50年代から活動を始めたスウェーデンのピアニスト、ニルス・リンドベルグが現地のColumbiaに残した一枚。例のジャズ批評のEP特集に掲載されていた盤の中でも、アクセンらのSketchと並び一際目を引くジャケット・デザインをしていたため、もしかしたら見覚えのある方もいるかもしれませんね。このリンドベルグと言うピアニスト、The Swedish Modern Jazz Group名義で60年にリリースしたSax Appealがわりと古くから知られていますが、現在の感覚からすればやはり本命はこのEP。既に多くの方が指摘している通り、A-2のTabooの完成度の高さが尋常ではありません。リンドベルグのピアノもさることながら、エキゾチックなアフロ・キューバン・ビートに乗せた4管が抜群に格好良い至福の一曲です。以前ニコラ・コンテがリコメンしていたこともありましたが、こういうのはきっとクラブ系の若いリスナーでも気に入るでしょう。ソロ1番手のリンドベルグの後、一旦ブリッジを経てソロに入るオキ・ぺルソンが美味し過ぎです。おまけに続くムヴァファク・ファーレイなるトランペッターもまた最高のソロを披露。あまり名前を聞かない人ですが、他の曲でも良いプレイをしていたので気になって少し調べてみたところ、どうやら後にクラーク=ボラン楽団に参加した人のようです。詳しいことは分かりませんが、オキ・ぺルソン繋がりということなのでしょうか。ちなみにこのTabooばかり取り上げられているようですが、実は他の曲も皆かなり出来が良いのでご安心を。アラン・リンドストロームのテナーが迸るA-1のCotton Tailは、初期のJazz Quintet 60にも通じる高速4ビートのハードバップ。ダニッシュ・ジャズが好きな方にはこちらもオススメかもしれません。そしてラストを飾るB-2のMoonlight In Vermontは、これまたタイトル通りしっとりとしたアレンジで非常に洒落たナンバー。ついついグラスのお酒が進んでしまいそうなムーディーな一曲です。なお、このところ結構方々で紹介されていることから、オークションなどで見かける頻度も比較的高めな気がしますが、おそらく元々のプレス数はそれほど極端に多くはないはず。こういうのは全く見かけなくなる前に買っておくのが吉かと。文句なしのオススメ盤です。
ブラジルのバッソ=ヴァルダンブリーニ。このところ若干ネタ切れ気味で更新をお休みしていたのですが、めでたく再発も決まったということで久しぶりに紹介をさせて頂きます。巷ではマシャードやハウルジーニョと並んでハード・ジャズ・サンバの傑作として扱われているので、中身は聴いたことなくてもジャケットに見覚えのある方は多いのではないでしょうか。ただ、こうして実際に聴いてみた感想としては、正直それほど「ハード」な音作りではないなという感じ。何を持って「ハード」と表現するかという問題は当然あるのでしょうが、これは他の知人も言っていたことなので、おそらく皆さん同じような印象を受けると思います。最も、だからと言って別にこの盤が悪いと言っているわけでは全然ないので誤解のないようにお願いします。さて、そんな本作の中身ですが、個人的には冒頭にも書いた通り、イタリアのバッソ=ヴァルダンブリーニ楽団、それもExiting 6のような後期作に近い雰囲気と言えると思います。収録曲が全て3分前後の短尺曲であることも共通していますしね。A-1のタイトル曲を筆頭に、A-3のDeixa Prá LáやA-5のInaéなど軽快な3分間ポップ・ジャズ・サンバがずらり。いずれも2管の鳴りが気持ち良く、非常に聴き易い一枚になっています。ちなみに僕が特に気に入っているのはB-1のKaô, Xangô。ジンボ・トリオやサンサ・トリオもプレイしているジョニー・アルフのナンバーですが、ここではそれを洒落た高速ジャズ・サンバにアレンジしていて、かなり格好良い感じです。テノーリオ・ジュニオールのEmbaloと並んで、サニーサイドのインスト・ジャズ・サンバの傑作と言ったところでしょうか。また、少し雰囲気は違いますが、ラストのB-6に収録されたDreamsvilleも黄昏時に良く似合う曲調で良い感じ。オリジナルはかなりの価格で取引されているので、正直気軽におすすめ出来るような盤とは言い難い一枚だとは思いますが、再発が出たら是非皆さんお手に取ってみてください。Exiting 6が好きならきっとハマると思います。ちなみにもう少しハードな雰囲気が聴きたければ、随分前にここでも紹介しましたが、Som Majorから出てるSom/Maiorからリリースされている1stをどうぞ。そちらも合わせて再度オススメさせて頂きます。
全部で35枚ある伊Horoレーベルの「最前線ジャズ」シリーズ。ずいぶん前に紹介したケニー・クラークのリーダー作が、古くからクラブ・サイドで知られる大人気盤となっていますが、逆にモダン派の人から最も好まれている作品と思われるのが恐らくこの24番。現代イタリアを代表するピアニスト、エンリコ・ピエラヌンツィが75年に吹き込んだ記念すべきデビュー作です。録音年度が若干新しいこともあり、同じイタリア産ジャズでも、60年代中盤のいわゆるバッソ=ヴァルダンブリーニ・サウンドとはやや趣きの異なる質感となっていますがそれはそれ。こちらはこちらで大変聴き応えのある素晴らしい作品に仕上がっています。冒頭A-1のPiece For JoanとB-1のLong Drinkは瑞々しいタッチで綴られる高速ジャズ・ダンサー。スピーディーな演奏の中に潜む繊細さは、後にエヴァンス派と呼ばれることになるピエラヌンツィの面目躍如と言ったところでしょうか。また、ブルーノ・トマソ作によるA-2のAfter Youはミッドテンポのワルツ。澤野工房発の諸作にも通じる非常に耽美的なナンバーで、聴いていると思わず溜め息が漏れそうになる至福の一曲です。おそらく収録曲中で最も「ヨーロピアン・ジャズ」のイメージに近いのがこれかと。こういう曲は日本人なら皆好きそうですね。また、個人的なお気に入りはB-3のRagnhild。ドラムスを務めるオレ・ヨルゲンセン作の高速ワルツで、一曲の中に美しさと力強さが同居した素晴らしいナンバーです。なお、この作品を含め、Horoレーベルの作品は版権の関係からか一枚もCD化されていないのですが、別にそれほど極端にレアだとか高額だとか言うことはないので、この手の欧州ジャズの中では比較的手の出し易い一枚ではと思います。最も35枚のシリーズは玉石混交な上、プレスの悪い盤も多いので買う前には試聴が必要だと思いますが。ちなみに個人的には、この辺りが最近話題のLTCの元ネタだと思っているのですがどうでしょう。別に直接的な引用があるわけではないので何とも言えませんが、何となく質感に近いものを感じます。何はともあれ手頃に勧められる一枚であることは確か。ご興味があれば是非聴いてみてください。