澤野工房の再発ラインナップから、もう一枚紹介。ヨーロピアン・ジャズ屈指のメガレア盤とされるルネ・ユルトルジェによる1957年の2ndアルバムの奇跡の復刻です。僕らのようなクラブジャズ世代ではないモダンジャズ愛好家の人からもかなり話題となったよう。まぁ正直クラブでかけられるかといったら微妙なんでしょうけれど、そういうことと全く関係なしに素晴らしいアルバム。A-1のTune Upの高速4ビートから一気に世界観に引き込まれます。テンポが速い曲も遅い曲もありますが、どの曲にも共通して言えるのはとてもモード的だということ。どこを切り取ってもフレンチな気品が感じられます。やはりこれはアメジャズでは出せない音でしょう。特に気に入っているのがA-5のBloomdidoとA-6のIndain Annaの2曲立て続けの高速スウィングの流れ。彼の美学がひしひしと伝わってきます。とにかく洗練された演奏で素晴らしい。エスプレッソを飲みながら昼時にこんなアルバムを聴いて優雅な午後を味わいたいですね。ジャケットのセンスも秀逸な超オススメ盤。完全限定生産だそうで、そろそろ数も少なくなってきているよう。3800円と新譜にしては若干割高ですが、なにせ原盤は30万~40万円で取引されているものなので、それくらいの金額を出す価値はあると思います。お早めにチェックしてみてください。
大人気サックス奏者Sahib Shihabが渡欧中の61年にデンマークのラジオ・ジャズ・グループとセッションした幻の一枚。もっともオリジナルを持っているわけではなく澤野工房から数年前にリリースされた復刻版アナログですが・・・。渡欧中のSahib Shihabと言えばClarke = Boland楽団への参加が有名ですが、ソロ名義でもこんな素晴らしい作品を残しているんですね。冒頭のスモーキーで緩めな4ビートで支えられるA-1、Di-Daからして既に超名盤の香りが伺えます。そして続くA-2、Dance Of The Fakoweesのカッコ良さと言ったら天下一品。ルパン三世も真っ青なミッドテンポで綴るビッグバンド・ジャズ・ワルツです。こういうのクラブで聴きたいなぁ・・・。全ての演奏が完璧。サバービアで紹介されているB-2のHarwey's Tuneもヨーロピアンの気品が漂う至福のモーダル・ジャズ・ワルツ。さらにB-4のThe Crosseyed CatはNicola Conteが曲中でほぼ全編流用したモーダルな高速ハードバップ。ここに挙げた数曲以外も本当に全曲が最高なヨーロピアン・ジャズの至宝です。澤野からのアナログは限定という話ですが、中古盤屋を回っていると時々見かけるのでぜひチェックしてみてください。クラブとか関係なく一家に一枚の家宝となりえる珠玉の名演集です。
デンマークのサックス奏者Don Penderが83年に録音した名盤。とにかくA-1のCloudsという彼のオリジナル曲が文句なしに素晴らしい。基本的にはローカルなジャズ・ボッサで彼の吹くサックスの音色はどことなく牧歌的なのだけれど、バックを務めるピアノ・トリオは歯切れ良いリズムで軽快に打っているので、クラブ・プレイも全然可能と思われます。ゲスト的に参加しているHorace Parlanがまたなかなかに良いメロディを奏でていて、朝方のフロアやよく晴れた昼下がりのカフェにもよく似合いそう。B-3のThe Night Has A Thousand Eyesもサバービアなテイストで耳に心地よいジャズ・ボッサの名曲。ここでもやはり肝となるのはHorace Parlanのピアノ。アメリカ人とはとても思えないほどにとことんヨーロピアン・ジャズ的な繊細で美しいフレーズを聴かせてくれます。ドラムのEd Thigpenもなかなかに良い仕事をしていて時折スウィングからアフロキューバン的なビートを奏でるところなどに好感が持てるかな。全体的に緩めで心地よい曲が多いので、クラブには向かないかもしれないけれど、くつろいだ演奏でアルバム通して聴けるのでカフェで聴くならば全然アリな一枚。昼下がりに紅茶とケーキを堪能しながらじっくり聴きたいです。
知られざるスウェディッシュ80'sモダン・ジャズの傑作。おそらくスウェーデン本国でもほとんど無名であった(当時の)新人トランペッターUrban AgnasがLars Janssonのピアノ・トリオとセッションした作品で、彼名義では唯一のLPだと思います。美しい朝焼けを思わせるジャケットからしてとても素敵な一枚なのですが、曲の方もかなり洗練されていてまさにヨーロピアン・ジャズと言える作品揃い。どこまでも気品に満ちたA-2のBadaは彼のオリジナルで、ジャケをそのまま曲に投影したような美しき朝方のモーダル・ジャズ。一転して高速ハードバップなB-1のWhat Is This Thing Called LoveはCole Porterのカヴァー。特別なキラー・チューンというわけではないけれど、今ならばクラブでもよく映えそうな一曲で、Urban Agnasと言うよりもドラムスのAndres Kjellbergという人の迫真のプレイがカッコいい。若干ゆるめのB-2、Toyもなかなかに良質なスウィンギン・モダン・ジャズ。この曲はBill Evansのカヴァーですが、ここでもやはり洗練されたヨーロッパのジャズが聴けます。そしてジャズ・ロック的な彼のオリジナル、B-4のタイトル曲も極上ダンサー。全体的にモダンな気品に満ち溢れながらも、どこか突き抜けた佳曲揃いの一枚でこの手の北欧ジャズとしてはかなりクォリティが高いと思います。どこにでも売っているような盤ではないけれど、もしもどこかで出会うことがあればぜひ聴いてもらいたい一枚。
一時期に比べたらだいぶ人気も落ち着いてきたと同時に、かなり値段もリーズナブルになったポーリッシュ・ジャズ。当初は社会主義下の東欧ジャズというとそれだけで珍しい気もしたのですが、いざバイヤーが本格的に買出しに乗り出したら意外にレアではなかったようで、今ではわりと普通に買えます。ただ内容が悪いわけでは決してないので、チェックしてみるのも良いかもしれません。これはBemibemのヴォーカリスト、Ewa Bemによるセッション盤。軽快にスウィングするB-1のタイトル曲が僕はとても気に入っていて、これ一曲のためにアルバムを買ったようなものです。まぁよくあるビッグバンド・スウィング・ジャズ・ヴォーカルと言ってしまえばそれまでなのですが、おそらくポーランド語であると思われる言葉で歌われるメロディが何となく新鮮でアクセントになるかなと思ったもので・・・。続くB-2のCzy Powie Mi Pan Dzien DobryはドリーミーなストリングスやZebigniew Wodeckiとのデュエットも美しいメランコリックなジャズ・ワルツ。こちらもなかなか好きです。特別インパクトがある盤ではなくても夜に部屋で1人でかける盤としてはかなり上質な気がします。安くで売られていたら耳を傾けてみてください。
アナログ待ちをしていたらCDの方から一ヶ月も遅れてしまいましたが、ようやくリリースされたアムステルダム発ジャジー・ヒップホップの最高峰。昨年リリースされたEPの時からアルバム発売を本当に楽しみにしていたユニットです。今さらジャジー・ヒップホップとか言うとありきたりな表現かもしれませんが、このアルバムに関しては本当にこの表現が似合う作品なのであえてこう表現しようと思います。ヒップホップなのにアルバム通して全然ゴツゴツしたところがなく、昼下がりのカフェによく映えそうな一枚。先行EPにも収録されていたA-4のMotivatedやA-5のEagerももちろん素晴らしいのですが、女性ヴォーカルを迎えたC-2のMellowがこのアルバムでのマイ・ベスト・トラック。クラブ的にどうこうという話では全然ないのですが、タイトル通りメロウでとても優しいメロディ・ラインは唯一無二と呼べるでしょう。ニュースクール直系な印象を受けるD-1のCheekyもかなり気持ちいい曲。まぁ気持ちがいいのはアルバム全編通して言えることなのですけどね。おそらく後においてもクラシックとなりえるとにかくオススメな一枚。今年のマイ・ベスト10には必ず食い込んできそうなアルバムです。ジャジー・ヒップホップ好きはもちろん、そうでない人もぜひ聴いてみてください。
クラブ・ジャズ・クラシックスとして有名なCome With Meや、夕暮れ時を彩るTranquilityなど80年代にConcord Jazzに残した音源も素晴らしいけれど、彼女のアルバムで一枚選ぶとしたらやはりこれ。75年にフランスで録音されたジャズボッサの大傑作です。Catiaも披露していたA-1、Samba De Orlyはイントロの気持ちいいスキャットから込み上げるメロディ・ライン、ヨーロピアン・ジャズ特有の繊細なバックの演奏まで全てにおいて完璧な一曲。どこまでも澄み切った空の下というよりも今日みたいに雨だったり曇りだったりという日に聴きたい哀愁ジャズ・ボッサです。同タイプのB-3、Bedeuもヨーロピアン・ジャズの気品が伺える切ない高速ジャズ・ボッサの名演。ため息が出るくらい美しいです。これら2曲とは逆にA-2のPot Pourri De Jorge Benは逆に凄く爽快な曲。途中で♪Zazueira~なんてフレーズも飛び出してくる突き抜けた演奏が魅力的です。ラストを飾るB-5のPot-Pourri Via Brasilも晴れの日がよく似合うパーカッシヴなサンバ・ジャズ。笛の音色やTania Mariaのスキャットを聴いていると何だかとても楽しい気分。とにかく名曲揃いの一枚。オリジナルは微妙に高いけれど、再発も何度か出てるし別ジャケで当時モノの国内盤なんかもあったりします。今さらブラジルだなんて言わずに聴いてもらいたいオススメな一枚。エヴァーグリーンなLPです。
「これ以上素敵なレコードなんて考えられない」とSuburbia Suiteで紹介されていた楽譜の読めない作詞作曲家Raphael Chicorelの自主制作盤。最近は再発CDの煽りでちらほらオリジナル盤を見かけるようになりましたが、本来は激レアな上に高価なアルバムでした。僕もこの前、比較的安くオリジナルのレコードを見つけて買おうかと悩んだのですが、とは言いつつもやはり普通のレコードに比べたら高いことに変わりはなかったので、断念してCelesteからの再発CDを買うことにしました。M-7、You're My Reasonはパーカッシヴなイントロから後半に向けて次第にテンポ・アップしていく珠玉の爽快ヴォーカル・ジャズ・ボッサ。イントロの強烈なドラム・ブレイクからピアノが疾走するM-8のThe BirdはあのCopeland Davisを一層上品にしたかのような印象で素晴らしい。ちなみに、これの伸びやかな女性Vo.を配したこれのヴォーカル・ヴァージョンとなるM-14のAll That Love Makingも美しいです。そしてOrgan b. SUITE No.5にも収録されたM-5のWalking With JackoはRaphael Chicorel自身の息子とのデュエットで送る至福のジャズ・ワルツ。しっとりしたエレピが綺麗なM-10のYou Are So Thereも気持ちよいです。もう本当に全曲が煌いています。「素敵」というキーワードでレコードを捕らえるならば確かにこれはNo.1かもしれませんね。ぜひアナログでの再発を願います。
おそらく知っている人は誰もいないであろう僕のニュー・ディスカヴァリー。スウェーデン産のSSW/AORなのですが、これが異常に良い出来で、並みのフリーソウルでは束になってもかなわない名盤です。John ValentiやBruce Hibbard辺りなどに通じる爽やかなグルーヴで、彼自身のヴォーカルも色気たっぷりな上にまたメロディがどれも美しい。まさに込み上げ系といった感じでフリーソウル・フリークならばおそらくド真ん中の音でしょう。ファンキーなA-1のYouからして既に抜群にカッコいいのですがこれはまだ序章。前半のハイライトとなる屈指の込み上げアップ・チューンA-3のDo You Reallyや、フロアがポジティヴな光に包まれそうなB-3のNo One Likeの素晴らしさと言ったら言葉では表せないです。特に後者はKurtis BlowのThroughout Your Yearsを歌にした感じの青春ヤングソウル超名曲。ゆったりめなB-1のタイトル曲やブラジリアンの香りが漂うB-5のLove & Devotionなども爽やかで美しい。とにかく全編通してメロディーが込み上げまくりです。フリーソウルはどれだけ掘っても、まだまだ時折こういうS級ランクの盤に安値で出会えるので探しがいがあります。曲自体がもともと素晴らしいのだから、絶対にそのうちまた流行りだすでしょうしね。超オススメ盤です。
ビートルズを解散した後にポール・マッカートニーが新たに組んだバンド「WINGS」による79年の12インチ。熱狂的なビートルズ・ファンには何を言われるか分かりませんが、僕は正直ビートルズ時代の曲よりも圧倒的にこちらの方が好き。ポール流のAORディスコと言った感じでしょうか?まるで山下達郎のLoveland, Islandな冒頭のスパニッシュ・ギターから完全に持っていかれる爽やかでグルーヴィーなナンバーです。ポールの声が典型的な白人声だから、ディスコといってもそれほどブラックっぽくないし、むしろBPMが早めのロックやAORと一緒にかけたら気持ちいいかもしれない。歌のメロディも綺麗でなかなかに込み上げます。ビートルズのファンよりもむしろサバービアのファンにこそ聴いてもらいたい一曲ですね。ちなみにオリジナル・アルバムには未収だそう。なにせポール・マッカートニーなので何かの形で確実にCD化はされていると思いますが、どこに入っているのかという詳細は知りません。12インチの方ならばおそらくそれほど労せず手に入れられると思います。あっ、ジャケ違いで7インチも出ているみたいですがそちらはショート・ヴァージョンなので、どうせ買うならばこちらの12インチをお勧めします。なぜかリラックス誌ではノン・ジャケで紹介されていますが、きちんとジャケ付きオリジナルありますよ。