Elia Fletaなるスペインの女性シンガーが、シンプルなピアノ・トリオをバックに吹き込んだ1966年の4曲入りEP。あまり知られていないConcentricというレーベルからリリースされた一枚ですが、以前Fresh SoundからLPが再発されたこともあるそうなので、もしかしたらヴォーカル好きの間では比較的有名な盤なのかもしれません。最もTete Montoliuのリーダーによるピアノ・トリオがバックを務めているので、そちらでの知名度の方が高いような気もしますが…。肝心の内容の方はというと、4曲全てがスタンダード曲で占められているということもあって、至ってオーソドックスな小品集と言った感じ。しかしながらTete Montoliuの洗練されたピアノ伴奏は素晴らしく、またElia Fleta女史のブルージーな歌声もなかなかに魅力的なので、60年代のヨーロピアン・ジャズ好きならば一聴の価値はあると思います。録音技術が良かったのか、この年代にしては音質もなかなか良いですしね。しっとりとしたB-1のMy Romanceやマイナー調でスウィングするB-2のHoneysuckle Roseも捨て難いですが、個人的に一番気に入っているのはA-2のThis Can't Be Love。サバービア誌が言っていたように、仮にハッピー・ジャズというジャンルがあるとしたら、ぜひともそんな括りの中に入れてあげたくなるような、非常に気持ちよく跳ねたナンバーです。中盤のテテのピアノ・ソロも美しく、1分40秒で終わってしまうのが惜しい一曲。週末のクラブでこんな曲を聴きながらお酒を飲むことが出来たら、きっと誰もが幸せな気持ちになれることでしょう。
僕が個人的に考える「世界で一番美しいレコード・ジャケット」がこれ。そう、かの有名な「ティファニーで朝食を」のサントラ盤です。ちょっと挑発的な可愛らしい目線で正面を見つめるオードリー。その美しい顔立ちはもちろんのこと、着ている洋服やテーブルの上に乗る食器のセンス、そして水色地に白抜きで書かれたジャケット上部のタイトル・プリントに至るまで、全てにおいて完璧に計算された素晴らしいジャケット・ワークが印象的な一枚ですね。映画自体の素晴らしさはここで改めて言うまでもありませんが、ヘンリー・マンシーニのペンによる音楽もまた抜群に素晴らしく、こうやって曲だけを聴いていても、時に楽しげに、そして時に優美に雄大に、聴くものを幸せにしてくれるような不思議な魅力を放っています。特にショウビズな香り漂うビッグ・バンド・ジャズであるA-5のThe Big Blow Outや、少しおどけたアレンジで聞かせるA-6のHub Caps and Tail Lights辺りは、聴いていると何だか古き良き時代のアメリカを思わせて良い感じ。ヨーロッパのライブラリー作品などにも通じるB-1のタイトル曲や、B-3のHollyもムーディーなストリングスが気持ち良くて大好きです。しかし何と言っても、やはり本命はA-1のMoon River。何気なく聴いていても自然と、あの映画冒頭の印象的な映像が脳裏をよぎる決定的名曲です。これぞ正に音楽と映像の完全な融合。素晴らしいと言うほかありません。しかしながら、いつ見てもこの時のオードリーはとても31歳とは思えませんね…。我々日本人の感覚から見ると、たいていは実年齢よりも1~2歳は年上に見える欧米人の中にあって、この若さと瑞々しさは本当に奇跡的。内容も去ることながら、このジャケットのためだけにでも買う価値あるLPだと思うのですがいかがでしょう?
50年代中盤から主にビッグバンドにおけるサキソニストとして活動をしていたDon Menzaによる、独Sabaレーベル原盤の65年作。僕は基本的にビッグバンド作品は聴かないので、詳しいことは良く分からないのですが、どうやら本作は彼が本格的にリーダーとして活動を始めた頃の作品らしいです。全6曲中5曲が彼のペンによるオリジナルという意欲作。4管セプテットという若干多めの編成ながら、演奏自体はムダを省いたタイトなものに仕上がっているので、聴いていても大人数と言う印象はそれほど受けません。収録曲はどれもわりと良いですが、特に哀愁を帯びたボサ・ジャズのB-2、New Spanish Boots辺りはこの辺りの音が好きならきっとハマるはず。管楽器のアンサンブルもさることながら、Fritz Pauerが弾くピアノのメロディーがキレイで、聴くもの全てを虜にすることでしょう。そして、何と言っても白眉はタイトルからして最高なA-1のCinderella's Waltz。モーダル・バップを基調としたミディアム・テンポのワルツなのですが、とにかくテーマ・ソロ共にメロディー・ラインが非常に優雅で美しく、これぞヨーロピアン・ジャズの真骨頂(彼はアメリカ出身ですが)と言った趣きです。クラブで大音量で聴いたらさぞかし気持ちいいでしょうね。このグルーヴにいつまでも包まれていたいと思わされる名演です。ちなみに70年代くらいにBasfからプレスされて以降、アナログによるリイシューはないようですが、リリース当時には何回かプレスされているようなので、オリジナルに拘らなければ割と安値で見つけられるはず。近年MPSからCD化もされたようです。とにかくこの2曲のためだけにも是非聴いてもらいたい一枚。自信を持ってオススメします。
早いものでもう3作目を迎えることになるイタリアはSchemaレーベル産のコンピが本作。最早Break n' Bossaシリーズから看板コンピの座を完全に奪い去った感すらある、JAZZ系DJ御用達の人気コンピシリーズの最新作です。まぁ流石に3作目ともなると初期の勢いは薄れ、内容自体も徐々にマンネリ化はしているものの、それでもあまり何にも考えたくないような時に、軽く聴き流すには悪くない一枚かなと思います。さて肝心の中身の方ですが、レーベル内の新録が4曲、クラブジャズ周りの既成Nu Jazzが4曲、それから傍系のRearwardレーベルが権利を有するClarke=Bolandコンボによる60年代の録音作が2曲という構成。ここに来てヨーロピアン・ジャズ大御所の楽曲を収録してしまう辺り、正直なところ若干のネタ切れ感は否めませんが、まぁそれはご愛嬌ということで…。ここで注目すべきはやはり新録。前回もなかなかの佳曲を提供していたLuis FerriによるB-2のAnisiaが、現代型スピリチュアル・ジャズと言った趣きで良い感じですね。スリープ・ウォーカーとか好きな人にはツボかもしれません。個人的に気になるのはGerardo FrisinaのペンによるA-2のJitterbug。再び2ndの頃に戻ったかのような、モーダルなラテン・ジャズをやっています。決してハデな曲ではないものの、ジャズとしての完成度はそこそこ高く、洗練された大人の音楽に仕上がっています。来年リリースされるらしい新作アルバムに期待ですね。その他はまぁ全体的に可もなく不可もなくといったところでしょうか。欲を言えばそろそろニコラの新譜を収録して欲しかったところ…。ずっとアルバム待っているんですけど、いつになったら出るんでしょうか?いつの間にかホームページのアナウンス上からも消えちゃいましたし…。
フィンランドの生きた伝説的なサキソニストであるEero Koivistoinenが1969年にリリースした初リーダー作。その筋ではわりと知られる一枚ではあるものの、極端に少ないプレス数(おそらく初回の300~500枚程度のみでは?)と自主に近い形でのリリース、さらに中古市場にもほとんど出回らないフィンランド盤という性質がら、実際に聴いたことのある人はおそらく皆無だと思います。実際に僕自身もあまりのレアリティーに聴くのを諦めかけていた一枚だったのですが、そんなメガレア盤がここへ来て突如フィンランドJazz Puuから再発されてしまいました。これには正直驚きが隠せません。最もこのJazz Puuというレーベル、以前にもEeroの別盤をリイシューしたことがあるので、もしも本盤が再発されるようなことがあるならここだろうと当たりを付けてはいましたが…。さて、肝心の内容の方ですがこれがとにかく素晴らしいの一言。特にB-2のSo Niceという曲の完成度の高さと言ったら、他にちょっと比べようがありません。二管のユニゾンで高らかに鳴り響くテーマを聴いた瞬間に完全にノックアウトです。男気溢れるハードバップやジャズ・サンバで盛り上げたDJプレイのフィナーレに相応しいような、あまりに感動的なフレーズが印象的な高速ジャズ・ダンサー。これでフロアーが盛り上がらなかったら嘘でしょう。その他、Dusko Goykovich辺りにも近いエキゾなテーマが印象的なA-3のTraneologyや、サンバのリズムと4ビートが交錯するA-1のタイトル曲など、全編オリジナル作品にも関わらず総じてクォリティは高め。あのFive Corners Quintetがプロジェクト立ち上げ時に起用したのも納得の、素晴らしいサックス演奏が存分に堪能出来る一枚。ユーロ・ジャズ好きならば間違いなく買いです。
洗練されたモノクロームのジャケット・ワークが印象的な本作は、Anderlecht Jazz Clubというベルギーのマイナー・レーベルにて1976年に吹き込まれた一枚。品番がA.J.C.001となっているし、おまけに僕のもっているジャケの裏には本人のサインも入っているので、もしかするとホームメイドな自主盤なのかもしれません。いずれにしろ、極端にプレス数が少ないものであろうことは間違いなく、おまけにベルギー産と言うことで中古市場に出回ることも少ないため、見つけるのはなかなかに困難な盤かと思われます。僕自身も3年近く探してようやく手にすることが出来ました。内容の方はというと、Van Haverbeke Rogerなるベーシストをリーダーとしたピアノ・トリオをバックに、寛いだスウィングで聴かせる佳作ヴォーカル盤と言った感じ。どこかErnestine AndersonによるConcordでの諸作を彷彿とさせるような、シンプルながらも洗練されたアレンジが気持ちいいです。Miss Soft Soulと冠された彼女自身の柔らかいヴォーカルも良い雰囲気。瑞々しいボッサで演奏されるB-3のNothing But A Foolや、まるでG/9 Groupのような美しいピアノが印象的なA-5のAnd We Were Loversを筆頭に、クラブプレイには不向きながらも良い曲がたくさん詰まっています。特に気に入っているのはB-2のA Sleeping Bee。素敵な夜の始まりを思わせるライト・メロウなスウィング・ナンバーです。このところ60年代のハードバップやモーダル・ジャズばかり聴いてきましたが、こういう70年代のヴォーカルものもやっぱり良いもの。部屋でレコードを聴くのが好きな人は、ぜひお試しあれ。
前作から実に5年ぶりとなる彼らの新譜。考えてみれば、クラブシーンにおける生音ジャズ回帰現象の火付け役となったのが、あの大名盤Waltz For Koopだったんですよね。もしも彼らがいなければ、今みたいに若いリスナーがクラーク・ボラン楽団の曲に狂喜乱舞する姿はなかったでしょうし、まして北欧のジャズがクローズ・アップされることなど考えられなかったでしょう。そんなことを思うと現代のクラブシーンにおける彼らの存在の偉大さは相当なもの。さて、そんな彼らの久しぶりの新譜は、前作からの流れを組みつつも、ところどころで新しい挑戦が見受けられる好盤に仕上がっています。まず、さらっと聴いてみて気になるのは、否が応にもSummer Sunを髣髴とさせるエレガントな高速ジャズ・ボッサ、A-4のI See A Different You。流麗なストリングスと込み上げるメロディ、クラブでも明らかに女の子受けが良さそうなキレイな曲です。もう一曲、B-4のWhenever There Is Youも良い感じ。溜め息が出るほど美しいワルツ・タイムの名演で、これぞKoopの真骨頂と言った趣き。しかしながら、個人的にこのLPで最も気に入っているのは、この2つのリード曲ではなくA-2のCome To Me。出だしからどこかクリスマス・ソングを思わせる幸せなミディアム・スウィングです。ちなみにここに挙げた3曲、どれもユキミ・ナガノ嬢によるヴォーカルをフィーチャーしたものです。Koopの作るサウンドと彼女の声は本当に相性が良いんだなぁと再確認しました。しかし残念ながら、相変わらずジャケットのセンスは全くないですね…(笑)
The Five Corners Quintetを擁するフィンランドはRicky-Tickから先日ひっそりリリースされた北欧レアジャズのコンピ盤。例によって当ブログにおけるコンピの掲載は出来るだけ避けたいものながら、あまりに話題になってないので不憫に思い紹介する次第です。相変わらずのノンプロモーションながら、これほどまでに素晴らしい盤をリリースしてしまうところが、このレーベルらしいと言えばらしいのですが、いくらなんでも国内でのこの扱われ方は酷いです。さて、肝心の中身はと言うと、サブタイトルに-A Peek At The 1960's Nordic Jazz Scene-とある通り、60年代の北欧産モーダル~ハードバップを、これでもかというくらいに詰め込んだ内容。もはや完全にクラブ・クラシックなM-10のThe Runnerや、ここ日本でも澤野工房からリリースされ非常に話題になった、Jazz Quintet 60とSahib Shihabの2枚のLPからの曲などが惜しげもなく収録されています。そして本作最大の目玉はM-11のChristian SchwindtによるHelsinki At Noon。当ブログでも過去に紹介済みの激レア・フィニッシュ・ジャズが本邦初CD化です。この収録は正直言って奇跡的。分かる人には分かると思いますが、この1曲のためだけにも買う価値ありのコンピですね。さらにはニューディスカヴァリーものも充実。ほとんど誰も知らないと思われるErik Andersenによるジャズ・ボッサ、M-9のCordon Bleu辺りはユーロ・ジャズ好きならば聴いた瞬間に耳を奪われるはず。Kjell Karlsenのオーケストラによるバップ、M-3のBig P辺りも本当に格好いいです。とりあえず今年一番のマスト・コンピレーション。この辺りの音が好きな人は絶対に買いましょう。
Orange Pekoeなどでお馴染みのNew World Recordsからリリースされた本作は、元beret奥原貢氏によるソロ・プロジェクトのリミックス盤。リミキサーには御大Nicola ConteとフィンランドからNuspirit Helsinkiを迎え、ジャズ/クロスオーヴァー色強めの内容となっています。当ブログ的に注目なのはもちろんA-Sideに収録されたCrocodile Tears(Nicola Conte ''Lotus Bossa'' Quintet Version)。原曲を聴いたことないので何とも言えませんが、この雰囲気からするに、おそらくいつも通り完全に原曲を無視していることでしょう(笑) 肝心のAnn Sallyのスキャットもほんの少ししか出て来ませんし…。僕が思うにこの作品はおそらく、リミックスという体裁を借りたニコラ流のお遊びナンバー。と言うのもコレ、クレジットには何にも書いていませんが、Victor Assis BrasilのForma盤に収録されたNaquela Baseという曲の、Nicola Conte Jazz Comboによるジャズ・カヴァーなんです。ちなみにこのNaquela Baseは兼ねてからニコラがフェイバリットとして挙げていた楽曲。Jazz Next Standard誌でのチャートにも上げていましたし、本作リリースに伴う奥原氏との対談でも、ブラジルもので最も好きなLPとしてこのForma盤を紹介していました。それらのことを考慮すると、やはりこれはニコラ流の粋なお遊びなのかなと…。最も、遊びとは言えそこはやはり天才ニコラのこと。素晴らしい作品に仕上がっていることは言うまでもありません。と言うかネタがネタだけに、2nd以降に発表したリミックスの中では本作が最も良いです。クラブ的には使用が難しかった同ネタを、フロアユースなナンバーに仕上げたところもポイント高め。ジャズDJ諸氏にはオススメ盤です。
近ごろ一部で注目を集める若手クリエーター瀧澤氏の新作は、アルバム「Gradual Life」からの2ndカット。Lisa Shawという女性Vo.をフィーチャーしたディープ・ハウスで、アルバム中でもハイライトとなっていた1曲です。アルバム・リリース当初から、多分アナログ化されるんだろうなぁと思っていたら、やっぱり出ましたね(笑) この辺りのクラブ系アーティストの楽曲と言うのも、最近はすっかりご無沙汰になってしまいましたが、それでも一応ぽつぽつとチェックはしていて、自分の中の琴線に引っかかったシングルなんかは買うことにしています。特にDJでプレイしたりすることはなくても、ふとした拍子にこういう曲を聴きたくなるんですよね。なんとなく手ごろに都会感を味わえると言うか…。さて、本作における最大の肝は、クリエーターが日本人であると言うこと。いかに外人Vo.をフィーチャーしていようと、いかにディープ・ハウスであろうと、やはりこれは洋楽ではなく邦楽なんですね。良いとか悪いとかいう問題ではなく、音の作り方が完全に日本人。どこまでも爽快なバックトラックや込み上げ系のメロディー、小鳥のさえずりのようなフルートの音色に至るまで、徹底的に日本人好みの音だなぁと感じます。なんとなくStudio ApartmentやJazztronikの初期作品にも近いですね。海外のアーティストの作品にはない独特の暖かさを感じられる点がポイント。真夜中のドライブや明け方のフロアーで聴くと気持ち良さそうです。最も手ごろにオシャレ感を味わえると言うことで、たとえば美容院やカフェで安直にかけられてそうな曲とも言えますが…。