDの5名が居住するとともに,上告人株式会社Y₄ の本店が置かれてきた。

 (7) Cは,平成17年2月,上告人Y₃ との離婚の届出をし,財産分与として本件建物の持分10分の7を上告人Y₃ に譲渡した。この財産分与に伴い,本件建物の敷地である本件土地につきCが有していた持分10分の7の転借権も上告人Y₃に移転した。上告人Y₁ は,上記財産分与が行われたことを容認し,これにより本件土地が上告人Y₁ から上告人Y₃ に転貸されることになった(以下,この転貸を「第2転貸」という。)。

 (8) Cは,同年6月に破産手続開始の決定を受けた。Cは,同年8月に本件建物から退去したが,上告人Y₃ 及びDは,その後も上告人Y₁ 及び同Y₂ と共に本件建物に居住している。

 (9) 被上告人は,同年6月17日ころ,本件建物の登記事項証明書を取り寄せて,①本件建物の所有権保存登記がC及び上告人Y₂ を共有者としてされていて,上告人Y₁ はその建築当初から持分を有しないこと,②本件建物のCの持分は同年12月22日財産分与を原因として上告人Y₃ へ移転した旨の登記がされていることを知り,同年8月28日,上告人Y₁ に対し,同月末日をもって本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした(以下,この意思表示を「本件解除」という。)。

 (10) 上告人Y₁ は,旧建物を建て替えた後,本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を遅滞したことがない。

 (11) 被上告人は,本件解除においては,第2転貸が被上告人に無断で行われたことを理由としていたが,本件訴訟において,第1転貸が被上告人に無断で行われたことも解除の理由として追加して主張している。

 3 原審は,上記事実関係の下で,次のとおり,第1転貸及び第2転貸のいずれについても,被上告人に無断で行われたことにつき背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえないと判断して,被上告人の上告人らに対する請求をいずれも認容した。

 (1) 第1転貸については,①旧建物の建て替えの承諾条件について交渉を行ったCが,上記条件が不利なものになりかねないと考えて,建て替え後の本件建物の共有持分を上告人Y₁ が取得しないことをあえて被上告人に説明しなかったこと,②上告人Y₁ が本件建物の共有者とならない場合,被上告人において承諾料の増額を要求していたと推認されることなどを勘案すると,これが被上告人に無断で行われたことにつき賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえない。

 (2) 第2転貸についても,①Cの離婚を隣人である被上告人に話しにくいという事情があったとしても,被上告人に無断で本件土地を上告人Y₃ に転貸したことを正当化すべき事由にはならないこと,②Cが破産手続開始の決定を受けたことにより,上告人Y₁ 一家の生活状況や資産内容に少なからず影響があったと考えられることなどを勘案すると,上記特段の事情があるとはいえない。

 4 しかしながら,原審の上記判断はいずれも是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)前記事実関係によれば,第1転貸は,本件土地の賃借人である上告人Y₁が,賃貸人である被上告人の承諾を得て本件土地上の上告人Y₁ 所有の旧建物を建て替えるに当たり,新築された本件建物につき,C及び上告人Y₂ の共有とすることを容認し,これに伴い本件土地を転貸したものであるところ,第1転貸による転借人らであるC及び上告人Y₂ は,上告人Y₁ の子及び妻であって,建て替えの前後を通じて借地上の建物において上告人Y₁ と同居しており,第1転貸によって本件土地の利用状況に変化が生じたわけではない上,被上告人は,上告人Y₁の持分を10分の1,Cの持分を10分の7,上告人Y₂ の持分を10分の2として,建物を建て替えることを承諾しており,上告人Y₁ の持分とされるはずであった本件建物の持分10分の1が上告人Y₂ の持分とされたことに伴う限度で被上告人の承諾を得ることなく本件土地が転貸されることになったにとどまるというのである。そして,被上告人は,上告人Y₁ とCが各2分の1の持分を取得することを前提として合意した承諾料につき,これを増額することなく,上告人Y₁ ,C及び上告人Y₂の各持分を上記割合として建物を建て替えることを承諾し,上記の限度で無断転貸となる第1転貸がされた事実を知った後も当初はこれを本件解除の理由とはしなかったというのであって,被上告人において,上告人Y₁ が本件建物の持分10分の1を取得することにつき重大な関心を有していたとは解されない。そうすると,上告人Y₁ は本件建物の持分を取得しない旨の説明を受けていた場合に被上告人において承諾料の増額を要求していたことが推認されるとしても,第1転貸が上記の限度で被上告人に無断で行われたことにつき,賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるというべきである。

 (2) また,前記事実関係によれば,第2転貸は,本件土地の賃借人である上告人Y₁ が,本件土地上の本件建物の共有者であるCにおいてその持分を上告人Y₃ に譲渡することを容認し,これに伴い上告人Y₃ に本件土地を転貸したものであるところ,上記の持分譲渡は,上告人Y₁ の子であるCから,その妻である上告人Y₃ に対し,離婚に伴う財産分与として行われたものである上,上告人Y₃は離婚前から本件土地に上告人Y₁ らと共に居住しており,離婚後にCが本件建物から退去したほかは,本件土地の利用状況には変化が生じていないというのであって,第2転貸により賃貸人である被上告人が何らかの不利益を被ったことは全くうかがわれない。

 そうすると,第2転貸が被上告人に無断で行われたことについても,上記の特段の事情があるというべきである。

 (3) 以上によれば,第1転貸及び第2転貸が被上告人に無断で行われたことを理由とする本件解除は効力を生じないものといわなければならず,被上告人の上告人らに対する請求はいずれも理由がない。

 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人らに関する部分は破棄を免れない。そして,被上告人の上告人らに対する請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁 判 長 裁 判 官 中 川 了 滋  裁 判 官 今 井功  裁 判 官 古 田 佑 紀  裁 判 官 竹内行夫)


 

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