前回に引き続きボビー・コールドウェルの7inchシングルを紹介。1989年にリリースされた彼の復帰作「Heart Of Mine」の販促用として、ポリドール・レーベルから少数のみ製作された一枚です。過去にも何度かこのブログ内で触れていますが、この1989年という年はクラブ系音楽ではない一般の作品が普通にアナログでもリリースされていた最後の年。アルバムは既にCDオンリーでの流通が当たり前となっており、一部のシングル盤のみが辛うじてレコードでもリリースされている状態でした。実は本作も正規盤ではCDのみの発売となっており、アナログはプロモ盤のみ。そうした稀少性もあり、一部マニアの間では比較的知られた一枚かと思います。A面のタイトル曲はシカゴのPeter Cetera(ピーター・セテラ)に提供し、映画「竹取物語」の主題歌となったバラード、B面のHeart Of MineはBoz Scaggs(ボズ・スキャッグス)の復帰作Other Roads用に書き下ろしたバラードで、どちらもシンガーではなくソングライターとして他者に提供した曲のセルフ・カバー。今の感覚からするとAORと言うよりはアダルト・コンテンポラリーと表現した方が適切かと思いますが、両曲共にパーラメントのCMで使用されたこともあり、夜の都会を彩る大人なナンバーの代表と言って差し支えないでしょう。この素晴らしい2曲をアナログで所持出来る喜びはなかなかのもの。アルバムと同デザインながら若干色味の異なるジャケットもまた素敵です。一応アルバムの方も放送局用に若干枚数のLPが製作されているのですが、あいにくそちらはノン・ジャケット盤なので、ファンならばこちらのシングル盤を所有すべきかと。その特性上あまりどこにでもある類の盤ではないですが、気になるマニアの方は探してみても良いかもしれません。
だいぶ今さら感がありますが、ミスターAORことBobby Caldwell(ボビー・コールドウェル)による1976年のデビュー作を紹介。例の「風のシルエット」ことWhat You Won't Do For Loveが収録された1stアルバムより2年早く、PBR Internationalというスモールレーベルからひっそりとリリースされた作品で、今から10年ほど前に巷で話題になりました。ボビー自身が半ば自身の黒歴史として封印していることもあり、残念ながら現在に至るまでCD化されていませんが内容的には極上。リリース時期の影響もあり、後のクリスタルな雰囲気とは少し毛並が異なりまるものの、いわゆるレアグルーヴ以降の現在的価値観で捕えるならば、数ある彼の作品の内でも本命盤といっても差し支えないでしょう。ちょうど同じブルーアイドソウル界隈から同じ年にリリースされたJohn Valenti(ジョン・ヴァレンティ)の1stと質感の良く似た一枚に仕上がっています。一般的にはミディアムアップで聴かせるライトメロウなA-sideのタイトル曲ばかりにスポットが当たりがちですが、実はB-sideに収録されたWhen You AwakeもPre-AORな雰囲気を持ったなかなかの佳作となっており、個人的にはこちらの方が好み。後の作品からはちょっと想像が付きにくいですが、時折り図太く歌い上げるヴォーカル・ワークがまた抜群に男前です。本作に限っていうならば歌唱法自体もジョン・ヴァレンティに良く似ていますね。ちなみにシングルオンリーのリリースということもあり、発見当初は幻の作品扱いされていましたが、意外とプレス数自体は多いようで入手難易度自体は低め。今回紹介したプロモラベルの他、正規ラベル(青/黒の2つがあり)のものやUK盤もリリースされているため、少し探せばすぐ見つかることでしょう。往年のフリーソウル系AORファンならば確実にグッとくる作品だと思いますので、もしもまだ聴いたことがないという人は是非チェックしてみてください。
一部マニアの間ではそれなりの知名度を誇ると思われる自主系CCM。総勢12名の大所帯バンドによる1979年の作品です。情報が少ないため細かいことは分からないのですが、クレジットを見る限り外部プロデューサーであるSteve Shafer(スティーヴ・シャファー)が製作における中心人物だったと思われます。バンド内にリード・ボーカリストが5人もいるため曲によってメイン・ボーカルは異なり、収録曲中には正直駄作と思われるナンバーも少なくないのですが、なんと言っても冒頭A-1のAll My Love All My Lifeが奇跡。この時代らしいダンサンブルでアップテンポな16ビートに、軽やかなサックスと甘いボーカルが乗るミラクルなナンバーに仕上がっています。ダンクラとAORとフリーソウルがクロスオーバーした正に「良いとこ取り」のサウンドとなっているので、これらのキーワードにピンと来る方ならおそらく試聴一発でやられるはず。これほどイカしたナンバーが、何故こんな片田舎オハイオのローカルなCCMバンドから産み出されたのか非常に謎です。同じCCM関係だと以前ここでも紹介したWall Bros Band(ウォール・ブラザーズ・バンド)が1978年にWind On Summer Nightsという奇跡のミディアムアップ・ナンバーを発表していますが、このAll My Love All My Lifeもそれに勝るとも劣らない名曲。さらに、この手のクロスオーバー系ナンバーは選曲時、タイプの異なる曲間をつなげる接着剤の役割も果たしてくれるので、そうした意味でも高得点。ちなみに他の曲では続くA-2のI Love You With My Lifeが込み上げ系ミディアムAORでなかなか。ロブ・メールあたりが好きな人ならば多分気に入ると思います。自主系CCMということでそれほど見かける作品ではありませんが、気になる方は是非探してみてください。
以前ここでも紹介したHoliday In Hollywoodという作品が界隈では知られるカナディアン・シンガー・ソングライター、Richard Stepp(リチャード・ステップ)による1981年のアルバム。前作がタイトル通りハリウッドで製作されていたのに対し、こちらは地元カナダのアルバータ州エドモントンで吹き込まれており発売自体もカナダオンリー、おまけに例のCaught In A Whirlwindのようなキラーチューンが収録されているというわけでもないため、あまり話題になることが少ないように見受けられます。ただ、この人の場合はそもそも声質自体がAORファン受け良さそうな優男風スウィート・ボイス。たとえキラーチューンが収録されておらずとも、この歌声だけで普通にローカルSSW~AORの佳作盤として聴かせてしまうものがあります。そうした意味ではハワイのRob Mehlや、そのレーベルメイトであるGeorge Michael Nasifあたりに近い肌さわりと言っても良いかもしれません。収録曲中でAORファンが好みそうなのは冒頭A-1のImaginationとA-5のYou're The Only One For Me、そしてB-2のSummer Loveの3曲。いずれもリラックスした雰囲気の木陰系Pre-AOR風ナンバーで、マイナー~自主路線のイナためサウンドが許容できる方ならきっとハマるはずと思います。特にB-2のSummer Loveは、間奏のエレピ含め非常に耳あたりの良いサウンドに仕上がっており、個人的にもとてもお気に入り。海辺のカフェでラジカセからこんな曲が流れてきたら、きっとそれだけで何だか幸せな気分になれることでしょう。おそらくプレス枚数自体もそれほど多くないと思うので、いざ探すとなるとなかなか難しいかもしれませんが、この何の捻りもないジャケットが逆にインパクトあるため、しっかりジャケ写さえ覚えておけば、どこかで見つけた際のサルベージは比較的容易。わざわざ血眼で探す類の作品とは思えませんが、もしも出会うことがあれば試聴してみると良いかもしれません。