この手のローカル・リリースのみのマイナー系コンテンポラリー・ハワイアンとしては古くから知られる作品。もともとはドン・ホーのバックコーラスを務めていたというアリーズが、リードヴォーカルにダニー・カウチを迎えて制作した一枚です。これ以前のアルバムにはわりとソフトロック的な作品があったりもするのですが、本作の作風はかなりAOR寄り。全編においてダニー・カウチの甘いヴォーカルに誘われるアイランド・メロウ作品に仕上がっています。いわゆるフックとなり得る曲がないため、どうしても地味さは拭えませんが、その分どの曲も手堅くまとまっており、全ての曲が80点以上の好ナンバー。敢えて数曲ピックアップするのであれば冒頭A-1のLady You're My RainbowやA-2のHere I Am、それからA-4のA Love So LightにB-4のYou Are The Best Of My Lifeあたりが対象になるのでしょうか。個人的には中でもB-4がツボです。ただ、やはりアルバム一枚通してのんびり鑑賞というのが本作の正しい聴き方。休日の昼間にハワイアンサンのグァバネクターでも飲みながら聴いて、まったりとハワイ気分に浸るというのが正解かと思います。良い意味で全体的にトゲのない作品なのでカフェのBGMなどにも最適。ちなみにリリースはコンテンポラリー・ハワイアン好きにはおなじみの大手Paradiseレーベルからで、先日紹介したガーナーのIsland Feelings同様にCDでもリリースされている他、同レーベルのコンピCDであるBest Of Paradiseシリーズにも本作から数曲が収録されていたはず。オリジナルのLP自体のレアリティもそれほど高くない上、90年代後半にあったフリーソウル経由のコンテンポラリー・ハワイアン再評価の流れで日本にもそれなりに入ってきているので、入手は比較的容易かと思われます。いわゆるクラブ向きのキラー曲ばかりを求めているような人には不向きでしょうが、そうでないAORリスナーにはお勧め。70年代のカラパナをマイルドにしたような作風なので、気になる人は是非チェックしてみてください。
ハワイの長寿7人組バンドによる作品。以前Fashionably Yoursという1978年のLPを紹介しましたが、こちらはそれより3年ほど前の75年にリリースされたアルバムです。サバービアに掲載されていることもあり、おそらく彼らの作品の中で最も知名度の高い一枚で、内容としてはソフトロックとソウルの要素を併せ持ったアイランドポップスと言ったところ。Fasionably Yoursでは随分と洗練されたAORをやっていましたが、本作ではそれほどAOR的な雰囲気は感じません。ただ、聴いていて単純に気持ち良い作品であることは間違いなく、そういう意味では非常にフリーソウルらしいアルバム。どことなくBattened Shipsの方のOdysseyに近い作風と言えば分かる方には分かるでしょうか。当時フロアで人気が高かったのはB-2のSatin Manhattan LadyとB-5のDoctor Sen Say。どちらも高揚感と多幸感に溢れるミディアムで、これぞフリーソウルと言った曲に仕上がっています。個人的に気に入っているのはA-2のNinety-Nine-Point-Eight。まるで往年のディズニー作品劇中歌のような王道ポップスで、聴いているとどこか懐かしいような気持ちになります。ジャジーなカクテルピアノと美しいコーラスワークが印象的なA-1のタイトル曲もなかなか。ホノルルでの素敵な夜の始まりを予感させる良い曲なので、深夜営業のカフェなんかではBGMにぴったりハマるかと思います。ちなみに未CD化ですが作品のレアリティとしてはFashionably Yours同様にミドルクラスと言ったところ。サバービア誌では一緒に紹介されているのがBabaduとLuiでつい全てAOR風味のコンテンポラリーハワイアンだとミスリードしがちですが、この3枚はハワイ産という以外に共通点がまるでなく内容もレア度も三者三様。この中でAORっぽいのはBabaduだけです。もっともこうした一見すると繋がりのなさそうな様々な作品群を、なんとなくの雰囲気だけで並べるのがサバービアの味というか「らしさ」でもあるのですが。まぁ探せばわりと労することなく見つけられる一枚なので、気になる方は聴いてみてください。
故ロイヤル・ガーナーによるParadiseレーベル3作目にして最終作。ジャケットにはリリース年次の記載がありませんが、どうやら1982年に制作された作品のようです。いわゆるアイランドメロウ・スタイルのコンテンポラリー・ハワイアン名盤で、盤起こしによる残念音質ではありますが、しっかり元のリリース元からCDでリイシューされており、近年でも定期的にプレスされているようなので、彼女の音源の中では最も手に入り易い一枚。そうした意味でも彼女の代表作と言って差し支えないでしょう。オリジナルのLPもハワイローカル盤の中では比較的よく中古屋に転がっています。ちなみにA-1のタイトル曲とA-2のShave Iceはこの後リリースされるベスト盤でも再演されますが、どちらもこのオリジナルの演奏の方がグッド。この辺りは各人の好みにもよるのでしょうが、やはりこの時期特有のクリスタルな音質で聴いてこそのナンバーと思います。AOR好き的に注目なのはフリーソウル度高めのB-1のOcean BlueとB-2のLove Making Love。特に綺麗なシンセが印象的なこみ上げ系アイランドコンテンポラリーのB-2はフリーソウル目線での彼女の曲としては、タイプこそ違いますが例のDestinyに勝るとも劣らない名演と言えるでしょう。もともとバラードでの歌い上げには非常に定評がある彼女が時折見せる、こうした程良いライト感覚が個人的にはツボ。こういう歌い手はどこにでもいそうで実はなかなかいません。なおB-4のSweet Bye'n ByeはHawaiian Breaksにチョイスされた曲。若干ラヴァーズロック風味のアイランドメロウナンバーで、これはこれでなかなかに良い感じです。他にいくらでもキラーナンバーがある中で、比較的地味なこの曲をあえてセレクトしてくる辺り、さすがの選曲センスですね。彼女本来の持ち味であるバラード好きにお勧めはA-3のOne In Love。裏ジャケットの写真通りの母性と包容力を感じさせられる素晴らしい演奏です。最初にも書いたとおり比較的手に入り易い作品なので、まだ聴いたことがないと言う方は是非聴いてみてください。コンテンポラリーハワイアンの入門編としても良いかと思います。
New Bornというカナダのレリジャス系レーベルからリリースされたマイナーCCMの名盤。ここ数年で発掘されたニューディスカバリー作品のうちの一枚で、どうやら彼らの2ndアルバムのようです。このレーベルにはFreewayというグループの同じくニューディスカバリーなアルバムがあり、そちらのほうがモダンソウル作品として知名度と評価が高いため、本作が紹介される際にはどうしても「Freewayで知られるNew Bornレーベルの…」などという枕が付きがちですが、個人的にはどちらかと言うとこの盤の方が本命。西海岸ライクなマリンフレーヴァー漂うPre-AORナンバーが作品の大半を占めているため、聴いていて非常に気持ちの良い一枚に仕上がっています。とりわけ冒頭A-1のLiving Stonesは超絶グルーヴィーなブルーアイドソウル大名曲。Full MoonのNeed Your Love辺りとよく似た雰囲気のライトメロウかつ爽快なナンバーなので、クラブ系のAORリスナーならまず間違いなくツボだと思います。同系統のニューディスカバリー曲だと、個人的には数年前にCD再発までされ大いに話題になったA TrainのBaby Please以来の大ヒット。もしフリーソウル全盛期に発掘されていたら、とんでもない大クラシック曲となっていたことでしょう。その他の曲ではA-4のBrighten Up My DayやB-4のArmy Of God辺りがSSW系のジェントルなナンバーで良い雰囲気。グループメンバーについての記載がジャケットにないため詳細は分かりませんが、ヴォーカルについてもヤングソウル風の甘い男性ボイスでこの手の作品としては理想的です。ちなみに演奏にはコイノニアからハドリー・ホッケンスミス(g,b)、ハーラン・ロジャース(key)、ビル・マックスウェル(ds)が参加。ブルース・ヒバードの2ndを皮切りにした80年以降の一連の作品とはややサウンドの趣が異なりますが、コイノニアのアーリーワークスとしても楽しめるかと思います。現在のところ残念ながら未CD化、おまけにレリジャス系作品なのでリイシューは厳しいのかもしれませんが、どこかに頑張っていただいて是非CD化まで漕ぎ着けて頂きたい作品。このまま一部好事家のみ知るマイナー作品として眠らせ続けておくのはもったいなさすぎます。
元メッセンジャーのヴォーカリスト、リック・リソーによる1985年のソロデビュー作。雑誌掲載の影響もあり一時期高騰していたメッセンジャー時代の78年作は、Cool SoundからCDで再発されて以降人気も落ち着いたようで、最近は比較的安く中古屋で転がっているのを見かけますが、こちらの作品については昔も今もあまり評価が変わっておらず、いわゆるミドルクラスのAOR系CCMの名盤としてその地位を不動のものにしている様子です。派手さはないものの程良い都会サウンドで手堅くまとまった良い作品で、個人的にはメッセンジャー時代の作品よりもこちらの方が好み。僕と同じように90年代後半の第二次リバイバルブーム以降にAORに触れたリスナーにとっては、琴線に触れる曲が多く収録されているものと思われます。中でもその筆頭はAー3のタイトル曲。アル・ジャロウのMornin'直系な跳ねたリズムの絶品ライトメロウナンバーに仕上がっています。同じような音楽を聴いている人でこの雰囲気が嫌いな人はおそらくいないはず。B-2のYour Loving HandsやB-3のArmor Of The Lordあたりもなかなかの出来映えです。いずれの曲についても言えることですが、CCMが本来持つ優しく暖かい雰囲気と、同時代のAORに共鳴した都会的で洗練されたサウンドが程良い加減でブレンドされており、少なくともここ日本で聴く限りCCM否定派が忌諱するような独特の宗教臭さは微塵も感じられません。ただ単純に年代新しめのブルーアイドソウル系のAORとして名盤。本気で探せばそう苦労せず見つけることが出来る盤だと思うので、もしも聴いたことがないという人は是非聴いてみてください。ジャケットはこの通り微妙ですが内容は保証します。ちなみにデジタル派の人はCool Soundから以前出ていたリイシューCDがお勧め。いちおうitunesにもアップされているものの、以前試しに購入してみたら音量レベルがかなり低く正直聴くのが辛いレベルだったので、是非Cool Soundからの国内リイシュー盤を探してみてください。ショップによっては高騰していることもありますが、根気よく探せば定価くらいでは買えるはずと思います。
Home Grown繋がりでもう一枚。こちらはハワイの男性SSWバート・バスコーンによる1977年の1stアルバムです。コンピでは宅録による一人多重録音のチープなサウンドでしたが、どうやら選曲者の一人でもあったドン・ホーの耳にその演奏が留まったようで、スタジオ録音とDon Ho Enterprise Ltd,なるプライベートレーベルからのLP発売チャンスが与えられたようです。おまけに後にカラパナにも加わることになるキモ・コーンウェルがキーボードとして参加。このバスコーンは元々ギターやベースの類は全て一人で多重録音してしまう人なので、このLPでもほとんどの演奏は自身の手によるものなのですが、やはり鍵盤楽器が一台入ると曲の深みが格段に増すため、この起用は大正解と言えるでしょう。A-1のタイトル曲は件のコンピ収録曲の再演。と言うより、最初にも書いたようにコンピ収録ヴァージョンはほとんどデモテープ音源と言っても差し支えないレベルだったので、こちらのスタジオ録音盤が本来の姿なのでしょう。少しおどけたような雰囲気の軽快なナンバーでなかなかの仕上がりになっています。一人多重録音で聴かせるバスコーン自身のコーラス・ワークもなかなかのもの。程よく肩の力が抜けた作品となっているので、休日の朝にはぴったりかもしれません。続くA-2のSpecial Islandも同系統の曲。華はないもののこれはこれで悪くない雰囲気です。ただ、本作最大の聴きどころは何と言ってもB-3のThe Winds Of The Pali。この手のコンテンポラリー・ハワイアン系アーティストが好んで使用するボサノバ系リズムの軽快な一曲で、タイトル通り風を感じる素晴らしいプレAORナンバーになっています。先ほど紹介したカントリー・リヴィング同様こちらもテンダー・リーフ好きには堪らない一曲。カラパナ~マッキー・フェアリーなどが作る曲とは毛色が異なるものの、これはこれで立派なコンテンポラリー・ハワイアンの一様式と言えるでしょう。ただ残念ながらこのLPも、カントリー・リヴィング同様に未CD化かつそれなりのレア&高額盤。そのため万人に向けてお勧めするのはやや憚られます。このB-3だけでも何かのコンピに収録されればいいのですが、昨今のシーンの動向を見る限りなかなか難しそうですね。そういうわけで良質ながらマニア向けの作品。中古市場を見ている限りわりと価格にバラつきがあるので、もし安く見つけたら買ってみても良いかもしれません。
ノヘラニ・シプリアーノ同様、KKUAのコンピシリーズHome Grownからアルバム制作まで漕ぎ着けたハワイの4人組による1980年リリースの作品。コンピ収録曲の出来が良かったことに加え、このLPがレコードコレクターズ誌のコンテンポラリー・ハワイアン特集に取り上げられたため、一部ではそれなりに知られたレア盤です。このアルバムを語る際に良く引き合いに出されるのがビリー・カウイのCountry Confortとバス運転手らによるバンドのTender Leaf。ある意味ではその指摘は正しく、たしかに両者を足して2で割ったような作風ではあるのですが、アルバム全体としてはどちらかと言うとCountry Confort寄りのマットな質感の作品となっているので、フリーソウル以降に持て囃された洗練された雰囲気のAOR風コンテンポラリー・ハワイアンを期待している人は要注意です。もっとも、そうした前提をはっきりさせた上で聴くならば内容的には決して悪いものではなく、むしろこの手のバンドの中ではかなり上質。たとえばハワイアンな雰囲気漂うカフェのBGMとしてセレクトするには最適な一枚と言えるでしょう。B-1のタイトル曲は件のHome Grown収録曲であるCountry Living In Hawaiiの焼き直し。こちらはコンピ収録盤より2分弱短いショート・ヴァージョンになっています。フリーソウル層に受けが良さそうなのはA-3のBus StopとA-5のEverytime I Look At You。どちらも軽快なミディアムアップのポップ~ロック調ナンバーですが、特にA-5に関してはコンテンポラリー度がかなり高く、Tender LeafのCoutryside Beautyと並ぶロコ系AORの名曲と言えるかもしれません。また、個人的に気に入っているのはB-3のSuch A Fool。派手さはありませんが、アコースティック・ピアノの素朴な音色が癖になるアイランド・メロウな小品です。正直今後のCD化はあまり期待出来ず、またCD化する意味がある作品とも思えませんが、気になる人は探してみてください。カフェアプレミディなんかのコンピに入っている曲が好きな人ならばハマるかもしれません。
青っぽいジャケのJ-AORが3枚続いたので、少し雰囲気を変えてこんなトロピカルなジャケットの作品を。ロイヤル・ガーナーと並ぶもう一人のハワイの歌姫、ノヘラニ・シプリアーノによる1982年の2ndアルバムです。意外にもこのブログでしっかり取り上げるのは初めてですが、昔からフリーソウル界隈では人気がある人で、ソロデビュー曲がオルガンバーのテープに収録されていたりもするため、改めて紹介するまでもなく知っている人も多いのではないでしょうか。元々はGolden Throatというサイケな雰囲気のバンドで歌っていた彼女が、ソロでのキャリアをスタートさせるきっかけになったのは例のKKUAのHome Grownシリーズ。この第二集にLihueという曲が収録されたことが彼女にとってのターニング・ポイントとなり、ハワイを代表する歌姫へとキャリアアップしていくことになるわけです。同じようにHome Grownシリーズがきっかけで単独でのアルバム制作まで漕ぎ着けたシンガーやバンドは他にもいますが、その中で商業的に最も成功したのが彼女。特に1979年にリリースされた1stアルバムは評判が良かったようで、翌年の1980年にNa Hoku Hanohano AwardでComtemporary Artist of the YearとFemale Vocalist of the Yearの二冠を受賞しています。さて、本作はそんな彼女が結婚・出産を経て82年にリリースした作品。(AOR~フリーソウル目線での)コンテンポラリー・ハワイアン的な観点からすると正直デビュー作の方が完成度が高く、それと比べてしまうと、この派手なジャケも相まって少し敬遠されてる印象があるやや不遇な一枚です。ただ、そんな中でもA-3のGive Love A Tryは別格。イントロからして高揚感に満ちたミディアムアップのライトファンク~ディスコで、当時から一部で人気のあったフリーソウル名曲です。僕のようなマニアでもない限りオリジナル盤を買う必要はないと思いますが、10年ほど前にCool Sound絡みのKahi Discというレーベルから紙ジャケCDが出ており、そちらは今でも安く手に入るので、良かったら是非聴いてみてください。レネ・ゲイヤーやマルシア・ハインズ辺りが好きな人にはお勧めです。
山下達郎のツアーメンバーだったこともあるキーボーディスト野力奏一を中心としたフュージョン系バンド、Norikiによる1983年のデビュー作。帯に「時代にフィットしたポップ感覚、ノリキ・フレッシュ・デビュー!!」と書いてある通り、とてもポップかつライトなフュージョン作品で、個人的に非常に気に入っている一枚です。この手の80年代国産フュージョンは実はあまり詳しくなく、70年代の本場ジャズファンクと共に正直守備範囲外だったりもするため、他には大野雄二のSpace Kidくらいしか持っていなかったりするのですが、この時代のデジタル録音特有の洗練されたシャープな音色に魅力があることも事実で、こうして時々針を落としてみると改めてその魅力に気付かされます。特にライトなジャズファンクで紡がれるA-2のAnywayやA-4のCozy's Melody、アーバンな香り漂うB-2のBalladeやB-4のGo Over The Hillあたりはリゾート感覚で聴ける良質なフュージョンとしてクォリティ高め。ジャンルの特性上、耳に強烈な印象を残すというナンバーではありませんが、その分とても耳馴染みが良く日々のBGMとしてお勧めです。ただAORファン的に本作で注目すべきは何と言ってもA-1のYou Need Me。ゲストヴォーカルに国分友里恵を迎えた跳ね系ライトメロウソングで、この手のJ-AOR作品の中でも頭一つ抜けたクォリティを誇るナンバーとなっています。以前紹介した自作コンピでも締めとして使いましたが、全英語詞で歌われているため洋楽AORの中で混ぜてかけても違和感が少ないのが個人的には高得点。和モノだと曲は良くても歌が入ると途端にダサくなるものが多い中、普通にキラーナンバーとして機能するため、AOR系のDJ諸氏(今の時代そんな人いるのか分かりませんが…)には是非お勧めの一曲です。ちなみにオリジナルのLPは多少レアで、中古市場でもそれなりの値段が付いていますが、実はこっそりitunesにアップされていたりもします。とりあえず曲だけ手元に欲しいという方は、Youtubeで聴いてみた後itunesで購入するというのが良いかもしれません。
あの林哲司のバックアップで1980年にシティポップス作品を残す「大宮京子&オレンジ」の元リーダー、三浦年一による1983年作。45回転5曲入りの12インチという変わった体裁でリリースされており、ミニアルバムと言うよりは今で言うところのマキシシングル的な作品です。ちなみにタイトルにはIと付いていますが、あいにくII以降がリリースされているという話は聞いたことがないので、セールス的にはそれほど振るわなかったのでしょう。三浦年一なるシンガーのその後についても良く分かりません。ただこの12インチを聴く限り、角松敏生やオメガトライブあたりに通じるオーシャン系J-AORとして内容的にも充実しており、本人の作曲力や歌唱力も水準以上なので、個人的にはこの一枚だけで消えってしまったのが悔やまれます。さて、そんな不遇な本作ではありますが、何気に一部のJ-AOR愛好家からはカルト的人気があり、中古市場でも一定以上の価格で取引されていたりするので知らないと言う方は要注目。実は演奏と編曲でAB'sが全面参加しており、シンガー三浦年一の作品というよりはむしろ松下誠在籍時の全盛期AB's関連作品として、その筋では注目を浴びているようです。なかでもとりわけ人気があるのがB-1のFriday Night。アレンジを務めるのはバンドの中心人物である芳野藤丸や松下誠ではなくベーシストの渡辺直樹ですが、これがライトメロウな跳ね系ミディアムで、爽快感のあるJ-AORとして非常に秀逸な作品に仕上がっています。正直この1曲のためだけに買ってしまっても損はないくらいですが、その他の曲でも芳野藤丸がアレンジを務めるB-2のWedding Bellや、松下誠がアレンジを施したA-2のTokyo Flightはこの手の80年代J-AORとしては水準が高く、トータルとしてコストパフォーマンスが高い一枚と言っていいでしょう。discomateなるマイナーレーベルからリリースされており、前述のようにセールス的にも振るわなかった作品のため、あまりどこにでもあるという類のレコードではありませんが、興味のある方は是非探してみてください。あいにく運命のいたずらによって角松敏生や杉山清貴にはなれなかったシンガーの作品ですが、このまま埋もれさせてしまうには少しばかりもったいないかと。。。