東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【Q&A】 賃貸人が死亡し複数の相続人がいる場合は遺産分割が確定するまで供託をする

2008年09月02日 | 弁済供託

 (問) 先日、賃貸人が死亡した。相続が完了していないのに、その長男から自分の銀行口座に賃料の全額を振込むよう指示された。その通り支払った方がよいのか。


 (答) 相続人間で賃貸物件の遺産分割を巡って争いがある場合に、各相続人がそれぞれ単独で賃料等を請求することがある。賃借人の対応によっては「二重払い」、或いは「債務不履行」よる契約解除」が惹起されるので注意したい。

 争いがある場合は、被相続人の死亡から遺産分割までの間に相当の日時を経過することとなるので、その間の相続財産である不動産から生じる賃料の帰属については、従来考え方が分かれていた。

 共同相続人は、相続開始の時点から遺産分割がされるまで、遺産をその法定相続分の持分で共有することになる(民法898条)。反面、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って生ずる(民法909条本文)とされていることから、元物たる財産を取得した相続人に法定果実(賃料、利子など)も帰属するとの考え方(遡及的帰属説)と法定果実自体共有されるとする考え方(共同財産説)との考え方の違いがあった。

 この点、最高裁平成17年9月8日判決(判例時報1913号62頁)は、次の通り、共同財産説の立場を採った。

 「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 即ち、相続開始から遺産分割が確定するまでの間に発生した不動産の賃料収入は、分割協議の結果に拘らず、その相続財産の共有の割合応じて(遺言による相続分の指定がある場合は、その指定相続分により、それ以外の場合は、 法定相続分で)分けるべきとの判断を示した。

 賃借人は、賃貸人の死亡により相続が発生した場合、賃料について、各共同相続人からその相続分に応じて支払請求を受けることになる。だが、賃借人は、通常、誰が相続人か判らない場合が殆どである。

 また、遺産分割協議が確定した後は、相続人から賃料の支払い請求を受けることになる。しかし、遺産分割協議の成否について、関係者でない賃借人には判らないのが通常である。

 従って、今回の最高裁判決対策としては、賃貸人が死亡した場合、相続人全員により賃料支払用の銀行口座が指定されない限り、「債権者不確知」を理由とした供託(民法494条)による対処をせざるを得ない。また、遺産分割協議書が別途提示されでもしない限り、そのまま供託を続けざるを得ない。

  尚、債権者不確知(賃貸人が死亡し相続人が不明の場合)の弁済供託をする場合、
(1)供託書の「被供託者の住所氏名」の欄には死亡した賃貸人(例えば鈴木一郎の場合)の確認できた範囲で最後に住んでいた「住所と郵便番号」及び「鈴木一郎の相続人」と記入する。

(2)「供託事由」の欄は「賃貸人が死亡し、その相続人の住所・氏名が不明のため」と記入する。そして、「☐債権者を確知できない。」にチェックをいれる。 


(*)
(1) 賃貸人が死亡した場合、賃借人は相続人の有無を戸籍関係について調査する必要はなく、相続人が不明であるときは、債権者不確知を事由に、賃料の弁済供託をすることができる(昭和38.2.4 民事甲351号 民事局長許可)。

(2) 債権者が死亡し、相続人が不明のため債権者を確知し得ないという事由で供託する場合には、被供託者の表示を「住所何某の相続人」とするのが相当である。この場合には、相続人の有無及び相続放棄の有無などを調査する必要はない(昭和37.7.9 民事甲1909号 民事局長許可)。

 供託書の記載例 (債権者不確知の場合


    

最高裁平成17年9月8日判決こちら

 

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