東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例紹介】 家賃増額請求で長期間著しく低額の供託継続で契約解除された事例

2009年03月26日 | 家賃の減額(増額)

 判例紹介

 家賃増額請求に対し、長期間にわたり、著しく低額の供託を継続していたことが信頼関係を破壊するとして、賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除が認められた事例 横浜地裁平成元年9月25日判決、判例時報1343号71頁以下)


 (事案)
 昭和35年1月19日、本件建物について、家賃月額1000円の建物賃貸借契約が結ばれた。
 その後、家主は、物価及び本件建物敷地の地代の上昇(昭和56年4月分の本件建物敷地相当分の地代は月額5982円であった。)等を理由として、昭和56年5月分以降月額2万円へ家賃の増額請求をした。

 ところで、家主は、本件建物賃貸借契約当初から家賃の増額を求めていたが、借家人はこれに応じず、昭和54年4月分から、月額2000円を供託しており昭和56年5月分からの増額請求にも応じず、引続き月額2000円を供託している。

 そこで、家主は、借家人が8年余にわったて、適正賃料額の1割にも満たない著しく低額の賃料の供託を継続したことが信頼関係を破壊するものと主張して、本件建物明渡を請求した。


 (判示)
 裁判所は、「本件建物の適正家賃額は昭和56年4月当時、少なくとも家主の増額請求額の月額2万円であり、これに対し、被告の供託賃料額は、10分の1と著しく低額である。

 たとえ借家人が主観的に相当と認める額であっても、従前の賃料より、定額であったり、適正賃料額に比べて著しく低額である場合には、その供託を相当額の供託ということはできず、したがって、債務の本旨に従った履行と評価することはできないものといわなければならない。

 これを本件について見るに、被告のした供託は、適正賃料との差が著しく大きく極めて低額であるから、相当性がないものといわざるをえず、これを債務の本旨に従った履行ということはできない。」と判示した。


 (短評)
 借家法第7条2項本文は、賃料増額について当事者間に協議が調わない場合には、借家人は増額を正当とする裁判が確定するに至るまで、「相当ト認ムル借賃」を支払えば足りるとし、右の「相当ト認ムル借賃」とは、同項但書の趣旨に照らし、原則として借家人が主観的に相当と認める額でよく、必ずしも、客観的な適正賃料額に一致する必要はないと解されている。

 しかしながら、右支払家賃額が著しく低額のときは、賃料としての対価性がないといわなければならない。

 賃料増額をめぐって長期間供託している場合、しばしば著しく定額になることがあるので、随時見直し、増額供託する等注意する必要がある。 

(1990.07.)

(東借連常任弁護団)

東京借地借家人新聞より

 


 

参考法令
 借家法
第7条
 建物ノ借賃カ土地若ハ建物ニ対スル租税其ノ他ノ負担ノ増減ニ因リ、土地若ハ建物ノ価格ノ昂低ニ因リ又ハ比隣ノ建物ノ借賃ニ比較シテ不相当ナルニ至リタルトキハ契約ノ条件ニ拘ラス当事者ハ将来ニ向テ借賃ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
 但シ一定ノ期間借賃ヲ増加セサルヘキ特約アルトキハ其ノ定ニ従フ

 借賃ノ増額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ増額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル借賃ヲ支払フヲ以テ足ル
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヒタル額ニ不足アルトキハ不足額ニ年1割ノ割合ニ依ル支払期後ノ利息ヲ附シテ之ヲ支払フコトヲ要ス

 借賃ノ減額ニ付当事者間ニ協議調ハサルトキハ其ノ請求ヲ受ケタル者ハ減額ヲ正当トスル裁判ガ確定スルニ至ルマデハ相当ト認ムル借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得
 但シ其ノ裁判ガ確定シタル場合ニ於テ既ニ支払ヲ受ケタル額ガ正当トセラレタル借賃ヲ超ユルトキハ超過額ニ年1割ノ割合ニ依ル受領ノ時ヨリノ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス

 

東京・台東借地借家人組合

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