先日からKool Kat関連盤の紹介が続いていますが最後にもう一枚だけ。これまで紹介してきた盤と比べ話題になることが比較的少ないRhythim Is RhythimによるThe Beginningです。前の三枚がそれぞれデリック・メイ、カール・クレイグ、ホアン・アトキンズの代表作であるため、それらと比べてしまうと内容はどうしても見劣りするものの、個人的にジャケットのセンスに関してはKool Kat盤の中でこれが一番好きで、安く見つけたこともありつい購入してしまいました。綺麗にリングがかかった土星と悩ましげな女性の対比、そして色使いが何とも近未来的。まるで古いSF小説の表紙のようで、レトロフューチャー好きにはたまりません。収録されているのはA-1のタイトル曲を含め3曲。個人的にはB-1のSalsa Lifeが最も好みです。基本的にはラテンがかったビートにピアノとシンセのメロディーが乗るという彼の得意パターンな楽曲ですが、後半の展開でStrings Of Lifeのリフを効果的に織り交ぜてくるのが何とも心憎く、聴いている身としては見事に「してやられた」という感じ。これは否が応にも耳が反応してしまいます。またカール・クレイグとの共作となるB-2のDramaは、まるで往年のシューティングゲームのような近未来的な一曲。未来、そして宇宙を感じさせるシンセの使い方が見事で、聴いているとSFの世界にタイムスリップしているかのよう。あまり話題になることはないですが、初期デトロイトテクノの隠れ名曲の一つと言えるでしょう。さて、ここまで紹介してきた4枚のKool Kat作品。以前は中古レコ屋でもそれなりに高騰していましたが、最近ではネットを通じ誰もが海外から直接購入出来るようになったこともあり、相場は安値で落ち着いています。いずれも現在はCD化されており手軽に聴けるものばかりですが、部屋にジャケットを飾っておくだけでもなんとなくお洒落な雰囲気があるので、気になる方はインテリア的に購入してみるのも良いかもしれません。ゼビウスやグラディウスあたりの初期シューティングゲームにノスタルジーを感じる方には特にお勧め。たまにはレトロフューチャーな世界観にトリップしてみるのも悪くないものです。
引き続きKool Kat関連盤を紹介。こちらはいわゆるビルヴィレ・スリーの中心人物であり、また「テクノ」の名づけ親としても知られるホアン・アトキンズが、Model 500名義で1990年にリリースした一枚です。ホアンと言えばサイボトロンでの活動が有名で、音楽的にもいわゆる「今で言うところの」テクノではなく、それより少し古いタイプのエレクトロと言われる音楽を志向しているイメージがありますが、この盤については自身のMetroplexからではなくデリック・メイのTransmatからリリースされていることもあり、完全に誰もが想像する通りの現代的なデトロイトテクノサウンド。おそらくホアンの作品中で最も人気がある一枚かと思います。タイトル曲は後にURが「~2~」シリーズとしてリリースする3部作のインスパイア元。完全な打ち込みサウンドですが、音に近未来的な雰囲気が漂う壮大なテクノナンバーで、ダビーなベース音と綺麗になる上物のシンセ、そしてエレクトロボイスによるポエトリー・リーディングがひたすら気持ちいい極上の一曲に仕上がっています。後にURがこの曲をベースにしながら民族→世界→銀河と徐々にスケールをアップさせていくわけで、そう言った意味でも一つの記念碑的なナンバーと言えるでしょう。またB-1に収録されたInfo Worldも同系のナンバー。シンセのメインリフがちょっとデリック・メイみたいで、好きな人には堪らないかと思います。それからやはり触れなければいけないのがこのジャケット・ワーク。当時まだ一般的ではなかったテクノという音楽を大衆にイメージさせるにあたり、これ以上のものはないだろうというくらい素晴らしいジャケなので、近未来SF好きな人なら簡素ならオリジナルではなくKool Kat盤で欲しくなるはず。中古レコード屋でもそれほど高く売られている作品と言うわけではないので、興味のある人は是非探してみてください。
デリック・メイの一番弟子にしてデトロイトテクノ第二世代の代表格、カール・クレイグが1990年にPsyche名義でリリースした傑作12インチ。知っている人には説明不要と思いますが、先日紹介したStrings Of Lifeと並ぶデトロイトテクノの基本蒐集盤です。良い意味での荒々しさがウリなデリック・メイの諸作を動とするなら、初期カール・クレイグの作る音は言わば静のテクノ。しばらく後にヨーロッパでブームとなるインテリジェントテクノ~ピュアテクノ(Warpレーベルから出たArtificial Intelligenceシリーズが有名)のプロトタイプ的な楽曲が収録された金字塔的一枚と言って異論のある人はいないでしょう。カールのオリジナルにMayday(=デリック・メイ)が再構築を施したB-1のNeurotic Behavior (Reproduction Mix)だけは正直少し微妙な出来ですが、それ以外の3曲については文句のつけようがない素晴らしい完成度。疾走するビートに乗った浮遊感あるシンセが最高に心地よいA-1のタイトル曲とA-2のFrom Beyond、そして共作者であるMayday家芸とも言えるラテンがかったビートが魅力なB-2のAndromedaと、3曲それぞれ甲乙つけ難い傑作揃いです。ちなみに前回と同じく掲載しているのはTransmatからリリースされたオリジナルのUS盤ではなく、後にKool Katからライセンス・リリースされたジャケ付のUK盤。音のイメージにぴったりなこのジャケット・ワーク個人的に非常に好みで、この手のレトロ・フューチャー的な世界観に弱い僕は、一目見た瞬間にオリジナルではなくこちらのUK盤での購入を決意しました。なお、この盤に収められた3曲もばっちり収録されているElements 1989-1990というPlanet Eからリリースされたコンピは、当時テクノとテクノポップの違いがまだ良く理解できていなかった自分が、初めて本当の意味でのテクノに触れることになった思い出の一枚。最近はitunesでも気軽にダウンロード出来るみたいなので、良かったら是非聴いてみてください。
先日参加させて頂いたadd-o-ramaで教えてもらった作品。あのX JAPANのYOSHIKIも通っていたことで知られる専門学校「青山レコーディングスクール」のオリジナル・レーベルNescoから、80年代中ごろにリリースされた4曲入り12インチ盤です。ご本人たちのホームページに書かれたプロフィール等から紐解く限り、この時点では東京女子大のサークルバンドを母体とした女性4人組バンドとのこと。1980年に開催されたヤマハ「East Westコンテスト」でレディース部門グランプリを受賞したことがきっかけとなり、本作製作のチャンスを得ることが出来たようです。「ときめきはムーンライト・サスペンス!今、予感はラヴ・シューティング!!」という意味不明な帯の煽り文句と、クリスタル感に満ちたこのジャケット、そしてこのタイトルにして半自主盤と四拍子揃っているためJ-AOR好きとしては否応なく食指が動くのですが、内容のほうはまぁそれなりと言ったところ。あまり期待しすぎると肩透かしを食らいますが、全体的に曲の完成度は一定の水準を保っており、たまにターンテーブルに乗せるには良い感じです。ファンキーに迫るB-1のSail On The Nightあたりは紀の国屋バンドに通じる部分もあり、この手のサウンドが好きな人にはツボなのでしょう。ただ、個人的にはやはりA-2のDaylight Passageが本作のハイライト。イントロのギターとアーベインなキーボード・ワークで一気に持っていかれる泣きのAORバラードです。普段この手のバラード曲はあまり聴かないのですが、この曲に関してはアレンジや歌詞もなかなかに良い雰囲気なので比較的好み。、こうして仕事で疲れた夜に聴くと癒されます。元々のプレス数はそれほど多くないと思うので、正直どこでも見つけられると言った類の作品ではありませんが、もしもどこかで見つけたら聴いてみてください。どちらかと言うとリアルタイム派のAORリスナーにお勧めの作品です。
知っている人は知っている中山美穂の1988年作。僕くらいの年齢だと少し世代が違うので、彼女の印象と言えば、WANDSとタッグを組み180万枚以上のセールスを記録した「世界中の誰よりきっと」くらいしかなく、あいにくアイドル時代の活躍はほとんど知らないのですが、本作はどうやらそんな彼女が少しずつ脱アイドル路線を模索していた時期の作品に当たるようです。なんでもこの年の彼女は1年間で3枚ものオリジナルアルバムを出すという、今の感覚からするとちょっと信じられないハイペースで活動していたようで、本作はその中の3枚目。前作Mind Gameから起用された女性シンガーソングライターの故Cindyをプロデューサーに据えたことが功を奏し、ただのアイドル作品という物差しでは測れない素晴らしい一枚に仕上がっています。そもそも冒頭からライトメロウな雰囲気で始まるA-1のSweetest Loverがいきなり名曲。スロウテンポの曲ながら軽いタッチで作られており、いわゆるバラード的な重苦しさがない非常に都会的なナンバーに仕上がっています。間宮貴子あたりが好きな人なら確実に一瞬で虜になることでしょう。何よりの名曲はA-4のDiamond Lights。東北新幹線で知られる鳴海寛のペンによるブラコン風のライトメロウなミディアムナンバーで、J-AORのお手本みたいなアレンジがただただ気持ちいい至福の一曲です。中山美穂自身の透き通ったヴォーカルも見事なもの。歌唱もさることながら、何より「近所の綺麗なお姉さん」的な歌声が心地よく、まるで空気のようにすっと違和感なく耳に馴染んでいきます。アイドルの歌声としては100点でしょう。ちなみにその他の曲では、後にCindy自身もセルフカバーするA-5の「天使の気持ち」あたりもなかなかの出来。そこそこプレスされたのかCDへの移行期の作品ながら、LPでの入手も比較的容易なので、気になる人は探してみてください。間宮貴子・国分友里恵・二名敦子あたりが好きな人にはお勧めです。
以前このブログでも取り上げ、予想通り紹介から半年後の昨年7月に銀盤化と相成った国分友里恵の1stアルバム「Relief 72 Hours」。本作はそのアルバムと同時か少し後にリリースされたと思われるシングル盤です。A面のタイトル曲は林哲司編曲によるディスコブギーで、こちらは単純にアルバムからのカットなのですが、注目はこっそりとB面に収録されたEasy Love。これが本作を人気盤たらしめる所以、アルバム未収(=現在に至るまで未CD化)な必殺のシティポップスです。そのダンサンブルな展開でアルバム中でも異彩を放っていたJust A Jokeを、全体的な雰囲気はそのままに、もう少しポップかつマイルド、さらにライトメロウ寄りに仕上げたミディアムアップの名曲。サバービア~ライトメロウ以降のJ-AOR好きで、この雰囲気に抗える人はいないと思われる魅惑のナンバーに仕上がっています。作編曲は山下達郎のツアーバンドメンバーとしても知られるギタリストの椎名和夫。アルバム収録曲と異なり演奏者のクレジットがなく、これ以上の情報は分かりませんが、ひょっとしたら同じく達郎バンドのメンバーで、椎名を含め達郎自ら「バンド史上考えうる最高のリズム隊」と評する青山純(ds)や伊藤広規(b)あたりも絡んでいるのかもしれません。椎名以外の二人はアルバムでも2曲ほど演奏参加しているので、その可能性は大いに考えられそうです。主役の国分友里恵自身もコーラスとして達郎バンドに参加しているため、そのように考えるとリーダーの達郎こそ不在なものの、これはほとんど達郎バンドのナンバーそのもの。アルバムがCD化された際、ボーナストラックとして収録されなかったのが非常に悔やまれますが、堀江マミのLoving Youと共に何かのコンピで是非CD化されることを密かに期待しています。当時セールス的に成功しているとは思い難いので、探すのにはそれなりに手間がかかるかもしれませんが、曲自体のクォリティは驚くほど高いので気になる人は是非探してみてください。
デトロイトテクノ関連はまだまだ他にも掲載したい作品があるのですが、今夜は一回休みでまたまた自作コンピ紹介。実は構想から完成までにかなりの時間を要したネオアコものです。自分の中でこの辺りの音がブームになった2年ほど前からちょこちょこと選曲を開始したものの、どうにも納得がいかず何度も作り直しをした結果、これまでの自作コンピの中でも最難産作となってしまいました。以下いつものようにとりあえずトラックリスト。
1. Eskimo Kissing / Andy Pawlak
2. Land Of Gold / Bluetrain
3. Barnoon Hill / Pacific
4. Just Got Lucky / Jo Boxers
5. She Is So / A Craze
6. Sunkissed / Friends Again
7. Native Boy / Animal Nightlife
8. Trickery / Kalima
9. Sunset Red / Lucinda Sieger
10. Sunshine Thuggery / The Siddeleys
11. All I Need Is Everything / Aztec Camera
12. When All's Well / Everything But The Girl
13. Live Forever / Terry Ronald
14. This Charming Man / The Smiths
15. Don't Get Me Wrong / The Pretenders
16. Heart / Rockpile
17. Abandon Ship / April Showers
18. Just A Girl / The Pale Fountains
19. A Simpler Place and Time / Dr. Robert
20. Let Someone Love Me / Lush Life
21. Thank You / The Pale Fountains
収録曲中にはいわゆる一般的なネオアコ/ギタポの範疇では語られることのない曲も若干含まれており、コアなネオアコファンの方からは顰蹙を買うかも知れませんが、そこはまぁご愛嬌。このジャンル最大の特徴である清々しいほどのポップさとひねくれ根性は、それなりにうまく表現出来ているかなと思います。これまで作ったコンピの中ではおそらく最も白人寄り。元々ビートルズやストーンズの洗礼を受けなかった僕にとって、最大限ロックに歩み寄った音がおそらくこの辺りです。毎度のことですがリンク貼り付けておくので、良かったら聴いてみてください。
When I Grow Too Old To Dream
1. Eskimo Kissing / Andy Pawlak
2. Land Of Gold / Bluetrain
3. Barnoon Hill / Pacific
4. Just Got Lucky / Jo Boxers
5. She Is So / A Craze
6. Sunkissed / Friends Again
7. Native Boy / Animal Nightlife
8. Trickery / Kalima
9. Sunset Red / Lucinda Sieger
10. Sunshine Thuggery / The Siddeleys
11. All I Need Is Everything / Aztec Camera
12. When All's Well / Everything But The Girl
13. Live Forever / Terry Ronald
14. This Charming Man / The Smiths
15. Don't Get Me Wrong / The Pretenders
16. Heart / Rockpile
17. Abandon Ship / April Showers
18. Just A Girl / The Pale Fountains
19. A Simpler Place and Time / Dr. Robert
20. Let Someone Love Me / Lush Life
21. Thank You / The Pale Fountains
収録曲中にはいわゆる一般的なネオアコ/ギタポの範疇では語られることのない曲も若干含まれており、コアなネオアコファンの方からは顰蹙を買うかも知れませんが、そこはまぁご愛嬌。このジャンル最大の特徴である清々しいほどのポップさとひねくれ根性は、それなりにうまく表現出来ているかなと思います。これまで作ったコンピの中ではおそらく最も白人寄り。元々ビートルズやストーンズの洗礼を受けなかった僕にとって、最大限ロックに歩み寄った音がおそらくこの辺りです。毎度のことですがリンク貼り付けておくので、良かったら聴いてみてください。
When I Grow Too Old To Dream
デトロイトテクノの記念碑。UKで80年代後半に巻き起こったムーブメント、セカンド・サマー・オブ・ラブの特大アンセムとして知られる、デリック・メイのRhythim Is Rhythim名義によるシングル盤です。デリック・メイはデトロイトテクノ・オリジネイター3人のうちの1人で、その筋では神様みたいな人。その彼の代表作がこの曲です。オリジナルのリリースは1987年。自身によるレーベル、Transmatからの4作目として発売されていますが、これはUKのKool Katレーベルがライセンス権を購入し1989年にリリースされたもの。このKool Katレーベルは当時デトロイトの仲間内のみで局地的に発生していたテクノムーブメントをヨーロッパ、引いては世界全土に知らしめた立役者で、本作以外にも何枚もの12インチを製作しています。このレーベルからのリリースにおける特徴は、この見事としか言いようがないジャケットのアートワーク。オリジナルの12インチは飾り気のないノンジャケ盤ですが、そこにこのポップで近未来的なジャケを加えることで、多くの新しいもの好きリスナーに購買欲を煽ったのがKool Kat最大の功績でしょう。タイトル曲のA-1はデリック・メイと同じくオリジネイターの一人であるホアン・アトキンスによるリミックス。オリジナルであるB-1をさらに激しいビートを加えさらにダンサンブルに仕上げた好リミックスで、本作のみに収録されているナンバーです。またB-2のNude PhotoはTransmatからリリースされた2作目のタイトル曲。本作収録のナンバー含めデリック・メイのナンバーは全体的に作り方が荒く、お世辞にも洗練されたナンバーとは言えないものばかりなのですが、それを補って余りある初期衝動が非常に魅力的で、時々ものすごく聴きたくなります。音楽のジャンル的に万人にお勧めできるとは言い難いですが、一時代を築き上げ後のシーンに大きな影響を与えた一枚であることは間違いないので、聴いたことがないという人は是非一度聴いてみてください。