現在でもセクシー系女性(最近の言い方だと美魔女?)タレントとして、バラエティ番組を中心に芸能界の第一線で活躍している杉本彩が、今から25ほど前の1988年にリリースした6曲入りミニアルバム。残念ながら僕は世代ではないので当時の彼女の活躍は存じ上げないのですが、なんでも「学祭の女王」の異名を持っており男性のみならず女性からも一定の支持を得ていたようです。さて、本作はそんな若かりし頃の彼女が歌手活動に挑戦した記念すべき第一作目。本業ではないということもあり歌については正直ご愛嬌と言ったところですが、全体的にこの時期特有のクリスタルな質感に包まれた作風となっており、なかなかに聴きどころのある一枚となっています。オメガトライブあたりに近いブラコン路線なA-3のGuiltyなど、80年代J-AORやシティポップスが再評価されている今聴いてみると新鮮で面白いかもしれません。アルバムのハイライトは冒頭A-1のShining。まるで国分友里恵と二名敦子を足して2で割ったかのような、非常に洗練されたアレンジのミディアムナンバーとなっており、ライトメロウ路線のシティポップスが好きな人なら気に入ること間違いなしでしょう。現在の姿からはちょっと想像できませんが、まだ少女らしさの残る良く透き通る歌声がまた魅力的。間奏で入るアーべインなサックスの音色もムード満点です。同じアイドル系シティポップスなら大滝裕子の「恋のウォーミングアップ」あたりと相性抜群なので、その手の路線が好きな方は是非聴いてみてください。ちなみに例によってLPからCDへの移行期にあたる微妙な時期の作品のため、しっかりとアナログ/CD双方が存在しています。どちらも見つけることさえ出来ればそれほど高くないと思うので、気になる人は探してみると良いと思います。
ご存知20世紀を代表するポップスター、マイケル・ジャクソンによる1975年作。古巣モータウンでの最後のリリースにあたる一枚です。ちょうど声変わりの時期の作品であり、またセールス的にも振るわなかったことから、彼の作品の中ではあまり取り上げられることは少ない作品ですが、実は個人的にもっとも愛聴しているのは本作。広く知られる79年のOff The Wallや全世界で2億5千万枚もの売上を記録した83年のThrillerとは異なり、本作ではホランド=ドジャー=ホランドやハル・デイヴィスなどモータウンの専属ソングライターらが作詞作曲したナンバーで全編が占められているため、制作にあたりマイケル本人の意思がどこまで尊重されたのかは分かりませんが、その分だけ各ナンバーともにミラクルでアコースティックなポップソウルとなっており、おそらくフリーソウル好きならば悶絶する内容かと思います。弾けるような瑞々しさが印象的な冒頭A-1のWe're Almost There、同テイストながらもやや力強さを感じるA-2のTake Me Back、それから実質的にアルバムのリード曲と思われるA-5のWe've Got Foreverあたりはポップなニューソウル好きならば必聴。フリーソウル全盛期に人気があったリロイ・ハトソンなどが好みな方は、まず間違いなくハマることでしょう。そして個人的に本作でもっとも好きなのがA-4のCinderella Stay Awhile。おなじくフリーソウル期に人気のあったVoices Of East HarlemのCashing In(これも確かリロイ・ハトソン絡みだったはず)を思わせるミディアムアップのポップソウルで、やや少年の面影が残るマイケルのヴォーカルがたまらない至福の一曲に仕上がっています。これ以降ソウル・ミュージックの枠に捕らわれることなく正真正銘のポップスターとなっていくマイケルが、モダンソウル畑に残した最後の作品。どこでも手に入る一枚ですが内容的には間違いないので、まだ聴いたことがないという方は是非チェックしてみてください。
おそらく80年代より活動していたと思われる女性3人組グループによる一枚。他作品のジャケット写真のイメージから、なんとなく勝手にヴォーカル&コーラス系グループだと思っていたのですが、調べてみたところどうやらバンド形式のグループらしく、ギター+ベース&リード・ヴォーカル+ドラム&サイド・ヴォーカルという3ピースの模様。AOR界隈で話題となったような話はあまり聞いたことがありませんが、熱心なコンテンポラリー・ハワイアンのファンには比較的よく知られた存在のようで、何枚かCDでリリースされているアルバムはいずれもamazonで高値が付いています。もっとも内容自体が良いので当たり前と言えば当たり前の話なのかもしれませんが。グループの肝はリード・ヴォーカルを務めるRachel Asebido(ラケル・アセビド)。いかにもサモア系といった雰囲気全開な恰幅の良い女性で、失礼ながらルックス的には全く華がありませんが、あのロイヤル・ガーナー似の美声でソウルフルかつ心地よいメロディーを聴かせる隠れた名シンガーです。個人的にはこの声でまずノックアウト。おまけに楽曲アレンジ自体もシンセサウンド主体な90'sアイランドメロウ・テイストなのだからたまりません。特にM-1のYoung And In LoveやM-2のSomething Magic、それからM-4のSmoke Gets In Your Eyesあたりの楽曲はライトメロウ指数も高く、90年代カラパナやモーリス・ベガのサウンドが好きな人にはおあつらえ向きと言えるでしょう。代表作である89年のNever.Never.Neverを含め、彼女らの作品は他にも何枚か持っていますが、今まで聴いた中では個人的に本作がベスト。AORファンでも無理なく聴ける一枚かと思います。日々の生活に疲れ、ほっと一息付きたいとき聴くのに最適。お勧めの作品です。
以前紹介したカリフォルニア産CCMバンドによる1985年の2nd。どことなくオーシャンメロウな香りが漂っていた前作とは異なり、この時代特有と言うべき硬質なクリスタル・サウンドに彩られたヴォーカル系フュージョン作品です。このところ相場が落ち着いてきた感のある1stと比べやたら高値で取引されている一枚ですが、70年代後半~80年代前半の音作りがどんぴしゃな自分にとっては全体的にまぁそれなりと言った印象。ただメインヴォーカルを務めるデビー・セイバート嬢は本作でもやはり抜群の美声で存在感を示しているため、そう言った意味では聴く価値のある作品だとは思います。巷ではキレ味鋭いホーン・セクションが印象的なA-1のDestinyが取り上げられがちですが、個人的には跳ね系ビートが心地良いB-1のVictoryがブラコン・テイストで好み。ブリッジ部の展開がグッと来るライトメロウなシーウィンド風ファンク・ナンバーです。ちなみに本作でもホーンアレンジを務めるのはキム・ハッチクロフト。これではシーウィンドを連想するなという方が無理というものです。その他の曲では収録曲中唯一のインストでほのかにアイランドっぽさ漂うB-2のRendezvous、それから当時のUKサウンドや和製AORにも似た歌謡テイストが心地良いB-3のHeartbreakerあたりがなかなかの出来。全体的にフリーソウルっぽさは希薄なので、その手の音作りが好みの方が大枚を叩いてまで買うほどの一枚かというと個人的には同意しかねますが、もう少しバリバリの80'sサウンドが好きという方は聴いてみても良いかもしれません。なお本作、実は少し前に韓国のBig PinkというレーベルからひっそりとCD化済み。内容が気になる方は、高価なオリジナルに手を伸ばす前に、まずそちらで確認してみることをお勧めします。