実は今週いっぱい夏休みを頂いていました。まぁ取り立てて何かをしたってわけでもないんですが、なんとなく休みの間よく聴いていたレコードがこれ。Isabelle Powaga(イザベル・ポワガ)を中心としたフランスの3人組ユニットAntenaによる1985年の12インチ・シングルです。最も本作リリース後にポワガはIsabelle Antena(イザベル・アンテナ)と名を変えソロデビューしており、タイトル曲は1stアルバムであるEn Cavaleにも収められているため、この時点でグループは既に半ば解体状態だったのかもしれません。知っている人には言うまでもないことですが、件のタイトル曲はジャンルを超えて愛される80'sポップの定番チューン。便宜上ここではネオアコにカテゴライズさせて頂きましたが、ある意味UKソウルやアシッドジャズの草分け的ソングでもあり、取りようによってはフェイク・ジャズの一種とも言えそうです。僕自身がこの曲を知ったのは大学に入り立ての頃。確か初めて聴いたのは当時流行っていたCafe Apres-Midiのコンピで、当時ボサノバのボの字も知らなかった僕にとっては非常にお洒落な曲に聞こえたものです。この12インチ盤自体を購入したのは2~3年前ですが、心のベストテンには10年来必ず入っている曲。カップリングで収録されたアルバム未収の2曲も、初期UKソウルの佳作と言った趣でなかなかに良い出来となっています。ちなみにタイトル曲は前述した通り問答無用の定番ソングなので各種コンピの常連ですが、ほとんどがアルバム・ヴァージョンでの収録となっているため気になる人は要注意。Diggin' Iceでも使われたこの12インチのロング・ミックスはあまりCD化されておらず、知る限り国内ビクターから86年に発売され90年にリイシューされた「新クレプスキュール物語」に収録されているのみです。こだわりのない人にとってはどうでも良い話かもしれませんが念のため。最もアナログ自体は比較的よく見かけるため、アナログ派の方にとってはそれで十分かもしれませんが。。。
このところ自分の中でのヒップホップ熱もひとまず収まり、その変わりに聴いているのがネオアコ。首都圏では記録的な雪が二週間続けて降ったりと、外はまだまだ寒い日が続いていますが、二月も中盤を過ぎたことだし、そろそろ季節を先取りして春向きの曲を聴いても良いかなと思っている今日この頃です。本作は90年代前半に活動していたフレンチ・ネオアコ・バンドによる1991年の12インチ盤。俗に言う「ネオアコ本」に掲載されていることもあり、渋谷系からフリーソウル方面ではなくネオアコ~ギタポ方面に行った人にとっては、そこそこ知られた作品かと思います。同年にリリースされた彼らの1stであるRéservé aux clients de l'établissementからのシングル・カットで、目玉はA-1のタイトル曲。アルバムに収録されているオリジナル・ヴァージョンも軽快なギターポップで良い感じですが、ここではヌーヴェル・ヴァージョンと称した楽曲のリアレンジが行われており、それが非常に素晴らしい仕上がりとなっています。オリジナルの雰囲気は損なわぬままキラキラ度とおしゃれ度のみを20%増量した雰囲気なので、この手のサウンドが好きな方ならまず確実にツボに入る音かと。また、アルバムには未収のB-1、Quiet Heartはオーストラリア出身のバンドであるゴー・ビトウィーンズのカバーとなっており、こちらも陽だまりのネオアコ名演となっています。この2曲が収録されているだけでも買いなのにトドメはこのおしゃれで爽やかなジャケットとフランス語のタイトル。当時フリッパーズ・ギターやブリッジを聴いていた人たちが好きそうな多くの要素が見事なまでに詰まっているため、人気が出るのも当然でしょう。ちなみにレア度は12インチより高めのようですが、一応当時CDもリリースされている模様。Amazonでは買わせる気がない異常な値段が付いていますが、興味があれば探してみても良いかもしれません。
1980年代のモータウンを目指しポール・ウェラーが設立したレスポンド。セールスが振るわなかったため、レーベルは1981~1985年の4年間という非常に短い期間で活動に幕を閉じましたが、その志向していた音楽性は高く1990年代の渋谷系ムーヴメントの中で再評価され、一連の作品は今ではネオアコの文脈で語られています。本作はそんなレスポンドの看板アーティスト、クエスチョンズが1984年にリリースしたLP。その出自やスタイルからスタイル・カウンシルの弟的バンドと呼ばれることが多いですが、実際にはもう少しストレートにヤングソウルをやっており、これはこれでスタカンとは異なるオリジナリティーに溢れる一枚となっています。いわゆるUKソウルを先取りしたかのようなA-1のタイトル曲、後のアシッドジャズを思わせる揺れるベースが気持ちいいA-2のAll the Time in the World、クレプスキュールあたりの雰囲気に近いネオアコ的なA-3のThe Bottom Lineと掴みは完璧。さらに続くA-4のMonth of SundaysはスタカンのHeadstart For Happinessと良く似た瑞々しく弾けるヤングソウルとなっており、いわゆるポップスおたくの人ならばここまでの流れでやられること間違いなしでしょう。また個人的に気に入っているのはB-1のTuesday Sunshine。アニマル・ナイトライフのNative Boyと並ぶお洒落スウィンギンネオアコの最高峰です。高速で刻まれる8/12拍子とどこか懐かしいコード進行がいかにも渋谷系。当時小山田圭吾のトラットリアから再発されたのも頷けます。ちなみにLPだと比較的よく見つかりますが、CDではこのトラットリア再発のみでしかリリースされていないため、気になる人は若干根気良く探す必要有り。amazonでは異常な値段が付いていますが、町の中古屋で見つければ普通の値段で買えるので頑張って探してみてください。
いわゆるネオアコと呼ばれる作品群の中にも様々な種類のサウンドがありますが、本作はその中でもダニー・ウィルソンと並びAOR色の強い一枚。ニューキャッスル出身のシンガーソングライター、アンディー・ポーラックによる1989年にリリースされた唯一のLPです。これまでネオアコはあまり真剣に聴いてきていなかったため僕自身はこの作品の存在を知りませんでしたが、当時からそれなりに人気のあった人のようで翌年には日本盤CDがリリースされている模様。また大手Fontanaよりリリースされているためか、LP→CD移行期の作品ながらオリジナルのLPもよく見かけるので、入手は比較的容易かと思います。内容的にはネオアコ経由のポップス~AORと言った雰囲気で、シングルにもなっているA-1のSecretsやA-3のMermaidsを始め全編にわたり名曲がずらり。ネオアコ作品に共通するナイーブな思春期テイストはそのままに、美しいポップス・サウンドをやっています。スタイル・カウンシルやブロウ・モンキースあたりのUK産80'sポップスをもう少しネオアコ寄りにシフトしたという表現が近いでしょうか。ピアノとアコギを中心とした繊細な音作りが非常に美しく、あの頃サバービア・スイートに胸をときめかせていた元渋谷系の方だったら間違いなくハマるはず。収録曲はどれもレベルが高いですが、その中でもとりわけ素晴らしいのはB-3のEskimo Kissing。どことなくロードムービーを思わせる叙情的な雰囲気が堪らないミディアムテンポのポップスです。この手の音としてはダニー・ウィルソンのMary's Prayerと双璧。以前ネオアコ関係をまとめたコンピを作ったとき一曲目に使わせてもらいました。この辺りのネオアコ作品はいわゆるブラコン~AORサウンドとは一味違うので、その手のファン層からは無視されていると思いますが、これはこれで良質なポップスとして良いと思います。というか同じ時期の本家AORはバラードばかりで食傷気味なので、個人的にはむしろこういう音のほうが好み。とにかく良いアルバムで入手も容易なため、ぜひ一度、変な先入観を持たずに聴いてみてください。ジャンル関係なくポップなサウンドが好きな方なら、きっと気に入ると思います。
80年代にUKで活躍したポップス系バンドのアニマル・ナイトライフ。本作はそんな彼らのおそらく1stシングルとなる1983年の作品です。復活後のブログでこの手のサウンドを紹介するのは初めてですが、実はこの辺りの80~90年代のUKポップスはクラブジャズのバブルがはじけた後、一時期よく聞いていたジャンル。ネオモッズやネオアコからアシッドジャズ、さらにはドラムンベースや西ロンドン系に至るまでの流れをしっかりと辿っていくと、UKのクラブ音楽史を俯瞰で眺めることが出来るので興味深いです。90年代中盤までのクラブミュージック黄金期の音についてはこれらUKサウンドと、元ネタを含めたヒップホップやR&B、そしてシカゴ・ハウス~デトロイト・テクノの流れを抑えておけばとりあえず一通り網羅できるので、最近の若いリスナーでクラブミュージック史全般に興味のあるという僕のような奇特な方は、この三方向から同時に聴いていくと面白いかもしれません。閑話休題。いきなり話が大きく反れましたが、このアニマル・ナイトライフはそんなUKポップス史のなかでネオアコとアシッドジャズを繋ぐ上でのミッシングリング的なバンド。TrickeryがクラブヒットしたKalimaに近い立ち位置のバンドでありながら、あそこまで極端にジャズには走らず、もう少しAORというかポップスの要素も入っているという稀有な存在です。特にこの1stシングルについてはその傾向が顕著。都会的なヴィブラフォンの響きが気持ちいいスウィンギンなジャジー・ナンバーで、大人のポップスとでも言うべき高い仕上がりを誇る一曲になっています。AOR/ネオアコ両者の特徴を兼ね備えながらジャズとも相性が良く、おまけにプレイの仕方によってはこの曲のみでフロアの空気を一転させ得る雰囲気を持つ曲なので、DJ的な意味での汎用性も抜群。先日紹介した自作コンピにはこのシングルからではなくアルバムバージョンを選曲しましたが、そちらも負けず劣らずの完成度です。ちなみにシングルバージョンについては残念ながらCD化されておらず、聴く手段は今のところアナログのみですが、アルバムバージョンについてはベスト盤CDで聴けるのでCD派の人はそちらでどうぞ。少し調べてみたところamazonではアホみたいな高値がついていましたが、僕は某店で普通に1000円で買いました。