一部マニアの間で知られるコンテンポラリー・ハワイアン作品。ハワイが誇る老舗ステージバンド、ソサイエティ・オブ・セブンのオリジナルメンバーの一人、Bert(バート)がソロで1976年に制作したアルバムが本作です。数あるコンテンポラリー・ハワイアン作品の中でもレアグルーヴ度が抜群に高く、逆にハワイ色が非常に希薄なので、店舗によっては普通にUS産のマイナー系レアグルーヴとして取り上げられていることもしばしば。そんな背景もあり、どちらかと言うとAORファンよりはレアグルーヴ愛好家の間で知られる作品でしょう。内容的には70年代中盤の雰囲気そのままなクロスオーバー・ソウル。やや作風は違いますが同年にリリースされたコーティアルのDon't You Think It's Timeあたりの雰囲気が好きな人ならば、ばっちりハマると思います。例のHawaiian Breaksや数年前に出たコンピに収録されていたA-2のMy Girl Fridayだけのアルバムかと思いきや、その他の曲も完成度が高く、特にB-2のOutrageousはこみ上げ系のメロディーで聴かせるスウィートソウル風の名曲。フリーソウル上がりのメロウグルーヴ愛好家のツボを上手く突く気持ちいい一曲となっています。またB-3のFox Of The Yearは、オルガンバーの初期テープにでも収録されていそうなミディアムテンポのファンキーロック。いわゆるキラー曲というのとは少し違いますが、何度も聴くうちに徐々に好きになるスルメ曲で、個人的にはなかなかのお気に入りです。ちなみに残念ながら未CD化の作品ですが、中古屋ではそれなりに見かける気がするので、レア度で言うならミドル級と言ったところ。値段的にも今のところ極端に高騰している様子はないので、本気で探せばわりと容易に手に入るかと思います。ちなみに件のコンピはダウンロード販売もしているため、A-2のMy Girl Fridayだけはitunesでも購入可。内容を知らなくて気になる方は、まずはそちらから聴いてみるのも良いかもしれません。
1972年のアルバムHomecomingに収録されたVentura Highwayなどで、洋楽好きからはわりと広く知られるイギリスの3人組バンドがこのアメリカ。メンバーの一人である故ダン・ピークが77年に脱退後、セールス的に振るわぬ状態となっていた彼らですが、本作は全米8位と久々にスマッシュヒットとなったシングル曲You Can Do Magic(邦題:風のマジック)を含む1982年の作品です。メジャー系の作品ということで無視している人も少なくないと思いますが、実はこれが意外に出来の良いAORの隠れ名盤。件のスマッシュヒットであるA-1のYou Can Do Magicや同系統で聴かせるA-5のLove On The Vine、それからしっとりとしたバラードを堪能出来るB-2のRight Before Your Eyesあたり、実際に聴いてみると好きな人は多いかと思います。主役であるアメリカの2人が70年代にヒットを飛ばしていた一世代前のミュージシャンであるということもポイントで、AOR全盛期の作品であるわりにクリスタルな雰囲気は感じられず、全体的な質感は良い意味で非常に素朴。いわゆるPre-AORと呼ばれる類の音楽が好きな人には、ぴったりとハマる音楽なのではないでしょうか。そんなPre-AORサウンドの極めつけがB-3のJody。まるでロードムービーを見ているかのような気分にさせられる、美しくも素朴な一曲です。軽快な8ビートの上にさり気なく乗るピアノとこみ上げ系のメロディーラインが最高。どことなくネオアコにも通じる曲調なので、あのころ渋谷系にハマっていた人やサバービア・スイートを愛読していたような人は、聴いていると何か自然とグッとこみ上げてくるものがあるはず。個人的にはこの曲だけのために購入しても損しないアルバムだと思います。いわゆる売れ線作品の宿命で、中古盤はどこにでも安価で転がっているため、興味のある人は是非探してみてください。実はこのブログを復活させたときからずっと紹介したかったアルバムの一つだったりします。高額盤には高額盤なりの良さがありますが、どこにでもある安いレコードにも眠らせておくにはもったいない作品はある。そんな当たり前のことを再確認させてもらったアルバムです。
一部では女性版ブルース・ヒバードと呼ばれ、非常に人気の高い1981年のCCM作品。オリジナルのLPは日本での流通量こそ少ないものの特段希少性が高いわけではなく、海外から購入すればわりと安価で購入できるのですが、リイシューのCD(-R)は一般には流通していなかったため、CD派の人にとっては先日の韓国主導によるオフィシャルリイシューまでは、なかなかに聴くのが困難な一枚でした。内容的にはAORというより、普通に良質な女性ヴォーカルもののポップス。最大の特徴は透明感溢れる慈愛に満ちた美声で、少なくとも僕はこの路線で正直ここまで良い声を持つ女性シンガーというのを他に知りません。ただ、冒頭にも書いた女性版ブルース・ヒバードという評価については個人的に少し疑問。たしかに演奏メンバーにはハドリー・ホッケンスミスやハーラン・ロジャースを始めコイノニア人脈が多数参加していて、収録曲の中にはヒバード自身との共作などがあったりもしますが、そもそも作品の毛色自体がまったく異なっているので、この作品を女性版ブルース・ヒバードのアルバムと言い切ってしまうのは少し語弊があるかなと思います。前評判から勘違いしてしまいがちですが、本作にはブルース・ヒバードと聴いて多くの人が思い浮かべるであろうNever Turnin' Backのような、いわゆる跳ね系のAOR作品は収録されていません。アルバムの大半を占めるのはミディアム~スロウなヒーリング系ポップスなので、その点はゆめゆめ誤解なきように。もっとも、だからと言って作品自体の出来が悪いかというとそんなことは全くなく、特に人気が高いA-3のComfortable With YouやB-1のHold Onあたりはカーペンターズを少しライトメロウ寄りにシフトさせたかのような曲で、アルバム曲中でも会心の出来となっているのでご安心ください。ケリーの歌声含め全体的に非常に優しい作風となっているため、忙しい毎日に疲れほっと一息を付きたい人にお勧め。現在では入手に苦労するような作品ではないので、興味のある人は探してみても良いかもしれません。
ニューヨーク生まれのシンガー、ジュディー・アントンによる1980年の作品。彼女は生粋のアメリカ人でありながら父の仕事の関係で13才で来日しており、一時期は11PMのカバー・ガールやTBSの朝の情報番組のお天気キャスターを務めたこともあるそうですが、本作はそんな彼女が日本のフュージョン界の面々と吹き込んだ一枚で、その筋では非常に人気の高いアルバムです。昨今の和モノ復刻ブームを見ていて、近いうちに再発されるだろうと思っていたら案の定来月にはめでたくCDリイシューがされるそう。AORというよりはフュージョン~スムースジャズと表現した方が適切なアルバムですが、数ある和モノ作品の中でもトップクラスの名盤であることは間違いないので、既にオリジナル盤を所有している身としても今回のCD化は素直に嬉しいです。収録曲8曲のうち日本語詞が4曲。日本で芸能活動をしていたことを考えれば当然なのですが、日本語での歌唱にまったく違和感がないことに驚きます。ガイド本なのでよく取り上げられているA-1のLiving In The Cityも普通に日本語詞。AB'sの松下誠によるアレンジで、見事なまでにシティポップを表現しています。間奏で入るスクエアの伊東たけしによるサックスも、いかにもと言った雰囲気で良い感じ。和モノ関連のフリークならば、まず間違いなく一発でノックアウトでしょう。ただ個人的には、彼女自身が英詞で作詞したA-2のBaby Don't You Cryがアルバム中でもっともお気に入り。ある種の神々しささえ感じる天使のような歌声が印象的なミッドテンポのメロウナンバーです。やさしく美しいメロディーラインが耳に心地よく癖になる一曲。カーペンターズあたりが好きな人はまず間違いなく好みでしょう。ちなみにB-1のThe River Must Flowはジノ・ヴァネリのカバーで、こちらもガイド本によるリコメンドの常連。タイトなリズムが気持ちいいライトメロウなブラコン調ナンバーに仕上がっており、その筋で人気があるのも頷けます。オリジナル盤はそれなりに高額となっているため、正直広く一般にはお勧め出来るような類の盤ではありませんが、CD化されるとなれば話は別。まだ聴いたことないという方は今回のCDリイシュー時に是非チェックしてみてください。
CCMの大手レーベルWord傘下のMyrhhより1980年にリリースされた一枚。全曲でリードヴォーカルを務めるトニー・コーマーと、その仲間7人によって結成された黒人ヴォーカル&コーラス・グループの1stです。一般的にはゴスペルの範疇に入る作品だと思いますが、プロデュースを務めているのがシーウィンドのラリー・ウィリアムズで、演奏メンバーには同じシーウィンドのキム・ハッチクロフトとポーリン・ウィルソン、そしてお馴染みハドリー・ホッケンスミスを始めとしたコイノニア勢が名を連ねているため、比較的CCMというかモダンソウル色が強めの洗練されたアルバム。このような経緯からAORファンの間でも人気が高く、またレア度もそれほど高くないため、この手のマイナー系クリスチャン・ミュージックの間では基本蒐集盤のうちの一つとなっています。収録曲中で特に人気が高いのはA-2のStrong Foundation。自身でも作品をリリースしている黒人ゴスペル・シンガーのアンドレ・クロウチと御大スティービー・ワンダーによる共作で、いかにもスティービーと言った趣のライトメロウなミディアム・ナンバーに仕上がっています。リバイバル以降のAORファンは誰もが多かれ少なかれスティービーの影響下にあることは間違いないので、この曲に人気が集まる理由も納得。また個人的に気に入っているのはポーリン・ウィルソンとのデュエットで歌われるB-1のI'm In Love。AORだとかモダンソウルだとか言うよりもスムース・ジャズと言った方がしっくり来るスロウ・ナンバーですが、アーベインな香り漂う演奏の中で優しく響くポーリンの歌声が心地良い魅惑の一曲となっています。またB-2のTake Me Higherはアルバム中で最も黒いジャジーかつアーバンなスロウ。ブッダブランドのデヴラージが選曲するような雰囲気の曲が好きな人ならまず気に入るはずです。ちなみにこの作品、実はこっそりとCD化もされているようですが、amazonを見る限り異常な高額が付いているので、おとなしくLPで購入した方が良さそう。Cool Soundあたりから再リイシューすればそれなりのヒット作になりそうな気がしますが、今のところはアナログ派向けの作品です。まだ知らないという人は是非聴いてみてください。
一部好事家の間で非常に評価が高い自主系コンテンポラリー・ハワイアン作品。サンフランシスコ生まれのシンガーソングライター、グレッグ・ヨーダーが1976年にハワイで吹き込んだアコースティックな一枚です。オリジナル盤は今も高額で取引されていますが、数年前に韓国のレーベルから紙ジャケCDでリイシューされた後、Light Mellow印の帯と解説を付けた国内盤がリリースされたため、現在では音源自体の入手は比較的容易。リイシュー自体のプレス数もさほど多くないと思うので、おそらく数年もしたら市場から消えてしまうのでしょうが、今なら聴くにあたってそれほどハードルの高くない作品です。さて本作、サウンド的にはいわゆるメロウ・フォークに分類される内容で、同じコンテンポラリー・ハワイアンでもカラパナやレムリアとは異なり、同時代のブラックミュージックから受けた影響はかなり薄め。グレッグ自身のヴォーカル・ワーク含め、いかにも白人然とした雰囲気の作風に仕上がっています。この手のメロウ・フォークと呼ばれる音楽に共通することですが、白人音楽と黒人音楽のちょうど中間に位置する音楽が好きな僕にとっては、ちょっと白人度が高すぎるかなという印象。しかしながら僕個人の好みとは関係なく、アルバム自体の出来が良いことは確かで、特にA-1のタイトル曲とB-1のShe's My Ladyはハワイならではのおおらかな風を感じることが出来る佳作に仕上がっています。よく話題にあがるA-4のGolden LadyとB-5のHaven't We Metもなかなかの完成度。全体的にゆったりとしたアルバムで、いわゆるキラーと呼ばれるような曲が入っている作品ではないため、DJ的な意味でのネタ曲を探している人には不向きと思われますが、日々の疲れを癒してくれるヒーリング系の作品として捉えればこれはこれで悪くないと思います。そういう意味ではわりと大人向けの一枚。忙しい毎日に追われている人にこそ聴いてもらいたい作品です。ちなみに本作とほぼ同じ面子で録音され、ある意味姉妹盤と言えそうなライダー・キアハのアルバムは個人的に苦手。そのうち気に入ることもあるかもしれませんが、今のところ見つけては試聴し、その後にキャンセルという流れを3~4回繰り返していたりします。きっと今の自分にはこのグレッグ・ヨーダーくらいのバランス感覚がギリギリということなのでしょう。
ババドゥと並ぶカルト系コンテンポラリー・ハワイアンのレア盤。知っている人は知っているハワイのギタリスト兼シンガーソングライター、マイク・ランディーによる1980年の作品です。以前レコードコレクターズのコンテンポラリー・ハワイアン特集に掲載された後、Cool HawaiiからCDでリイシューがリリースされた本作。カラパナやレムリアと同系列の作品として売り出すためか、巷では何故かAORという触れ込みで紹介されていますが、そのサウンドは良くも悪くも正直AORと呼ぶほどには洗練されておらず、全体的にもう少しアーシーな雰囲気が強めな一枚となっています。最大の問題はマイク自身のいなたい歌声。これでマッキー・フェアリーのような美声を持っていたらまた印象は異なっていたのでしょうが、正直このヴォーカルでAORだとかホワイトソウルと呼ぶにはやや無理があるかと。以前マシュー・ラーキン・カーセルが話題になったときにも感じましたが、白人がグルーヴィーな音楽をやっているだけで、なんでもかんでもAORと呼ぶのは控えて頂きたいものです。…と、いきなり否定っぽい雰囲気から入ってしまいましたが、肝心のサウンドの方は極上なのでご安心を。ハワイ産のメロウグルーヴと言うことで安易にカラパナやレムリアを比較対象とするから話がおかしくなるだけで、やや毛色は違えどこれはこれで立派なアイランドメロウの逸品です。特にA-5のTropic LightningやB-1のRound And Aroundは適度ないなたさが心地良いミディアム・ナンバーでお気に入り。曲の節々から常夏の雰囲気が漂っているので、これからの季節の夜用BGMとしてはぴったりかと。B-2のタイトル曲とB-3のNothin Like Dat Funky Funky Musicは共に件のHawaiian Breaks冒頭を飾ったナンバー。初めて耳にしたときはいまいちピンと来ませんでしたが、聴けば聴くほど好きになるスルメ曲で最近はわりとよく聴いています。洗練されたAOR以外は認めないという人向けの作品ではありませんが、ある程度ローカルな作品も許容出来る方にはお勧めの一枚。良かったら是非聴いてみてください。なおオリジナルのLPは内容だけでなく、レア度と価格の面でもババドゥ並。深いこだわりがある人以外はおとなしくリイシューを買った方が身のためかと思います。
実は何気にここ最近マイブームなのがラヴァーズ・ロック。正直これまであまり真剣に聴いてこなかったジャンルなので専門的な知識はほとんどありませんが、relax誌の特集やそこから派生したコンピシリーズのRelaxin' with Loversあたりを聴きながら少しずつ勉強中です。きっかけは本作を始めとした80~90年代のUKラヴァーズにふとしたきっかけで触れたこと。今までレゲェという音楽には何となく垢抜けない印象を勝手にもっていたのですが、これらの曲に出会ったことでそうした印象が良い意味で裏切られたため、これは改めてしっかりと聴く必要があるなと思った次第です。さて本作はジャマイカを代表するシンガー、フレディー・マクレガーが1987年にUKポリドールからリリースしたアルバム。最初はUKとジャマイカが自分の中でなかなか結びつかず、何故UKでこれほどまでにレゲェのリリースがさかんなのか疑問に思っていたのですが、よくよく考えてみればジャマイカは元大英帝国の植民地にして、現在もイギリス連邦王国を構成する国家の一つ。宗主国であるUKでジャマイカの音楽が流行っても不思議ではなく、そのあたりのことを思い出したらすっと腑に落ちました。アルバム収録曲中では、当時シングルでも切られたA-1のThat Girl(Groovy Situation)がやはり頭一つ飛び抜けて傑作。言わずと知れたヤング=ホルト・アンリミテッドのSoulful Strutを下敷きにした、グルーヴィーな絶品ラヴァーズ・ナンバーです。同時期のUKソウル的な要素も多分に持ち合わせている曲のため、様々なジャンルの曲を繋げる接着剤としてフロア的な使い勝手も抜群。MuroさんもDiggin' Iceにて効果的に使用していました。ちなみにこのアルバム、リリース当時UKでCD発売がなくリイシューも存在しないためLPオンリーと思われがちですが、実は西ドイツのみでCD化されていたりします。LPを探すよりむしろ逆にレアかと思いますが、ワールドワイドに探していると時々出てくるので、CD派の人はそちらを探してみても良いかもしれません。ラヴァーズ好きはもちろん、UKソウル好きの人にもお勧め出来る一枚です。
去年くらいからやたらと盛んになっている和モノCDリイシューの一環として、先ごろ初の銀盤化も果たしたmimiこと宮本典子の4thアルバム。リリースは1982年でポリスター/カサブランカから発売されていたようです。内容的には歌謡色強めのディスコ~AORサウンド。今回のリイシューにあたり店頭ポップなどでは何だかやたらと褒めちぎられていますが、個人的にはこの独特の歌謡色が苦手なので正直アルバム通して好きと宣言するには少し辛いです。どことなく胡散臭さ漂う昭和ムード歌謡独特の雰囲気が好きな人ならば気に入ると思いますが、僕の場合は和モノと言えども同時代の洋楽的な洗練さが感じられないとダメな性質なので、この手の歌謡系作品は守備範囲外。ただ、そんな中でも実は1曲だけ直球ストライクで気になる曲が入っており、それがA-4に収録されたLovely City。全体に歌謡テイスト漂う本作中では異色のナンバーで、同時期のブラコンサウンドに通じる洗練された和製グルーヴィー・メロウ・ソウルです。同じような雰囲気の曲では、先日同様にリイシューを果たしオリジナル盤はここ1~2年異常な価格で取引されている井田リエの2ndに収録されていた「パーティーを抜け出して」と双璧。正直この一曲のためだけに聴く価値ある作品だと思います。今回のリイシューでどうなるか分かりませんが、今のところはオリジナル盤もそれほどでもない価格で取引されているので、気になる人は思い切ってLPで買ってしまっても問題はないかと。僕自身2年ほど前に、最近この手の和モノに異常な価格を付けている都内某店で800円で購入しました。この頃の傾向を見る限り、今だと3800円くらいしそうですが…。数年前には二束三文で売られていた作品が一気にプレミアム価格で取引されるという現象はこの世界では当たり前で、商品の需要と供給を考えればある意味しかたのないことなのかもしれませんが、個人的にはやはりあまり良い印象はありません。特にこうした作品は、町の中古レコ屋で見つかれば普通に1000円以下で買えると思うので、変に専門店で買うよりおとなしくそちらで探した方が良いかと思います。
ライトメロウなJ-AORをもう一枚。「おどるポンポコリン」や「夢のENDはいつも目覚まし!」で有名なビーイングの企画系バンド「B.B.クイーンズ」のヴォーカリスト、坪倉唯子によるソロ名義の2ndアルバムです。リリースされた時期は「おどる~」の1ヶ月前となる1990年3月。知らない人が聴くと驚くこと間違いないと思いますが、これが実はearly 90's J-AORの隠れ名盤だったりします。どうしてもB.B.クイーンズの印象が強い彼女ですが、もともとはデビュー前に桑名晴子のベーカーズショップに参加してたこともある本格派。そんなこともありソロ作品では、本来の中低音ヴォーカルを活かしてしっかりとAORシンガーをやっています。ドラムの音色が強調された90年代特有のデジタルレコーディングですが、演奏自体はしっかり生音。おまけに演奏陣が青山純(ds)や伊藤広規(b)、そして土岐英史(Sax)など山下達郎のツアーメンバーとしてもお馴染みの凄腕スタジオミュージシャンで構成されているため、サウンド自体の完成度が非常に高く、玄人が聴いても充分に納得できる一枚と言えるでしょう。特に件のLight Mellow和モノ669でもピックアップされていたM-5のTaxiーDriverは、(リリース自体はこちらの方が先ですが)シャーデーのKiss Of Lifeにも通じる絶品アーバン・ミディアムに仕上がっているため、この類の音楽が好きな人ならば確実に一撃でノックアウトされるはず。この時期の作品ながらしっかりとグルーヴを感じられるところがポイントで、個人的には古内東子のPeach Melbaと並ぶ90年代J-AORの名曲と言って良いかと思います。CDオンリーの作品ですが特段珍しいというわけでもなく、普通に安価で中古屋に転がっているため、まだ聴いたことのないという方は騙されたと思って是非チェックしてみてください。特に90年代サウンドにアレルギーがある方にこそお勧めのナンバーです。